なるなんて、よくよくのこと : : : と貰い泣きしたものだ。 「よくよくのこと」でもないのにやたら男が泣くようになったので女が泣かなくなったの か。女が泣かなくなったので、男が泣くようになったのか。どっちが先だろう。 やっかい 昔は「女は何かというとすぐに泣くから厄介だ」と男たちはいったものである。しかし 今は「男はすぐ泣くからイヤになる」と女たちはシラけている。 あぜん ところで昨日は野球をしながら泣く選手が現れて私は唖然とした。たまたま日本シリー ズの中継放送をタクシーの中で聞いていたのだが、 「あ、清原、どうしたんでしよう ? 」 のぞ 「目に何かゴミでも入ったんじゃないですか ? 辻が覗いていますね」 というアナウンサーと解説者の会話の後、どうやら清原選手が本式に泣いているらしい ことがわかった。 闘「泣いてるんですか ? 清原は」 運転手に念を押すと、 ナ 「そうらしいですね」 中年の運転手はシラけた声を出した。
者をこなしている。だから昼寝をせずにすんでいるのかもれしない。 「いや、大丈夫。カンタンです」 と朗らかだ。 いや、カンタンではないと思うから来ているのであって : : : と、 に先生の掌中にあって自由が利かぬ。歯根に丹念に薬が塗られた。 「二、三日様子を見て、痛いようなら来て下さい」 というが、治療台から降りる前からジンジン痛んでいる。今までにない痛さだ。しかし 薬の反応であろうと考えて我慢した。帰る途もジンジン、ジンジン痛みつづける。家に帰 っても。夜になってもジンジンジン。 こら る ジンジンを怺えながら考えた。 す これは説明の仕方がいけなかった。 の「五、六日前から熱いものや冷たいものを飲むとしみるようになっていました」 虫 これを最初にいったのがますかった。 ん「昨日あたりから飲んだり食べたりしなくても痛むんです」 何 をはじめにぶつけ、「五、六日前から : : : 」はその後にするべきであった。そうすれば いこの早呑込みの先生の頭にも、「飲み食いをしなくても痛む」ということがバッチリ刻み ししたしが、我がロは既
何んでも虫歯のせいにする 虫歯が痛んできたがこの町には歯科医が二軒しかない。従ってどの歯科医の待合室も患 者がひしめいていて、養鶏場の鶏の方がよっぱどらくに座ってるわいと思うほどである。 去年、そのうちの一軒へ治療に行ったところ、 「先生は今、昼寝してます」 、し、それがイヤなら出直して と看護婦がいった。起きるのを待っ気があれば待てばいし きなさいというニュアンスが籠っている。 私は憤然として帰って来た。あんまり腹を立てたので歯痛は治ってしまった。 しかし考えてみると、殺到する患者の治療を朝からつづけていれば、昼過ぎにはクタク タになって昼寝をしなければ身がもたなくなるだろう。クタクタになっているのを無理に 頑張られて、悪くない歯を抜かれてしまったりするよりは ( 切迫流産を保たせるために病 院へ行っているのに、逆に流産させられてしまった人の例もあることだし ) 静かにお目覚
「ところが彼は米屋じゃないから、 しいと思ってるのよ。新聞社の人間だから許されると 思ってる。人が昼食中であろうと、睡眠中であろうと、新聞社と一言いえば、誰もが喜ん でしゃべると思いこんでいるのよ」 「マスコミの人ってそんなにエライんですかねえ ? 」 「我々のおかげでもの書きはメシが食えてるんだと思ってるのよ」 ( ま、実際にそうもいえるが ) 「たけしは一人で行くべきだったという意見は、私、是非、書いてほしいと思うんですけ どねえ、今の男性の自覚を促すためにも」 と伊藤さんはしきりに残念がる。 翌日、新聞を読んでいた娘がいった。 「ママ、喜びなさい ママと同じコメントが出てるよ」 「なに、どんな ? 」 コ ペ 「こういうコメントよ。たけしが軍団を連れて行ったことについてね。二人で行け、ド ア たアホ ! 』」 呆「誰のコメント ? 「横山やすしよ」
そう思うと見知らぬ人からの宅急便、食べものらしいとわかっていても、手紙がくるま では開けてはならぬと家中にフレ ( というのも大げさだが ) を出す。 あいさっ それにしてもこの節は人に贈り物をするのに何の挨拶もなくいきなり品物だけを送って 来て、可としている人が多いのは困ったものである。 講演などに出かけると、控室に色紙が山積みになっている。傍に硯が置いてあるのは十 四、五年も前のことで、今はたいていサインペンだ。 サインペンで色紙に字が乗ると思うのかね ! ラーメン屋の色紙ならいざ知らず、それ が学校であったり、教育委員会だったり、図書館だったりするのだから呆れ返って怒る気 も萎える。 「すみません、筆を貸して下さい」 萎えているから声音は静かだ。だがそういうとたいてい相手はびつくりする。びつくり するのは筆で字を書く人間が珍しいからであるらしい 「筆ですか ? 筆 ? 」 と念を押して部屋を出て行き、 「おい、筆、筆はないか ! 」
。、いなくなっているためだというのである。 いや、そうではあるまい。原因は我らの方にあるのだ。つまり、減少しているのは我々 に限ってであって、世間では昔と変らす賑わっているのだろうと私は愚考する。 「そうやろか ! 」 と親友は声を落したのであったが、彼女は先ごろ、わざわざ電話をかけて来ていった。 「アイコさん、聞いて ! わたし、遭うたわよ ! チカンに ! 」 その声は息子が二浪の末、大学に入学出来た時の電話以来の晴々と高揚した響を持って いたので、私はつい 「そう ! おめでとう ! よかったねえ ! 」 と答えてしまったのであった。 それにしても痴漢にハンサムがいないのは、今も昔も変らぬ様相のようで、だからいい のよと彼女はいう。 ・はとう 変 なぜいいかというと、もし痴漢がハンサムであったら、思いきって罵倒、軽蔑しかねる 大 漢という辛さがある。 痴 「なにすんのよツー しいかけてふり向いた目の前に、鼻高く目もと涼しいハンサムがいたら、つづく言葉 けいべっ
ぎおんしようじゃ 「祇園精舎の鐘の声 : ・ 「諸行無常の響あり・ : と直ちに受けるのも悲しい。 どうやら老女には二種あるようで、年をとってからやたらに元気になり、五十代よりも 化粧も濃く、派手なものを着て陽気に出歩くようになるのと、前記のような陰々メッメッ 型とに分れるようだ。 「女の性はこれから花盛りを迎えるのよ。妊娠の心配をしいしい、セックスしても本当の 歓び、燃焼はないの。上るものは上り、死ぬもんは死に、誰にも干渉されずもう何の心配 もなくなった今こそ、最高のセックスを堪能出来るのよ ! 」 と元気組がいえば、陰々メッメッ組は、 「そうかもしれないけど : : : それも相手あってのことだからねえ : : : 」 相手する身のキモチを考えれば、つい気の毒に思ってしまい、「最高のセックス」もへ いしゆく チマもあるかいな、という気になって萎縮してしまうのだという。 「だから、相手を選べばいいのよ ! 」 元気組はあくまで元気いつばい 、といったって : ・・ : 」 「選べばいし
ろ ! という気になってきて : ・・ : 」 急に故郷の大阪弁になったのは感情が昂まって来たからで、十年前ならこのへんから怒 りを含んだ大声になって行くのが、今は怒り声どころか、陰々メッメッという趣になって 落ちつくところは、「ほんまに、年とるいうことは清けないことやねえ : : : 」愚痴である。 いったい「長生き」にどんな意味があるか、という話題に入ってしまうと、もう救いが なくなってしまう。気持を引き立てるために何か艶ダネを、と考えるが、何もアタマに浮 かばない。さっき、電車の中で見かけたスポーツ新聞に、ジュリーと田中裕子の関係が取 り沙汰されていたことを思い出し、 「それはそうと、ジュリーと田中裕子、同棲してるらしいのね」 といっても、 恐 第「へえ ? そう ? ふーん」 かっての熱狂的ジュリーファンがこの返事だ。 過 を「ジュリーも年とったわねェ」 「もうオチメね」 「ああいう人気者がオチメになって行くのって、ひとごとでも見てて寂しいわねえ」
Ⅲ「これでどんどん歩いて、いつまでもお達者でいらして下さい」 とお嫁さんがいったとか。 「まあ、優しいお嫁さんねえ : ・・ : 」 これが何年か前なら、 「こういう手クダに長けているのよ、うちのヨメは , 間髪入れすそうきたものだが、今は、 「そう・ : ・ : よくしてくれるの」 と肯くのみである。 脚の弱り、アタマの弱りに加えて、気も弱っている。 「万歩計なんて安いものだもん ! いくらだと思う ? 三千五百円よ , 動具屋やっているのがいるから、そこで買ったのよ。どうせ三割引きか : タダで貰ってきたのかもしれないわよ : : : 」 それくらいいった方がよいと私は思わぬでもない。 「それで、万歩計持って歩いてるの ? 」 わ 「ときどきね。でも、何だか侘びしいもんよ。一人で万歩計見い見い、忙しそうに歩いて いるのも。 しったいこうしてせっせと歩いて健康を心がけて、それがどうやというんや ョメの親戚に運 : もしかしたら
浦 い恋の物語として、この情景をせいぜいロマンチックに書き、世間の人を「キョトン ! 」 とさせるところだったではないか。 オにがハイ吐いて、ハイ吸ってだ。 そういえば、いやに長々と何回もやると思ってたよ ! そんなに悪いのか、むつかしい のかと心配になるくらい : はだえ ああ知らなんだ、知らなんだ。花の十八、男知らすの玉の肌を、こうして淫ワイ医のた くちお めにされていたとは ! 無念残念、口惜しゃ。顔は見なかったが ( そういえばあの野郎 は、終るなり顔も見せずにコソコソとどっかへ行ってしまったよ ) 今頃はどんなジジイに なっているか。捜し出して殴りつけ、踏んづけてやりたい。 それにしてもオッパイ揉まれて何も感じす何も思わず気がっかなかった私は、何という 清らかな娘だったのだろう。それが何をイミするかも知らなかった私。まさに深窓の処女 とはかかるものであったのですぞ。今、己れを顧て、うたた感慨に堪えない。