話しはじめた。 「目、つけたけど、まだャルことなんて出来なかった頃だよ : : : 」 「ふん、それで ? 」 「毎日、学校から帰ると出かけて行ったんだ : : : 」 宗薫は気のない声でいった。そうして人のいない時を見て、お互いにアソコを見せ合っ たんだ・ 「それで ? 」 「それだけだ」 私は怒った。 「なんだ、そんな話なの、とっときのイロ懺悔だなんて、よくも欺したわね ! 」 「そうかなあ : : : 面白い話だと思うけどなあ : : : そんなら、別の話をしようか」 「もういい ! 」 私はプリプリして寝てしまった。 翌朝は湖畔をぶらぶらした。その日、私は十和田市にいる私の従姉妹を訪ね、夜行で帰 る予定である。

161 笑いつつ怒る時 「見送ってほしいのなら、見送りに来なさいといえばいいんじゃないですか」 と真面目にいう。笑った我々はすっかり白けて、 「うん、なるほど、そういうことなのネ」 うなず と頷くしかなかったのである。そのうちこういう話は半数以上の日本人に理解されない 時代がくるのだろう。 小児科のお医者さんに聞いた話だが、離乳期の赤ちゃんを連れて来た若いお母さんに、 もうそろそろお粥を食べさせてはどうでしよう、といったところ、彼女はこう質問した。 「それはどこのメーカーのでしよう」 その話を聞いた時も、我々はいっせいに笑った。だが、と笑った後で私は思った。 今はこうして皆が笑っているけれども、そのうちに、 「それがどうしておかしいの ? 」 という人たちが増えてきて、やがては、 「昔はねえ、どこのメーカーのお粥かと訊いたら、それがおかしいといって、みんなで笑 ったものなんですって」 「まあ、オホホホホ」 まじめ かゆ

話が通じない ある女性誌から美しい女性のインタビュアーが来て「私たち若い女性の男運の悪さをど うすればいいか」話を聞きたいといった。 男運の悪さ ? 私は質問の意味がよくわからない。 かって私は自分を男運の悪い女だと思っていた。最初の夫はモルヒネ中毒、二度目の夫 はたん は会社が倒産して借金地獄に沈んだ。一一度ともに結婚生活が破綻するということは、まさ に男運の悪さの見本みたいなものだと思っていた。男運ということは「女が関わりを持っ た男のよし悪しによって、幸せになったり不幸になったりすること」をいうと思ってきた なのである。だから「私たち若い女性の男運の悪さをどうすればよいか」といわれても意味 随がわからない。 話 世間を見渡すと確かに離婚は増えている様子だが、だからといって「男運が悪い」とい っていいものだろうか。女性が経済的にも精神的にも自立している今、男によって不幸に カカ

弱き男のために こんな話を聞いた。ある若い夫婦の、妻の方に恋人が出来た。妻はすべてを夫に告白し て、別れてほしいと頼んだ。 その恋人というのは、夫も知っている男である。しかし夫はこういった。 「彼はぼくよりもいい男だ。彼と一緒になる方が君の幸せになるだろうから、別れてあげ るよ」 そして夫は送別。ハーティなるものを開き、新しいカップルの誕生を皆に説明して、どう あいさっ か今まで通りこの二人とっき合ってやってほしいと挨拶をし、別れに際して作った「かっ つづ ての自分たちの歴史」を綴った記念ビデオを来会者に映して見せた その話を聞いた時、私はすぐ思った。 それは多分、彼の方にも好きな女がいたにちがいない。妻からの別れ話は、むしろ 渡りに舟だったのだろう、と。 だがその話を私にした女性 ( 彼らの友人の一人 ) は、彼には女の噂など何もなかったと うわさ

「はあ : : : 話を聞かせるだけの魅力がないというわけですか」 司会者はそういうようなことをいい、後の人たちは賛成なのか、反対なのか、一見憮体 としたようなその半笑いの表情からは何も汲み取ることが出来なかったのである。 話を聞かせられない方が悪い : そういう発想が若者から出たのならともかく、頭の白くなったお方から出るとは思わな かった。それが、新しい考え方ーーー現代を生き抜くための年寄りの知恵というものなのか もしれない。 若者の理解者になる ( 若者の側に身を寄せる ) ことが、精神の平和を得る唯一の方法な のかもしれない。 一瞬私はメマイを覚え、あんたの頭にはカビが生えている、といわれたような気がした。 論そしてかかる若者に話を傾聴させることの出来る人物は ? と改めて考えた。思いつい みやざわ 三たのはビートたけしである。次に浮んだのは宮沢りえである。ふざけて笑わせて聞かせる か、ヌードの興味で惹き寄せるか。 人 成 成人式の若者の「レベル」は私には想像もっかないから、カビ頭にはそんなことしか浮 ばないのである。

かわい こうして書くだけでもたまらない話だ。あまりにも可哀そうな話だから、誰も表向きは そのお母さんを非難しない。聞いた話では、その人はたいへん育児に熱心な人で、「子供 が三歳くらいになるまでは母親は家にいないと子供が情緒不安定になる」と何かに書いて あったというので専業主婦になった。子育ての本など何冊も買って、それは育児に熱心な お母さんだったそうだ。 しかし、育児書には「子供に留守番をさせる時は、冬などストープその他、火の元は消 しましよう」とまではもちろん書いてない。そんなことは誰でも知っている常識だからで ある。 「気をつけるのよ。ストープに触れてはダメよ」 の あ と、そのお母さんも注意したことだろう。子供は「うん、うん」と頷いただろう。しか に し頷いたからといって、しつかり胸に刻んだわけではない。何かの弾みですぐ忘れる。そ 何こが子供の子供たるところだ。 は おくびよう マ この子は落ちつきのある子かない子か、臆病か大胆か、注意深いかそうでないか、それ ア を知っているのは親しかいない。一人の時は緊張しているが、二人一二人が一緒になると、 安心して油断するのが子供である。育児熱心とは数冊の育児書を読破することではなく、

8 笑いつつ怒る時 人からの又聞きだが、内海好江さんの「最近のお弟子の話」を聞いて思わず笑ってしま っこ。 内海さんが「明日は九時出発だからね」とお弟子に通達すると、お弟子は「わかりまし た」と答えた。ところが翌日、九時になってもお弟子は現れない。いったいどうしたんだ しか と叱ると、「九時出発は知っていたけれど、見送りに来いとはいわれなかった」というの がお弟子のいい分だったというのである。 それを聞いて、居合わせた者は一様に笑った。昔なら、 「アタマを使え、アタマを ! 」 と、一喝されるところだが、今はただ笑うだけである。内海さんといえどもやはり怒る よりは笑っただろう。情けなさと腹立たしさの渦巻きの中で笑うしかなかっただろう。 ところがこの話を聞いても笑いも驚きもせず、キョトンとして、何がおかしいの ? と いう顔の娘さんがいた。笑わぬばかりか、 うつみよしえ

そのシンポジウムでこんな話が出た。 ある奥さんが離婚を考えた。そして離婚の日を十年先と決めた。今すぐ離婚しては離婚 後の生活設計が立たないからである。奥さんは離婚の日を目ざしてせっせと貯金をし、離 いよいよ 婚後の生活の支えとなる仕事を身につけるべく精出していた。そして十年経って愈々念願 の日が来た。奥さんは離婚し、今は愛する男性と結ばれてこの上ない幸せを手にしたとい その話を聞いているうちに私は妙な気分になってきた。十年かかって不幸な結婚生活か ら脱け出し、今は幸福を掴んだのだから、何もイチャモンをつけることはないじゃないか、 といわれるかもしれないが、何となく面白くない。私は質問した。 「その十年の間、ご主人の収人でその人は生活していたんですか ? 」 「ええ、そうです」 では十年間、せっせと貯金をしたというその金は、夫なる人が働いて持って帰ってくる 収人のうちから出していたということになる : 「多分、そうだろうと思いますが : : : 」 だんな 「それではその旦那さんは踏んだり蹴ったりではないですか。何も知らずにせっせと働い

初夢の話 この頃の若い人はどうか知らないが、私などの少女時代はいい初夢を見ようとして宝船 まくら の絵を枕の下に人れて寝たりしたものである。無邪気なものだった。正月の食卓では、必 ず初夢が話題になり、その意味を探っては一喜一憂し、ついには夢占いの本まで出してき もち て研究したりする有様。戦争中のただならぬ正月も、餅もおとそもない苦労だらけの敗戦 後の正月も、初夢への関心は薄れなかった。むしろ年のはじめにいい夢を見て、せめてこ れからの一年は少しはいいことがありますようにと期待したのである。 日本人が初夢に関心を持たなくなったのは、もしかしたら日本の経済成長と関係がある あふ かもしれない。日本人の暮しが楽になり、物が溢れ、自由を満喫できるようになったので、 話夢のことなど問題にする必要がなくなった。初夢ばかりでなく、現実生活の中での夢・人 夢生への夢もなくなった。 おさな 初 私の幼友達に、結婚して間もなくから夫婦して。ハリへ行くという夢を持って、「。ハリ行 き貯金」を始めた人がいる。その頃の日本人には。ハリは文字通り「夢の都」だったのだ。

人の目、男の目 : 成人式、三十歳論 負けるもまたよし : 話が通じない : 現代を生き抜く知恵 : 文句時代 : ・ こんな知恵もある 可哀そう ? なにが ? : アタマは何のためにあるのか・ 教養とは ? : 里芋の煮方 : 107 118 113 140 145