かよ子 - みる会図書館


検索対象: 男どき女どき
7件見つかりました。

1. 男どき女どき

かよ子は大きく煙草の煙を吐いた 「あたしのほうに廻ってこないわけだ。一人で二人、捕えてるのもいるんですもんねえ」 巻子は、やっと胸の突っかえが降りた。 達夫に惚れていることこ違ゝまよゝ、、、、 。尸、しーカしカ蕪雑で陰影に乏しいところを百も承知しながら 結婚を承知したのは、二十四歳という年齢のせいでもある。 のぞ 気持の底を覗き込めば、達夫の生活力を考えた胸の中の小さな電卓にカチンと触れてしま それだけでは青春のピリオドとしてすこし寂しすぎるので、波多野のことを、実像よりほ んのすこし強目にしゃべっていた。第一、かよ子に話すときの波多野は、実物より二、三割 がた美男にしてある。 かよ子が溜息をつきながら、煙草を灰皿にすりつけたところで、巻子はもうひとつつけ加 えた。 ついおとといの夕方のことである。 式の打ち合せもあって、巻子は達夫の勤め先をたずねた。 広いオフィスに、達夫と波多野だけが残業をしていた。新婚旅行で三日間の休みをとるの で、達夫はこのところ連日残業がつづいている。 ためいき ぶぎつ つかま

2. 男どき女どき

達夫が煙草を買いに廊下へ出たとき、黙々と仕事をしていた波多野が、突然こう言った。 「女は立派だなあ . くちもと 笑おうとしているらしいが、ロ許は引きつっていた。 「知ってて知らん顔出来るんだから」 とっさ 咄嗟のことである。答を探しているうちに達夫の足音がした。それだけのはなしだが、か じよう よ子は案の定聞いてきた。 「もし、その人が、ぼくと結婚して下さいって言ったらどうする」 女「気持は嬉しいけど断わるわね。当り前でしよ」 さっき見た、夫を置いて新しい鳩と飛び立っていった雌の鳩のはなしは、かよ子にはしな いで帰ってきた。 男 かよ子にはすべてを話したわけではない。 本筋に関係ないので省略した部分もあった。 おととい、達夫の勤め先をたずねたときのことである。巻子の顔を見ると、達夫は、どれ 一服するか、という感じで煙草の箱をとった。箱は空だった。達夫はポケットに手を突っ込 んで小銭を探す風をしたが、こっちも持ち合せがなかったらしい

3. 男どき女どき

波 しくなったとき、上になった鳩が急に飛び立った。あとを追うように、下の鳩も飛び立ち、 灰色の羽毛が二、三枚、ゆっくりと下に落ちていった。離れてとまっていた鳩は、隣りを眺 めるでもなく、じっとしている。 巻子は、頬がほてってくるのが判った。残った鳩は明日結婚する相手の達夫であり、羽づ くろいをしていた鳩は巻子である。新しく舞い下りた鳩は、達夫の部下の波多野に思えた。 「心配ごとでもあるんじゃないの」 うしろから声をかけられた。二年先輩のかよ子である。 何でもない、名残りを惜しんでいたのだ、と弁解したが、ご不浄の窓に寄りかかって名残 りを借しむのは似合わないと言われ、うしろ姿に悩みが出ていたわよ、と目のなかをのぞき 込まれると、ふと話してみる気持になった。 不安は図星である。 ただし、深刻なものではない。明日の結婚式をひかえた幸福の酔いを自乗にする嬉しい当 惑なのである。 かよ子とビルの地下の喫茶店で落合う約束をして、もう一度外をのぞいた。残った鳩はも う居なかった。 じじよう

4. 男どき女どき

思ったんじゃないかなあ . かよ子はまだ黙って聞くだけである。 「あなたに魅力があるのよ」とひとこと言ってくれれば、この辺で止めるのに、と巻子は思 巻子は男の子みたいでサバサバしているとか、苦労しているので、よく気がつくと言われ たことはあったが、美人だとか色気があると言われたことはなかった。 達夫が自分を選んだのも、健康で係累がなく、気働きがあって役に立っ女、というところ 女を見込んだのだと見当がつくだけに、このひと言を聞いて帰りたかった。 「この間の晩なんか危いとこだったわよ。彼とあたし乗せて、いきなりスピード上げたの。 もうすこしで対向車と接触しそうになったのよ」 男 居眠りしかけていた達夫も驚いた様子で、 「おい、式の前に心中は勘弁してくれよ」 とどなった。 波多野は振りかえりもせずに、 「心中は三人でするもんじゃないでしよう」 と低い声で言っただけだった。 っ」 0

5. 男どき女どき

角 波 ひとつなぎの動作で、目の前で腰をかがめるようにしてコピーを取っている、波多野のズ ポンの尻ポケットから、半分顔を出していた小 銭入れをひょいと抜き取り、廊下へ出ていっ たことである。 「細かいの借りるよ」 くらい一一 = ロえばいゝ しのに、と思ったとき、波多野が、「女は立派だなあ」と言い出したので、 そのままになってしまったのだ。 かよ子に言わなかったことはもうひとつあった。 新聞や雑誌をめくっていて「波ー「多 J 「野」の三つの文字が、それだけ別の太い活字でも 使ってあるかのように、向うから目に飛び込んでくるのである。 現に今朝も、朝刊をひろげていたら「波」の字が飛び込んできた。 「とけるか魔の海域の謎」 という見出しである。 千葉県野島崎沖では、この十年間に三万トン級の大型鉱石運搬船などが、船体が真二つに 折れるなどして沈没したり行方不明になっている。 いずれも大きな三角波にあって船首部分が折れたのが原因らしいという記事だった。 三角波。 なぞ

6. 男どき女どき

週間の仕事の疲れが出るらしく、アルコールが入ると車のなかでよく居眠りをした。 いびき 達夫が鼾をかきはじめると、運転席の波多野は、カ ー・ラジオのスイッチを人れた。退屈 している巻子にさりげなく話しかけてくる。達夫には無い繊細なところがあって、話が中途 しのに、と思ったこともあっ で達夫が目を覚しかけると、もうすこし眠っていてくれればいゝ 巻子が波多野の気持に気がついたのは、達夫と婚約したときである。 今までハイヤーの運転手のように、音もなくドアを開け閉めしていたのが、バ 女つけるような閉めかたをした。 き「おめでとうございます とは言ったがー 弓きつった顔で真直ぐ前を見たまま、巻子を見ようとはしなかった。 男 「それだけ ? 」 から 空になったコーヒー茶碗をいたずらしながら、かよ子は笑いかけた。 「その人、まだ独身なんでしよ。だったら、当り前よ」 独身の若い男をデイトのときの運転手代りに使ったほうが罪なのよ、とわけ知りぶった言 い方をした。 ンと明・き

7. 男どき女どき

角 波 巻子は面白くなかった。 やきもち 「通りいっぺんの嫉妬とか、腹を立ててるとかいうのなら、婚約したあとは運転手の役は断 わると思うのよ。でも、その人、そのあとも続けてるのよ。それも、前よりもっとマメに 映画終っておもてへ出ると、スーと車が寄ってくることだってあるのよ」 かよ子は煙草をくわえて火をつけた。 深く吸い込むとむせる癖に、ふかす格好が気に人っているらしい 「あたしのこと、見る目つきが違うのよ。なんとか光線じゃないけど、からだのなか突き刺 さりそうな目で、じっとにらみつけるの。その癖、あたしたちの新しい家に荷物運んだりす かんべき るときは、ムキになって完璧に手伝うの 「そりや上役の機嫌損ねたくないもの。サラリ ーマンの辛いとこよ 「それだけかなあ」 巻子は、結婚式の引出物を見立てに行ったときのはなしをした。 昼休みに待ち合せのデパートの外商部へ出かけてみると、達夫と一緒に波多野もいた。し かも波多野は、ゝ しつにない強引さで、引出物に自分の好みの銀のスプーンを押しつけ決めさ せてしまったのだ。 「普段はひかえ目な人なのに、まるで自分が新郎みたいなの。ああいう形で、まじりたいと