かよ子は大きく煙草の煙を吐いた 「あたしのほうに廻ってこないわけだ。一人で二人、捕えてるのもいるんですもんねえ」 巻子は、やっと胸の突っかえが降りた。 達夫に惚れていることこ違ゝまよゝ、、、、 。尸、しーカしカ蕪雑で陰影に乏しいところを百も承知しながら 結婚を承知したのは、二十四歳という年齢のせいでもある。 のぞ 気持の底を覗き込めば、達夫の生活力を考えた胸の中の小さな電卓にカチンと触れてしま それだけでは青春のピリオドとしてすこし寂しすぎるので、波多野のことを、実像よりほ んのすこし強目にしゃべっていた。第一、かよ子に話すときの波多野は、実物より二、三割 がた美男にしてある。 かよ子が溜息をつきながら、煙草を灰皿にすりつけたところで、巻子はもうひとつつけ加 えた。 ついおとといの夕方のことである。 式の打ち合せもあって、巻子は達夫の勤め先をたずねた。 広いオフィスに、達夫と波多野だけが残業をしていた。新婚旅行で三日間の休みをとるの で、達夫はこのところ連日残業がつづいている。 ためいき ぶぎつ つかま
一週間に一度はホテルに誘っていたのに、式の日取りが決まってからは、食事やお茶のあ と真直ぐ帰ってゆく。けじめをつけているのだ、と思いながら巻子は物足りなかった。 達夫は四角四面なところがあった。 「背広よか軍服を着せてみたいねえ」 はじめて達夫をうちに連れてきたとき、祖母はこう言った。剣道をしていたせいか、上背 はさほどでないのだが、がっしりした骨太なからだっきで、挨拶も折り目正しかった。 女「はツ とひと声、ガクンと折れ曲ってお辞儀をする。 祖母は菊人形というあだ名をつけた。 男 鳩がもう一羽舞い下りて、羽づくろいをしていた鳩のすぐ隣りにとまった。勢いで電線が 大きく揺れ、三羽の鳩はまたプランコになった。プランコの反動を利用するかのように、新 しく飛んできた鳩が一たん浮き上り、隣りの羽づくろいしていた鳩の上に乗った。 とりさか 巻子は、一瞬、目をそらしかけた。交尾というのは、このことか、歳時記で島交る、とい う季語を見たことがあったが、街なかの鳩は季節を選ばないのだろうか。 電線は大きく揺れ、重なりあった二羽の鳩は、その揺れに身をまかせている。巻子が息苦
左知子はあの男の子供のような気がした。手も握ったこともないのだが、そんな気がする。 松夫とは先輩の紹介で知り合った、見合い結婚である。取り立てて不満はなかったが、燃 うず えたとか疼いたとかいうものを味わうことはなかった。みごもるためには、気持もからだも あたたまらなくては駄目だったのか、卵みたいに。 ひきだし 下着の抽斗の底から、あの写真を出してみた。目を閉じて、夢ともうつつともっかず半眼 みけん に開いて、なにかに身をゆだねている。眉間に縦じわを刻み、なにかに耐えている。唇はな にかを待ち、なにかを受けるように半開きになっている。この瞬間にみごもったのだ。 この写真をどうしよう。細かに千切って捨てようか。それともマッチで火をつけ灰にして 女 きしまおうか 迷いながら、左知子はダイヤルを廻した。番号は松夫の勤め先である。みごもったことを 男 一番に知らせたかった。 話中のサインが消えるまでに写真の始末を決めなくてはいけない。 てようか、どうしょ , つか。 「お待たせしました。おつなぎします」 交換手の声があって、呼出しの信号音に変った。 もちろん 写真は多分捨てないだろうと思った。勿論、夫には言わない。死ぬまで言わない。今まで
メ文 メく 日や も 梅を 恋 の 壊 れ 出 の 墓 . る ら い き 折離初 土折身 わ女人 砂ル謎 さ巧人 佐死長 々婚め りた生 糖にの とみ生 のし尾 佐々の 菓、自 重なの 女た鶏 の、て のちの への回 た初の 想その の生り 心局 子孤殺 み話深 で外 ち恋飼 いし結 熱 ~ 舌の の独を を術み 13 の育 をて婚 いを 見愛者 よを遂 たでに 書再 想写と つのと う恐げ だ表よ 人人に がを半 き婚 いす にれた よ現ど め不し をさ食 織思生 る可て 脆ィ葈マ わしむ - つ りうを づ様 秘りべ く一 リ す、悲 冂能生 めけ物 ↑生き 著そ哀 なお捧 リ つ々 ン 者こ感 すしげ たな たな とる し 素い旅 のにを 愛んた 珠人 ノ、 : 男 し、 顔筆の モ 短言 とさお 玉々 間と ン 編い才 情んた のと のに話 の彼 0 ) ジよて ロ 全知気 弥孤を 熱三ね 工の 劇 10 れあ の三さ 勒独と ド南ん セ会 をり を を 編ぬふ セる 併 描、 モ 収優れ いま ラ国 イさ四 くつ 。と季 集と 、ア 録しる マ土戦 曽野綾子著
「田舎を出てから、ここ何年も雨戸をあけたことないわ。あけ方忘れちゃった」 といいながら、雨戸を一枚繰って、巻子は凍りついた。 雨戸の外に波多野が立っていた。 波多野は巻子を見てはいなかった。巻子のうしろに起きてきた達夫を見つめていた。 片手に朝刊を持ち、パジャマのズボンに上半身裸の達夫も、それこそ菊人形のように動か なかった。 波多野の咽喉から、グウと何かを押し潰すようなうめきが洩れた。波多野はそのまま走っ 女て出て行った。 ポジ ネガ き陽画と陰画が、ぐるりと入れ替った。 波多野が愛したのは、巻子ではなく、達夫だった。 男 ひとりばっちの取り残された鳩は、巻子だった。 男同士のピンポンで、激しく打ちあい、打ち込まれれば打ち込まれるほど高揚したのも、 一種の愛なのであろう。 ダブルべッドにいたのは、波多野に違いなかったが、巻子の隣りではなく、達夫の隣りに 寝ていたのだ。 「三角波って知ってる ? 」
102 夜中から気温が下り風が強くなった。砂漠なので、昼と夜の温度差が極めて激しい ありったけのセーターを着込み、青みどろの匂いのする重い毛布を引っかぶってべッドに ころがり込むと、天井でガリガリ音がする。自家発電なので夜十一時以降は電気が消え、各 部屋におしるしばかりの極小の懐中電灯が置いてある。 かえる 頼りない光で天井を照らすと、どうやってのばったのか天井裏に蛙かとかげでもいるらし けんか ゝ 0 降りようともがいているのか、ねずみと喧嘩でもしているのか。 河馬が草を食べに上ってきたのだろうか、私の小屋の前あたりで、物音がする。河馬は草 女食だから人間は襲わないが、夜中に草を食べに上陸するのに自分だけの道を持っている。 妨げるものがあると人を襲うこともたまにはあるという。ついこの間も、ナイロビ市の郊 外で、河馬に轢かれ、乗りかかられ、何時間もそのままになった人がいて重傷だという新聞 男 記事があったそうだ。夜は絶対に外に出てはいけないという注意の通り、窓から外をのぞく 、 , 」ナこした。 青白い月が出て、湖は冬の顔をしていた。 胸をつく青みどろの匂いは嘘のように消えていた。ロッジのすぐ裏手にもあるトルカナ族 の小屋からは物音ひとっ聞えない。 それでいて、朝になり陽がのばるとすぐ思考カゼロの暑さと青みどろの匂いになり、河馬
男ど 考せ ゆ左 の夫子れ 度つ く 知果 。日 み 子か 、け し悪 た 罪左 だあ子な な消 だ知 か子 饌は が イ云し ) 、ら し た匂週だ夫わ 、ほ い間 にず と視 ゃん 内 0 浮 か判 み線 気 誰冫 を る温 。度 か飛 み つ 生病 け 殺院 ら れ 彳丁い な 知オ い 。ら よ 。た っ が駄 耐目 か ら れ駄 オど 固 て 身病 構院 て 毋 液 を か き、 つ け ら れ は し な い か 、不 安 だ っ で 浮 糸吉 は出有 る ま で に の二罪 か っ た か た か ら に し . で す の え 切 な な た の き も そ う え 女どき 緒 ずでイ 大 子 つ た な ら 目 しゝ は つ き り さ せ た っ次松英そ だ が イ可 も ウ ス キ を つ で い も う な 、ずね し ) た り も ど た く な る ん じ な い の つ け 加 え た 出貰 来 が子 か つ た ら あ た の と と恨顔 ま な名 き や な な 出か が貰 け れ ば よ で あ な た しゝ を す る ん な ど の も 月リ も ら な わ る 月リ に と ば の う 先 び 出 し て い つ か く け ど う か ん た た ち 貰 つ て も ら つ の も て わ ね そ温目 は 英 0 こ も わ え 78 る き に つ て る に が あ つ た
ビリケンの代りに、女房が坐っていた。ビリケンそっくりの息子が、父親と同じように新 聞をひろげて坐っていたが、別にこっちを見るわけではない。 さわ 気に障る奴だと思い、鬱陶しいと思いながら、ビリケンと視線を交わすのは、朝の居合抜 きのようで、これから一日が始まる、という緊張感があった。 第一ビリケンの視線をやりすごしてから汗を拭くことになっていたのが、この節はキッカ ケがなくて、妙にモタモタしてしまう。 ひとっ崩れると、いろんなことにガタがくるらしく、あてにしていた停年後の勤め口が望 女み薄になってきた。 今まで不義理をしていたが、大学時代の同窓会にでも顔を出して、昔のよしみで頭でも下 げてみるか。 男 そんなことを考えていた矢先に、うちから勤め先に電話があった。 どうしても一緒に行って貰いたいところがあるので、まっすぐ帰ってきて下さいな。押し 殺したような女房の声である。 どこへゆくんだ。どうしたんだと聞くと、うちへ帰ってから話しますという。うちへ帰る いらだ までの一時間が待ち切れないので、かまわないから言えと、まわりを気にしながら苛立った 声になった。
188 雄の虎猫で、ひいき目かも知れないが、かなりの美男だった。私は彼のお嫁さんに、近所 のシロを考えていた。水際だった美貌ではないが愛くるしい顔だちをしている。育ちがいい せいか毛艶もよく気立てもやさしい。やっと一人前になった未婚のお嬢さんだったが、わが か 家の梅の木を上ったり下りたり引っ掻いたりしながら、ビルの気を引いているところもいじ らしかった。 ところが、ビルが選んだのは、一軒おいて隣りの年増猫であった。小肥りの三毛で、何度 も仔を生んだおなかは、見苦しくたるんでいる。おまけに足が悪くて、片目にはいつも目や 女にをためている気の強い雌だった。つまり、ビルは山口百恵を振って悠木千帆を選んだので きある。 「あんなオバサンのどこがいいんだ」 男 彼ようす目をあけて私を見ただけで一切弁解せず、生意 朝帰りしたビルを私は叱ったが、 , 。 気にいびきをかいて眠りこけていた。二月後、悠木千帆の飼主が回覧板の上に仔猫を二匹の せて我が家にあらわれた。ビルそっくりの虎猫の仔が細かく体を震わせていた。認知を迫ら れて、母はおろおろしていたが、これは一体どういうことなのだろうか。 おうせい 専門家に伺ったところでは、動物の雄が配偶者を選ぶ規準は、まず雌として生活力旺盛な こと、次に繁殖力、そして子育てが上手なことだという。人間からみて、あら可愛いいわね、
ただけで、どういう状況か見当がっきそうなものを、遠慮する風もなく奥へ人ってくる。立 ちすくむ石黒をジロリと見て、おやじの横から上っていった。このうちの家族なのた、息子 なのだと気がっき、もう一度、恥でからだがほてった。あのときの息子が、ビリケンだった のだ。 石黒が仏前に手を合わせたのと、神保堂を知っていたというのが利いたらしく、長男が起 した事件のほうは、穏便にかたがついた。 ン 「いま、神保堂のほうは」 ケ「あの店は人手に渡りました」 ビリケンはひとり息子だった。本来なら店を継ぐ人間だったが、大学卒業をひかえて胸を わずら 患った。 呼吸器の病気に古本の湿気とゴミは大敵である。ビリケンの父は、ビリケンを転地させ、 店は俺一代限りと言ったそうな。 パスが出るか出ないかという時期である。ビリケンは、牛乳と果物で病気を直した。全快 したとき、父親はビリケンに、「牛乳屋か果物屋になったらどうだ」と言ったという。 「読んだり書いたりすることが好きな人でした。死ぬ一週間前までちゃんと日記つけてたん ですよ」