ケヴィン - みる会図書館


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1. ”It”と呼ばれた子 : 幼年期

第 6 章祈り 2 ろ 5 ケヴィンがきれいな服を着て、そこらじゅうハイハイするのをながめ ていると、とても楽しかった。ケヴィンが顔を上げて、ばくに向かって にこっとすると、心がやわらいだ。ちょっとのあいだ、つらいことなん わす むじやきすがた さいみんじゅっ か忘れさせてくれた。無邪気な姿を見ていると催眠術にかかったよう になり、家じゅうケヴィンのあとをついて歩いた。 よだれをふいてやり、一歩うしろからついていって、ケガをしないよ うに見守った。ふたりで「せっせっせ」をして遊んだ。ケヴィンの笑い 声をきくと、心がほんわかと温まった。 それからは、落ちこんだときにはいつもケヴィンのことを考えた。ケ ヴィンがうれしそうに声をあげているのが聞こえると、ばくは心のなか でにつこりした。 でも、ケヴィンとのつかのまのふれあいも、すぐに色あせてしまい ふたたび憎しみが頭をもたげてきた。

2. ”It”と呼ばれた子 : 幼年期

2 ろ 2 ちあげた。ばくを抱きしめようとしたら、おなかを何度もけったりなぐ ったりした、とか。おなかの赤ん坊にやきもちを焼いてけとばしたの だ、とか。赤ん坊にあたしの関心を奪われてしまうんじゃないかと心配 したせいだ、などと一言うこともあった。 ばくはケヴィンが大好きだったけれど、ケヴィンのこともほかの兄弟 ゆる たちのことも、見るのさえ許されていなかったから、気持ちを表す機会 なんかなかった。 あの土曜日のことはよくおばえている。 母さんはほかの兄弟たちを連れて、オークランドまで野球の試合を見 に出かけた。父さんがケヴィンの世話をするために残り、ばくは家の仕 事をやらされていた。仕事を全部かたづけると、父さんはケヴィンをベ ビーベッドから出してくれた。

3. ”It”と呼ばれた子 : 幼年期

第 6 章祈り 2 ろ 1 けだった。ほんとうにかわいくて、大好きなケヴィン。 ケヴィンが生まれる三月半ほど前、母さんはめずらしくばくにクリス マスのアニメ特集を見せてくれた。番組が終わると、なぜかわからない けれど、子ども部屋で待っているように言われた。 数分後、母さんは子ども部屋に飛びこんでくると、ばくの首を両手で のが つかんで締めはじめた。ばくは頭を左右にねじって、母さんの手から逃 ほんのうてき れようともがいた。気を失いそうになったとき、本能的に母さんの脚を こうかい けとばしてしまった。ばくはたちまち後毎した。 それから一か月ぐらいたったころ、母さんがばくに申し渡した。 しよう あかぼう 「おまえがおなかをさんざんけとばしたせいで、赤ん坊に先天的な障 害ができて、一生直らないだろう」と。 さつじんはん 殺人犯になったような気がした。母さんはばくにそう告げるだけでは あ 飽きたらなかった。聞いてくれる相手さえいれば、さまざまな話をでつ し わた あし

4. ”It”と呼ばれた子 : 幼年期

2 ろ 4 かんじよう 感情を閉じこめようとして、あがいても無理だった。ばくは生まれ つき、愛されることなんかないとわかっていた。兄弟たちのように生き ることはぜったいにできないのだ。 いちばん悲しいのは、ケヴィンがばくを憎むようになるのも、たぶん 時間の問題だとわかっていたことだ。 その年の秋の終わりになると、母さんは不満のはけ口をもっと多くの けぎら 相手に向けはじめた。ばくをますます毛嫌いしただけでなく、友だち てき も、自分の夫も弟も、そして母親さえも敵にまわすようになっていっ 母さんが親せきの人たちとあまりうまくいっていないのは、ばくも子 さしず だれ どもながらに知っていた。母さんは誰もかれもが自分に指図しようとし ていると感じていたみたいだ。けっして気をゆるめることがなく、とく

5. ”It”と呼ばれた子 : 幼年期

2 ろ 0 なみだ 目が涙でうるみ、そのせいでよけいに毒がしみるようだった。ねばねば えき きぜっすんぜん した液を吐き、あえぎ、気絶寸前だった。 ろうか やっとのことで母さんがドアを開けると、ばくは廊下に飛び出した が、首根っこをつかまえられてしまった。 お 母さんがばくの顔をバケツに押しこもうとするのを、必死にもがいて はん′」、つ くい止めた。だが、反抗してやろうというばくの思いもまた、くい止め られてしまった。 「ガス室ーでいつもより長いお仕置きをされてからというもの、ばくは ぎやく また弱虫に逆もどりしてしまった。 けれど、心の底では、火山のようなものがふつふっとたぎり、魂の奥 。ばくはっ 深くで爆発するときを待っていた。 しようきたも ばくに正気を保たせてくれたのは、生まれてまもない弟のケヴィンだ ふか たましいおく

6. ”It”と呼ばれた子 : 幼年期

第 5 章父さんが帰らない 2 01 「あたしもいいママになるわ」 ふろ 仲直りをすると、母さんはばくを温かいお風呂に入らせ、去年のクリ スマスにもらった新しい服を着させてくれた。これまでは着るのを許し てもらえなかったのだ。 それから父さんにケヴィンのお守りをまかせて、ばくと兄弟たちをボ ざっかてん ウリングに連れていってくれた。ボウリング場からの帰り道、雑貨店で 車を停めると、それぞれにおもちゃのコマを買ってくれた。家に着く と、みんなといっしょに外で遊んでいいと言われたけれど、どうしてか ばくはコマを手にしてべッドル 1 ムにもどり、部屋のすみでひとりで遊 んだ。 そのあと、お客さんがきたお休みの日を別にすればものすごく久しぶ りに、家族といっしょにテープルについて食事をした。 いろんなことが目まぐるしくやってきて、本当にしては何だか話がう ひさ ゆる

7. ”It”と呼ばれた子 : 幼年期

198 数日後、母さんが帰ってきた。新しく家族になった赤ちゃん、ケヴィ ンという名前の弟を連れていた。 二、三週間もすると、もとどおりの暮らしにもどった。父さんはめつ たに家に帰らず、ばくは母さんがうさばらしをするためのオモチャのま まだった。 母さんはめったに近所づきあいをしなかったので、シャーリーおばさ たず んと仲良くなったのはめずらしいことだった。毎日おたがいの家を訪ね あいじようか あうようになった。シャーリーおばさんがいるとき、母さんは愛清深 やさ えん くて優しい母親の役を演じたーーカプ・スカウトの世話役になったとき とおんなじだ。 何か月かたったころ、シャーリーおばさんは母さんにたずねた。どう してディビッドはほかの子どもたちといっしょに遊ばせてもらえない の、と。それに、なぜディビッドがこんなにしよっちゅうお仕置きされ