198 数日後、母さんが帰ってきた。新しく家族になった赤ちゃん、ケヴィ ンという名前の弟を連れていた。 二、三週間もすると、もとどおりの暮らしにもどった。父さんはめつ たに家に帰らず、ばくは母さんがうさばらしをするためのオモチャのま まだった。 母さんはめったに近所づきあいをしなかったので、シャーリーおばさ たず んと仲良くなったのはめずらしいことだった。毎日おたがいの家を訪ね あいじようか あうようになった。シャーリーおばさんがいるとき、母さんは愛清深 やさ えん くて優しい母親の役を演じたーーカプ・スカウトの世話役になったとき とおんなじだ。 何か月かたったころ、シャーリーおばさんは母さんにたずねた。どう してディビッドはほかの子どもたちといっしょに遊ばせてもらえない の、と。それに、なぜディビッドがこんなにしよっちゅうお仕置きされ
第 5 章父さんが帰らない 199 るのかも、知りたがった。 いわけ かぜ 母さんはあれこれと言い訳を口にした。、 ティビッドは風邪をひいてい るから、とか、学校の宿題を片づけていないから、とか。そのうちつい 母さんはおばさんに言った。ディビッドは悪い子だから、ずっとず っと遊ばせてもらえなくても仕方がないのよ、と。 間もなく、シャーリーおばさんと母さんの関係はピリピリしてきた。 ぜっこう ある日、はっきりした理由もなく、母さんはおばさんと絶交した。おば ゆる さんの家の子と遊ぶのも許さない。母さんは、「あのアパズレめ」との のしりながら、家じゅうを走りまわった。どっちみちばくはよそのひと と遊ばせてはもらえなかったけれど、シャ 1 リ 1 おばさんと母さんが友 だちのあいだは、ちょっとだけ安心な気がしていたのに。 夏の終わりのある日曜日、べッドルームで〃捕虜〃の姿勢になってす かた ほりよ しせい
第 5 章父さんが帰らない 197 ようにと祈っていた。とにかく母さんに家から消えてもらいたかった。 母さんがいなければ、父さんが食べ物をくれるはずだ。それに、なぐら れずにすむのもうれしかった。 母さんが入院しているあいだ、父さんはばくを兄弟たちといっしょに 遊ばせてくれた。『スタートレック』ごっこをすると、ロンはばくに光 栄にもカ 1 ク船長の役をやらせてくれた。 一日目、父さんはお昼にサンドイッチを作り、ばくにおかわりもさせ てくれた。父さんが母さんに面会にいくときには、ばくたち四人はお向 かいのシャ 1 リ 1 おばさんの家にあずけられた。 シャーリーおばさんは親切で、ばくたちを自分の子どものようにかわ いがってくれた。いろんなゲームで遊んでくれたし、外で好きなだけ走 りまわらせてくれた。シャ 1 リ 1 おばさんを見ていると、ずっと昔ばく をなぐるようになる前のママを何となく思い出した。 いの