124 っ・」 0 地下のガレージにひとりで立っていると、気が変になりそうだった。 きょ かいだんか 階段を駆け上がってトイレに行きたくてたまらなかったが、母さんに許 し。。し力ないとわかっていた。 可してもらわなければ動くわナこよ ) ゝ はリいり : や′、 「もしかしたら、これが母さんの計略なのかもしれないな」ばくは考 えた。「ばくに自分のおしつこを飲ませるつもりなんだ」 そうぞう 思いついたときは、想像するのもおぞましかったが、母さんに何をさ たいしょ れても、きちんと対処する心がまえをしておかなければならない。 母さんがどんな仕打ちをしてくるか、あれこれ考えようとすればする ささ ほど、気持ちを支えていたカがどんどんしばんでいった。 やがてある考えが頭にひらめいた。どうして母さんがずっとばくのあ とをついてまわっていたのか、わかったぞ。いつどこでなぐられるかわ からないという不安にばくを追いやって、絶え間ないプレッシャーをか
第 6 章祈り 2 2 ろ のを見つめた。 、つ 一瞬、おばれるとわかっていながら水に飛びこむ自分の姿が目に浮 かんだ。アジ 1 とその仲間たちから、そしてこの世のすべてから逃げ出 すことができると思一つと、 いっそこのまま飛びこんでしまおうかという 考えが頭に浮かんだ。 われ けれど、はっと我に返った。顔を上げてジョンの目をまともに見す はげ . しせん え、視線をそらさずにらみつけた。そのうちに、ジョンはばくの激しい 怒りを感じとったのだろう。アジーを連れて、立ち去っていった。 五年生になったばかりのころ、担任のジ 1 グラー先生には、ばく力と うしてこれほど問題児なのか見当もっかなかったようだ。 ふくそう かんごふ やがて看護婦さんから、ばくが食べ物を盗む理由やこんな服装をして あっか いる理由を知らされると、ジーグラー先生はばくをふつうの子として扱 いっしゅん たんにん ぬす すがた
第 3 章何か食べたい 107 流しに立って、やけどしそうに熱い湯に手をつけていると、ゴミ入れ に捨てられた残り物の匂いがただよってきた。その匂いを胸いつばいに 嗅いでいるうちに、ある考えが頭をよぎった。 最初は気持ちが悪くなりそうだったけれど、考えれば考えるほど、い いアイディアに思えてきた。食べ物を得るには、それしか望みはない。 もう 猛スピードで皿洗いをすませると、見つからないようにガレージにゴ ミ入れを持ちこんで、中味をあけた。食べ物を見るとつばがわいてき しんちょう きれいそうなかけらを慎重につまみ出し、紙切れやタバコの吸いが らを払いおとして、大急ぎでがつがっ食べた。 とっぜん げんこうはん 毎度のことだが、ばくの新しい作戦は突然中止になった。現行犯で母 さんにつかまってしまったのだ。それから二、三週間はゴミ入れあさり をやめていたけれど、ぐるぐる鳴るおなかを黙らせるためには、結局ま にお むね
262 す。 児童虐待の犠牲者は、自分の過去を心の奥深くに隠してしまうことが多く、自分が虐待 する側になるという可能性には考えも及びません。ふつうの生活を送り、夫や妻となって 家庭を築き、仕事でも実績を積んでいきます。 しかし、むかし虐待の被害者だった人々は、日常生活につきもののちょっとした問題が 引き金となって、子どものころに身にしみついた行動をとってしまいがちです。そうなる と、今度は配偶者や子どもたちが不満のはけ口にされ、知らず知らずのうちにかっての状 況が再現されて、果てしない〃怒りの循環″ができあがってしまうのです。 虐待を受けた人々は、ひっそりと自分の殻に閉じこもってしまう場合もあります。目を そらして認めずにいれば、過去なんか消えてしまうはずだと思いこんでいるのです。〈パ ンドラの箱〉は閉じたままにしておかなければならない、と信じているように見えます。 アメリカでは毎年、何百万ドルものお金が児童保護の機関につぎこまれています。こう したお金は、フォスターホームや教護院のような各地域の施設へ送られます。児童虐待を 抜本的に防止するための活動、虐待する親やその犠牲者たちのカウンセリングなどに取り 組む数多くの民間団体にも、助成金が与えられています。 児童虐待の件数は、年々増加しています。アメリカでは一九九〇年に二五〇万件以上の
みたいにめそめそ泣いてなんかいられない。生き延びるためには、ぜっ い母さんに屈してはならない。 ちか その日、ばくは心に誓った。もう二度と、「ぶたないで」とすがりつ いてあの女を喜ばせてやったりするものか。 やけど 火傷した腕を舌でなめて、ずきずきする痛みをやわらげようとした。 悲鳴をあげそうになったが、ばくが泣いているのを聞いたら母さんがう れしがると思ってじっとこらえた。 じまん うえ 母さんがロンに話す声が階上から聞こえてくる。ロンは母さんの自慢 むすこ の息子よ。あなたはディビッドみたいに、あんなふうに「悪い子にな る心配はないものね。 うでした の