思う - みる会図書館


検索対象: そして、こうなった
190件見つかりました。

1. そして、こうなった

111 どえらい女 キ大将が暴れているのを論評するようなものではないか。 「あの石の投げ方はいけません。石を投げる時は標的を外してはダメ。やたらに投げれ 。しいってもんじゃないんです。あツ、棒をふり廻してますね。あの振り方、カはある ようだけれど空を切ってますよ。この頃のピッチャーはやれフォークだ何だと小手先ば かり利かせますが、昔の大投手、別所毅彦なんかのあの投げ下ろす豪球の迫力で立ち向 ってほしいです。その点、浅香光代の投げ方はいいですね。別所を彷彿させる大豪球で すから」 あえていうとしたらそんなところだが、 それも長ったらしいので「サッチーの迫力の 源はあのハナの穴だと思います」といったら相手は絶句していた。 テレビを見ていると世の中の人々、何やらみんな「真剣勝負」という趣でサッチーの 言行を見守っているようだ。殊に日本テレビの昼のワイドショウなんか、かって「鬼畜 米英」を唱えて徹底抗戦を絶叫した陸軍軍人やら在郷軍人やら防空群長やらを思い出し てしまうほど、「敵を憎む」情熱に燃えているーーように見受けられる : ここがテレビの見方の難かしいところで、「ーーー燃えている」と一旦止めた後で、 「ーーように見受けられる」と追記しなければならないのは、本気で燃えているのか、

2. そして、こうなった

「わたしはおとつつあんに似たのや」 というのが母の自画自讃の始まりである。母には六人の兄姉弟妹がいたが姉や妹はな ぜか母親似だった。母親は「女布袋」といわれるほど不器量だったそうだ。母が養女に 選ばれたのは、「一番器量よしで、おとなしいし、賢い子」だったからだと母はいった。 小学校ではいつも一番だった。授業中もわき見をせず、一所懸命真面目に勉強したの で、受持ちの丹沢先生は、 「みな、横田を見習うんじゃ」 といって贔屓してくれた。これが二番目の自慢である。 養家先の暮しが辛かったためか、子供ながら母は何らかの形で「身を立てたい」と考 えていた。やがてアメリカへ行こう、と心に決めた。アメリカへ行って何をするという 目的があるわけではない。とにかく行こう。アメリカの土を握って帰って来るだけでも いいから行きたいと思った。つまり進取の気象に富んでいたというわけだ。女学校を出 曲 のると英国人夫婦が開いている「関西英学校」という所へ行った。必死で勉強した。夜更 乙けまで勉強していると居眠りが出てくる。そこで絎針を持った左手を腿の上に置き、コ クンと居眠りが出ると針の先が太腿を突くという仕掛を考えて勉強したもんや、と母は ひいき

3. そして、こうなった

袋、作業服。足もとに黄色いへルメットを置いているところを見るとあれは地下鉄工事 をサポって来た連中ですな、と教わる。少し行くと暗い池の畔にしやがんでじーっと池 の面を見ている黒い背中。一見この世をはかなんでいるか、借金のいいわけでも考えて いるかのようだが、実はあたりの気配に全神経を集中して、エモノの来るのを待ってい るライオンの心境なのですと、なかなか愉快な刑事さんだった。 ( しかしあまり出世は なさらんかったでしような ) 思えば面白い時代だった。ああいうのを「ゆとりある日々」というんじゃないのか。 夏になると丸の内署の窃盗犯罪の半分以上が日比谷公園のハンドバッグ置き引きだった。 アベックが相擁して、夢中になっていくと、 ( つまり組んずほぐれつ ) 位置が移動して いくもので初めはそばに置いた筈のハンドバッグがいっか遠くへ行っている。それに向 って匍匐前進して失敬してくるという、悦楽と実利を兼ねたノゾキがプロ中のプロとい 歎われていたとか。こういう話を語るだけで私は浮き浮きしてくる。 「佐藤さんの話を聞いていると、なんだかノゾキを讃美しておられるみたい」 男と ()D 子さんは不服そうだ。 ここで突然話題は変るのだが、この年、東京では銀座や新宿、浅草なんかで歩行者天 ほふく

4. そして、こうなった

ろ 7 ハゲ丸シジミ目のミコト 私の目はワラジ虫のおかげでシジミ目に逆戻りしたのであった。 八月は例年のように北海道へ行く。北海道へ行けば人も来ず、宅配便も来ず、静かな 日を過せよう。孫と娘の三人暮しだ。気の好いムコどのは、「お姑さん、のんびりして、 十分目を治して来て下さい」といってくれる。 八月の北海道は毎日晴れて暑くもなく寒くもなく、最高の陽気だった。岡の上の我が めぐ はがね 家から望む太平洋は鋼色に輝き、岡裾を廻る牧草地にはいつ見てものんびりと馬たちが 草を喰んでいる。牧草地の小径を孫と歩けば、アザミ、ホタル草、萩、せいたかアワダ チ草、黄金色のオオハンゴン草、野苺、野菊、名も知らぬ野花が咲き、白い蝶が舞う。 草蔭を小蛇が走る。いっ来ても「命洗われる」思いのする光景だ。 だが、私の目は相変らすである。一向によくなる気配がない。読みも書きもしていな いのに、目頭の奥の重苦しい圧迫感がどうしても消えない。東京にいる時は目の調子の 悪さを何かのせいに出来た。郵便番号のせいとか、凝視男のせいとか。だが、ここでは 思い当る原因が何もないのである。北海道へ行けば治る、北海道へ行けば、と人からい われ、自分もそう思って来た北海道だ。 かあ

5. そして、こうなった

19 気概の果 なんでこうなるの、だからこうなるの、そして、こうなった : ノジミ目と聞いてみんな、嬉しそうに笑う。友達でない奴ま 誰も同情してくれない。、、 で笑う。親切ごかしにわざわざ見に来る手合がいる。仕方なく自分でも笑い、そして皆 と一緒に笑っていると少しずつ元気が出てきて、シジミ目などたいしたことじゃないと いう気になるのであった。ホントはたいしたことだったのだけれど。

6. そして、こうなった

「そんなことでこの世の荒波をどうして乗り切ることが出来ようか ! 」 の使い古した決り台詞。 「二十九にもなって親がかりでいるのを恥と思わなくちゃいかん ! 恥を知れ、恥 などと叫んで相談者を挫けさせる。あるいは相談者はふてくされてますますぐうたら になってしまう。藤原先生の回答は相談者ばかりでなくこの私のためにもなっているの 私の所へはなぜか ( 全くなぜか ) 身の上相談の電話が多い。その度に私は電話ロで興 奮しその人の不幸に苛立って相手を叱りつけてしまうのだ。そんな反省を噛みしめてい る折しも、その夕刻、電話が鳴った。若い女性のか細い声が礼儀正しく、 「突然、お電話してご迷惑かと思ったのですけれど、どうしてもご意見を聞かせていた だきたくて : : : よろしいでしようか」 とい , つ。 「ハイハイ。何でしょ , っ ? 」 よい声を出したのは、これからは人の相談には冷静に親切にあたたかく、と心に決め を ! 」

7. そして、こうなった

タスキがけで家老にお茶を持ってくるなんて、いや家老でなくても、商家でも、我々 クラスの家庭でもこんな不作法は見たことがない。 これは演出家がもの識らすということなのだろうか ? だがたとえそうであったとし ても誰か一人くらい、これはおかしいんじゃないの、という人がいてもよさそうなもの だ。例えば勘九郎ほどの役者がそれを知らないわけはないのである。知っているがいわ ないのだろうか ? だとするとなぜなのか ? すべて仲よしごっこの今の世の中、いう と角が立っと考えてのことだろうか ? それとも注意をしているのに演出家が聞く耳を 持たないのか ? それともいちいち意見をいっていたらきりがないので、 「ン、もう ! 勝手にせえ」 という気持になったのか ? あれやこれやと想像する。 ショッピング、旅行、食べ歩き、おしゃれ、芝居ーーもう何に対しても欲望も興味も 活なくなった私であるが、唯一望むのは「話の合う相手」がほしいということだ。 神「『元禄繚乱』でねえ、女中がタスキがけで内蔵助の所へお茶を持ってきたのよ ! 」 耡とい , んば、 「えーツ、なんですって ! タスキがけで ? 驚いたわねえ : ・ : いったい何なの、それ

8. そして、こうなった

そしたら : ・ : ・」 「そしたら ? 」 「何かの手違いだったんでしようって」 「手違い ! 」 私は絶句した。 「それからね。講演料は月末に支払うキマリなんだけど、それでは二、三日うちに振り 込みますって」 「ウヌツ・ もはや一一 = ロ葉がなかった。問題はそんなことじゃないのだ。講演料を早くよこせなんて いってるんじゃない。私は仲介業者としての常識を知れといっているんだ。 ああもうイヤだ。ごめんだ。若い連中だけがもの識らずなんじゃない。「上司」とい う奴がそもそもマトモじゃないんだ。物ごとの道理について、礼節について考えること を捨てている。相手の言葉さえ適正に聞けない手合とのつき合いはもうごめんだ。もう 二度と講演はしないそ。 そうはいっても既に約束したものだけは履行しなければならない。悪しき予感のモャ

9. そして、こうなった

とくる。 「無ロじゃない、つまらんのよ ! 」 遠慮もなくいい放つが、多勢に無勢、テキは蚊に刺されたほどにも感じず、どういう うなず つもりか「わーツ」と笑って、「相変らずねえ ! 」と頷き合い、そんなこんなで友達は だんだんなくなっていく。 なんでこうなるの、 だからこうなるの、 そして、こうなった、で死ぬ。 なるようになった、死んだ。結構、これでいし この気概がわかるか、と、 気概はわかるけれど現実はどうなるのか、それが問題だね、と娘はいうけれど。 そんな私がこの春突然、白内障の手術をしようと決心した。何年も前から白内障の気 配があって、それが年と共に進行し、ついに新聞も見出ししか読まない、本、雑誌も読 のむ気が起らず、買物に行っても値段札を見ずに買う、という暮しになり果てていた。ス おっくう 概 トッキングがデンセンしてるような気がするが、調べるのが億劫なのでそのまま穿いて 気 1 いる。手伝いに注意されて、

10. そして、こうなった

なのに書かないのはどういうわけだ、とだんだん腹が立ってくる。品物を届ければ相手 は必ず礼状を書く。差出人住所に郵便番号を書いておかなければ、その時に手間をかけ る。そのことを相すまんと思わないのか、この野郎 : : : と ( 目は既にショポショポして きている ) 罵りながら郵便番号簿をあっちめくり、こっちめくり。 おそらくこの連中は物を貰っても礼状を書かないでほっとく手合なんだ、と思い決め る。一度でも礼状を書いた経験のある人間なら、郵便番号のためにどれだけ手間がかか るかを知っている筈だ。だいたいお中元を送る方はデバート や商店の中元係に注文を出 すだけで、あとは知らん顔。誰に送ったかも忘れているのにちがいない。気らくなもの だ。チェッ ' そんなに怒るのなら礼状を出さなきゃいい と娘はい , つ。しかしいくら奴 5 っていても、 礼儀は礼儀だ。物を貰ったからにはいうべき礼はいわねばならぬ。「〒」の印がある以 上、書くべき郵便番号は書かねばならぬ。それが私の主義だ。 かくて私の目はシジミになったり治ったり。やっとお中元の時期が終って、これで目 もよくなるでしよう、と手伝いの Z さんもほっとしている。 そんな折しも客が来た。親同士が懇意にしていたこともあって昔からの知り合いで、 ののし