森さん - みる会図書館


検索対象: そして、こうなった
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1. そして、こうなった

176 私の喜寿は来年、満七十七歳のつもりだったが、満七十六歳が喜寿なのだそうである。 同い年の旧友二人に会って聞いたら言下に、「そうよ、わたしら」といわれ、「へーえ、 ホンマあ ? 」とロアングリだった。損をしたなあ。喜寿のお祝いをしようといってくれ た人たちの誘いを断って。 思えば遠藤 ( 周作 ) さんが、 サトくん、お互い愈々古稀やで。そのうち二人だけで祝いのメシ、食おうな」 と電話をかけて来て、 本日のおキモチ

2. そして、こうなった

それをテレポート ( 瞬間移動 ) というのだそうだ。何しろ竜神は怒っている。だから 瞬間移動させるにも力が入っている。蛇が落ちて来た時の「ドッシーン ! 」というあの 地響にはただならぬものがあったと思う。 とるものもとりあえず私と娘はアベさんの所へ行った。かくかくしかじかと話す。 「ふーん、あの蛇、竜神さんに飛ばされて来たってかい」 どうもそんな口調でいわれると、話がうさん臭い趣になる。アベさんは暢気にいった。 「いやあびつくりしたなあ。電話かかって来て響子さんがいきなり、アベさん助けてエ っていうんだもんな。強盗でも来たかと思ったけど先生が強盗に負けるわけないもんな。 何だべと思ってよ。そしたら蛇だアっていうんだもんなあ : : : 」 それか 竜神さんは怒っておられるのである。私はここでアベさんに仰天してほしい。 んら心配して、解決策を考える姿勢になってほしい。だがアベさんは「アベさん、助けて ェ」の娘の電話が大いに気に入ったらしく、そればかりくり返す。そこへ山口さんがや って来た。話を聞いて、いつものニコニコ顔が真面目になり、 竜「あの竜神さんはうちのヒイじいさんが祀ったんだ。その頃は社はなくて道端に立って たのさ。それがいつの間にかひっくり返ってたんだよ。それに気がっかないでいたもん

3. そして、こうなった

「助けてエ : : アベさん : ・ : ・」 何とも凄い絶叫だった。 「蛇よ、蛇 : : : 天井から落ちて来たのよウ ! 」 そういう間に蛇はゆっくり渦を解き、赤い舌をヒラヒラさせながらズルズルと壁際の テープルの下に這い込んで行った。アベさんは、なに蛇 ? よし、すぐに行く、といっ たそうだが、なかなか来ない。アベさんの店からここまでは車で五分とかからないのに。 漸く車が上って来た。漁師の大久保さんと一緒だ。しらが混りの無精髭に埋もれた、 アベさんより首ひとつ大きい大久保さんは米の空袋を持って入って来て、 「どこだい、蛇は」 悠然というのが頼もしい。アベさんの来るのが遅かったのは、 ( 「よし、すぐに行く」 坊 といった割には ) 大久保さんを呼びに行っていたからだ。大久保さんはかがんでテープ ん ルの下を覗いていたが、間もなく蛇の尻尾と頭を掴んで立ち上った。掴んだ蛇を我々の ん 方へ突き出す。へつびり腰で覗いていたアベさん、私、娘、孫、一斉に 竜「ヒャアー 大久保さん、蛇を首に巻きつけてみせる。我々、また、

4. そして、こうなった

で昆布採りの舟が毎日毎日・ひっくり返ってよ : : : 」 知ってる。その話は何べんも聞いている。それより竜神さんの怒りをどうするか、そ の相談をしたい。だが山口さんはくり返す。 「竜神さんは怒りつばいんだな。うちのヒイじいさんが : とまた始まる。そこへ漁師のエイトマン ( なぜェイトマンなのか知らないが。飼犬は アポロ一号という ) が来た。早速アベさんは、 「響子さんから電話がかかってよ、アベさん助けて工、っていうんだよう : と始める。終ると今度は山口さんが、 「あの竜神さんはおらのヒイじいさんが : 私は業を煮やして、 「じゃね、とりあえず私が掃除して来るわ。箒とバケッと雑巾、貸してちょうだい」 「いや、先生はしなくていい」 それなら皆で掃除をするよということになるのかと思ったら、 「いや、びつくりしたなあ、響子さんから電話がかかってよう : と始まる。新しく漁師のタカミツが入って来たのだ。ここはスー ほうき バーだから次々と人

5. そして、こうなった

「怒れば金を投げ捨てる」女であることをよく知っていて、怒らせては金を持って行っ た。彼がニコニコしてやって来ると、反射的に「またお金 ? 」といったその習慣が、浅 ましや三十年経ってもまだ消えぬとは : しかし今は心にそう思うだけで、明日ババが来るってよ、と娘がいっても私は、「ふ ーん、そう : : 」というのみである。そこが昔と今との違いだ。 逗子での仕事を片附けて家へ帰ると、孫が出て来て、 「おじいちゃんが来たよ」という。「そうかい」といって留守中の郵便物を片附けにか かった。孫はい , つ。 「おじいちゃんは、あたしのお母さんのお父さんでしよ」 「そうだよ」 軍「そしたらおばあちゃんのダンナさんでしよ」 「うん、まあ、そういうことだったわね」 る 相「どうしてこの家にいないの ? 」 答に窮して、忙しく郵便物の封を切る。 「ねえ、どうしてここの家にいないの ? 」

6. そして、こうなった

そうすれば無事に渡れたという。若い僧の正体がなぜ大蛸だとわかったのかというと、 ある夏の日盛り、一人のばあさんが孫を背負って橋まで来たが、あんまり暑いので川で 水浴びをしようと橋の下へ降りて行ったところ、大蛸が暑さにうだって昼寝をしていた。 そこで川の主が大蛸であるという正体を、その目で確かに見届けたのだ、ということで ある。蛸が寝ていたからといって、それが僧に化けた川の主だとなぜ決めることが出来 るのか ? 私はそう思うがここでは誰もそんなことは考えない。寝ていただけで化けもの蛸にさ れた大蛸こそいい迷惑だ。 アベさんの家から少し先に「子授け地蔵」と呼ばれている地蔵がある。昔、アベさん 1 が子宝に恵まれず悩んでいた時、漁師の中村さんがアベさんを地蔵さんの所へ連れて行 って教えた。 怒「こうやってな、地蔵さんのアタマ三回撫でて子供さ授けて下さいと祈ればいいんだ」 ん そういいながら中村さんは三回、地蔵さんの頭を撫でて見本を示した。すると驚いた 竜ことには間もなく中村さんのおかみさんのお腹に六人目の子が宿った。 「ロで教えればよかったのに、わざわざやってみせたもんで出来ちまったんだな :

7. そして、こうなった

天井から落ちて来た蛇を見て私が竜神さんを思い出したのはそういうことがあったか らなのである。更に考えるとその前の日、私はアベさんと焼肉を食べながらこの夏は昆 布は二日しか採れなかったし、水温が高くて魚もいない、集落は散々だ、というような 話を聞き、ふと思いついてこういったのだ。 「アベさん、それは竜神さんをほったらかしにしてるからじゃないの。竜神さんの社は 汚いの汚くないのって、まるで物置きじゃないの。竜神さんは怒ってもうこの集落を守 らなくなってるんじゃない ? 」 「そうだべか : とアベさんはいったが、話はそれきりになった。その夜中、娘の部屋 ( 例のザラザラ ズーの部屋 ) の雨戸に突然、ドッカーン ! と何か大きなものがぶつかるものすごい音 がした。しかし我が家族は多少の奇怪な物音など、屁とも思わぬ修練を積んでいるから 怒娘はそのまま眠りつづけ、翌朝になって思い出し、 「あの音、何だったのかなア」 竜と暢気にいっただけだった。天井から蛇が降って来たのはそれから数刻後の昼前であ る。

8. そして、こうなった

しレオし」とたしなめる。 治家は誤解されないような一一 = ロ葉の使い方をしなければ、ナよ、 いやあ、たいへんですなあ。こういう将軍をいただいて、汗みずくの野中、青木ら老 中の面々。その疲れ果てたお顔をテレビで見ると ( 野中さんのごときは老中というより も老いたる乳人という面持ちになってきた ) 気の毒さが高じて、思わず、クク、クク、 クク : 申しわけないが ( 気の毒なのに笑うというのも心ないわざなれど ) 笑いがこみ上げて くるのである。 これからの選挙を目前に、与党の立候補予定 困っているのは、老中方だけではない。 の大名たちも弱っている。 「正直いって、首相にはもう黙っていてほしいですな」 「森さんが失言すると票が減る。千票もらっても一言でバッと減る」 と怒るやら歎くやら。上サマの遊説のお呼びはどこからもかからない。自民と連立を 組む公明党も閉ロしている。 「首相なら寝言をいうときも気をつけなければ」 「ああ、またか ! 懲りない人だ・・・・ : 」 めのと

9. そして、こうなった

「どうだかね」 アベさんはいっこ。 「ともかく、竜神と決めたんだべさ」 ともかくその石は竜神となった。集落の外れの山裾にこの石ーーーっまりご神体を立て、 その前でカンカン帽をかぶり紋つきを着た数人の漁師たちが威儀を正している写真が社 の壁に懸っている。昔は社はなく、野ざらしだったらしい 山口のヒイじいさんは竜神さんのお祀りを熱心に行ったということである。そのうち ヒイじいさんは死んでじいさんの代になった頃のこと、毎日のように昆布採りの舟がひ つくり返って怪我をしたり溺れたりする者が続出し、それが一週間もつづいた。さすが に暢気な浜の者もこりや普通じゃないべ、といい合うようになったある日、竜神さんが 坊 ひっくり返ったままになっていることに山口のじいさんが気がついた。そこで慌てて竜 ん 神さんを起し、ヒビ割れをセメントでくつつけたりして立て直したら浜はびたりと鎮ま 竜そんな話を山口さんから私は聞いている。 「竜神さんはすぐ怒るんだよな」

10. そして、こうなった

158 早速私はかねてから信頼している霊能者のさんに電話をした。かくかくしかじかと 、、終らぬ , っちに、 「お察しの通りですね」 とさんはいった。竜神はもう百年以上もこの集落を守って来たにもかかわらず、 人々はその恩を忘れ目先の損得のみを考えて竜神をおろそかにしている。竜神は今やキ レかけていて、最後の手段に出た。これがラストチャンスーーと思って蛇をプン投げた。 これで気がっかなければ、アバョだ ! そんな気持であるという。 「竜神は我慢の緒が切れると、そうか、そんな気か、わかった、そんならこっちも好き にするよとさっさと離れて行くタチでしてね。その点、お稲荷さんはいつまでも執念深 く怨んでいて仕返しをするんですが」 ということであった。なるほど、ずいぶん私に似ているんだなあ、もしかしたら竜神 きようだいぶん さんは私を兄妹分と思ってるのかもしれない。何かというと私のところへやってくる。 さんはいっこ。 「一番可哀そうなのは蛇ですよ。そのへんの野原で気持よくトグロを巻いていたんでし よう。それをいきなり投げ飛ばされたんですから」