そういったそうだ。 ( 谷底へ投げ出されて泣く ? フン ! 泣いてどうする、と私は 思 , つが ) 桃「卞はあっさり、 「ふーん、そうか : といって、三分間スピーチで語ることは取りやめたそうである。 「ほんとに、困っちゃうわ : : : 頼みますよ、ママ」 といって娘は二階へ上って行った。 母一人子一人、私という親の背中を見て育った娘は、この背中はろくでもないことを 教える背中であることを身に染みて知ったらしい 。ものごとすべて、この背中の逆に逆 にと進めば人生無事という信念を持ったもののようである。そして今はこの背中が放っ 毒気からいかに我が子を守ろうかと腐心しているらしい 私がテレビを見ていると、孫がやって来ていつものように絵を描きながら時々、私の 顔を盗み見ていう。 「おばあちゃん、また何かゴチャゴチャいおうと思ってるんでしよう :
158 早速私はかねてから信頼している霊能者のさんに電話をした。かくかくしかじかと 、、終らぬ , っちに、 「お察しの通りですね」 とさんはいった。竜神はもう百年以上もこの集落を守って来たにもかかわらず、 人々はその恩を忘れ目先の損得のみを考えて竜神をおろそかにしている。竜神は今やキ レかけていて、最後の手段に出た。これがラストチャンスーーと思って蛇をプン投げた。 これで気がっかなければ、アバョだ ! そんな気持であるという。 「竜神は我慢の緒が切れると、そうか、そんな気か、わかった、そんならこっちも好き にするよとさっさと離れて行くタチでしてね。その点、お稲荷さんはいつまでも執念深 く怨んでいて仕返しをするんですが」 ということであった。なるほど、ずいぶん私に似ているんだなあ、もしかしたら竜神 きようだいぶん さんは私を兄妹分と思ってるのかもしれない。何かというと私のところへやってくる。 さんはいっこ。 「一番可哀そうなのは蛇ですよ。そのへんの野原で気持よくトグロを巻いていたんでし よう。それをいきなり投げ飛ばされたんですから」
明「編物をドアの外に置いて帰ってしまったといってカンカンに怒ったと母はいいまし ェイ、も , っー じれったいねえ。お前はオウムか ! お前さん、これは自分のことで しようが。自分のことなら私なんかに相談して来るよりも、その時の様子をもっと詳し く知ろうとするもんじゃないのンー ・ ( 例によって短気の虫がモゾモゾと動き出す ) だが彼女はいった。か細い声で。 「黙って編物を置いて帰ったのは礼儀知らず、非常識な人間だと思われたのでしよう 「いろんな考え方があるんですよっ。カンカンに怒ったというだけじゃ判断がっかない のよっ ! 」 という私の声には、ついに怒気が籠る。 彼女の手紙を見て彼はこう思った。シメシメ、シメコのウサギと。何しろ四十三 の独身だ。女ズレしているか、それとも飢えてるか。いずれにせよ心ひそかにほくそ笑 み、今夜のイツ。ハツを楽しみにいそいそとカーテンを開けた。そうして彼女が来た後の 手順などを考えて待つうちに、次第に劣情が昂まってくるのは健康な男の自然というも
ぬところで感情移入していたものである。 そんなある夜、リックの店へ肩で風を切ってやって来た男たちーーードイツ将校だ。戦 勝気分の彼らは人を人とも思わぬ態度でテープルに陣取り、酒をガプ飲みし、そのうち あたり構わぬ大声でドイツ国歌を歌い出したのである。 するとその時、その歌声に立ち向うように別の歌声が湧き上った。フランス人たちが 負けじとフランス国歌、ラ・マルセイエーズを高唱し出したのだ。互いに腕を振り、身 体をゆすって歌合戦となる。双方ともにテンボのいい、気持が高揚するメロデイだ。だ がやがてドイツ将校はフランス人の気勢に負けて黙ってしまう。 「フランス、 ハンザイ ! 」 と叫ぶ声。感極まって歌いつつ泣く女性。敗者のプライド、愛国心が爆発したのだ。 中居クンによって私の遠い記憶が蘇ったのは実にこの場面なのである。その時、私は 仲何を思ったか ? これが日本人であったならどうだろう ? 代 君そう考えたことを思い出す。 テキの大合唱に立ち向うべく、我らも国歌を歌うとしたら :
ることが出来ず、 「襖ガラッと開けて、重なってはる上へ、ざーっと手桶の水、ぶちまけたんですと 「へええ : : : 」 母はひたすら感心している。いや、こらオモロイ話やなあ、と思いながら、それにし ても「重なってはる」とはどういうことか、どう考えてもわからなかった。 長々とつまらぬ思い出話を書いてしまったが、ことはど左様に子供というものは古今 を問わず、おとなの言動に注意をム、 キし、かっ吸収しているものであることを改めて痛感 したのであった。 さて、桃子のスピーチに驚いた娘はどうしたか。 「桃子、よく考えてごらん。このご主人にしてみれば、いきなり自分の奥さんがよその ろ 子供を殺したなんてことを聞いたら、そりゃあびつくり仰天して泣くでしよう。今まで 背一家四人が仲よく暮していたのに、突然、谷底に投げ込まれたような気持でしようが。 一口だって泣くと思 , つよ」
を退散させるのか、それを質す気はもう私にはな、。 そんなある日のことである。北海道浦河町のスー きた。 「先生 ! ゅんべ、スカンクがね : : : 」 あっ、スカンクのプー。どうしているか。見つかったのか ? 出て来たのか ? なるにつけて思い出すのはプーのことだった。数日前も編集者の >* さんが来て、つれづ れ話の末に、 「どうしているでしようねえ、スカンクは。あの最後の夜、懐中電燈の光の中をパーツ と飛んでましたよねえ。あの姿、忘れられません」 といった。私は忽ち胸を突かれて、 「忘れられないわ、あの一瞬の光景 : : : 」 といったきり、後は何もいえなかった。プーのことを思い出すだけで私の心臓はおか しくなるのだ。あの時私が檻から出しさえしなければ : : : プーに自由を与えてやりたい などと思わなければ : : : ガラス戸を開け放しにしなければ、プーが行方不明になること せんせ ただ アベさんから電話がかかって
長年の愛読者だという女性が訪ねて来て、今日はどうしても佐藤さんに聞いてもらい たいことがあって来ました、聞いてもらって一緒に怒っていただきたい。そうすればき っとこの二年間苦しんできたわたくしの胸は鎮まります、という。 彼女は六十の声を聞いたばかりで、二年前に夫を亡くしている。今彼女を苦しめてい る憤怨は夫が存命中から燃えていたものだが、夫が死んだ後も消えずに燃えつづけ、 時々、火柱を上げる。 かえ 「死ねば消えると思っていましたのに、いなくなったら却って燃え上ってきたんです。 怒りのゾンビ
224 こうなったら俎板の鯉だーーといえば潔いが、ジタバタするにも動けず声も出せすと いう実情なので、もしかしたら俎板の鯉だって潔いわけではなく、キモを潰して動けな くなっているというのが実相かもしれない。。 シタバタする鰯の方が案外気概があるのか も。なのに鯉ばかりヒイキにして、 「鯉はエライ ! 俎板に乗せられると覚悟を決めてビクともしなくなる。我々も鯉の胆 勇を見習わなければなりません」 と小学校四年の時、受け持ちの先生から聞かされて、以来私はずーっと鯉に一目置い てきたのだ。 まったく世の中というものは、真贋がわからぬものなのだなあ。ほっそり美人が上品 ぶっていると、心根までうるわしい人と思われ、プランド品で身を固めたマガイモノ美 人がチャホャされ、デブの大根足は一皿百円の小魚ナミにあっかわれる。しかし心の美 しさはどちらが上かー 人間としての品格は果してどうか ! 鯉と鰯とどっちがエラ イ ? よし、これはエッセイのネタになる : : : と万力で締めつけられながら思う。何と いうプロ根性、作家ダマシイ、と苦しい息の下で自賛するうちにいっか万力の締めつけ まないた
熱を失った。あの頃の男には男のガッツがあったんです。女は無駄が嫌いです。しかし 男というものは本来無駄、くだらないこと、非生産的なこと、冒険に情熱を燃やしたも のです。かってはね。しかし今は」 「紳士になった ? 」 「否 ! 萎えたんです ! ガッツを捨てた。女みたいになったんです。スリルよりも、 手つとり早く目的を遂げたいと思うようになった。かって男が狩猟を好んだのは獲物を 捕獲して食べることよりも追うことが面白かったからでしよう。しかし今は釣堀でフナ 私は、い配せずにはいられな を釣って喜んでいます。このままでは日本はどうなるかー 「ノゾキがなくなったからですか ? 」 「そうですよ ! 久米の仙人より出歯カメを経て日比谷のノゾキへと連綿とつづいた男 歎の歴史が終ろうとしているんです。男はダメになったんです : : : 」 なり行きとはいえ、まさに声涙ともに下る、といった大演説だった。 ( と自分では思 男う ) T) 子さんは仕方なさそうに、 「ノゾキがなくなったからといって、日本の前途を心配する人は佐藤さんしかいないで
人も見物人もそれでせいせいしたものだ。しかし今は「仲よしごっこ」の世の中だ。 しんい ほほえみ 「仲よし」ではなく「ごっこ」であるから、微笑の奥に瞋恚の燠が積っている。それが 積り積ってある日爆発する。すると忽ちマスコミが飛び跳ねて一億総評論家、総分析家。 しいや、あっちとこっちの間にこういう状況があった、それ あっち悪い こっちも悪、 、が・亜い・ ・一億が考え、しゃべり散らし、そうして何が残るか ? 「しゃべった後のおキモチは ? 」 いっそ私はそう訊きたい。 先日、東京から京都までの新幹線で退屈していたら、通路を隔てた隣席で二人の三十 代らしい女性が声高に話すのが聞えてきた。のそみのグリーン車であるから車内はガラ ガラだ。二人ともに何だか上等らしい ( プランド品名を知らないから、こういうよりし モようがない ) バッグ、靴。上手な化粧。有名店の特別製らしいサンドイッチがうまそう 本「とにかくね、幼児期は美しいもの、可愛いものに触れさせることよ。醜いものは見せ ないようにするのが親の務めだと思ってるの」 おき