森さん - みる会図書館


検索対象: そして、こうなった
188件見つかりました。

1. そして、こうなった

1 ろ 1 男の衰退を歎く 「怒らないんですか ? 」 : ただそう思うだけですよ」 「いや、なるようになった、なるべくしてなった : 「それだけですか、感想は」 「ここまできたら今に脱がせ代行っていうのが現れるんじゃないですか : すると T) 子さんは少し考えていった。 。しくらくらいのものでしようね ? もし五千円もするよ 「なるほどねえ。でもそれよ、、 しいとこ千円、いや五百円・ : ・ : 」 うなら私、怒ります。二千円、いえ、 とこの人、どこまでも真面目な人なのであった。

2. そして、こうなった

長年の愛読者だという女性が訪ねて来て、今日はどうしても佐藤さんに聞いてもらい たいことがあって来ました、聞いてもらって一緒に怒っていただきたい。そうすればき っとこの二年間苦しんできたわたくしの胸は鎮まります、という。 彼女は六十の声を聞いたばかりで、二年前に夫を亡くしている。今彼女を苦しめてい る憤怨は夫が存命中から燃えていたものだが、夫が死んだ後も消えずに燃えつづけ、 時々、火柱を上げる。 かえ 「死ねば消えると思っていましたのに、いなくなったら却って燃え上ってきたんです。 怒りのゾンビ

3. そして、こうなった

154 またまた佐藤が妙な話を持ち出した、と嗤う人は嗤いながら、わア、コワイイー 。この夏の私の奮闘 ( ? ) 話を。 思う人は怖がりながら、まあ、聞いて下さい だがそれを語る前にひとっ説明しておかなければならないことがある。それは今から 十三年前のこと。 その年はこの集落に私が家を建ててから十年目に当るというので、十周年記念の祝い の酒盛をやろうということになった。家は粗末だが庭は広い。 ( 何しろ山の一軒家だ ) ーティをしようと決めた。それなら何人来てもかまわない。食べ そこでジンギスカンパ 竜神さんは怒りん坊 2 わら と

4. そして、こうなった

前に立った。三十四年間守って来た ( あるいは守らざるを得なかった ) 処女を捧げるこ とを決心して : 。私の感慨など知らず、彼女はつづけた。 「そして家へ帰って来ましたら母が、今電話がかかってきて、何もいわずにドアの外に 編物を置いて帰ったといって、カンカンに怒ったというんです。先生、そんなにいけな いことを私、したんでしようか ? 」 「いやあ、私は電話してまで怒るほどのことじゃないと思いますけどねえ」 「それで私、弁解と謝りの手紙を出したんです。何度も。でも何の返事もなくて : ・ どう考えたらいいんでしよう ? 何がいけなかったか、小説家として推理していただき たいんですけど」 そこで私は探偵のように質問した。 「その人の年は幾つです ? 」 「四十三ですけど」 「四十三 ! それで独身 ? 」 。お医者さんです」 一刻の沈思の後で私はいった。

5. そして、こうなった

「わかったよウ、トンボの塩焼きだろ、先生が豆をピンハネしたんだろ、っていいたし けど、なぜかいえないんだよね。いつも初めて聞いたように驚かなくちゃいけないよう な気がしたもんだ」 せがれ と、それが成人した伜や娘たちの思い出話になるのである。 「佐藤さんって思い出話をしない人ねえ」 と私は友達からよくいわれる。そういわれればそうかもしれない。だってお互いに承 知している話をああだった、こうだったといい合ったところで面白くも何ともないでは 「ほら、憶えてる ? 四月の十日頃やったかしら、新入生歓迎会が校庭であったわねえ。 桜の下で」 「ほんまに春らんまんという感じでよかったわねえ」 曲 の「雨が降ると延期になったんよ、ねえ」 乙「延期になった日もまた雨で」 「そのうち桜が散ってしもうた年もあったわね」

6. そして、こうなった

「へーえ : : : 」 「そうしたらロクロッ首は『ああ、 しいですよ』って、あっさりいって、窓から頭をつ き出したと思うと、みるみる首はニョロニョロと伸びて空へ上っていったの」 「変ってるねえ : ・・ : 」 「それから首は戻ってきてね。『大分先まで詰ってますが、ずっと先頭の方は動いてる ようです』って」 私は「へーえ」というばかりだ。 「それでね。お礼に二千円ばかり包もうかと相談したのよ」 「誰と ? 」 「それがハッキリしないんだけど、一緒に車に乗ってる人 : : : 多分ヒロユキさん ( ムコ どのの名 ) かママよ。そうしたら、首伸ばしただけだから二千円は多いんじゃないかっ て : : : そうだ。ママだわ。そういうことをいうのはママだわ : : : 」 いや、それは : : : そうかもしれん。 初「で、どうしたの ? 」 「とにかく二千円包んで、『あの、これ、お礼です』っていって、ロクロッ首にさし出

7. そして、こうなった

世の中には「隠れサッチー派」というのがいるのである。 ( それにしても「片岡さん」 という人、多分女性だろうが、どんな人か、おそらく正義を愛する人なのであろう。ち よっと顔を見てみたい ) ある日、呉服屋が来て挨拶もそこそこに、 「どないです ? あの問題」 と切り出した。彼はこの頃やって来ると必ず、日本女性が着物を着なくなったこと、 日本女性の美しさは和服がすたれると共に失われていくという歎きを述べるのがきまり になっていたが、今回は違った。 「あの問題って ? なに ? 」 「あの野村監督の奥さんのことですがな」 「ああ、あのこと : 「なんぞ、訊ねて来ましたか ? 週刊誌やらから、ご意見を」 女 「訊いて来たところもあるけれど、べつに意見といってもねえ。オモロイなあと思って え ど見てるだけだもの」 田「オモロイ ? いや、ホンマにオモロイというたらオモロイけど、しかしえらい人です

8. そして、こうなった

116 長屋もなく井戸もなくなり、生活が豊かになってからは、「お茶の時間」とやらが井 戸端会議にとって代ったが、今は無聊を紛らすものがテレビのワイドショウになった。 しかも ( これを「めでたい」といってよいのか、清けないというべきか ) 男がそれに参 加している。かっては井戸端会議を嘲笑していた男どもが、である。 ハスを待っていると後ろから男の声が聞えてきた。 「とにかく、あれだけペラベラと、 ししたいことをいえるとい , つのは、オレはえらいと思 , つよ」 「そういえばそうだよな。自信のカタマリなんだよな。やつばし、監督夫人というので まわりがペコペコするんでああなったのかな」 「とにかく、えらいよ。尊敬するよ」 「オレってさ、何か訊かれてさ、答えようとするだろ。そしたら言葉が歯の間に挟まっ て出て来ねえの」 「とにかくエライよ。尊敬する、オレは」 「そんなことあんましいうなよ。片岡さんが聞いたら怒りまくるぞ」 「わかってる。いわないよ : : いわないけど :

9. そして、こうなった

そういえば「ハナタレ小僧」という題で書いた覚えがある。だがそのハナタレ小僧も 今は一人前になって結婚したと聞いている。私にとってすべては遠い混沌の中に溶けて しまっているのだ。 「それはともかくとして、あなたのお話を聞こうじゃありませんか」 すると彼女はびつくりするような大声でいった。 「一口にいうと夫の浮気です ! 」 「浮気 ? 」 そういって、私は考えた。 「もしかしたらあなたのその話を聞くと私は書きたくなるかもしれません。これは私の ごう 業ですからきっと書くでしよう。だからそれはイヤだと思ったら話さない方が : : : 」 しいんです ! 書いて下さい ! 」 彼女は私の言葉を奪うようにいっこ。 「書いてもらえればきっとスーツとします。佐藤さんならきっと私のキモチわかって、 一緒に怒って下さると思って、それで来たんですから」 スーツとするかしないか、それはわかりませんよ、というのも耳に入れず、彼女は話

10. そして、こうなった

「こういうことってあるんかね、フーン」 で片づけられてしまいそうだ。三十年前は、 「お作を読んで身につまされて泣きました」 という読者もいたのだ。その人は今は七十八になっている。 ついでながらこの女医には高校生の一人娘がいるが、彼女も同じその青年医師に恋を している。母である女医はそれを知りつつも、ついに青年を自分の恋人にするのだ。 ある「作者を囲む読書会」で、それがしからんといって大演説をした中年女性がい た。娘が恋してる男性を母親が奪うなんて、不潔です ! ムチャクチャです ! とカン カンだったが、いくらカンカンになられても、そうしなければ小説にならないのだ。だ がそれが当時の「良識」というものだったのだ。 シ話は変るが十一月五日は私の満七十 , ハ歳の誕生日だった。 ~ 「おめでとさんでございます。喜寿のお祝い申し上げます」 と出入の呉服屋から電話がかかって来た。私はびつくりして、 「喜寿は来年よ。私はまだ七十六よ」