風林 - みる会図書館


検索対象: みちのく子供風土記
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1. みちのく子供風土記

「このサソリ、 ハチにもたべさせてやりたいなア」と言い出した。 「あんまり美味しくて、ハチがおったまげるべなア」 私達はまた二銭ずつ出し合って、五匹袋へ入れて貰った。花子は得意になって紙袋 を持って歩いていたが、このサソリは大失敗であった。紙袋を手に持って歩いたのが いけなかったのだ。早くバスケット へしまって仕舞えばよかったのに、先ず花子が校 長先生に叱られ、それからそれをたべていた生徒はみんな叱られた。 「海へ捨てなさい」 もしも中毒したらどうしますか、行儀の悪い生徒ばかりだと、校長先生は歩きなが らシャコをたべた生徒を浜辺へ一列に並べて大変に叱った。 仕方がないので、私達はみんなしぶしぶとシャコを海へ捨てた。おかげで八郎へや る土産が一つ減った。言い出しつべの花子が一番残念がった。 行 旅帰りはまた一日汽車に揺られ、幾度か乗り換えて日暮れに鷹ノ巣へ戻った。一人の 修 落伍者もなく、全員無事戻れたことは大変よかった。これは生徒諸君が、みなよく先 179

2. みちのく子供風土記

松尾芭蕉という人は、多分こんな寒い日でなく、もっと季候のいい時に島めぐりを したにちがいない。私達のように時雨に打たれながら、ぶるぶる震えていたんでは、 俳句どころか、芭蕉だってやつばり一刻も早く陸へ上がりたくなっただろう。 花子は千貫島の松が気に入ったそうだ。下の段の平らなところへ家を建てて毎日魚 、と言う。私は松の 釣りをしたらいいだろうなアというし、タネ子は双子島の方がいし と思った。 木もなにもない裸の仁王島の方がいい しいことになり、時雨も遠のいた 船を降りてから浜辺でしばらく自由行動をしても、 ので、みんなでお土産を買った。 まず第一に八郎のお土産を相談した。絵ハガキと芭蕉の葉っぱのようなふくれせん ぺいと、水中メガネを買った。 物売りオ。ハサンが、紙袋へ入れたゆでシャコを四つ五銭にまけるから買えとすすめ た。私達はシャコというものをはじめて見たので気味が悪かったけれど、誰かが買っ てたべたら、たいそううまいものだというので、恐る恐る一袋ずつ買ってたべてみ た。ェビによく似た味で、エビより肉がやわらかい。花子はシャコを忘れてサソリだ 178

3. みちのく子供風土記

て、青葉城跡を眺め、塩竈へ行って、松島見物をする予定である。 青葉城は伊達政宗のつくったお城だが、明治維新にすっかりこわされて、今は何も ないと先生が説明してくれた。 みんなで『荒城の月』を合唱した。青葉城跡から眺め下す仙台の街の大きいのに、 思わず眼をみはり、さすがに東北一だと感心した。 伊達政宗という人は、片目の殿様だが大変偉い人だと、校長先生がその殿様の人柄 についてお話して下さったりした。でも八郎が一緒だったら多分、片目が見えなくた って、片足が短かくたって、殿様だから偉いんで、オレ達がそんなだったら処置なし だよなアと言うにちがいないと思った。 それから塩竈へ行った。塩竈は魚臭い町だ。神社はたいそう立派で、表参道の石段 の高いのにおったまげて見上げていると、 「これ、みなさん。上を見るときは、ロをしつかりとじなさい と校長先生にきつく注意された。そして校長先生は大きな声で、 さいてん 「宮柱太しく彩椽きらびやかに、石の階九仭に重なり、朝日朱の玉垣を輝かす きざはしじん 176

4. みちのく子供風土記

はにしそうだった。 私もタネ子も花子も平気だったが、花子は私にそっと耳打ちをした。 「おらの腹巻に、スルメが一枚入っているから汽車に酔わないのだあ 「スルメが入っていると、なして酔わないのー 「おまじないだしべしゃ。今朝とうちゃんが焼いて入れてくれた。とうちゃんが若い 時カムチャッカさ稼ぎに行ったとき、ひどく船に酔って、その時教えて貰ったのだ と するとそれをききつけたタネ子がげらげら笑い出した。自分が笑われたと思い、花 子が怒ると、 「だってもョ、おらのおへそさ梅干がはってあるからおかしくて、おらとこのかあち ゃんはおまじないとは言わなかった。薬だど。梅干を生半紙になすりつけておへソに はってもらったら、冷たくていい気持ちだったけど、すっかり忘れていた。花子のス ルメで思い出し、今、手をやってみたら、かさかさに乾いている。ああおかしい」 と体をよじって笑った。 174

5. みちのく子供風土記

坊が入って大騒ぎしたけど、あれは他国者ンだったもの。土地の人間なら、そんな悪 いことはするもンか」 花子の言う巫女のかあちゃんというのは、病気をしたらどこの医者に診て貰えばい いとか、失せもの、尋ね人、行くえ不明、なんでも思案に困った時に、教えてくれる 人だ。時には死んだ人の消息も教えてくれるので大人は思案にあまると、たいがいお 米とローソクとお金を持って巫女に拝んで貰いにゆく。 花子の家の一軒おいて隣りがその巫女のかあちゃんの家だ。巫女のかあちゃんはな んでもよく当てるので大繁昌をしているのか、この商売はよっぽど儲かるとみえて、 まるで宿屋のような大きな家を建てた。部屋貸しをしたり、農閑期には遠方から拝ん でもらいに来る人達が、食糧を背負って来ては何日でも泊ってゆけるような仕組みに なっているそうだ。 私はまだその巫女の家へ行ったことがないが、花子は家が近いのでよく遊びに行 或る朝、巫女のかあちゃんと、とうちゃんが大喧嘩をはじめた。誰かがおさい銭を よそも 172

6. みちのく子供風土記

修学旅行 と、つ い籐と赤い絹の布でつくった手提袋の中にチリ紙とハンカチと十銭玉や二十銭銀貨、 一銭銅貨などを母にいつばい入れてもらったのがうれしくて、それを長い袂の膝の上 に重ね、汽車へ乗ってからもじゃらじゃら鳴らして喜んでいた。 汽車に乗って隣りの町へ着くまでにトンネルが三つつづいてある。家も田も電信柱 もどんどん後へ飛んでゆくのが面白くて、私は窓にしがみついたまま夢中で外の景色 を眺めていた。汽車がトンネルへ入ると、大きな音を立てた。それは耳ががアがア鳴 るほど大きな音で、煙りがもうもうと入ってくる。あわてて窓をしめて貰い、暗い ンネルを出ると煙りにむせながらまたあけて貰い、どうやら三つのトンネルを無事に 越した。 左の方に七座の山とその裾をゆるやかに流れる米代川が見え、琴音橋が見える。 もうじき隣りの町だ。汽車が三つトンネルを抜ける間に、私の顔がよほど汚れたら しい。老人夫婦が手紙を持たせてよこしたお使いの人は、笑いながら私の顔を拭いて くれた。 駅前には人力車がずらりと並んで客待ちをしていた。私がそれにのりたいと言う くら 169

7. みちのく子供風土記

修学旅行 冫ノ良力行けなくなったのは本当に残念でならない。 待ちに待った修学旅行こ、、に ; 私達は五時五十九分の汽車にのるために、朝まだ暗い中に駅へ集まった。見送りの 人達の吐く息が白く見えるほど寒い朝だった。 い、私はずいぶんきょ もしかしたら見送り人の中に八郎がいるのかもしれないと思 ろきよろしたが、やつばり八郎の姿は見えなかった。 汽車が汽笛を鳴らしてがたんと揺れるとタネ子が、 「ハチは今頃ペソをかいているべェ」 と溜息をついた。 タネ子も八郎を気にしていたらしい すると花子が、 167

8. みちのく子供風土記

修学旅行 花は なぎんなミ を ( へものてしの 冷、一の得

9. みちのく子供風土記

「だってもよ、芋が割れてしまったしゃないか。オレの修学旅行は駄目になったん 「芋が割れたって、修学旅行と関係ないよ、ハチ」 「それが駄目なんだ。オレの貯金箱を、神棚へ隠して置いた貯金箱を誰かが盗んでし まったんだー 私達はびつくりして八郎の顔を眺めた。すると 、八郎は我慢が出来なくなったの か、おんおん声をあげて泣き出した。 164

10. みちのく子供風土記

えやのタカが、湯気のあがる芋の子を笊いつばい運んで来た。 「さあサ、みんな、お願いごとはじめだんせ」 ばあやはお盆と割箸を運んで来る。 芋の子願いは、本当は芋名月にするものなのだ。それでも私達は芋と箸を奪い合い で受けとり、モズがはやにえをつくるようにみんなでいっせいに芋の子を一突きに箸 で突き刺した。芋の子に穴をあけ、その穴の中から見えるお月様にお願いごとをする と、なんでもかなえて貰える。 芋の穴から覗く小さな、小さなお月様。いっしようけんめいお祈りすれば、あの小 さなお月様は本当に私達の願いをきいて下さるのだろうか 「あっ、駄目だ ! オレはやつばり絶望だ」 突然、縁台の方で八郎が大声を出し、ちくしようー たへ叩きつけた。 生 先「そんたごどをしたら、罰が当たるよ」 竹 ばあやが叱ると八郎は顔を歪め、 ざる とうめくように芋の子を地べ 163