某 - みる会図書館


検索対象: みみずのハナ唄
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1. みみずのハナ唄

某月某日 今年は五月に雨が降り過ぎたから、梅雨なんていらない。 十代の頃の恋人、戸張久仁子ちゃんは三つ歳上の戌年だったから、もう五十五歳にお なりのはずで、時々アメリカからお手紙をいただく。 目黒にある五本木の通りをふたりで歩きながら、久仁子ちゃんが、梅雨が大嫌いでこ の季節になると厭世的になってしまうとおっしやったのを、昨日のことのように想い出 す。 俺は農家じゃないから梅雨はいらない。 某月某日 おからのエルドラド

2. みみずのハナ唄

某月某日 一年振りで、麻雀を半チャン二回やったのだが、競輪の中野浩一と一緒だった。 しようぶにん 現役の、それも超一流の勝負人だから、身体に漲る気合が素晴しくて、それだけで圧 倒されてしまうから、ウイスキーのジンジャーエール割りで、対抗するしかない。 ッモ ーチを自摸あが 足こそ卓の下で鳴りをひそめているが、逞しい腕は唸りを発して、 ってしま , つ。 この爽やかな青年は、一緒にいて実に楽しいナイス・ガイだ。 また自摸あがって、またまた裏ドラがないと叫ぶ。 某月某日 俺の青春は終った みなぎ

3. みみずのハナ唄

某月某日 楽しんでやっていた『怪傑ゾロ目』 ( 文藝春秋刊 ) が終ったら、「週刊文春」編集部 らすぐ『みみずのハナ唄』をやれといわれた。 寄せ場 ( 塀の中のこと ) で日記を書いていたのが今の大幸運に直結した俺だから、 喜びで連載をはじめることに決めた。 某月某日 ん 関西の坊っちゃん学校に講演に行く。 道神戸から三十数年前の同級生が三人、応援に来てくれた。それにしても東京にくら k て空気がいいせいか、喰べものが美味いせいか、五十になったはすなのに三人とも驚 / 道具はなんだッ

4. みみずのハナ唄

えら よくあることだが、ー 弖退する親分が跡目に若い衆を撰ぶと、格上だった連中は新しい 親分と盃を改め、格下になる。 そうしないと、親分より格上の者がいるという、妙なことになってしまう。 以前は親分より偉かった長老でも、盃を改めて子分にならなければ、隠居するか命懸 けで争うしかない 考えてみたら、その世界にも、チャンと異動があった。 某月某日 山本コウタローと対談する。 昼の二時間番組の司会をやめて、国会議員になろうというのだから、これは自分で決 めた異動だ。 新聞に、原をレフトにコンバートしたのと、西本をドラゴンズにトレードしたのは大 失敗で、ジャイアンツは今年も駄目だと書いてある。 このところ異動ばかり目についてしようがないのだが、 それにしてもきのこの奴、ど こに異動してしまったのだろう。 某月某日

5. みみずのハナ唄

増えていけない。 牝猫のきのこがもうふた晩帰らないと、チンコロ姐さんが心配そうにいった。出版社 は異動の季節だが、 ; し : 苗よ恋の季節だから、もうすぐ帰って来ると慰めてあげた。 某月某日 オ出版業界の人に何人も会っ 担当者に内緒で、花月園競輪に行ったのが・ハレた。。こが、 て挨拶したのだから、これはバレないほうがおかしい どうもこの頃、平和な暮しに呆けたのか、こんなことに限らず極端に警戒心が落ちて しまった。 道を歩いていて、とばけて知らん顔をしていたのではないのに、いきなり知人に声を 掛けられたりする。 以前はこんな不用心なことは決してなかった。 こんなことでは、ニューヨークやロサンジェルスの下町には行けない。 節 の 某月某日 動 異 日本最大といわれる一家で、総長が空席のままなかなか決らない原因のひとつは、メ キメキ頭角を現した有力な候補が五十前の若い実力者だからと、週刊誌に書いてあっ っ ) 0

6. みみずのハナ唄

た。これは親分だからなのだが、俺の顔はそのすぐ右隣に貼ってあった。 あるときそれを見た他の一家の若い衆が、 「気易くしてくれるから知らなかったけど、安部さんはずいぶん偉いのですね」 と尊敬してくれたのだが、ナニ、実は組長以下はアイウェオ順なのだ。 「ナニ、古いだけさ : なんていったのだから、俺も人並みに狡かった。 某月某日 二月の二十八日に『つぶての歌吉』 ( 朝日新聞社刊 ) が発売になった。そのキャンペ ーン用の名刺が出来てきた。 この『つぶての歌吉』が今年最初に出版される本で、年内にあと十冊予定されている。 そのたびに題名を刷り込んだ名刺を作ろうと思っている。 ただし、顔写真は入れない。 め 道某月某日 朝早く起きて朝飯を喰べると、そのままずっと川崎の仕事部屋で原稿を書いていた。 警腹が空いたので掛時計を見ると、まだ十一時だったのだが、七時半頃朝飯を喰べたの だから、当り前なのだ。 ずる

7. みみずのハナ唄

、、つ ) 0 一所懸命やらないと、非道い目に遭わされることより、大切な友人を失うことになり そうなのが、なにより怖い 某月某日 」方謙三さんが常宿にしておられる都ホテルにうかがって、昼間からビールを呑ん この先輩作家は、なんともいえすナイスで、裏表や企みのない方だから、ご一緒して いて本当に楽しい っげ 知る限りの友人の中では、間違いなく作家の柘植久慶さんがケンカが一番強いという = 一口になった。そ , つい , っときは「虫、」とい , つより、ムフでは「ツオイ」とい , つのがはやり だと教えてあげた。 やたら 北方謙三さんとお目に掛っていると、時間が矢鱈と早く経っし去り難いので、いつで も長ッ尻をしてしまう。 某月某日 ホテル・ニューオータニの中にあるレストラン「トレイダー・ヴィックス」に、大変 なメンバーで集った。 どうしてもかなわない素晴しい文章を書く、慶応高校の同窓生、樋口修吉。

8. みみずのハナ唄

某月某日 こんなことは滅多にないが、夜の九時三分なのに俺はもう布団の中にいる。 よし、笹沢左保さんの真似をやってみよう、朝の四時に雀より早く起きて仕事をする ぞと決めた俺は、目覚しをセットした。 そして横着しないで起きあがると、爪先立って、洋服簟笥のてつべんに置いてある箱 の上に、目覚しを載せた。 手が届かなければ、マイク・タイソンでも目覚しは止められない。 某月某日 夢の中でしばらく目覚しが鳴っていたが、チンコロ姐さんに怒鳴られて俺は起きた。 「あーたでしよ、あたしが小粒なのを馬鹿にして、こんな時間にあんな届かないとこに 目覚しを置いてさ・ 違う、違う、と俺が喚いたら、 しノーだったのを、こんだからはグーでぶつわよ。 計「こんなふざけたことすると、今までまヾ さ、あの腐れた目覚しを止めないと、跳びあがってお尻から落ちてやる」 低血圧のチンコロ姐さんは、ふだんだと眼を覚してしばらくボケッとしている。 それが得意のフライング・ヒップ・ドロップをやるというのだから、激怒した途端に わめ

9. みみずのハナ唄

八時近くなって焼香の客も途絶えたので、俺は仕事場に戻った。 ひとりになると涙が溢れて来るのは、父さんや母さんのときと同じだ。 某月某日 今日はお祝儀だから、昨晩の黒ネクタイに白いドレス・シャツを、縦縞のシャッと血 地の赤いネクタイに換える。 もや 夕刊フジの創刊二十周年ということで、横浜港の大桟橋に舫ってあるクイン・エリザ ベスⅡ号で昼飯をご馳走になる。 こういちろう 永六輔さん、夕刊フジの金田浩一呂さんと一緒のテープルだったが、女の方はほんの 数人で、ダイニング・ルームは黒々としていたのだ。 窓側の席に、ひとりとても素敵な方がいた。そこですかさす永六輔さんに、とてもお 嬢様の永麻理さんにはおよばないと胡麻を擂ったのだけど、知らん顔をされて、巨人重 の呂の空振りのようなことになってしまった。 某月某日 信濃町の千日谷会堂で、阿佐田さんの告別式があって、俺は「ごあいさつ」とお清め の塩を渡す役を引受けた。 大好きな花柳幻舟が来て、ポロポロ涙をこばす。

10. みみずのハナ唄

が低下してしまう。 某月某日 俺が毎週金曜日に出演している Z+> の「追跡」は、高見知佳ちゃんと青島幸男先生 がご一緒で、最近グイグイと視聴率をあげている。 誰がなんといっても、視聴率なるものを怪しいと思っている俺だが、自分の出ている 番組の数字が上昇するのは、これは理屈抜きで嬉しい この番組でハープを弾いている CHIKAKO が、自分の演奏を詰めた「 DEAR ON YOUR HEART 」というテープをくれた。 仕事部屋で聴いてみたら、これがなんとも穏やかで平和で、書く文章まで変ったのに は驚いてしまった。 せいとう 「小説現代」の「桑港の娼婦」は、「青鞜」を舞台に活躍した明治の女流評論家山田わ : というより、初めて かを書いたものだが、 ードなのに、俺としては珍しく : 内容がハ たんたん 坦々とした抑えた文章が書けたと思っている。 聴 CHIKAKO の奏でるハープの音色は、美しく豊かなのだ。 を 音 某月某日 おいだ 先輩の笈田敏夫さんは、終戦直後から唱い続けておいでのジャズ・シンガーで、俺は