夢 - みる会図書館


検索対象: グラフィック版 雨月物語
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1. グラフィック版 雨月物語

あまこつねひさ 尼子経久像 じがい は自害し、今夜、冥土から吹く風にのって、約束のため にやって来た。どうか、この私の心を汲んで哀れと思っ てほしい・ といって、涙をはらはらと流すのだった。 「これで私たちは永の別れ、母上によく仕えてほしい」 と、席を立ったかと思うと、かき消えるように見えな くなってしまったのだった。 「待ってほしい さもん 左門はあわててとめようとしたが、あの世からの風に 目がくらみ、何処へ去って行ったのかわからなくなった。 つまず 追いかけ出て、なにか ( 星 こ研貝き、ばったりと倒れ、非し みの声あげて、ただ哭くばかりだった。 おどろ 老いた母は、この物音に目が醒め愕いて、 さもん 「左門 ! 」 むすこ さかどくり と捜すと、息子は客間の酒徳利や皿に盛った食べ物を あわ 並べた真ん中に倒れているのだった。母は慌てて抱きあ げて、 さもん 「左門、どうしたのしゃ : さもん おえっ とたすねてみたが、左門は嗚咽するばかり、なにもい おうとはしない あかな さもん 「左門、兄者の赤穴さんが約束を破ったのを恨みに思う あかな のなら、明日に赤穴さんが来られた時には、 ) し、つべき一一一一口 葉もないしやろう。お前は、まるで子供のように、なに もわかっておらんのしや」 むすこ 老いた母は、言葉強く息子こ ) 。しし聞かせると、ようや さもん く左門はロを開いて答えたのだった。 さが 「兄者は今夜、菊花の約束を守ってわざわざ来て下すっ しゅこうきよう たのしゃ。そこで、かねて用意しておった酒肴を供じて お迎えをしたところが、いくらすすめても食べようとは なさらぬ。そして : : : 」 か さもんあかな と、左門は赤穴と交わした話をし、自害のはての魂が ふゅう 浮遊してきたが、それが消えてしまったのだといったの 「それで寝ておられた母上を起してしもうたのしゃ。び つくりさせて、すみません : ・・ : 」 またもさめざめと泣くのだった。 「そ、フしやっこ、 ろうごくつな 「牢獄に繋がれてある人は、夢の中でも釈放されるのを のどかわ 夢に見るというものしゃ。喉の喝きを覚えるものは、夢 の中でも水を飲むということじゃ」 というのだった。 「お前も、それらの夢と同し類の夢を見たのではないか。 ふきっ 会いたい会いたいと念しておったので、そのような不吉 な夢を見たのではなかったのかえ」 「いやいや、そうではないのじゃ、母上。これは決して、 えそらごと 夢のような絵空事ではないのしゃ。来られた兄者は、間 違いなくここにおられたのしや」 と、またも大声で泣き伏すのだった。 さもん 母はもう疑うこともせすに、左門と共に泣き、その夜 は泣きあかした。 さもん 翌日、左門は母に礼正しくい、つには、 ししなか、ら 「私は幼い時から学問一途にやって来たとは、、 たぐい しやくほう

2. グラフィック版 雨月物語

らきっちりと閉し、簾をふかく下して、見るからに奥ゅ かしい豪邸であった。 むね 彼が訪ねた旨を告げると、いそいそと真女児が迎えに 出て、 「ようこそおいで下さいました。あなた様の深いお気持 が忘れられす、きっと来て下さることを願って待ってお りました。さ、さあ、こちらにお入り下さいませ」 くたもの と、奥の間に通し、酒や果物をなにかととりそろえ、 厚くもてなしてくれたのだった。 とよお 豊雄はすっかり楽しい醴、い地になり、彼女の心を打診 してみると、 「まあ、そのようにあたしのことを愛しく思って下さっ たのですか」 と体を寄せ、彼もまた絹の衣服から手を差し入れて、 お互いの体の温みを探り合っている裡に、二人の体はし つかりと床の中で抱擁し合い と思うところで、夜が白々とあけ、自分は夢の世界を さまよ 彷徨っていたことを知らされたのだった。 「ああ、今の夢が現実であったなら : ・ よいん とよお 豊雄は夢と現実の余韻の谷間で、まだ甘美な真女児と じよ・つ、一 - フ の情交に酔っていた。 はっきり夢と袂別すると、彼の心は急に落着きを喪い のど 朝の食事も喉をとおらす、そそくさと外に出てしまった。 しん、 - フ 足は自然と新宮の方に向く。 「真女児の家はどのあたりか」 と、里人に聞いたところで、知っている人はいない 107

3. グラフィック版 雨月物語

琵琶湖周辺の様子近江名所風俗図屏風筆者不詳 りよら・し そして、網をひいたり、 釣をしたりする漁夫に若十の 金をくれてやり、獲った魚を買いもとめて、 に放って せっしよう やる。僧だから、きつく殺生か禁しられているというこ ともあるが、彼の場合は、それを画のモチーフにするの ぎよせ、 あ、」ら である一日一、とらわれ、人生ならぬ魚生を諦めた魚た ちか、思いかけなくまたもとの水に戻されて、喜々とし て泳ぎまわる。彼は、その姿を素早くスケッチするのだ その姿の躍動をつ、ぶさに描いていくのである。それを繰 返している裡に、絵の技は上達した。細かな鰓の動き、 こくめし 尾の動き、鱗の一枚一枚を克明に描いこ。紐緻の極を自 分のものにした ある日 その細かな小魚の部分部分に目を凝らしている裡に、 わむけ あくび ふなべワ 疲れてしまったのだ。思わす睡気の欠伸か出る舟舷で、 一一、要ゞ蟻鷙 うろこ 死への旅だち 夢の世界に遊んでいた 水の中だ。自分か湖の中に入ってしまっている。大き な魚、 小さな雑魚が、自分のまわりを泳ぎまわっている そして、自分もまた、冰いでいるのだ。 小と、目醒めた 「夢であったか : かじようひろ 彼は呟くと、すぐさま画を展げて、たった今、自分 の夢の世界に登場した魚たちを描くことにした。夢をた どる絵を描くのは、はしめてである。さらさらといつも より早く描くことか出来た。出来た絵を壁に貼りつけた。 うとうとと仮睡んだのだ。 つぶや めざ まどろ

4. グラフィック版 雨月物語

きよひめひだかがわじやたい 0 清姫日高川に蛇体と成る図真女児は豊雄 が夢の中で見たのとまったく同じ門構えの邸 に住んでいた夫に死に別れたという彼女は 山海の珍味などを出しながら豊雄に胸の中 を打ち明けた新形三十六怪撰大蘇芳年筆 とよお やしき 少女 あちらこちらと当っている間に、昼すぎになってしまっ 「 4 わッ′ 諦め切ろうかと思っていた矢先、昨日、真女児に従っ ていた侍女が東の方角からやって来たのだ。 「なんと好運な : 彼は少女に走り寄って、 「真女児さんの家は何処ですか。傘を取りに来たのです というと、少女は清らかに笑って、 「よ、つこそおいで下さいました。さあ、こちらです。こ ちらにおいで下さい」 と先に立ってすんすん歩いて行くのだ。あまり距離の ないところに、夢で見たと同し、寸分狂いのない立派な 門構えがあらわれたのだった。 「ここか : ここでございます」 「夢とそっくりだ : 「え、夢と : : : 」 とよお 豊雄は、先に駆け込んだ少女を追うようにして真女児 の邸に入って行った。 力さ 「昨日、傘を貸して下さった方がおいでになりました」 少女が大声で呼ばわると、件の美しい声が、 「どちらにいらっしやるのですか。こちらにお迎えしな と流れてきて、真女児が姿を現わしたのだ。 じじよ とよお 豊雄は、夢が現実になったのにどぎまぎして、 ーし・れた、 - フ 「私は、この新宮の安倍先生に長年学問を教わっている ので、先生のお宅に行く途中ですので立寄ったまでで、 かさ 傘さえいただければいいのです。これで住んでいらっし やる所もわかったことですから、また、あらためてお訪 ねいたします」 、びす と踵を返そうとすると、彼女は強引に、 「まろや、その方を絶対にお帰ししてはいけませんよ」 と厳しい口調でいうのだった。 少女は、彼の前に立ちふさがって、 「あなた様は昨日、あたくしたちかいらないといった傘 を無理に持って行くようにおっしやったのでしよう。た から、今日は、あたくしたちが、無理にお引止めしよう というのです」 とよお と豊雄の腰を押して、表座敷へと招し入れたのだった。 この表座敷は、板敷の間に、客が来た時の用意にと床 畳が置かれ、几帳 ( 横木の帳ばりの家具 ) や衄 ( 品 けんぶ 入れ ) の飾りにしても、壁がわりの絹布の絵にしても、み ゆいしょ んな時代ものの由緒あるもので、低い身分の人の住居で ないことを物語っていた。 そこへ奥から真女児が静かに現われて、 ちょっと 「一寸わけがありまして、人手足らすになってしまいま した。それ故に、十分のおもてなしは出来ませんが、せ いっこん そしゅ めて粗酒など一献さしあげとうございます」 すやき ひらっき たかっき 足のある高坏、平べったい平坏の美しい素焼 うつわ さち さかずきうつわ の盃、器に、山の幸、海の幸を盛りあげ、少女が酒の器 とよお をささげもち、豊雄の盃に酒を注いでくれたのだった。 109

5. グラフィック版 雨月物語

きょう 几帳 「これは夢ではないか」 「夢のつづきではないか」 「いや、現実に一旦もどって、また夢に入ったのではな し、カ」 ねが さかずき それなら醒めないでほしいと希いながら盃を傾けてい とよお た豊雄も、今度こそは、夢ではなく現実なのだという実 感を酒の香り、味から察したのだった。 「これが現実 : : : 」 と思うと、またも不思議な気がしてならないのだった。 とよお 豊雄が飲めば、真女児も飲み、お互いにほどよい酔心 さまよ さかずき 地の境を彷徨いはしめた時、真女児は盃をとって彼にす すめ、桜の花々が水面に映るようなほんのりとした顔に、 よ - フ・んん ・つ、いすなき こび さっとそよ風が吹くような妖艶な媚をみせ、鶯の啼声に ) ) はじめたのだ。 似た美しい声で、しすかにしし 「聞いて下さいますか。胸のうちにある思いをいってし まわないことには、あたしは苦しいのです。胸のうちの 思いを、恥しいことだとうちあけないでおくと、古い昔 の歌にもありますように、そのために、こがれ死をして、 世間の人からは、神様の祟りで死んだなどといわれ、な にも御存知ない神様にまで御迷惑をかけてしまうことに なります。ですから、あたしは、女の身で羞かしいと思 いながら、思い切って申しあげます : : : 」 きんちょう とよお さかずき 豊雄も盃をおいて緊張せざるを得なかった。 - フわき 「けっして、一時の浮気心でいうのではありません」 彼女は、きつばりした口調で念を押し、静かに語りは しめたのだった。 、さい時に両 「あたしは、もとは都で生れたのですが、月 はず めのと 親に死にわかれ、乳母の手で育てられたのです。縁がご ざいまして、この紀伊の国の国守の下役人の縣というも のの妻にむかえられたので、夫と共に、 この国に下って しりまして、早や三年の歳月を経ました」 とよお 豊雄は人妻だったのかとおどろいた。 「夫はまだ、任期の終らないこの春先に、ふとした病気 が因で他界したので、あたしは頼る者一人としてない淋 しい身になったのでございます」 めのと 「都には乳母さまがおられるのでは : めのと ゆくえ しゅイエう 「乳母も尼になって、行方定めぬ旅の修行に出たという ・つわさ 噂ですから、生れ故郷の都にもどったとしても、知らぬ 他国と同しことなのです」 とよお 肩おとした真女児に、豊雄は同情以上のものを覚えた。 「昨日、雨やどりした時、深い情をかけて下さいまして、 あなた様は、ほんとうに実意のある方だと思いました。 : 出来ることなら、これから後、あたしの生涯をささ げて、あなた様のお傍でお仕え申したいと思うたのでご ざいますが、そんなことを申すあたしが、卑しい女、不 貞の女とあなた様がお思いにならないかと思うて : : : 」 とよお 豊雄は、この言葉を耳にしただけで、かねて思いどお おど りと心が躍ったが、返事に途惑った。 「あたしを卑しい女とお思いにならないのでしたら、こ ちぎ さかずきめおと の盃で夫婦の契りを結んでほしいと思います」 想いこがれて気の狂わんばかりの女から、こういうふ うにいわれてみると、飛びたたんばかりの喜びに駆りた てられた。 すわ が、反面、自分はまだ親の脛かじりであり、自由に振 き、 ふる 110

6. グラフィック版 雨月物語

とよお しんじよ 寝所豊雄は昼問会った真女児のおもかげが 忘れられずに夜通し思いつめた明け方近く にようやくまどろむと真女児の家を訪れる 夢を見た夢の中で彼女は大きな家に住み奥 ゆかしい生活をしていた清姫小林古径筆 ことでしよ、つね」 とよお ぐさ 豊雄は、この女の言草が嬉しかった。 「それはそうと、あたしは、あなたが思っていらっしゃ るような都の者ではございません。この、ほん近所に住 当、ちにち なち んでいる者でして、今日は吉日だということで、那智の お山に詣でたところ、急に雨が降り出し、その激しさに こわくなって、ここへ雨やどりをしたわけです。あたし は、あなた様が先にここで雨やどりをなさっていたとは っゅ 露知らすに : というのだ 「さあ、雨も小降りになったことですし : あお 女は軒下から小雨になった空を仰いで、立ち上がり 「あたしの家は、ここからさほど遠くではありませんの で、この小降りのうちに : と出て行こうとするのだった。 ちょっと こさめ 力さ とよお 豊雄は女を呼びとめ、無理に傘を握らせ、「これを持 って行って下さい。近くということなら、ついでの時に : どのあたりで : でも取りに一丁きます。で、お住いは : たんと めしつかい いや、その、召使も沢山いるもんですから、使いの者 にでも取りにやらせますから : 彼は常日頃の言葉よりも上品なものいい方で、女の住 居を聞き出そうとした。 しんな、 - フ あカた 「はい、新宮のあたりで、縣の真女児の家はどこかと聞 いてもらえればわかります。では、日暮れも迫ってきた ことですし : かさ とよお 女は豊雄の手から傘をおしいただいて、 「お言葉に甘えて、これをお借りして行きます」 とよお ほうゼん 傘を手にして立ち去って行く女の後姿を豊雄は茫然と 見送ったのだ。 「若は : みの 「ああ、それではお前の蓑と笠を借りて行こうか」 真女児という女 とよお まふた 家に帰りついてからも、豊雄の目蓋に焼付いた女の面 影か離れない ーし・た、 - フ 「美しい女や : : : ほんまに美しい女ゃ。あんな女が新宮 床に入っても、一向に寝つかれないのだ。 とよお 夜明け近くに、とろとろとまどろんだ豊雄は、夢の世 界で真女児の家を訪ねていた。 彼女の家は門構えも大きく、日光除けの横戸を上下か とこ かさ おも 106

7. グラフィック版 雨月物語

プい気 : イ当 ? をいしい、 「これは死んだ夫が家宝として大事にしていた太刀でご ざいます。これを、あなた様の腰に佩いて下さいませ」 というのだった。 いっぴん 古代の逸品である。 ためら とよお い。が、婚約の儀の 豊雄は躇った。あまりにも素晴し はじめに断るのもなんだと思って、そのまま貰っておく ことにした。 「さ、今夜はここで泊って行って下さいませ」 とよお たっての願いと真女児は引きとめたが、豊雄は、外泊 よ見ゞ 明日は、つまい口生大 ( 辛カかりでは許されませんといし かわ をもうけてきっと来ると約束を交し、真女児の家を去っ その夜も妙に目が冴えて眠りに入ることが出来なかっ ふち 夢が現実になり、そして夢を見る眠りの淵に入るこ とも出来ない奇妙さを彼は味合ったのだった。 盗まれた太刀 りよ・つし 早朝、太郎は漁師たちをたたき起し、漁に追い立て、 とよお なに気なく弟豊雄の寝室の隙間からのぞいてみると、消 まくら え残った灯の光をうけて、きらきら輝く見事な太刀を枕 ー 0 し」 許に見たのだった。 「おかしい。変だ : : 」と律儀者の兄が思うのも当然で ある。一体、あんなものをどこから手に入れてきたのか と不思議に田 5 ったのだ。 とよお ガラッと戸を開け、豊雄の目を醒まさせようとした。 りちぎもの は りよ・つ ・ ) ・フド ) っ 112

8. グラフィック版 雨月物語

雨月物語ゆかりの地 ⑩ ⑩ 1 むおう 夢応の鯉魚三井寺 ( 滋賀・大ノ 竹島登 津市 ) の僧興義が病で息絶え 夢のなかで一匹の鯉となって琵、高ロ 、琶湖を泳ぎまわるというはなし し ' 玉、山城ァ・武佐 菊花の約加古の宿 ( 兵庫・加 古川市 ) の左門が知人の家で高 吉備津の釜吉備津神社 ( 岡山 あ力、な 熱に苦しむ赤穴を献身的に看病 おうみ ・吉備津町 ) の神主の娘磯良は = イ、近江 しニ人は義兄弟の盟約を結ふ しよ、たろう 西福、卍三ヰ 夫正太郎の浮気と裏切りを恨み おん " よ 怨霊となって正太郎をとり殺す " 頼由の本 せつつ ` 摂津 、呂遍 び、せ - ん′ むろっ 宝北荒ヰの里 香具波走、神ネ上 かこが・わ : 3 挈第心・・・カ 0 古川 ・訣津神社。。 ′ 4 や可 . 根新夫神社「 牛をの , 、 : こ第 : 緲・ 庭瀬。里を子 第河内 しうどま : 和泉 松山 しらみわ 讃岐 。…同ツ刊 .4 △ 、と再み風流 0 旅を続ける夢然 蛇性の婬三輪が崎 ( 和歌山・ こうやさん 新宮市 ) の漁師の息子の豊雄が が高野山 ( 和歌山・高野町 ) ひでつぐ 美女に化けた蛇に執念深くつき 行き関白秀次とその家来たち まとわれ一命をあやうくする 、・の怨霊の前で俳諧を詠まされる ・芝の里 やど 浅茅が宿都でひと儲けをした 勝四郎は不慮の災難と戦乱のた・、 ・、めに故郷の真間へ帰れす武佐 -. 気滋賀・近江八幡市 ) の地に住む : 上田秋成大阪曾根崎に生まれ 60 歳のとき京都に移り住み百 まんべ人 万遍で 76 年の生涯を終えた墓 ・は西福寺 ( 京都・南禅寺 ) にある ひやく きくか ーまし みやたき いん 白峯 ( 峰 ) 諸国遍歴の旅で四国 へ渡った西行が白峯 ( 香川・坂 すとくじようこう 出市 ) にある崇徳上皇の御陵に おんりよう 参拝してその怨霊と対面する しらみわ どうじよらじ しんぐう - み三 . ー・ 1 、 65 .

9. グラフィック版 雨月物語

いわすどんどんと飛び行くうちに、の畔に出たもので のう。湖のみどりに澄んだ水を見ておると、夢か現実か みずあ わからぬうちに、水浴びをして遊んでみようと思ったの だな。そこで着ておったものを脱いで、ざんぶとばかり 身をおどらせて深いところに跳び込み、あちらへ、また こちらへと泳ぎまわっている、っちに、これが不思議、 じようず さい頃から水泳の方は上手とはいえないのに、それがす いすい思いどおりに、冰げたわけでのう。ま、今になって 考えてみると、あれは陬呆な夢の中の出来事であったな あ。だがなあ、人がいくら上手に泳いだとしても、魚の せっそう ように上手にはいかぬものしゃて。ここで拙僧は、また も魚かうらやましゅうに思うたものでのう。すると、す かたわら ぐ傍に一匹の大きな魚がお「て、その魚が僧にいうに は、法師様の願いごとをかなえて進ぜるのは易いこと、 暫く待っていて下さいと、ぐ ーんと湖底の方に潜って行 かむりしさフぞく ったと見る間に、暫くして、今度は、なんと冠、装束に 身をかためた人が、その大魚にまたがって、多くの魚を せっそう 引き連れて上ってきたわけでのう。拙僧に向うていうに おお は、の神よりの仰せを伝えたいというわけでのう。老 ・は - フりゆ・つ 僧は以前から、獲えた魚を湖に放流なさっておる功徳の 多い方である故に、 たった今、この湖の中に入っていた だいて、魚のように泳いでほしいというのでのう。はん の暫くの間金色の鱸の衣服をけて、水の中の楽しみを えさ 味わっていただきますというのしゃなあ。ただし、餌の 芳ばしい匂いに気持を迷わされて、釣針の糸にかかって 死ぬようなことだけは心して下されといし 、すっと何処 せつ かへ消えて行ったわけでのう。あまりの不思議さに、拙

10. グラフィック版 雨月物語

雨月物語 目次 〈ロ絵〉賢覚草紙絵巻百人一首之内崇徳院・歌川国芳筆崇徳院眷属をして為朝をすくふ図・歌川国芳筆清姫・ 小林古径筆道成寺縁起絵巻 白峯 ちぎり 菊花の約 やど 浅茅が宿 夢応の鯉佰 吉備津の釜 しやせ 蛇生の婬 訳後雑記 しらみね あさじ 医」 / 、カ おう び っ ん 藤本義一。