常識だ。また、効かないときには二、三週で打ち切って別の抗生物質を考えるべきものだ。 食欲もりもりが「摂食障害」 別の例だが、八六年三月一日から二日にかけて三七・五 ~ 三七・一度の微熱を検知された 男性は、三月二日からシオマリンという高価な抗生物質を二週間点滴された。診断は「急性 肺炎」だった 同年夏から暮れにかけて、ある女性は月一回の定期的尿検査で尿路感染の兆候が出た。そ して七月十八日から九月一日までパンスポリン、九月二日から十月三日までペントシリン、 十一月二十五日から十二月二十二日までバンスポリンが点滴で投与された。こんな尿路感染 は、「オムツ一日四回交換」という劣悪な介護に第一の原因があると考えるべきなのだが、 そちらの改善は一顧だにされない それにしても 、ハルさんにどんな感染症があったのだろうか 医師の指示簿の ( 症状、経過 ) 欄でそれらしい記述は、十月六日の「体温三七・八度」し 。この微熱が何かの感染症を疑わせたのだろうか。その微熱も、点滴の始まる九日に は「熱が下がる傾向」と書いてある。 本人の具体的な病気の名前と病気の始まった日付を書く診療録には「尿路感染症 川・ 6 」とあった。で、その根拠は : : : と、十月の定期検査の結果を調べると、「白血球が
十月七日 、バルーンカテーテルが入れられた。つまり尿道へ管をさしこまれた。膀胱のオ シッコは、べッドサイドの透明な袋に自動的に流れ込むようになった。もはやオムツに排尿 する自由さえ奪われてしまった。 十月九日、例の重症部屋へ移された。冶療はにわかに農厚になった。 ます点滴。日に五百 8 ポトルを二本も静脈に注入されることになった。その一本にはビタ 0 、それに代謝促進剤三種を添加。もう一本には、ビタミン毖誘導体、ビ タミン O 、それにパンスポリンが入れられた。。、 ノンスポリンは比較的最近開発された抗生物 質で、大変高価なことで有名である。 前章で詳しく紹介した心拍呼吸監視装置 ( カルディオ・スコープ ) も九日以降始まり、月 末までに一日四時間、七回実施された ( ことになっている ) 。といっても、実際にこの人が 心臟監視の対象としてふさわしいか大いに疑わしい。その点は後で述べる。 残された能力を捨てる非情 じよくそう びていこっ 十月十二日には、もう寝たきりの象徴である床すれ ( 褥瘡 ) が尾胝骨のあたりに発生し た。できて当然だった。昼もべッドに腕を縛りつけられ、点滴の針を腕に刺され、バルーン カテーテルのチュー・フを尿道から挿入され : : : これでは、体の動きは極端に封じられて、特 定の部位が圧迫されてしまう。
資料・三郷中央病院事件 みイ、と 一九八二年、埼玉県三郷市にある三郷中央病院の院長が詐欺罪で逮捕された。容疑はカ ルディオ・スコープによる医療費の不正請求だった。 一審判決が八九年四月二十七日に下っ た。「懲役一年六月、執行猶予三年」 この老人病院は、右の容疑以外にも乱脈経営の疑いがもたれ、同事件がきっかけとなって 老人病院のあり方が見直され、現行の老人保健法が制定された。 判決理由の中に、真愛病院のカルディオによる医療費請求を考えるうえで参考になる記述 があるので紹介しよう。 昭和六二年四月二七日宣告 医師昭和一三年五月一六日生 右の者に対する詐欺被告事件について、当裁判所は次のとおり判決する。 主文 被告人を懲役一年六月に処する。 末決勾留日数中九〇日を右刑に算入する。この裁判確定の日から三年間右刑の執行を
ルポ老人病棟 1992 年 2 月 15 日第 1 刷印刷 1992 年 3 月 1 日第 1 刷発行 朝日文庫 著者 発行者 印刷製本 発行所 大熊一夫 木下秀男 凸版印刷株式会社 朝日新聞社 振替東京 0 ー 1730 編集 = 図書編集室販売 = 出版販売部 電話 03 ( 3545 ) 0131 ( 代表 ) 〒 104 ー 11 東京都中央区築地 5-3 ー 2 ISBN4 ー 02 ー 260696- ー 7 定価はカバーに表示してあります 0 KAZUO OKUMA 1988 Printed in Japan
大熊今度の連載をやっている最中に電話がかかってくるんですね。わりあい遠くから。 数は多くないですけれども。「年寄りはこういう目に遭って死んでいくのが当然なんです」 と。じゃ、あなたはオムツを一日にたった四回しかかえてくれなくても、それでも我慢てき るんですかといったら、年寄りというのはそういうものなんです、きらわれ者なんですと。 そういう非常にあきらめた暗い言い方をわざわざ遠くから電話をかけて私にいうんですね。 岡本逆説かもわかりませんね。 大熊暗澹たる気持ちになりますね。 樋口一日四回のオムツ交換をものすごい劣等待遇のようにおっしやるけれども、そして そのとおりだと思うけれども、じや在宅はどうなんだろうかといったら、在宅のオムツをか 院えている回数はわからないんですね、正確には。それと入浴なんて月一回でしよう、サービ 、と思うけれども、それにはや 人スがあるとしても。本当は私も在宅で老いを生きることはいし のつばり家庭というものが本当に外のサービスを受け入れる方向へどんどん開いていかないと そね。密室化した在宅はまずい 岡本それはアメリカの在宅ケアで現に問題になっているわけです。 す 樋口在宅というのは「家庭」というやさしき名の密室なんだということを知ってほし、 これは厚生省にいいたいんです。この間のシンポジウムで、このごろ俵万智づいていて「在 宅が中心だなんてよく言うよ給食週一風呂は月一」といったら、厚生省の担当者がにが
140 院長といえば普通は病院の最高権力者だ。あの真愛病院で、お年寄りがべッドに縛りつけ られたのも、軽症病棟入院者七十五人に七十九本の点滴がなされたのも、オムツが一日四回 しか交換されなかったのも、すべては丸山正雄院長の経営方針かとだれしも思う。保健所へ の届けでも、病院開設者は丸山医師である。ところがこの院長にはなんの力もない。実は、 真愛病院には院長よりエライ「社長」と呼ばれる人物がいた 雇われ院長の上に陰の社長 丸山院長に会見を求めた。院長一人とじっくり話したかったのだが、指定された日に病院 へ行くと、院長に付き添うように一人の男性がいた 院長は、働き盛りをとうに過ぎた学者といった風貌の人だった。顔はいたって柔和、言葉 づかいは丁寧。しかし背筋は伸びす、声は一メートルほどの至近距離にもかかわらす聞き取 りにくかった。ご本人によれば、血圧が異常に高くて病院勤めもままならない状態とか。当 年六十二歳 ( 一九八七年 ) なのだが、私の目には七十五歳前後に映った。 もう一人の男性は、先方が名乗る前から察しがついた。アイロンのきいたシャッとズボン、 金縁の眼鏡 : : : みだしなみに金をかける人だった。 一重瞼の眼光はあくまで鋭く、警戒心も
ただし、私の取材した限りでは全員のロ裏は合っていない これでどのくらいの収入があるのか。たとえば、一九八七年五月十日から二十五日までで 延べ三百三十時間ほど監視したことになっている。ざっと三十三万円也。この調子だと婦長 の午後の三十分はどの働きは、病院に対して一カ月に七十万円弱、年間八百万円はどの収入 をもたらす。 カルディオ・スコープは本来生命の危機に瀕している患者になされる。心不全が起こるか もしれない、不整脈の疑いがある、そんな老人の突然死を防止するために使われる。 カルテの記載によれば、そのような差し迫った状況の人が常時十人以上並行して現れては よ、。にもかかわらす、この病院の医師たちは「うちは重篤な患者が多い私たちはカル ディオが必要だと判断したからやったまで。うちはそのくらいきめ細かく患者さんに手をか の ちけている」と主張する ( ドクターたちの弁明は別の機会にまとめて紹介 ) 。 しかし、日曜日の一日、重症部屋を観察すれば、この部屋の患者が手厚い看護のもとで心 置 装臟の鼓動を監視してもらっている、なんて大ウソであることがはっきりする。 重症部屋には担当看護婦らしき人が一人っく。朝九時、ます体を拭いてくれる。ついでべ 吸 ッドメーキング。そして体位交換、寝返りできない人の体の向きをかえる。この部屋には大 きな床すれを持った人が集められる傾向にある。 全員ではないが血圧が測られ、検温・検脈も行われる。検脈といっても手首を握っている
サンビレッジには、おまる付きの木製のいすが七十四、プラスチックのポータ。フル便器が 二、車いすが八十、歩行補助具が四十七ある。真愛病院にはこういうものがほとんどなかっ 居室をひとわたり見た看護婦さんはこんなこともいった。 むくみ 「お年寄りは足に浮腫が全くありませんね。これは無理な点滴をやっていないからではない かしら」 聞けば、その日に使われた点滴が六本だった。いままで最も多い日で十七本だが、これは 護 肺炎などの重い病気が多発したときの例外的記録。平均すれば日に一本ぐらいで、ゼロの日 院 、ナっこ , っ多一いとい , つ。 病力し 真愛病院二階の病棟の点滴は、私が数えたとき百四十四人に対して百三十本であった。足 老首から先がばんばんに腫れた人が多かった。とくに重症部屋の十一人は、ことごとくそうな れ のが印象的だった。浮腫が出るということは、腎臟の処理能力を超えて点滴の液体が体内に わ 注入されている証拠である、と私も専門家から教えられていた。 ム 人 閉じ込めない縛らない方針 老 点滴が少なければ離床の機会は多くなる。それだけお年寄りの体の機能低下も食いとめや すい
告人に苦情を述べたところ、同年一二月中旬ころ、被告人は事務職員らに対し、「もっと頭 を使え。一人の患者に一分間すっ流し、これを一〇枚に切って台紙にはればよい」「一日分 を一度にとれ」等と言って、一人の患者につき一日一回テレメーター記録をまとめてとり、 これを一〇分割して三〇分おきの時刻を記入して五時間にわたる継続監視を偽装することを 指示し、以後、同人らにおいて非重篤の患者に対し、右まとめどりの方法によりテレメータ ー記録をとり、継続監視の外観を作出するようになり、又昭和五六年三月ころ、被告人は別 の職員にも右と同様のまとめどりの方法を指示し、同人も以後これに従って来たことが認め られ、本件患者らは、いすれも本件で問題となっている昭和五六年三月以降八月までの期間 においては、テレメーターの本来の使用方法である継続的監視が行われていなかったこと、 したがって、テレメーターの使用に基づく診療報酬の請求が可能な「常時監視」が行われて いなかったことが認められる。弁護人は、医師・看護婦あるいは資格を有する臨床検査技師 によるテレメーターの継続的監視が望ましいとしても、これは、非現実的な理想論にすぎな い旨主張し、被告人も右主張に沿う供述をしているのであるが、テレメーターの機能及び使 用目的は前記のとおりであり、その使用に基づく診療報酬を請求できる要件も前記のとおり であって、右機能、目的及び要件に照らすと本件における前認定の如きテレメーターの使用 方法は、到底テレメーターによる診療の名に値しないものというべく、したがって、これに 基づく診療報酬の請求ができないことは明らかであるから、右主張は理由がない
213 劣悪病院のしたい放題を許すューウッな仕組み すること。 ロスボア等 ) を漫然と長期間行っている症例があ ( 3 ) 抗生剤注射 ( クラフォラン、ハ るので適正に行うこと。 ( 4 ) カルジオ ( 心拍呼吸監視装置 ) の使用について、画一的に一日四時間の指示とな っているが、その必要性に疑問があるので、病態に応じ適正な指示を行うこと。 「診療録の記載及び記載状況〕 ( 1 ) 初診時の所見、自他覚所見及び経過欄の記載不十分であるので整備すること。 ( 2 ) 病名の羅列傾向があるので病名の整備をすること。 ( 3 ) 看護記録の経時的記載、処置の記録が不十分であるので的確な記載を行うこと。 「診療報酬関係〕 ( 1 ) 鼻腔栄養一日六十点と胃十二指腸カテーテルを合わせて請求しているが誤りであ ( 2 ) 運動療法または理学療法と同時に行った湿布処置の請求は誤りである。 ( 3 ) 中心静脈栄養法のカテーテル挿入時のガーゼの請求は誤りである。 ( 4 ) 酸素、特定治療材料は、購入価格で請求すること。 ( 5 ) 特定患者収容管理料を入院患者の大部分に算定しているが、算定要件に該当しな い者の請求は誤りである。 る。