に入れる。これが二時間ほどかかる。これだけの労力を入院者の介護のために振り向けたら : と院長は考えないのだろうか 朝六時からは検温、食事介助、申し送り、と続き、点滴業務は日勤看護婦にバトンタッチ される。九時ごろから入院者の枕元のスタンドにポトルが逆さ吊りにされる。腕に針が刺さ る。点滴開始。 このありさまを真面目な老人病院の医師たちに話すと、その点滴量の多さにはいちょうに 目をまるくして、「なかなか、やりますね」「儲かるでしような」といった答えが返ってくる。 もちろん、点滴を全面否定する考えは私には毛頭ない。それを必要とする患者がいること は十分承知している。真愛病院に比べれば明らかに重症者が多い天本病院では、点滴を受け ている人が二十三人いた。ただし、それも半分は抗生物質を注入するための小さなポトルで あった。 ナースステーションが点滴の大ポトルだらけなどという風景は、真面目な老人病院ではと ても見られない 真愛病院の医師たちは、点滴に抗生物質を添加することにも、すごい執着を示す。ハルさ んの場合、十月九日からパンスポリンという抗生物質を日に二グラムすっ投与された。これ が延々十二月十一日まで続いた。 抗生物質は細菌の感染症を防ぐために使われる。効果が出て症状が鎮まったらやめるのが
Ⅲ微熱だ、それいけ抗生物質の点滴
違うはすですが。 丸山そうですね。 大熊根本的なことに手をかけすに点滴や抗生物質に一生懸命になっているのはいびつな 医療ではないですか。こちらの看護婦不足はどう解消しようとなさっているのですか。この 病院のレベルの落ちているのは看護力にも一因があると思いますが。 吉田私は落ちているとは思いません。徐々に上がってます。 大熊上がってるかどうか知りませんが、看護に問題は感じませんか 吉田手が足りないことはたしかです。 ビービー鳴らされては困る 大熊ナースコール ( 看護婦を呼ぶ装置 ) がないのはどういうわけですか。先生方は疑問 を持たないのですか。 吉田ナースコールは本来あるべきですが、実際つけてみれば、役をなさないと思います。 大熊全部の病人が必要ないなんて考えられますか。 吉田ナースコールが必要なら他の患者さんが知らせます。 大熊他の患者さんが寝ているときどうやって知らせるのですか 吉田寝ているときは無理ですけどね。
高見澤ばくなりに患者をみて当然必要だからやったのです。 大熊抗生物質の使用量も、多すぎませんか。 高見澤やつばり、そのおなんていうかな、寝たきりでしよう、だからね、膀胱炎とかね、 慢性になっているんですよ。まあ、一般的にみれば多いとは思うけど、それやらなければね、 老人の場合はね、かなりすぐ肺炎とかそういうの起こして死んじゃうんです。 大熊そううかがうと、ひっかかるのはあの病院の看護力の低さです。オムツ交換は二十 四時間でたった四回。オムツもろくにかえないから不潔になって膀胱炎になる可能生は高く 誧なるのに、その点を抜きにして抗生物質投与に一生懸命になるのは変ですね。 高見澤それはおれがうんぬんすることではなくて、院長が考えることですけど、慢性的 人不足ということはあるんですね。それでもね、その人数では最大限にやったと思うんだよ ね。人数増やしてくれとかいったんだけど、なかなか集まらない。人がいないんだもの、し ようがない。 大熊そんな人の集まらない山の中で開設したのがおか (-) いんですよね。 高見澤そんなことオレは知らないねえ。そこらへんのことは院長とか社長に聞いてよ。 大熊社長って、加藤事務局長のことですか 高見澤うん、まあ : 大熊カルディオ・スコープ ( 心拍呼吸監視装置。Ⅱ章に詳報 ) のことを聞きたいのです っ
常識だ。また、効かないときには二、三週で打ち切って別の抗生物質を考えるべきものだ。 食欲もりもりが「摂食障害」 別の例だが、八六年三月一日から二日にかけて三七・五 ~ 三七・一度の微熱を検知された 男性は、三月二日からシオマリンという高価な抗生物質を二週間点滴された。診断は「急性 肺炎」だった 同年夏から暮れにかけて、ある女性は月一回の定期的尿検査で尿路感染の兆候が出た。そ して七月十八日から九月一日までパンスポリン、九月二日から十月三日までペントシリン、 十一月二十五日から十二月二十二日までバンスポリンが点滴で投与された。こんな尿路感染 は、「オムツ一日四回交換」という劣悪な介護に第一の原因があると考えるべきなのだが、 そちらの改善は一顧だにされない それにしても 、ハルさんにどんな感染症があったのだろうか 医師の指示簿の ( 症状、経過 ) 欄でそれらしい記述は、十月六日の「体温三七・八度」し 。この微熱が何かの感染症を疑わせたのだろうか。その微熱も、点滴の始まる九日に は「熱が下がる傾向」と書いてある。 本人の具体的な病気の名前と病気の始まった日付を書く診療録には「尿路感染症 川・ 6 」とあった。で、その根拠は : : : と、十月の定期検査の結果を調べると、「白血球が
146 丸山医師はもともと、そのような諸般の事情を十分承知のうえで引き受けたはすだから、 しまさら強いことをいえる筋合いではない。ヘルバー 一人雇うこともままならない院長に真 愛病院改革の期待をかける職員こそ哀れである。 この病院は、入院者への介護内容を見れば三流だが、経営的にはいたって優良である。な にしろ人手をかけないから人件費が安い。そのうえ、点滴だなんだで入院者一人当たりの医 療収入は介護熱心な老人病院よりはるかに高い 加藤氏は、入院者一人当たり月平均診療報酬請求額は「三十万円ぐらい」と私に話した。 では、あの大量の点滴や抗生物質は無料でお年寄りに注射しているというのだろうか。当方 の概算では、あれだけ点滴・抗生物質を使えば三十五万円を下ることはない。 儲かっているからこそ、加藤氏としても、トンネル会社は有限会社「加山」一つではあき たらなくなる。さらに別のトンネルを掘って中間マージンをとることを考える。 この種のトンネル会社は加藤氏の発明でもなんでもない。昔から欲張りな病院経営者はよ くこの手を使う。別に違法というわけではないのだが、利潤追求と患者本位の医療とはあま り両立しない。だから、良心的な病院経営者の間では今も昔もトンネル会社は「、 耳・」とき、れ ている。 さて加藤氏は、真愛病院の給食に材料を納入する会社として一九八四年十一月、有限会社 「康苑商事」を設立する。代表取締役は加藤祺一氏の妻孝子さん。取締役には祺一氏本人も
態。、軽いということはないと思うんですね、私の感じでは。私の経験上、お年寄りは水分を ム日めたビタミン剤、ま、そ、つい , っ占 ~ 滴をすることによって、統計的につていいますか、非宀吊 に長命につながると : 大熊三階が多いのはなぜ : 黄それ比較すること自体がおかしいんですよ。その医者医者によってね、当然考え方も 違うから。そう信念持ってやっているのだから。 大熊でも、結果として医療費は上がる。 論海谷それは、医療費考えてやっているわけではないですからね。患者さんのこと思って 師やっているんですから。 大熊私の知る限り、良心的な病院は先生のようには点滴を大量に使ってませんけど。 を海谷私は比較してやってるわけではありませんから。多い少ないという問題は考えたく 延ないですね。 て 大熊抗生物質はどうですか 滴 黄検査もちゃんとやってて、証拠もっかんで使うわけですから、そんなめちやめちゃに 占 ~ て っ は使いませんよ。たしかに老人は感染を起こしやすいですけどね。 縛 大熊オムツの交換と尿路感染はかなり密接な関係があると思いますが。それに夜間の水 の補給もきちんとやっておられるのか。その点を正しくやるかどうかで尿路感染の出現度も
お年寄りはべッドに縛りつけられた 緑の山あいの明るい建物命綱のナースコールがない 四時間磔姿で放置されて : 縛ることよりオムツ交換を Ⅱ、い拍呼吸監視装置は打ち出の小槌 1 分操作して請求は 4 時間「重篤な患者」に 5 秒の検脈 燔時間水を飲めぬ人もいる資料・三郷中央病院事件 Ⅲ微熱だ、それいけ抗生物質の点滴 入院直後にオムッと「抑制」残された能力を捨てる非情 点滴に始まり点滴に終わる食欲もりもりが「摂食障害」 尿路感染の薬代幻万円以上 目次
りはるかに高い頻度で登場しているものと推測される。それでなければ、あれはどの点滴は 支払基金の審査でとおるわけがない 尿路感染の薬代万円以上 。しったいどのくらいの収入をもたらすのであろうか では、こうした濃厚な診療行為よ、、 計算器片手に、保険医療の点数表と首っぴきで、この不幸なハルさんに関する八六年十月一 カ月間の医療費をはじいてみた。 総額はどう安く見積もっても五十五万円以上。そのうち点滴を含めた注射料はざっと二十 五万円だ。 滴 ハンスポリンという抗生物質は二グラムで六千三百六円。十一月にはいってその使用量が の . しオこの尿路感染症の治療薬代 物一回一グラムに減ったりしたが、それでも二カ月以上は続、こ。 。いかに法外な治療かわかっていた 抗はゆうに二十万円を超す。世の膀胱炎経験者の皆さんま、 だけると田学つ。 れ そ この病院は、どう言い訳しようと、儲かる医学行為にしか熱中しない。高齢な入院者によ 熱かれと思えることはほとんど何もやっていない。 それにしても憂鬱ではないか。私は七カ月もかけた末に、やっと病院の内情を知る具体的 な資料の一部を見ることができた。だから、なんとかこうして皆さんにご報告できる。だが
況は克明に記録される。これで各人の排泄ペースが把握できる。真愛病院の一日四回交換 ( 入浴日は人手がたりないので三回 ) とはなんという違い だから濡れたオムツが気持ち悪いからはすすという現象は起こりにくい。でもオムツを自 といってもべッドに縛りつけるよ , つなことはし 分ではずしたがる人がいないわけではない ないで、なぜオムツをはすしたがるのか、その理由を検討し、オムツの形を変えたり、やめ てポータ。フルトイレヘの誘導をしてみたりする。 石原苑長に「いまこちらでは尿路感染は、何人ぐらいいますか ? 」とたすねると、 介「一人もおりません ! 」 オムツを頻繁に交換し、そのつど熱い蒸しタオルで丁寧に拭く。水分は十分に与えて尿を 、たつぶり出させる。こうすることで、尿路感染は防げるのだ。真愛病院は尿路感染だらけ。 老それに対して、ドクターが高価な抗生物質を入れた点滴を処方する話はⅢ章で詳述した。 れ さて私と同行した看護婦さんは、骨と皮の痩せこけたお年寄りのオムツを交換しながら、 わ じよくそう その背中をしげしげと観察した。褥瘡 ( 床すれ ) ができても不思議ではないような本格的 どの背中をひっくり返しても、ない 一寝たきりの人なのに、褥瘡がない 人 老 職員全員がオムツ体験学習 じよくそう 真愛病院の二階の病棟では三十何人もの人が、大きな褥瘡をつくっていた。こちらの老