福祉 - みる会図書館


検索対象: ルポ老人病棟
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1. ルポ老人病棟

374 アンデルセン市長を除く私の会った北欧の皆さんは、日本の「お嫁さん」の介護力がとっ くにパンクして、寝たきり老人の大収容所がい。し つよ、できているのをご存じよ オい。親子の情 愛どころか中流階層で盛大な姥捨てが行われているとは夢にも思っていない。 デンマークは、日本から多額の借金をして、それを福祉の財源に充てている。そんな、よ その国の福祉までカバーできる金持ち日本のことだから、お年寄りが粗末に扱われているは すがない、 とデンマークの人々は思いこんでいる。ああ、なんたる誤解だろう。 それにしても変ではないか。毎年、大変な数の日本人が北欧の福祉を視察している。福祉 の専門家はもちろんのこと、国会議員も大臣も。なのに日本のこの分野になんの影響も及ん でないのはなぜだろう。日本の惨憺たる現実と北欧の落ちこばれのない高福祉の現実を引き 比べて、頭に血がのばらなかったのだろうか。それとも、税金の額を聞いてさっさとあきら めの境地に達してしまったのか。 日本には、福祉亡国論を唱える人がいる。福祉国家にすると公費を食い潰す怠け者がいっ ばい出て国が滅びてしまう、というのである。もちろん、社会に適応できない人間はどこの 社ムムにもいるが、だからといって、デンマークもスウェーデンもいまのところ滅びる兆候は ない。それどころか日本人よりよほど精神は安定して、おおらかである。 町の銀行にはアメリカやイタリアのようなものものしい厳戒態勢が見られない。カウンタ ーも低くて、オープンで気分がいい

2. ルポ老人病棟

がかかる」「高福祉高負担になるがいしか」「税負担率が違うのだ」と、ちょっと飼喝的な話 になるでしよう。そこはどうなんですか 岡本所得較差がある中で社会保障をやろうと思ったら、低負担で高福祉を受ける階層と、 負担は高いのに福祉のサービスはあまり受けない階層ができるわけでしよう。その所得の再 配分をどういうカでやるかという問題ですよ。文句をいうのは、高い負担であまり福祉の世 言にならない人です。たとえばテニスのヴォルグがスウェーデンから逃げ出す。わしやこん な高い税金を払うのはいやだと。だけど、ヴォルグみたいな金持ちの人たちが払っている多 額の税金で福祉からたくさんサービスを受けている階層も同時に存在する。そういう層と、 そのもう一つ上ぐらいの層は税金の使い方に大変関心を持っている。所得の七割、八割を払 院って、その一方で厳しく監視して、それで社会的サービスを確保するという方法を選んでい の 樋口日本の場合は、スウェーデンがつくったり、イギリスがつくったようなシステムに そっいての税の負担とか所得の再配分とか福祉のあり方について、自民党はもちろんのこと、 「野党も含めて、国民の合意を問うてないという気がするんですけれどもね。やたら減税、減 け税というばっかりでね。 。。し力ないことてしょ , つね 岡本それはなだらかこま、 樋口いま外国と比べてこうだといっても、 いまの状况のままだと、とてもできない

3. ルポ老人病棟

370 のお年寄りならしし。 、、まうですよ」というと、目をまるくして、「オー、それなら死んだはう がましだわ」。 これからは自立助ける福祉 すいぜん デンマークの福祉システムは日本人の私には垂涎の的なのだが、最近は、国の経済もいま ひとっ冴えないため、福祉への支出は横這いないし減少せざるを得ないところに追い込まれ ている。福祉先進国はいま冬の真っただ中、といった趣である。オーデンセ市老人施設課課 長のカール・パウリンさんはこう話す。 「市議会は、来年 ( 一九八八年 ) の市の予算の中でナーシングホーム職員一。 ーセント削減 を決めています。このくらいなら従来のレベルが高いですから、さほど心配はないのですが、 八九年もさらに削減の予定です。それに八八年九月を期して、わが国の労働者の労働時間は 週三十九時間から三十八時間に減ります。だからナーシングホームのサービスはやや低下す る恐れがあります」 ロバート・ダルスコウ・アンデルセン社ムム福祉担当市長も、こういっこ。 「いまの五〇パーセント以上の税率は高すぎる、という人はいっ、 。、います。現内閣からも 『これ以上税率を上げるな』という通達がきました。もういままでのが限界で、これからは その限度内でやっていくしかありません。しかも老人人口そのものは横這いなのですが、八

4. ルポ老人病棟

377 福祉の美味を知らない金持ちニッポン人 しかし長期的にみると、手のかかる人を大増産したそ る。いまは、日本社会の負担は軽い。 のぶんだけ、後で福祉の負担は大きくなって、結局はとてつもなく高いものについてしまう のではないか なるほど、と感心しながら私は帰国の途についた。しかし、高くつくのは日本国が本当の 福祉に目覚めたときだろう。むごたらしい現場に手をつけなければ、永遠に安上がり路線を 続けることだってできる。でもまさか :

5. ルポ老人病棟

338 そして、 「デンマーク国内でも福祉にかなりでこばこがあります。オーデンセは社会福祉に熱心です。 こんなこというとよその市から叱られますが、どこの政治家が優秀かは、結果を見ればはっ きりすることです」

6. ルポ老人病棟

376 精神病の人々は貧乏と孤独の淵に追いやられて生活が荒むケースが多い。そのような生活 環境だと当然ながら周囲との摩擦も起きやすい。すると、警察の手を経て強制入院というこ とにもなりやすい。しかし、これだけ福祉が厚ければ、日本の病者が味わっているような貧 乏と孤独の心配は少ないだろう。 こうして、北欧を旅してみると福祉政策は、「国民全員のための高級な保険」として機能 していることがよくわかる。税金という名の掛け金は高いが、質のいいサービスと年金が間 違いなくもどってくる。 日本人は福祉を「自分とは無縁の救貧装置」ぐらいにしか考えていない。自分の脳や体が 衰えてしまったとき、病院とは名ばかりの姥捨山に捨てられるかもしれない、そんな残酷劇 を確実に防止するためには、北欧のような社会システムをつくりあげる以外にいまのところ 道はないのだが、そこまで想像力を働かせない。政党も労働組合も勉強しな、 われら日本人は、まだ福祉の本当の美味しさを知らないのだ。 スウェーデン・ストックホルムの王立工科大で高齢者集合住宅を研究している建築家、外 やまただし 山義さんに会った。この学者さんは、 いま一つの仮説を立ててそれを学問的に証明しよう としていた。かいつまんでいえば、スウェーデン社会は、、 ノンディキャップ老人の自立を助 ける諸政策を実行して、実際それに多額の税金を投入している。日本はこの分野にカネをか けないで、自立を助けるどころか、寝たきり老人を大量生産するようなことばかりやってい

7. ルポ老人病棟

は、社会民主党が何十年来と天下をとり続けている。そして、福祉担当市長が市政ナン・ハ 2 の要職なのもいかにも福祉国デンマークらしい 同氏の話によれば、デンマークの老人福祉は、一九三〇年代に遡ることができる。その ころ、工業の大進歩があって若者は都会へ出て、老人が取り残された。その老人の面倒を国 と自治体でみるための立法化の動きがますあった。 「それに、国民は税金を払うのを恐れませんでした。戦後の六〇 ~ 七〇年代、国が飛躍的に ーセントを占める障害老人のことを考えていればよ 豊かになったころは、全老人の六 かった。つまり、それに見合うナーシングホームをつくりさえすればすんだ。ケアされる老 町人と職員の数を一対一にすることで、日夜十分なケアができました。ところが、ここ十年、 ン七、八十歳以上の人が爆発的に増えて、そのための支出が大変な増加を示した。もうこれま セ での費用では賄えない。そう気がついたのが一九八一年でした。そのうえ、国の経済の調子 ン も悪くなりまして : : : 」 ア む 「そこでナーシングホームをつくることより、老人の本来の生活の場を改良することを考え ました。一方的に与える福祉でなくて、老人自身が独立・自立して生活できるようなものに、 齢です。しかもこれは、ナーシングホームのシステムより安くすむ。自分の家に住めば、人間 的刺激が違う。情報量が違う。自由を楽しめる。人生が豊かになる。心身ともに健康でいて くれれば、それはそれで社会としてもさらに安くつきます」 、かのば

8. ルポ老人病棟

340 日本では通じて、デンマークではけっしてうまく通じない言葉がある。「寝たきり老人」 「オムツ定時交換」、それにお年寄りをベッドに縛りつけることを意味する「抑制」の三語で ある。日本社会は介護の手間を極端に惜しむ。その結果、寝たきり老人を製造し、オムツは 定められた時間にしか交換せす、そのぬれたオムツをはずしてシーツなどをよごさないよう にとペッドに縛りつける。ところが北欧では、そのような野蛮な現象を意味する一言葉を生む 素地がない。 ほとんどいない寝たきり老人 デンマークで、ほとほと感心させられるのは、福祉のネットワークからの落ちこばれがほ ば絶無なことである。もっとも、この国でも福祉に不熱心な自治体のもとでは自室にシャワ ー・トイレのないナーシングホームがある、とは聞く。そこには相部屋も例外的少数ながら 残っている、といわれる。しかし、日本ではおなじみの寝たきり老人製造工場のような病院 や施設はどこにもない。 ただ、その「ない」を立証するのは、大変むすかしい。生まれて初めてこの福祉先進国の 土をふんだ私はヘ 、。ッドに縛りつけられているお年寄りがどこかに隠れてはいないものか、

9. ルポ老人病棟

樋口イギリスもスウェーデンもけっして滅びていないというのが救いですよ。 岡本あの経済不況の中で、イギリスだってサービスを落としてないんですよ。 前田いや、むしろデンマークとか北欧は年金には金を出すんです。さっき税金が高い高 しいましたけれども、多くは年金です。それから住宅です。 岡本もどる金ですよね。 前田ケアそのものは、そんなにべらばうにかかるものじゃない 岡本スウェーデンの老人施設は、自分で年金の三分の二を出しているんですね。だけど、 受けているケアの内容はすばらしいですよ。 院 社会福祉が国の誇りの北欧 病 人大熊日本人は知らないということがたしかにありますよね。 本岡本実態を知らない。 そ 樋口世界青年意識調査によれば、自分の国の何に誇りを持っているかという質問に対し て、スウェーデンの青年の六割以上が「社会福祉」と答えている。これに対して日本の青少 け年で社会福祉が発達しているということを挙げたのは、その十分の一しかいない。その辺も 私たちは見落としているので、スウェーデンの人たちはみんな高い税金にうんざりしている かというと、全くそうじゃなくて、これから育っていく、これからうんと稼いで税金を払わ

10. ルポ老人病棟

Ⅵ欧州に吹くノーマリゼーションの風 ノーマリゼーション発祥の地日本幻万円あちら万円 教会を経由せすに「退院」精神病棟のないアレツツォ 「風」吹かないのは日本だけ 从福祉の美味を知らない金持ちニッポン人 老後のための貯金は不必要これからは自立助ける福祉 「優れた家庭の介護」の誤解高くつく「寝たきり」大増産 亠めとがキ、 7 文庫版あとがき