ワイ談に類する助平な話を、書いたり喋ったりするのは、男生の役割である。女生には資格が とはいわないまでも、やめたほうがいい。女性のワイ談は、はしたない。だいいち、美し くない。〃おやじギャル〃と称するすれつからしのが、酔っ払って、たばこをぶかぶかふか しながら、不倫体験を披露したり、社内情事の秘密をあばいたり、上司の性的コンプレックスを 笑いものにしたりするのは、醜悪のみである。 同じことを、男ならしてもいいのかとい、フと、もちろんそんなことはない。ただ、男はそんな ことは断して口外しない。するヤツがいたら、男の飃わにも置けない。 上質のワイ談に限るとして、男ならだれでも有資格者かというと、そうはいかない。なんとい 。昨今はやりの〃ソースつら〃だか〃しようゆっらみだか知らない っても、年輪がものをいう が、世間の常識も、人間の道理もわきまえない青一一才どもが、わけ知り顔に拙劣なワイ談に打ち 興しる図は、笑止千万片腹痛い。若者のワイ談が、呆れるはど拙劣で、たとえようもなく下品で あることは、民放ラジオの深夜番組が実証している。 →右い、っちからワイ談をしてはいけな、 ワイ談の有資格者は、酸いも甘いも噛み分けた年齢 ( 五十歳以上、と まけにまけて、三十五歳以上としておこうか ) の男生に限る。 そこまで絞った上で、さらに三つの条件をみたしていなければならない 第一に、人品骨柄。たとえどんなに人生経験を積んだ高齢者の男性であっても、その人間から にしみ出る味わいがなければ、ワイ談は、ただのワイ談に堕してしまう。 いいたいところだが、大

講談社文庫刊行の辞 二十一世紀の到来を目睫に望みながら、われわれはいま、人類史上かって例を見ない巨大な転 換期をむかえよ、つとしている。 世界も、日本も、激動の予兆に対する期待とおののきを内に蔵して、未知の時代に歩み入ろう としている。このときにあたり、創業の人野間清治の「ナショナル・エデュケイター」への志を 現代に甦らせようと意図して、われわれはここに古今の文芸作品はいうまでもなく、ひろく人文・ 社会・自然の諸科学から東西の名著を網羅する、新しい綜合文庫の発刊を決意した。 激動の転換期はまた断絶の時代である。われわれは戦後一一十五年間の出版文化のありかたへの 深い反省をこめて、この断絶の時代にあえて人間的な持続を求めようとする 。いたずらに浮薄な 商業主義のあだ花を追い求めることなく、長期にわたって良書に生命をあたえようとっとめると ころにしか、今後の出版文化の真の繁栄はあり得ないと信じるからである。 同時にわれわれはこの綜合文庫の刊行を通して、人文・社会・自然の諸科学が、結局人間の学 にほかならないことを立証しようと願っている。かって知識とは、「汝自身を知る」ことにつきて 現代社会の瑣末な情報の氾濫のなかから、力強い知識の源泉を掘り起し、技術文明のただ なかに、生きた人間の姿を復活させること。それこそわれわれの切なる希求である。 われわれは権威に盲従せす、俗流に媚びることなく、渾然一体となって日本の「草の根」をか たちづくる若く新しい世代の人々に、心をこめてこの新しい綜合文庫をおくり届けたい。それは 知識の泉であるとともに感受性のふるさとであり、もっとも有機的に組織され、社会に開かれた 万人のための大学をめざしている。大方の支援と協力を衷心より切望してやまない。 一九七一年七月 野間省一

すしゅん た 豊田有恒崇峻天皇暗殺事件夏目漱石こ ろ夏樹静子駅に佇っ 戸川幸夫ヒトはなぜ助平にな「たか夏目漱石坊っちゃん中井英夫虚無への供 戸川幸夫ヒトはなぜ子育てが下手か夏目漱石それから 中井英夫幻想博物館 かるた 豊田穣戦艦武蔵レイテに死す いく中井英夫悪夢の骨 夏樹静子天使が消えて 全二冊 豊田穣日本 ~ 髞夏樹静子見知らぬわが子中井英夫人外境通信 豊田穣日本 ~ 霖夏樹静子黒白の旅路中井英夫真曜の 豊田穣日本 ~ 霖夏樹静子ガラスの絆永井路子王者の妻全二冊 豊田穣日本交響楽夏樹静子誤認 逮捕永井路子長崎犯科帳・青苔記 宀元結篇 ほか五編 常盤新平べースポール・グラフィティ 夏樹静子二人の夫をもっ女永井路子につばん毫王五十人中 常盤新平サ・ : ーヨーク・アイ・ラヴ夏樹静子べッ ドの中の他人永井路子執念の家譜 常盤新平遠いアメリカ夏樹静子あしたの 中里恒子中納言秀家夫人の生渾 土門周平指導者の研究夏樹静子重 婚中沢けい海を感しる 童門冬二坂本龍馬の人間学夏樹静子砂の殺意中沢けい野ぶどうを摘む 童門冬二武田信玄の人間学夏樹静子遠ざかる影長井彬原子炉の 童門冬二徳川家光の人間学夏樹静子家路の果て長井彬 8 の殺 ビッグアップルは 童門冬二織田信長の人間学夏樹静子 中津文彦黄金流砂 眠、らかひい 利根川裕明治を創った人々夏樹静子国境の女中津文彦特ダネ記煮叔人事件 鳥井加南子天女の末裔夏樹静子最後に愛を見たのは中津文彦伊達騒動殺人事件 鳥井加南子月霊の囁き夏樹静子女の銃南原幹雄北の黙示録全一一冊 きすな

り、できるだけ最初と同じ歩調で、長くて短い人生を歩き続けていただきたいのでございます。 男女のどちらかはゴキプリである と昔からいわれてお よ終わりません : : : スカートとスピーチは短かいほうかいい まだ私の話ーイ りますが、そういっては失礼ですけれど、それは内容が乏しいからであります。私のように豊富 な内容のスピーチは長いはど結構であります。もの書きの私が、文章が下手で、結婚披露宴のス ピーチが日本でいちばんうまいというのは、何と割りの合わないことでございましよう。いや、 一大不幸というべきであり、堕落でもあります。 さて、これから次々と新郎、新婦に訓示を垂れます。私ももの書きのはしくれでありますか 祝ら、真実のみを申しあげます。お二人は今夜ホテルにお泊まりになり、明日は新婚旅行に行かれ 宴るそうですが、出発の前に、 かならす英和辞典を、ご覧いただきたいのでございます。 披ます、のところを引きますと、最初に「男性」と訳してあり、続いて、「人・人間・人 類」と書いてあります。次にのところを開きますと、「女性」だけで、「人・人間・人 類」とは書いてありません。つまり、人間は男性だけだということであります。とにかく女生は 人間ではないんです。大か猫か、鼠かゴキプリか、ともあれ動物であることはたしかですが、人 長 間とはまったく次一兀のちがう世界の生きものであります。 どちらかというと、私はしつつ・こいたちでして、のが気になり、親しい友人に

とご来賓のご婦人方の一群から、袋だたきにされるおそれがありますので、賢明な皆さまは、 でにおわかりになっておられることとは存しますが、私のいわんとする真意をあらためてご説 申しあげます。 英和辞典の ><<Z のところには、ただ「男性」と書いてあるだけで、のはうに、 「女性」に続いて、「人・人間・人類」と書いてあってもよろしいのであります。要するに、ど亠 らかが人間であり、どちらかがゴキプリであっていいわけで、つまり男女というものは、お互、 にこれはど次元のちがった世界に住む動物であるということを、私は申しあげているに過ぎな、 のであります。 もっと具体的に申します。たとえば、男女の間には、河幅一万キロメートルの大河が流れて、 るといたします。新郎、新婦は、それぞれの努力によって、その河幅を一億分の一 祝にもせばめることは可能ですが、男性側の岸から、あるいは女性側の岸から、お二人とも向こ ) 宴岸へ飛び越すことは、絶対に不可能でございます。もはや生まれ変わるよりほかはないのであ〔 披ます。 結これはど次元のちがう世界に住む新郎、新婦が、今後同じ家で長々とご一緒にお暮らしにな , のは、これまでの人間の歴史上のいかなる冒険よりも、たいへん難しいことでございます。ご ) 労でございます。くれぐれもご健康であられるようお祈りいたします。

「だめよ。そんな箴言は、現代には通用しません。おしさまは、歳の割りに新しい考え方をして いると思ったら、案外古いのわ。キスはキス、セックスはセックスと割り切って聡明に事務的 処理すべきじゃないかしら。それをすぐ処女性とか、純潔とか、結婚にむすびつけて考えるから 悲劇になるんですわ」 「なるはど、その通りだ。しかし、チコちゃんがその相手になると、理屈を抜きにして、うまく 自分が処理できなくなるんだ。そこが、どうにもならない人間の悲しさなんだ」 「いえ、私にはできます。かならす実行してみせます」 そういってチコちゃんは、私の前に向き合って立つや否や、飛びつくようにして、私の首に両 手を巻きつけ、しっとりと濡れてあたたかく厚い唇を、こちらのロに押しつけて来た。 何やら叫ばうとして、頭を左右に振って逃がれようとしたが、チコちゃんの腕は、私の首をい よいよ堅く締めつけ、ゞ 選カれることはできなかった。 けっして子どもの体臭ではない、むせかえるような一人前の女のにおいが、私の鼻を強く刺激 した。ゆたかに盛りあがったチコちゃんの乳房が、私の胸をぐいぐいと押して来た。 不覚にも私は、年甲斐もなく、息をはすませてしまった。動際がはげしく打ちだした。私は今 にも卒倒するばかりだったが、私の唇を吸いつづけているチコちゃんは、驚いたことに静その もので、いささかも息を乱してはいなかった。 長いキスが終わるとチコちゃんは、今度は私の右手をつかまえて、彼女の胸へ持って行き、 「おじさま、この間は、発育不良で魅力がないっていったでしよう。私の大きい乳房をよくさわ

トでしかない ということも十分考えられる。たとえそうであっても、事実は事実である。その こんしん 〃事実〃を、人間の〃真実みに近づけようとして、渾身の努力を払っているところが″目白一一一平〃 の真骨頂である。 虚と実の皮膜のすきまに存在する〃人間の真実〃を、中村さんは綴っている。その文体は、中 ひょういつみ 村さんだけのものである。一読、飄逸味だけが特徴の、いまでいう〃軽いノリ〃のようでいて、 さに非す。ューモアの衣の下にひそむ、苦渋と悲哀にみちた人間の〃こころ〃を伝える筆致は 誠実そのものである。 標題作の『愛しき遺髪よ』の一篇は、その典型といえる。巻頭の章から、最終章まで、繰り返 しゆくぜん し語られる亡き奥さまとのあれこれを想起しつつ読めは、粛然として襟を正したくなる。 この文章が成るすっと以前に、私は、鍋屋横丁の中村邸で、〃愛しき遺髪〃を植え込んだ特製 人形を、この目で拝見している。。「を胸がキーンとな「た。同時に、妖しげな気分に襲われ たことも、正直いって、事実である。 中村さんの文亠ーー 〈親しい若いもの書きの甘木さんに、この話をしたら、〃中村さんは、お若いですね。今どき珍 説しい美談と申しましようか、純愛物語とでもいいましようか、それとも、これはもっとも崇 ~ 咼なお 解遊びといえるのではないでしようか〃といって、尊敬するような、からかうような、あわれむよ 、フな複雑な表情をしてから、〃、いこ ノ冫 , 裕かおありですな〃といった〉 その〃甘木さん〃というのは、もしかしたら、私のことかもしれない。 あら

「ているだけだから、日本の客車よりは、楽である。 とにかく定員が少ないのである。 つまり、楽しく旅行するためには、これだけのスペースが必要だ、と彼らは考えているけれ ど、日本では、人間の多いせいもあるが、多数の人間を輸送するためには、一車にこれだけ詰め こまなければならぬとしている。 網棚の場所は、日本のように、窓に沿ってではなく、座席の真上に設けられている。自分の荷 物は、自分の頭の上に置くことができる。網棚のスペースも広い 窓ガラスは、上下に分かれ、下半分は固定している。あける時には、上半分を下げるのであ る。それゆえ、窓からの風は、頭の上をさわやかに吹き過ぎる。 湿気の多い日本では、窓ガラスを全部あけ、顔から胸へ風をまともに受けて、 〃ああ一保しい などとつぶやくが、空気が乾燥しているヨーロッパの人たちは、ただ換気のためだけに窓をあ けるよ、つである。 特にスイスでは、駅へ着くごとに、駅員が、モップで窓ガラスを磨くのであった。 スイスの美しい風景をよく見て下さい、というサービス精神のあらわれだろう。 ・に打たせた総裁への私信 各国の客車の席に座って、とりとめもないことを考えていたが、再び先の客車へ移って行っ

とはもちろんですが、経済的な面でも、女房の座をほかの女性に盗られては困りますからね。こ の嫉妬というのは正常の心理ですよ。自己防衛をしているわけです。 また嫉妬は、優越要求ーーっまり、負けるのはくやしいということでもありますから、たとえ ばスポーツ選手が、自分の記録が破られたことで、相手に嫉妬を感じ、大いに努力して記録を更 新する、世界記録を作ることにもなります。 こういう風に、ヤキモチが、人に優越したいという欲求に変しるとうまく行く。人間社会の進 歩、発展にもつながるわけです。ヤキモチは、多くの場合、相手が、自分より上の場合ですよ。 そうなると、これは人間の本能として、自分より上にいる人を、自分のレベル、あるいはそれ 以下に引き下げようと努力をする。だから、相手を中傷したり、あること無いことをいいふらし り、相手を傷つけてレベルダウンを図るという本能は、誰にでもあるでしようね。これは、先 ほども申しあげたように、広い意味では自己防衛で、嫉妬というのは、正常な心理です」 斎藤先生は、私を慰めるような口調で長々と説明した。 「でも、私立探偵をつけるというのは少し異常ではないでしようか」 「そうでもないですね。経済的余裕があればやるでしような。何しろそういう商売があるんです から・ 。それに、今や男女同権の民主主義の時代ですからね。戦前の古い型の奥さまだった ら、浮気は ~ 早王の甲斐だというような考えもありましたけれど、もうそんな考えは絶対に許さ れない時代ですね。 むしろ、奥さまのほうが浮気をなさって、毫王のはうで、私立探偵をつけるというように、世

〃おい、お前らフランスの無学の者にはわからないだろうが、俺は、日本の東京大学出身だぞ。 東京大学というと、ドゴール大統領が卒業したフランスのエコール・ポリテクニックにあたる宀 校なんだぞ。 : お前ら、早く「 そこへはいろうとして、日本の若者たちは、命がけで勉強しているんだ。 本の大使館へ電話で問い合わせろ。国鉄事務所へも聞いてみろ。ムッシュウ・イガラシがどん に偉い人物かすぐわかるはすだぞ。いつまでも留めておくと、お前ら全員をクビにするぞ。日ハ の外交問題に発展したらとんでもないことになるんだぞ〃 見たわけではないから、留置場で何をわめき散らしたか知らないが、東大出ではあるが、 のない、人間味の乏しい、人格的に低劣な五十嵐所長のことだから、こんなことでも怒鳴った ろ、フと想イ 、象する。八時間後にようやく放免された。国鉄事務所に連絡がついたのだ。 そこまでは、どうということはない。彼の随筆の結末が問題である。なんとも彼の無教養を 明するような、非人間的な結びとなっていて、読者の私のほうが恥すかしい思いをした。っ り、こ、つい、つことになる 不当な逮捕事件の後、何のパーテイか知らないが、五十嵐夫妻は、日本の国鉄代表として、 ゴール大統領に招待される。夜会服に盛装した夫妻は、エリゼ宮の階段をあがって行く。五十当 氏は、はからすも警護の警官の中に、先の事件で彼を誤認逮捕したにつくき警官を発見した。 は、これみよがしに胸を張って得意気に顔を見せつけて、警官の前を悠々とあがって行く。彼