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あった。 キャビンデッキの寝椅子で、青空を眺め、潮風に吹かれて本を読み、午睡をする。それ以外の 時間は、講義の時間を除くと、ギャンプル好きの得田記者と私は、朝から寝るまで、プラックジ ャックに打ち興じて飽きることがなかった。もちろん彼のはうが、私より数段上でプロ級であ る。負けすぎらいの私は、なんとかして取り返そうとするのだが、カンのよさには抗すべくもな 、カ子 / 一一日目の晩、黒木記者は、昨夜とちがった女性を伴って来た。少し照れくさいのか、 「今の女性はすごいですね。四百人のうち半数の一一百人は、ポーイハントが目的で乗っているん です。そのうち百人は結婚の相手を、残りの百人はセックスフレンド捜しですよ。驚きました ね。今夜の彼女なんか、向こうから声をかけて来たんです。若い男は駄目で、僕くらいでないと 好きになれないというんです。同室に講師の先生がいるといったら、そのほうが一層刺戟的で興 奮して楽しいっていうんです。勘弁して下さい」 と、ム井解がましいことをいった。 ″今更勘弁もクソもないではないか。昨夜なんか、一言もいわすに堂々と振る舞っていたではな 、ことに、「急性インボ」だったおかげで、僕にひつばたかれすに済んだんだぞ〃 いか運かいし と、またもや私はひそかに呟いた。 かようにして、黒木記者は、新さくら丸十三泊の間に五人の女性と楽しみ、講師先生の私は、 その行動をつさに観察させられ、いかなる体位が多いかも知らされ、その声音がそれぞれいか

とか、「チンコワンタ : : : 」と口々に呟きながら、部屋へ戻った。 私は、仕事をやめ、バスにもはいらすにべッドにもぐりこんだ。 とんでもないご機嫌うかかい 外国旅行で、いちばんひどい失敗をしたのは、昭和四十一年の三カ月間パリ滞在中のことだっ た。ある晩、友人とモンマルトルで遊んで夜更けにホテルへ戻ったら、 「昨日パリへ来ました。明日正午ご都合がよろしかったら、通訳の方とご一緒に、ホテル・クリ ョンへお越し下さい。昼食をご一緒にしたいと思います。明日夕刻の便で帰国いたします」 という兼松学さんの書置きがあった。 兼松さんは、かって国鉄の常務理事で私の大上役であり、当時は、日本交通公社の副社長であ 翌日の十一時半に、迎えに来てくれた日本人の女性通訳とホテル前でタクシーを拾った。ホテ ル・クリョンは、オペリスクのあるコンコルド広場のアメリカ大使館の隣りにあって、 は、もっとも由緒ある古いホテルである。 私はタクシーに乗るや否や、簡単なフランス語くらい一度は使ってみたくて、 「オテル・クリョン・シルププレ」 と運転手にいった。その途端、運転手が後を向いて、軽蔑を満面にあらわして、通訳に向か べらべらと何ごとかをまくしたてた。

舞に来てくれた。明日の飛行機で帰国してくれと口々にいう。 状はない。日本へ帰るまでに、まだ一回の講義が いや、親指一本くらい失っても生命には別、 にこにこしながら、皆さんのすすめを聞き入れな一 っている。私は、少しも痛まぬかのように、 った。一一時間論議の末に、温厚な団長が、「強制送還を命じます」と言葉だけはきびしくいった 講師団の中に、・女史がはいっていた。彼女は、仕事の都合で、飛行機でマニラへ飛び、 そこから香港まで何回かの講義をし、明日の飛行機で帰国することになっていた。 「ちょ、つどいし 。申し訳ないが先生に付き添っていただきましよう。美人が面倒をみて下さ , んだから、これなら文句はないでしよう」 いつもは冗談もいわない団長が私の顔を見ながらいった。その晩はそのホテルに泊まり、翌 はいや応なしに、自動車へかつぎこまれ、飛行場では、車椅子に乗せられ、・女史が、時」 横から私の顔をのぞきこみながら、車を押して下さる。おそれ多いことであった。 こ羽田空港に着くと、中央鉄道病院の救急車が待っていて、一週間入院した。もう十五年前の一 これは自業自得、天罰覿面というも ( ことになる。しかし、左足親指の神経はいまだに戻らない。 だ。あれだけ厄介をかけ、い じめた女房の命日を毫王の私が忘れるとは、天上にまします彼女 ( 覿霊としては、絶対に許せないだろうから、足の親指だけで済んだのは、ありがたいというべき ( 天ある。 爾飛私は、女房の命日が来る一週間前から、仕事場にあるロウソク立てを全部集め、朝から るまで火を灯して、

ところが、ビャ樽一・九倍のタリアーニ夫人は、下からこちらをしろりと睨みあげただけで、 「ノンーとも「ウイ」とも一一 = ロも発しなかった。日本の痩せた紳士は、完全に、ヒジテッを食「 された。 ムよ、 引っこみがっかなかった。とはいうものの、そもそも私は、タリアーニ夫人の窮状を うのだというような自分勝手な思いあがった気持ちで、先方の心境をも考えす、勢いこんで出、 けて行ったのだから、面目まるつぶれを怨む前に、むしろこちらが反省すべきだった。 きびす 踵を返して、私は自分の席へとばとばと戻り出した。顔をあげると、心なき中村記者、佐久 いっせいに笑い崩れていた。 カメラマン、橋本添乗員たちが、私のはうを見ながら、 笛の小娘に手を焼く 香港へ着いて二日目の夜、宿舎のヒルトン・ホテルでタ食を済ませた中村記者、佐久間カメ = マン、私の三人は、職掌柄 ( ? ) 、早速夜の社会探訪をすることにした。日本のダンスホールし モウテン モウイン ク同しだが、ネオンの看板は、舞庁、あるいは舞院となっている。舞庁は高級で、舞院は下級で + マる。 ワンチャイ ス キ 私たちは、ます最初に、アメリカの水兵の町ともいわれている湾仔の最低のダンスホールへ くことにした。ガイドの李さんを加えて、タクシーを拾った。紅薇舞院というネオンを認めた ( 白 でそこで降りた。 四階建てのコンクリート建築だが、古くて壁も汚れていた。横の入口から、狭い階段を二階 (

162 上がった。漢方医の隣りが舞院だった。ドアをあけると、中はほとんどまっくら闇。入口の右側 に、病院の受付のような窓口があって、五ワットはどの暗い電灯がついていた。中から貧相な中 国服の中年の女が出て来て、ガイドの李さんと、かん高い声で何か話しだした。 : ほんとうの素人娘を呼んでくれるそうです。十五分はどお待ちく 「中村さん、喜んでくださし たさい 使い古しのタンゴのレコードが、雑音を交えて鳴りわたっている。中央は、四坪はどのダンス フロアになっていて、左の壁際に長椅子が一つあり、三方の壁には、板かこいの二人がけのポッ クスが十数個設けてある。 ま、って来 十分と経たぬうちに、夜目にも明らかに、背の低い小学校高学年くらいの小娘がーし た。中村記者と佐久間カメラマン日く、中村さんは大先輩だから、ます最初の娘を選ぶべきだと もっともらしいことをいって、私にその小娘を押しつけた。 やむを得す私は、窮屈な一一人がけの椅子に並んで腰をおろした。中国服の中年女が、コカコー ラを届けてくれた。 相手が言葉の通しない十一一、三歳の小娘では、どうしようもなかった。ただ並んで無一言で腰か けているのは、 ) 、 し力にも手持無沙汰である。せめて、小娘の腰へ手をまわして、軽く抱いてやろ 、フと田 5 った。 私が腰に手をまわしかけた時、彼女は素早くばっと私の腕を払って、かん高い声で、何ごとか ) ゞ、ムこは、ピッピッピッピッピーとい、つ由の立日に沂一し を叫びだした。それは広東語に違いなしカ禾。

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