重役クリー ・ : 洗濯屋のことまで、わたしに相談するこたア、ないだろ。 夫人でもねえ、うちのカネさんがそこのご用聞きの子とこんどの日曜、海へいかして くれって、ねえいうんですけど : 重役フーンなるほど : 夫人どうしたもんでしようねえ : 重役ゥーン。 夫人この前からね、おかしいとは思ってたんですよ。湯上がりタオルだの、枕カバ なんて小物を出してもね、お金とらないんですよ、サービスですサービスですって : ああそうなのね、あのころからうちのカネさんに気があったんだわねえ。 重役フーン、なるほど : 夫人あなたはフーンフーンてばっかりおっしやってないで : : : 万一のことでもあると、 暇見 . 訐に・甲しわけが : 役重役なあに、十五や十 , ハの子供じゃなし、そんな : : : お茶もらおうか : 夕刊を湯のみにもちかえた重役さんに、またまた次々と決済をうながす奥さまの報 告はつづいているようでございます。
重役フーン、そりやいかんねえ、で、どうなの。だいぶかかりそうなの。 女秘書はあ、奥さんの電話ですと、あと一週間ぐらいは : 重役フーン、竹井くんは、ここんとこ無理しとったからね。そうだ、よし、出かけま 女秘書は ? 重役いや、見舞いにいってくる。運転手にね、竹井くんとこのうちの所番地をわたし といて : 女秘書はあ : ・ 重役思いたったが何とやらだ。すぐ出かけるから : 秘書のお嬢さんは、出かけてゆく重役さんを見送るや否や、すぐに電話機に手をの ばし ( した。 女房あ、モシモシ。こちら竹井ですが : : : あら、まあ、いつも主人がお世話に : あ、え ! 常務さんが、お見舞いに : いえ、そんな、どうか、そんなご心配は : え、もうお出かけになってしまったんですか。まあ、どうしましよう , はあはあ、 では : : : 有難うございました。
ここで忘れてはならないのは、いうだけでなく、必ず実行なさることでございます。 これは、ナポレオンのレジョン・ドヌールよりも大変でございます。 これをいたしませんで、空手形ですと、 「ヘン、奴さんは、おいしいことをいうけど、ロだけだもんな」 ということになりまして、折角の重役さんのご厚意も、逆効果となりますから、必ず必 ず実行をともなって下さいますように。 重役フーン。なるほど、相手のプライドを傷つけんように。そうするとだね、ムニヤ ムニヤ、甘いこともちかけられた場合はだな、キミのような若いべッピンは、わしには 荷が重すぎるよ、というて、断わ : : : 断わ : : : らなくてもいいんだろキミ。いや、もち ろん、断わるけどね : : : ウン : 美人をつくるには 重役どこぞにい、人材はおらんかね :
え ? なに、妬けないかって : : : 冗談いっちゃいかんよ、そんなんじゃないんだよ。 そこへ、奥さまが、何やら小包をもって顔をお出しになりました。 夫人あなた、あのかた : : : 時岡さんてかた会社のかたでしよ。また、いつもの干物で すよ : : : ( ャレャレの感じ ) 。 重役フーン。 夫人いただいて、こんなこといっちゃなんだけど、干物はねえ。干すと台所中くさい し : : : ャレャレねえ。 ーー奥さまのうしろ姿をみおくりながら、重役さんは、こうおっしゃいました。 重役時岡って男も社員でね、いろいろ気をつかってよくしてくれるんだが、おかしな もんだねえ、家内にどうもウケがよくないんだ。こればっかりは理屈じゃないんだねえ 天使のお通り や
専務によばれたヒラ社員くん、ネクタイのゆがみを直しながら。 ( ノック ) サトウ外務課のサトウですが : 重役うむ、ど , っぞどうそー 社員くん、中へ入る。重役さんはニコニコしてお聞きになります。 重役ウン、サトウくんか、どうだね、夏休みは、もう、とったの。 サトウいえ、まだですが。 重役フーン、そう。いや、よくやるねえ、うん : ときに、キミ、靴は、何文かな。 サトウくつ、といいますと。 重役シューズですよ。 としち 蟯サトウはあ、十文七分ですが。 亜重役そうだろうと思っとったんだ。 Ⅵわたしはね、ほかには何も芸がないんだが、昔から、人の顔みてね、足の文数あてるの だけはうまくてね。芸者なんかでもだな、「アーラこんばんは」敷居ぎわに手をついた
嫺重役なんですか、アンタの本箱は。 そりや、チャタレーもいし 昼顔も悪いとはいわんよ。しかしねえ、もちっと、ましな、 正統派のものもよんだらどうやね、ああいう不良の本ばっかりよまんと : 、っておっしやるの ? 娘じゃ、パパは、どんなのが、しし 重役古典です。源氏物語とか、セックスピーア、これくらいはよんでもらいたいねえ。 娘フーン、源氏とセックスピーアか。 重役なんです。そのいいカたは 娘じゃ、いわせていただくけど、源氏にはものすごい、チャタレー・クラスのラブシ ーンが三十三カ所もあるのよ。ポカシて書いてあるけど。 重役え ! そんな、お前 : 娘それから、セックスピーア、ってシェークスピアのことかしら。だったら、あのか ノつも年上の女と結婚して、子供が生れたのに、妻 たってすごいのよ。十八のときに、、 子を捨てて、家出したりしてるのよ。そういうかたの本、よんでもいいの。ああ、そう、 じゃ帰りに買ってこよう。 、お金頂戴 !
夫人会ったんですよ、あの人に。 重役さんの奥さまがお会いになったあの人というのは、三十二年前、重役さんとの 結婚話が決る前に、お見合いをして、少し付き合ったお相手なんだそうでございます。 夫人東京駅でね、タクシー乗り場にならんでたんですよ。そしたら、あたしのうしろ に待ってる紳士が「失礼ですけど、サチコさんじゃありませんか」って : 重役それで、喫茶店でもいったのか。 夫人 しいえ、ほんの立ち話ですわよ。でもねえ、変わらないもんねえ : : : 人間って。 重役フーン。 夫人あの人、紙のほうなんですけどね、手びろくやってるらしいわ。お孫さんが七人 ですって、釣りだけが道楽ですなんて : : : 昔から堅そうだったけど : 重役フン、ロだけじやわからんな。 夫人でもねえ、三十二年か : 、つしょになっていたかもわからないわねえ ことによったら、堅そうなあの人と、 といいたげな奥さまの視線に重役さんはほんの一瞬たじろいだよ、と、おっしやっ ていました。
境内で会った人 重役散歩にいい時期になったねえ。 重役さんでいらっしゃいます。 重役このごろは、朝六時ですわ。犬のヤツも知っとってね、ありや時計をもっとるわ けでもないのに、五時五十五分というと、クーン、クーン、クーン、クーン、クーン、 ないてね、催促をするからね。こっちも、寝ておられませんわ。 何のなにがしというような、名もない、ただの駄犬でね、とおっしやりながらそれ でもかわいくてしかたがないというお顔の重役さんでいらっしゃいます。 毎朝、この犬を引っぱって、三十分ほどお歩きになって、八幡様の境内で犬をはなして、 十分ほど遊ばせて、またトコトコと帰 0 てくる。そして朝のお食事というのが日課だそ うですが : 重役つい今朝の話なんだがねえ、八幡様の境内で一人の男に会ってねえ。
重役さんは、こんなご経験はありませんかな ? 下世話に申します 夫人ございますですよ。宅もね、ついこの間、やったばかり : でしよ。「七つ下りの雨と、四十すぎての浮気はやみそうでやまない」って : : : 宅もそ の通りでしたのよ。 よく恋はハシカみたいなものだといいます。若いうちにかかれば、大して重くもな くて切りぬけられるんですが、四十、五十になって、感染いたしますと、ときと場合に よっては命とりにもなりかねないんですから : ペイベイのサラリーマン時代には、伝書鳩みたいに、家と会社をわき目もふらすゆきき してたのが、地位が出来、お金が出来ると、ついつい人生の帰り花ですか、ひと花咲か せたくなるんですね。 よく、ハ ーのうすぐらい片隅から聞えてきますねえ、こういう声が : 式 、ことい , つね , んキミは : 。名前、何ていうの ? ナニ 重役 ( ゴキゲン ) ウ、 役子さん ? こんどの日曜日にどこぞへつれてってやろうか。動物園か ? そんなとこは イヤです : : : そうだねえ。子供じゃないもんな。それじゃ、少女歌劇か、映画か : ん。それよかドライプがええ : : : フーン。それじゃ箱根か、熱海か : : : ウフフフ。
が、重役さんにも、このイット、日くいいがたいムード、人をひきつけてやまない雰囲 気、プラス・アルフアの持味がなくっちゃいけないんじゃないでしようか。 重役ィットちゅうとイット・イズ・ア・ペンのイットかね ? フーン。ィットねえ。 あ、それなら、このわたしね、自漫じゃよ : 、、 オしカちょいとしたもんですよ、たとえばの 手口、ヾ ーへいけばやね、よびもせんのに女の子がパ ーとわたしのまわりにあつまってき よる。ありや、やつばり、わたしがこ , つ、 ーとイットちゅうもんを放出しとるからじ やだろうとね : そりゃあ、イットが全然ないとは申しませんが、イットより、そのパーとお派手に 放出されるチップのほうが、女性がたをひきつけてやまないのではないでしようか。 ィットというのは、一万円札にして五センチ厚みとか、ヒップのサイズにして四十イン チだとか、数字で割り出せるものではありません。 式 今頃なら、ポカボカと相手のハートを多少あたためてやる。相手が調子にのったら、と の 役きどきは、あたたかいユーモアまじりのジョークで、すこしばかりヒャリとさせてはげ ましてやる。