「よろしい。連れて行きなさい。鑑定させて、収容す シッ、パシッと、まるで機械じかけのように等間隔 るのだ」 で叩きつづけた。十二回、殴った。 「わかりました。おい、このうすのろ患者野郎」 「わかったか。 寺町は手錠を取り出した。 頭髪を掴んだまま、訊いた。 「こんな猿芝居が、いつまで続くと思っているのだー 「ああー かろうじて、片倉はことばを投げた。 唇が切れて、血が膝に落ちた。顔中が腫れ上がった ように思えた。 両手首に、手錠が音をたてて喰い込んだ。 片倉は署の裏庭に連れ出された。 「世話をやかせやがる。これは、おれを殺そうとした そこに車が待っていた。さっき逃け出てきた車であ礼だー った。ほお髭の運転手がいた。 最後に、カまかせに殴られた。 寺町に突きとばされて、車に乗せられた。 「どうだ、ちっとは後悔したか」 車が走り出した。 「おい、こっちを向け」 「返事をしねえと、また、殴るぜ。おめえは、いずれ 寺町が片倉の頭髪を掴んだ。自分のほうに顔をねじ殺されるのだ。おれがここで殴り殺したところで、だ 向け、そのほおに寺町は平手をとばした。 れも、なんともいやしねえのよ。わかったら、答えろ。 片倉は逆らわなかった。両手首に手錠が入っている。おっと、おれは対等のロはきいてもらいたくねえのよ。 逆らえば何をされるかわからなかった。顎の張りかげちゃんと敬語を使って、答えろ , んからみて、執念深い性格に思えた。その上、逆上す寺町の眉のあたりに殺気が漂っていた。その殺気に るたちでもあるようだった。 人間を苛め虐ける愉悦が溶けている。 寺町は頭髪を掴んだまま、平手打ちを繰り返した。 。し後悔しております」 一「三度で済むかと思ったが、寺町はやめなかった。 答えるしかなかった。最後の一撃でロの中が切れて 206
出血している。生ぬるいその血を呑んで、片倉は答えうだった。 た。寺町は気に喰わなければ、殴りつづけかねない。 「おまえ、それでも男か」 「そうだろう ? 」 寺町は嘲笑した。 「おまえの女房のいるところへ、連れて行ってやろう。 そこでどんな目に遇うのか、おれはしらねえがな。ど 「おまえは、精神病院へ入りたいか、ええ」 っちにしろ、おまえは長くは生きていられねえだろう しいえ」 「入りたいと、答えろ」 入りたいですー 「わかって、おります , 、、。世話はねえや」 「死ぬまで、出られねえぜ。糞尿にまみれてよ。病院「わかっておればしし 寺町は四角い顔にタ・ハコをくわえた。 の経営者は市長だからな。ありがたいだろう、ええ」 片倉は窓外に視線を投げた。 長くは生きていられないというのは、真実であろう 「ところが、精神病院には入れねえのさ」 と思った。市長には強大な権力があるらしい。警察が はえと 「おまえ、女房に会いたいか , その手足となっている。蠅取り紙に落ちた蠅に似てい た。どんなことがあろうと、もはや、逃げることはか 真実、会いたくはなかった。こんな状態で会わせらなわない。 ふっと、山沢のことを思った。 れても、妻に絶望を深めさせるだけである。 「おい、ここに俯せに這え。目隠しが面倒だからな。 「会いたい、女房が抱きたいと、いえ」 早くしろ」 「会いたいです。抱きたいですー 寺町は座席の下を指した。 「だらしねえ野郎だ」 寺町は毒づいた。なにかで、また肚がたってきたよ いわれるままに、片倉は這った。横に這って、足を 20 / 仮面をつけた鬼
横畑は声を変えた。ガラガラ声が険悪になっていた。分通り殺していやがった」 寺町が答えた。 「そんな気はありませんね , 。そいつは、凶悪犯だ」 「七分通り 気配が澱みかけていた。こういう男が警察には多い 横畑は大仰に唸ってみせた。 おだやかには済みそうにないことを片倉は覚悟した。 「そうです。凶悪犯です , 警察が市長の味方だということを、あらためて思った。 寺町は四角い顎を片倉に向けてしやくった。 田舎警察はそういう点では、どろ臭い しばらく黙っていた末に、横畑はコールボタンを押「よりによって、警察に逃げ込むとは、とんまな先生 「いや、待てーー」 重い足音が部屋の前で停まった。 横畑が笑いをひそめた。 入ってきた男をみて、片倉はふわっと腰を上げた。 「この男は、凶悪犯は凶悪犯だが、ひょっとすると精 「よお」 神異常ではないのか」 その男は、声をかけた。 「おれも、じつは、そう考えとったんです」 「この男のことかね、偽刑事というのは」 寺町がうなすいた。 横畑が訊いた。 「いや、まちがいない。分裂症だ。それに妄想病だ。 片倉は答えなかった。顔から血が引いていた。強張これは、病院に連れて行ったほうがよさそうだ」 横畑は自分でうなずいた。 ったままになっていた。 「精神病院ですか , 「寺町君、警察手帳を提示しなけりや、だめじゃない か。相手は弁護士の先生だぜ」 「そうだ。そうするしかあるまい。危険な患者をそのつ を ままにしておいては、治安が保てんからな」 横畑は笑いながら、寺町なる男に説教した。 面 「こいつが、逃けやがったんでね。それに、市長を七「同感です 205 こ
曲げた。上体は寺町の足もとにきていた。寺町は土足「こいつを、抱け」 を片倉の背にかけた。 寺町は手錠を外して、柱を抱くように命じた。ほお 「まるで、意気地がねえ。弁護士がきいて呆れる。お髭の運転手が拳銃を構えている。片倉は柱を抱えた。 まえは奴隷向きに生まれついているようだぜー 柱の向こう側で手錠がふたたび喰い込んだ。 あざわら 「どうかね、抱きごこちは」 靴で踏みつけて、寺町は嘲笑った。 車はそれから十分ほど走った。 嘲りを残して二人は部屋を出た。 やがて、車は停まった。 足音が遠ざかって、物音が絶えた。 「起きてもいいぜ。奴隷さんよー 片倉は腰を落とした。両足を拡けて柱を挟み込んた。 トアが開いて寺町が外に出た。 そうするのが、いちばん楽な姿勢だった。それ以外に 片倉も出た。そこは車庫だった。入り口の扉が締まとる方法がない。 っていて、外の風景がみえない。車庫の奥にどこかへ 物音は絶えたままであった。深閑としていた。無人 通じるロが開いていた。 のように思えた。場所がどこらあたりなのか、自動車 の音もきこえない。 片倉はそこから連れ込まれた。そこは廊下のように なっていた。建物の一部のようだった。 目を閉じて、片倉は柱に額をもたせた。 長い廊下を歩かされて、別の建物に入った。かなり 待ち受けている運命を思った。容易なものではない。 大きな建物のようだった。間取りだとか、そういった最期になりそうな予感が色濃かった。いままでにも危 感覚がっかめなかった。 機はあった。だが、山中の危機であり、妻という助カ 一室に入れられた。 者もいた。もっとも、ここにも妻はあらわれる公算が 板敷きの部屋だった。窓がない。四角い部屋で、床強い。たが、そうだったにしても、手錠は外せない。 の間もないのに、それにあたるところに太い柱が立っ こうやって、柱を抱かされたままの何日かが過ぎたの くび ていた。 ちに、痩せ衰えて、縊り殺されるのか 208 あざけ
殺気をこめた重い沈黙だ。 きないではないか , 「おまえたちは、鎌田に仕える豚た。うすぎたねえ豚「ヘアビンカープにかかったら、おれは車から降り めー る」 「なんたと ! 」 「降りて、どうするのだ , 寺町はハンドルをガンと叩いた。片倉に憎悪を溜め 「カー・フにさしかかった車を狙う。タイヤを撃ち抜い た視線を向けた。 て、その上、火たるまにしてやる」 「拳銃を振り回したいのだろうが、ここではまずい。 「火だるま ? どうやってだ」 それとも、素手でやるか。相手になるぜ , 「一升瓶にガソリンを詰めてある。そいつに火をつけ 山沢の口調は静かだ。 て、叩きつけるのだ。何があっても、どちらかは成功 寺町は濁った目で山沢をみたが、答えなかった。 させる。万一、おれが不成功に終わったとわかれば、 「豚刑事どもめ ! 」 そのまま突っ走れ。けっして停まるな。国道に出るま 信号が変わった。片倉は運転席のドアを足でカまかで、息を抜くな。おれのことは心配しなくていい。ま た盛岡に戻るんだ」 せに蹴りつけた。 「きさまッ 山沢は拳銃の装弾を点検した。 しずくいし 寺町がわめいた。ドアを開けようとしたのを、仲間 国道 46 号線を雫石から北に入った。 が押えた。 葛根田川沿いに山路が伸びている。山路とはいって 山沢と片倉は車に戻った。 もあちこちに村落があるから、けっこう通行車はある。 片倉が運転を替わった。 日沿いに片倉は車を走らせた。尾行車は三十メート 「通行車のない山路にかかったら、全力でとばせ。やルほどの間隔を保ってびったり尾行してきている。 つら、拳銃を乱射するだろう。近寄せては危険だー 「連中はこっちの意図がわからんから、とまどってい 「しかし、近寄せなければ、連中を蹴落とすことはでるようだ」 286
1 ド違反をしても警察手帳をみせれば済む。どんな危 「どこへ行くのだ」 「奥羽山地た。急げ」 険を冒してでも追い縋る。 幾つ目かの信号で、尾行車は山沢の車のすぐ後ろに 山沢はきびすを返した。 停まった。 片倉と京子がつづいた。 「挨拶をしてくるか」 運転は山沢がした。 山沢は車を降りた。 片倉と京子は後部座席に乗った。 一台の乗用車が追尾していた。運転者も含めて五人片倉もつづいた。 「おまえたち」 の男が乗っている。 片倉は盛岡市を出て国道 46 号線に乗った。 46 号山沢は無造作に運転席に近づいた。 「どこへ行く」 線は田沢湖畔を経て秋田に通じている。 「なんだ、おめえはー 「拳銃と運転では、どちらに自信がある」 山沢が訊いた。 運転をしているのは寺町だった。陰惨な目を向けた。 「山中に人ったら、運転を替われ。おれは拳銃を受け細い目が充血している。 持つ。ヘア。ヒンカー・フを捜す。カー・フで、のるかそる「おい寺町」 かの闘いをしかける。へマはやるなよ。おれたちが崖片倉が傍に立った。 から転落したのでは、敵を喜ばすだけだ」 「しばらくだったな」 「まかせておけ」 「おめえなんか、知らん」 「うん , 寺町はそっ。ほを向いた。 山沢はパックミラーを覗いた。乗用車は一定の距離「鎌田のヒヒ爺いは生きておるのか」 をおいて尾行してきていた。振り切ることはまず無理「失せろ」 だ。先方は五人とも刑事である。信号を無視し、スビ狭い額に青筋が浮いている。他の四人は黙っていた。 285 百鬼夜行
そして天地教の本拠地をつきとめて司祭一味を殺さね 男の姿は消えたままであった。 しかばねるいるい 「支度をしなさい。そろそろ、山沢が戻ってくる時間ばならない。屍累々の前途が、片倉の前に横たわって あなたー 支度を終えた京子が傍に立った。 「その和服は、鎌田にもらったのか」 京子は起きた。片倉に抱かれたことで、京子には安 「はい 堵が戻っていた。 片倉はシャワ 1 の音をききながら、窓外をみていた。「服を買ってやるから、そんなものは捨てろ , 顎の張った、たしか刑事課長に寺町と呼ばれたあの刑犯す喜びを昻めるために着飾らせた鎌田に、肉体的 事は、ホテルを出た山沢のあとを尾行したのか。山沢疼痛をともなった憎悪があらたに湧いた。 はレンタカ 1 を借りるといったが、いったいそれで何「あなたもねー 「ああ」 をやろうというのか。乾坤一擲の勝負とは、いナし 何を意味するのか 眉をひそめた。鎌田の服を着ている嫌悪感が、肌を なんであるにせよ、山沢が放れ業的な闘いを挑もう黒く染めそうに思えた。 としていることはまちがいない。やつらは市の、そし ドアが叩かれた。 て警察署の存亡を賭けて殺しの包囲網を張っている。 「開けろ、おれだ」 新聞記者も殺した。いのちがけになっているのだから、 山沢だった。 容易なことでは逃れられない。殺すか、殺されるか、 「精算は済ませた。出よう」 そのどちらかしかない。 「連中は、どうしている」 殺して、やる。 「人相の悪いのが五人、ホテルを見張っている。おれ 痩身に、片倉は重い憤怒を溜めていた。殺すことにが車を借りてきたから、連中は緊張している。執拗に ためらいはない。追跡の刑事たちを殺し、鎌田を殺し、追ってくるはずだー 28 イ
絞め殺されるのだ。 「ご心配なく。あなたは伏せていなさい」 そうは、させない。 山沢は京子に笑顔で答えた。 山沢は曲がり角に立った。 片倉は曲がり角を、タイヤを軋らせて曲がった。曲 がりながら強引にプレーキを踏んだ。 一升瓶に巻いた布は黒煙を吐いて燃えていた。山沢 車が横になった。まだ動いている間に、山沢は降りは、ちらっと地形をみた。急カープだった。カープを 曲がったところは道路が弓なりにそって、またつぎの カープにかかっている。右側は岩の壁がそびえ、左は 「突っ走れ ! 」 絶壁が口を開けていた。はるか底に谷川が真青な水を 山沢は怒鳴った。 車は後部を振った。振り戻したときにはするどいダたたえていた。瓶が熱くなった。 ッシュ・ 音がきこえた。すぐ傍だ。エンジンの唸りがきこえ カかかっていた。爆音が残って、あっという間 る。タイヤの軋む音も入った。 に視界から消えた。 来た。 山沢は曲がり角に走った。走りながら、ライターで 山沢は道路の中央に出た。燃え上がる一升瓶の真ん 一升瓶の布に点火した。拳銃はベルトに挟んでいた。 なにがなんでも連中を殺す。または喰い止める。その中を握って、頭上にかざした。一瞬の勝負になる。投 どちらかを成功させないかぎり、片倉夫妻はたすからげる前に拳銃弾を喰えば、それまでだ。一升瓶をかざ ない。確実に追い詰められて殺される。それも、無残した腕に山沢は必殺の気合いをこめた。 な殺されかたになるのは、目にみえていた。 音が高まった。何かを突き破る勢いで、自動車が曲 片倉はその場で射殺されるか、殴り殺されよう。だ がり鼻にのめり込むようにあらわれた。車体の前部だ なぶ が、京子は嬲り殺しにされる。五人の刑事は京子を山けだ。山沢との距離は四メートル。 中に連れ込むだろう。素裸に剥いて、そこで死の折檻車は急ブレーキをかけた。狼狽した寺町刑事の顔が かはじまる。さんざんな屈辱を受けたのちに、京子はみえる。だが、急。フレーキにも車は停まらなかった。 290
捜査員が今回の事件に興味を持つわけがお・ほろげにわ 「ないわけでは、ないでしようがね」 かりかけた。十年前の強盗事件と今回の事件が同じ手 片倉は、あいまいにうなすいた。 ロらしいという。しかし、ただそれだけの理由で、こ 「ところが、坂田を逮捕することに、われわれが待っ の織部という捜査員が自分を訪ねてくるのは、腑にお たをかけたのです」 ちない。どこかで織部は、自分の妻が今回の事件に重 「話は複雜になるが、じつは十年前にも同じ事件が起要な役割りを務めたことを聞き込んだのではあるまい ダウンタウン 、刀 きているのです。そのときは、下町にある江東信金が 襲われ、二千万近い現金が奪われました。そして、と「そのときの支店長も、今回の坂田良一も、アリバイ がなく、記憶がない点では、そっくり同じです。しか きの支店長がほとんど坂田とそっくりの供述をしまし た。やはり、アリ・ ( イがなく、その上、犯行当時にどし、たった一つ、ちがう点がありました」 」にいたのかの記憶もないのです。もちろん、警察は織部はタ・ ( コをくわえた。何かを探るような視線を 支店長を逮捕しました。徹底的に調べたのです。その片倉に向けた。 頃の調べがどんなものか、あなたには想像がつくでし「ほう : : : 」 よう。ところが、その支店長は強情な男で、否認を通片倉は視線をそらした。そらした視線の中には、ホ した。 , ・ーー結局、公判を維持できるだけの証拠がないテルの一室で坂田に抱かれたはずの、妻の姿態が、燃 ものだから、釈放せざるを得なかった。釈放はされたえていた。いったい、あのおとなしい妻が、なぜ、こ が、その支店長は馘になったそうです。その上、自分のような事件に捲き込まれたのか。 の不注意からだと社内責任をとらされ、家屋敷を売っ織部の含むものがぶきみだった。 「今回とちがって、江東信金に侵入した賊は、支店長関 て半額を弁償したときいています」 の電話での援助を受けていないのです。頑丈な錠前をの 「なるほど : : : 」 幻 コトリとの音もなく開けて侵入し、非常警報装置を切 ひくい声で、片倉は相づちを打った。方式の くび 0 ・
あれは八月のなかばだ。すでに二カ月近い日が経っ ている。その二カ月間の間に起きたさまざまな出来事 第七章幻術の闘い が思われた。家の応接間から一つの指紋を拾い、指紋 の主が下町の工員をしていたことを突きとめた。その 工員の女を洗い出し、権兵衛峠にある天地教の巣窟に 北巻病院は四階建ての総合病院であった。 北巻病院は通りに面している。道路の反対側は住宅乗り込み、筆舌に尽くしがたい屈辱にまみれた。 街であった。病院が玄関から全貌のみえる民家の二階どうにか、反撃に出た。 その反撃はまたもや巣窟にとらわれる結果に終わっ に、片倉と山沢は潜んでいた。その民家は、夫を失っ た未亡人が住んでいた。まだ四十前で、料亭で仲居をた。二度のとらわれは片倉に死に勝る苦痛を強いた。 とらわれの妻は、男たちの性の奴隷になりながら、夫 しているとのことだった。 高野芳江という女だった。芳江は一カ月十万円の家である片倉のふがいなさに絶望し、苦悶を強い、あげ 賃を払うといわれて、一にも二もなく二階を貸すことくは殺そうとさえした。片倉は、死の淵に引きすり込 まれながらも、どうにか生き抜いた。 に同意した。 ポロリとこぼれ落ちるべきいのちをとりとめたのは、 極秘が条件であった。 ひとえに復讐の念のゆえであった。復讐鬼が片倉の体 高野芳江の二階に潜んでから七日が過ぎていた。 片倉と山沢は交替で病院を見張った。双眼鏡で一瞬を支えていた。その復讐鬼はいまもいる。いや、片倉 の休みもなく、玄関を見守った。 の形をしているのはたんなる表皮たけであった。表皮 十月九日であった。十月はもうここでは冬の兆しが一枚下はすべて復讐鬼に変貌していた。それしかなか 濃い。コートを着ていても肌寒いほどだった。双眼鏡った。 いま、とうとう反撃に移ることができた。最初の報 を覗きながら、片倉は、妻の京子が謎の失踪をした当 復は北巻署の刑事たちであった。五人の刑事を谷底に 時のことを思っていた。 292