云う - みる会図書館


検索対象: 注文の多い料理店
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1. 注文の多い料理店

一郎はまるでその赤い眼に吸い込まれるような気がしてよろよろ二三歩そっちへ行きまし たがやっとふみとまってしつかり楢夫を抱きました。その恐ろしいものは頬をびくびく動か し歯をむき出して咆えるように叫んで一郎の方に登って来ました。そしていっか一郎と楢夫 とはつかまれて列の中に入っていたのです。ことに一郎のかなしかったことはどうしたのか 楢夫が歩けるようになってはだしでその痛い地面をふんで一郎の前をよろよろ歩いているこ いっしょ とでした。一郎はみんなと一緒に追われてあるきながら何べんも楢夫の名を低く呼びました。 けれども楢夫はもう一郎のことなどは忘れたようでした。ただたびたびおびえるようにうし 理ろに手をあげながら足の痛さによろめきながら一生けん命歩いているのでした。一郎はこの 蝌寺はじめて自分たちを追っているものは鬼というものなこと、又楢夫などに何の悪いことが 多 あってこんなつらい目にあ、つのかということを考えました。そのとき楢夫がとうと、つ一つの の 文赤い稜のある石につまずいて倒れました。鬼のむちがその小さなからだを切るように落ちま した。一郎はぐるぐるしながらその鬼の手にすがりました。 「私を代りに打って下さい。楢夫はなんにも悪いことかないのです。」 鬼はぎよっとしたように一郎を見てそれからロがしばらくびくびくしていましたが大きな 声で斯う云いました。その歯がギラギラ光ったのです。 「罪はこんどばかりではないそ。歩け。」 一郎はせなかかシインとしてまわりかくるくる青く見えました。それからからだ中からっ あせわ めたい汗が湧きました。 182 ならお

2. 注文の多い料理店

とですね。」 けっと・つ よしさあ、僕も覚悟があるぞ。決闘をしろ、決闘 「何だと、僕のことを云ってるのかい 「まあ、お待ちなさい。ね、あのお日さまを見たときのうれしかったこと。どんなに僕らは はがねっち 叫んだでしよう。千五百万年光というものを知らなかったんだもの。あの時鋼の槌がギギン たれ ギギンと僕らの頭にひびいて来ましたね。遠くの方で誰かが、ああお前たちもとうとうお日 さまの下へ出るよと叫んでいた、もう僕たちの誰と誰とが一緒になって誰と誰とがわかれな わか 理ければならないか。一向判らなかったんですね。さよならさよならってみんな叫びましたね 料 え。そしたら急にパッと明るくなって僕たちは空へ飛びあがりましたねえ。あの時僕はお日 多 さまの外に何か赤い光るものを見たように思うんですよ。」 の 文「それは僕も見たよ。」 「僕も見たんだよ、何だったろうね、あれは。」 大学士は又笑う。 「それはね、明らかにたがねのさきから出た火花だよ。パチッて云ったろう。そして熱かっ たろう。」 ところが学士の声などは 鉱物どもに聞えない 「そんなら僕たちはこれからさきどうなるでしよう。」

3. 注文の多い料理店

くれてやろうとおもいながら答えました。 しいよ。おれは町にはいったら、あまり 、よ。そんなに泣かなくても、 「支那人さん、もういし 声を出さないようにしよう。安心しな。」すると外の支那人は、やっと胸をなでおろしたら しく、ほおという息の声も、ほんほんと足を叩いている音も聞えました。それから支那人は、 た力い 荷物をしよったらしく、薬の紙箱は、互にがたがたぶつつかりました。 「おい、誰だい。さっきおれにものを云いかけたのは。」 四山男が斯う云いましたら、すぐとなりから返事がきました。 男「わしだよ。そこでさっきの話のつづきだがね、おまえは魚屋の前からきたとすると、いま ・山すずきびき 鱸が一匹いくらするか、またほしたふかのひれが、十両に何斤くるか知ってるだろうな。」 理「さあ、そんなものは、あの魚屋には居なかったようだぜ。もっとも章魚はあったがなあ。 あの章魚の脚つきはよかったなあ。」 多 文「へい。そんないい章魚かい。わしも章魚は大すきでな。」 注 「うん、誰だって章魚のきらいな人はない。あれを嫌いなくらいなら、どうせろくなやつじ ゃないぜ。」 「まったくそうだ。章魚ぐらいりつばなものは、まあ世界中にないな。」 「そうさ。お前はいったいどこからきた。」 しゃんはい 「おれかい。上海だよ。」 「おまえはするとやつばり支那人だろう。支那人というものは薬にされたり、薬にしてそれ きら ぎん

4. 注文の多い料理店

ずるそうに一寸笑ってこう云った。 「そんなら僕一つおどかしてやろう。」 兄のラクシャン第三子が 「よせよせいたずらするなよ」 と止めたが いたずらの弟はそれを聞かすに 光る大きな長い舌を出して 大学士の額をベろりと嘗めた。 士大学士はひどくびつくりして 大それでも笑いながら眼をさまし 寒さにがたっと顫えたのだ。 いっか空がすっかり晴れて まるで一面星が瞬き がんけ まっ黒な四つの岩頸が ただしくもとの形になり じっとならんで立っていた。 259 ちょっと ふる

5. 注文の多い料理店

『お前は狐だろう。』 『そうだ。しかしお前は大へん何か考えて困っているだろう。』 『いいや、なんにも考えていない。』その生徒が云った。その返事が実は大へん私に気に入 ったのだ。 『そんなら私はお前の考えていることをあてて見ようか。』 『いいや、いらない。』その生徒が云った。それが又大へん私の気に入った。 あさって 「お前は明後日の学芸会で、何を云ったらいいか考えているだろう。』 理『うん、実はそうだ。』 ひやくしよう 料 『そうか、そんなら教えてやろう。あさってお前は養鶏の必要を云うがいい。百姓の家には、 あわ キャベジ 多 こほれて砂の入った麦や粟や、いらない菜っ葉や何か、たくさんあるんだ。又甘藍や何かに の おおよろこ 文は、青むしもたかる。それをみんな鶏に食べさせる。鶏は大悦びでそれをたべる。卵もうむ。 大へん得だと斯う云うかいい。』 私が云ったら、その生徒は大へん悦んで、厚く礼を述べて行った。きっとあの生徒は学芸 もちろん 会でそれを云ったんだ。するとみんなは勿論と思って早速養鶏をはじめる。大きな鶏やひょ たくさん っこや沢山できる。そこで我々は早速本業にとりかかると斯う云うのだ。」 私は実はこの話を聞いたとき、どうしてもおかしくておかしくてたまりませんでした。そ の生徒というのは私の学校の二年生なのです。先頃学芸会があったのでしたが、その時ちゃ あ んと、狐に遭ったことから何から、みんな話していたのです。ただおしまいが少し違って居 212 きつね せんころ

6. 注文の多い料理店

はもう大びで木の下に行って木のまわりを烈しく馳せめぐった。 すると樹の上の熊はしばらくの間おりて小十郎に飛びかかろうかそのまま射たれてやろう か思案しているらしかったがいきなり両手を樹からはなしてどたりと落ちて来たのだ。小十 郎は油断なく銃を構えて打つばかりにして近寄って行ったら熊は両手をあげて叫んだ。 「おまえは何がほしくておれを殺すんだ。」 きも 「ああ、おれはお前の毛皮と、胆のほかにはなんにもいらない。それも町へ持って行ってひ どく高く売れると云うのではないしほんとうに気の毒だけれどもやつばり仕方ない。けれど もお前に今ごろそんなことを云われるともうおれなどは何か栗かしだのみでも食っていてそ の 山れで死ぬならおれも死んでもいいような気がするよ。」 と 「もう一一年ばかり待って呉れ、おれも死ぬのはもうかまわないようなもんだけれども少しし め残した仕事もあるしただ二年だけ待ってくれ。一一年目にはおれもおまえの家の前でちゃんと いふくろ 死んでいてやるから。毛皮も胃袋もやってしまうから。」 小十郎は変な気がしてじっと考えて立ってしまいました。熊はそのひまに足うらを全体地 面につけてごくゆっくりと歩き出した。小十郎はやつばりほんやり立っていた。熊はもう小 十郎かいきなりうしろから鉄砲を射ったり決してしないことかよくわかってるとい、つ風で、つ しろも見ないでゆっくりゆっくり歩いて行った。そしてその広い赤黒いせなかが木の枝の間 から落ちた日光にちらっと光ったとき小十郎は、う、うとせつなそうにうなって谷をわたっ て帰りはじめた。それから丁度一一年目だったがある朝小十郎かあんまり風が烈しくて木もか 299 おおよろこ ( 一四六 )

7. 注文の多い料理店

「どうです。飛んで行くのはいやですか。」 「なんともありません。僕たちの仕事はもう済んだんです。」 「恐かありませんか。」 え、飛んだってどこへ行ったって野はらはお日さんのひかりで一杯ですよ。僕たちば らばらになろうたってどこかのたまり水の上に落ちょうたってお日さんちゃんと見ていらっ しやるんですよ。」 「そうです、そうです。なんにもこわいことはありません。僕だってもういつまでこの野原 理に居るかわかりません。もし来年も居るようだったら来年は僕はここへ巣をつくりますよ。」 「ええ、ありがとう。ああ、僕まるで息がせいせいする。きっと今度の風だ。ひばりさん、 多 さよなら。」 の 文「僕も、ひばりさん、さよなら。」 「じゃ、さよなら、お大事においでなさい。」 奇麗なすきとおった風がやって参りました。まず向うのポプラをひるがえし、青の燕麦に 波をたてそれから丘にのばって来ました。 うすのしゅげは光ってまるで踊るようにふらふらして叫びました。 「さよなら、ひばりさん、さよなら、みなさん。お日さん ( ありがとうごさいました。」 そして丁度星が砕けて散るときのようにからだがばらばらになって一本ずつの銀毛はまっ てつほうだま しろに光り、羽虫のように北の方へ飛んで行きました。そしてひばりは鉄砲玉のように空へ 220 きれい いつばい

8. 注文の多い料理店

渡 雪 129 そこで三人は又叫びました。 よめい 「堅雪かんこ、凍み雪しんこ、しかの子あ嫁ほしい、ほし、。 すると今度はずうっと遠くで風の音か笛の声か、又は鹿の子の歌かこんなように聞えまし 「北風びいびい、かんこかんこ 西風ど、つど、つ、どっこどっこ。」 狐は又ひげをひねって云いました。 「雪が柔らかになるといけませんからもうお帰りなさい。今度月夜に雪が凍ったらきっとお いで下さい。さっきの幻燈をやりますから。」 そこで四郎とかん子とは 「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」と歌いながら銀の雪を渡っておうちへ帰りました。 「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」 ゆきわた 雪渡りその一一 ( 狐小学校の幻燈会 ) かみやま ( 七三 ) 青白い大きな十五夜のお月様がしずかに氷の上山から登りました。 かたこお かんすいせき ( 七四 ) 雪はチカチカ青く光り、そして今日も寒水石のように堅く凍りました。 やくそく 四郎は狐の紺三郎との約束を思い出して妹のかん子にそっと云いました。 きつわ やわ

9. 注文の多い料理店

茨海小学校 211 と - つもろこし ちかころさか に近頃盛んになったのは玉蜀黍です。これはけれども消化はあんまりよくありません。」 「時間がも少しですから、次の教室をご案内いたしましよう。」校長がそっと私にささやき へや ました。そこで私はうなずき校長は先に立って室を出ました。 ろうか 「第三教室は向うの端になって居ります。」校長は云いながら廊下をどんどん戻りました。 げんかんこ さっきの第一教室の横を通り玄関を越え校長室と教員室の横を通ったそこが第三教室で、 「第一二学年担任者武原久助」と書いてありました。さっきの茶いろの毛のガサガサした先 生の教室なのです。狩猟の時間です。 あいさっ 私たちが入って行ったとき、先生も生徒も立って挨拶しました。それから講義が続きまし しようれい 「それで狩猟に、前業と本業と後業とあることはよくわかったろう。前業は養鶏を奨励する こと、本業はそれを捕ること、後業はそれを喰べることと斯うである。 もはん くわ 前業の養鶏奨励の方法は、だんだん詳しく述べるつもりであるが、まあその模範として一 まつばやし せんころ 例を示そう。先頃私が茨窪の松林を散歩していると、向うから一人の黒い小倉服を着た人間 の生徒が、何か大へん考えながらやって来た。私はすぐにその生徒の考えていることがわか ったので、いきなり前に飛び出した。 すると向うでは少しびつくりしたらしかったので私はまず斯う云った。 『おい、お前は私が何だか知ってるか。』 するとその生徒が云った。

10. 注文の多い料理店

おきなぐさ 219 にかしげながら二人のそばに降りて来たのでした。 「今日は、風があっていけませんね。」 「おや、ひばりさん、いらっしゃい 今日なんか高いとこは風が強いでしようね。」 「ええ、ひどい風ですよ。大きく口をあくと風が僕のからだをまるで麦酒瓶のようにボウと 鳴らして行く位ですからね。わめくも歌うも容易なこっちゃありませんよ。」 「そうでしようね。だけどここから見ているとほんとうに風はおもしろそ、つですよ。僕たち も一ペん飛んで見たいなあ。」 も、つ二ヶ月お待ちなさい。、 「飛べるどこじゃない しやでも飛ばなくちゃなりません。」 こみようじん ( 一 0 五 ) とちゅう それから二ヶ月めでした。私は御明神へ行く途中もう一ペんそこへ寄ったのでした。 おか ひとみ 丘はすっかり緑でほたるかすらの花が子供の青い瞳のよう、小岩井の野原には牧草や燕麦 がきんきん光って居りました。風はもう南から吹いて居ました。 ふさ 春の二つのうずのしゅげの花はすっかりふさふさした銀毛の房にかわっていました。野原 のポプラの錫いろの葉をちらちらひるがえしふもとの草が青い黄金のかがやきをあげますと その二つのうずのしゅげの銀毛の房はぶるぶるふるえて今にも飛び立ちそうでした。 そしてひばりがひくく丘の上を飛んでやって来たのでした。 「今日は ししお天気です。どうです。も、っ飛ぶばかりでしよう。」 「ええ、もう僕たち遠いとこへ行きますよ。どの風が僕たちを連れて行くかさっきから見て いるんです。」 ビールびん