向かってきた。ジャコブとアフリカ人たちは、たった 今までぎっしり並んでいたのに、手品のような素早さ彼は驚いたような顔で答えた。 で消えうせていた。それももっともで、彼らは誰一人「ヘビには違いないよ。君は中に六匹いると言わなか として靴をはいていなかった。しかし、私にしても身ったじゃよ、 につけているのは半ズボンとサンダルだけで、とても「私はダンナに、ヘビが中にいると言いました。」 マムシの群とふざけ回れる服装ではなかった。その上、彼はむっとして言った。私は根気よく説明した。 私の装備は二つに割れたヒョウタンだけで、ヘビ一匹「私は君にどんな動物を持ってきたのかたすねた。そ にたち向かうにも役に立たないものだった。べランダしたら君は『ヘビだ』と答えた。六匹いるとは言わな をへビにまかせて私は寝室にとびこんだ。私は杖をさかった。私にヘビが何匹いるかわかるとでも思うのか。 がし出すとべランダに用心して戻り、ばらばらになっ私の眼には魔力があって、君が何匹のヘビをつかまえ た相手を一匹ずつ追いつめ杖でおさえ、檻の中に入れたのかわかるとでも考えたのか。」 ジャコ・フが論争の中に割って入った。 て、入口の掛け金をかけてやっと一息入れた。ジャコ ・フと一行は消えうせたのと同じくらいの早さで姿をあ「ハ力なやつだ。このヘビがダンナに噛みつきでもし らわし、しゃべり、笑い、さきほどの恐ろしい経験をたら、ダンナは死ぬそ。そしたらお前はどうするん 話す時にはもっともらしく指を鳴らしていた。私はヘだ。」 ビを持ってきた男を冷たい目でにらんで言った。 私はジャコブをつかまえてどなりつけた。 「君、どうしてあのヒョウタンの中には、ヘビがたく「お前が消えうせたので、お前がかえって目立ったそ。 さんいることを言わなかったのだ。」 この気高く勇敢なやつめ ! 」 「へエー、でもダンナ、ヘビが中にいると言いました 「ハイ、ダンナ。」 2 7
私は、前にカメルーンを訪れた時、何とかしてこのざと見せなかった。こういう事情なら、その若い猟師 動物を捕えたいと思い、さんざん努力を払ったが無駄がきかれもしないのに、その幻の動物を知っていると だった。その時、私は低地の森林で採集をしていたが、 さらに私はそれが欲しいのかときかれた時ほど、 猟師のだれもがその絵に描かれたカエルを知らないば興奮と驚きに襲われたことはないと十分に察していた かりか、そんなものは絶対にいませんとはっきり否定だけると思う。 したものだった。私がいるはずだとがんばると、彼ら 私は目標をつかんだ警察犬のようにふるえ、彼らに はまた例の白人の偏見が始まったとばかりに、あわれ くり返し質問をあびせかけた。三度目も答えは同しー むような目で私を見たものだった。第一、カエルに毛ーそいつを知ってます。確かに毛があります。つかま けもの のないことぐらい誰でも知っているではないか。獣に えやすいです 毛があり、鳥に羽毛があるが、カニルは皮だけなんだ。 どこにいるのかと聞くと、林にたくさんいるという そんな動物がいないとはっきりしているからには、ど意味で手をふり回して見せた。私はクラクラするほど んなに莫大な報酬を約東されても、探すだけ無駄なこ だった。どこにそのカエルがいるのか、具体的な場所 とだし、毛のはえたカエルなどは、伝説的な怪物でしを知っているのかと聞くと、 ( イ、三キロほど離れた かないというのだった。 所に小川があり、そこには夜になると数匹いるとの返 人私はその「ありもしない」両棲類を求めて、川の中事である。私はべランダにとび出すと、大声で叫んだ。 のを歩き回り、林の中で幾夜も疲れはてたが、ついに骨召使たちは寝ばけ顔で出てきてべランダに集まった。 折り損に終わった。猟師たちの言ったとおり、低地の 「この猟師は、このカエルがどこでとれるか知ってい フ ア森林にはいなかったのだ。私の夢は破れた。第二回のる。今からすぐに行って、こいつをつかまえるんだ。」 旅行の高地でも同じことかと思って、私はその絵をわ「今、すぐにですか。」 まぼろし
がすと他の客が迷惑しますから。」 私はハッチ・カバーを突進して行き、彼が跳躍しよう 彼は目玉焼きをえぐりながら明るく言った。 と身構えた瞬間、やっとその尻尾をつかんだ。キイー 「いや、そんなことは決してさせません。」 キイ 1 と怒り狂う彼を檻に押しこむと、私は胸をなで その私の言葉の終わらないうちに、私は舷窓の一つおろして食堂へ帰って行った。 に動く物を見た。リスのスウィーティー パイの顔が 航海の三日目にイデウルスの二匹が死んだ。私は暗 のぞいていた。彼は窓に止まり、やさしい目で広間の い気持ちで死体を調べていると、船員の一人が顔を出 内を検分していた。もちろん、船長には背後一メートし、その小さい動物はなぜ死んだのかとたずねた。私 ルほどの窓にいるリスは見えなかった。船長は次第に はくわしくワニナシのないことの悲劇について説明す ロ数が多くなり、うまそうに料理をかたずけながら、 ると再びたずねた。 気持よさそうにしゃべっていた。その間、スウィ 「ワニナシって、どんな果物ですか。」 ティ ・パイは、後脚ですわってひげの手入れをして 私が黙ってしなびたのを一つ見せると、 いた。やがてスウィーティ ・。ハイは顔も洗い、身づ 「ああ、それですか。それがどうしても入用なんです くろいもすんで、どこから広間におりてやろうかとあ か。」 たりをうかがい出した。 私はしばらく口もきけずに彼の顔を見つめた。 人やがて彼が窓から船長の肩に飛びおりるのが一番早「この果物があるんですか。」 いと決めたことが、私にははっきりわかった。私はす私は、ついにたずねた。 リぐさま行動に移った。小声で「失礼」と言うと、でき「ええ、持っているってわけじゃないんですが、いく アるだけの早さで外へ出た。見るとスウィーティ らかはあげられると思いますよ。」 イの房々した長い尻尾が舷窓の外にたれさがっている。 夕方、彼は両のポケットをふくらましてあらわれた。 ノ 55
の友人は黙って通りすぎてしまった。私はだれだか推ろを知っているからー・ー」私は、よくこういう話し声 を聞いた。・ハディの「覚力」は、みんなを驚嘆させた。 測できたが、私も沈黙を破るのを拒否した。 目が見えす、したがって音には敏感なので、私には お互にすれちがい、無視し合う三日間がすぎた日、 ・ハディはつかっかと歩いて行って、その男のまん前で、どうやってそれを知るのかがわかった。私たちの停留 なんの命令もしないのに、きちんと「おすわり」をし所のちょっと手前で、電車が閉鎖した転轍機の上を通 こ 0 るとき、特別なカタンカタンという音を出すことを知 った。この音を聞くと、・ハディは起き上がった。パ 「ふたりともいいかげんにばかはやめて、仲直りなさ ディは、私に対してたくさんの秘密をもっていた。し い」彼女は明らかにそういったのである。 かし、私は今日まで、その一つであるこの秘密をばく われわれは笑い出さざるを得なかった。たしかに、 しいセンスをろしたことはない。 バディのほうがわれわれふたりよりも、 ・ハディの業績はたちまち町じゅうの話題となった。 持っていることを認めざるを得なかった。その後ふた 彼女の名声は、常に彼女に先行した。あるとき、通り りは大の仲好しになった。 ウエスト・ニンド電鉄には、特別の許可で乗車を許を横断しようとしたら、八つばかりの男の子が、手を 引いて向こうへ渡してください、と私に頼んだ。もち されていた。・ハディは、下車する停留所をちゃんと知 っていて、ほかの乗客を喜ばせた。ま「暗やみで、なろん私はうれしかった。向こう側に着いたとき私は聞 をんの目標さえ見えない真夜中でも、いつも下車する停いた。 光 「さあ、来たよ、坊や。だけど、坊やはなぜ目の見え 所の近くへくると、運転手の横で寝ていたディは、 の起き上がって私のところへくる。だれもが、ひどくおる人に頼まないで、目の見えないぼくに頼んだの ? 」幻 「・ほくこの大のこと、よく知ってるの。この大といっ もしろがる。「あの大を見ていてごらん、降りるとこ
私は説明した。 はなく、真剣勝負なのだった。もし迷い子になってし 「まあ、かわいそうに いつまでも老処女なのね、 まったら ? 床屋が見つからずに、ひげぼう・ほうのま 私みたいに」と慰めるようにいっこ。 まというだけではなく、打ちひしがれて帰ってこなけ 「幸運の園」に来てから数週間すぎたある朝、私はユればならないとしたら ? 村の店の前を過ぎるとき、私は歩道の縁石をていね ースティス夫人にいっこ。 いに勘定した。鶏のなき声が、養鶏所の曲り角を教え 「髪を刈りたいんだけど、ジャックに床屋に連れて行 てくれた。私は左へ折れた。こうばしい。ハンの香りで ってくれるように、頼んでもいいですか ? 」 パン屋のとこへ来たのを知った。大丈夫、道をまちが 「ひとりでいらっしゃい。大がいるじゃないの」 えてはいない。 なんという挑戦だ ! ひとりつきりで、門を出て、 ! 」私は命じた。 町を回ってまた門まで帰ってきたことは、まだ一度も「右へ、 なかった。手のひらが汗ばみ、興奮でからだじゅうが と、突然べイラムが天の香りのようににおってきた。 熱くなった。ジャックにたよらずに、自分の意志で外そして床屋のおやじの陽気なあいさっ だんな 出する最初の機会だ。 「旦那、お早ようございます」 「ハディ、進め ! ー私の声は鳴り響くようだった。 長い床屋商売を通じて、いつもお客にあいさつをし 門からケープル・カ 1 へ、そしてヴェヴィーへともつけているのだろうが、このときのおやじのあいさっ をう知りつくしたいつもの道を、バディといっしょに進ほど、うれしそうなあいさつはなかった。 がむにつれ、私の感覚は鋭くなるような気がした。私は まるでリツツ・ホテルの有名な理髪師が、特別に私 の出口のわからない迷路をウロウロする子供になったよのための刈り方をしてくれたような、楽しい散髪たっ 2 うな気がした ただちがうのは、これは遊びごとでた。わが友パディと私は、翼にのって飛ぶような勢い だいじようふ
あくる朝、雪をいただいた山々から吹きおろす冷た「その引き具の取手を左手に持って、・ー・・・大は必す君 い風は、私を毛布の下にもぐりこませ、目ざめをしぶの左側を歩く、君と通行人とのあいだを、ね」 ジャックは、静かなしつかりした語調で、 らせたが、そのとき、暖かい舌が私の顔をなめまわし た。とたんに私は、あっ、スイスにいるんだ、ここは「両肩を引いて ! 兵隊のような歩調で歩く ! 」とい った。さらにつづけて、 ベルラン山の山頂だ、そしてパデイだ ! と気がつい た。過ぐる二、三週間に起ったことのすべては、決し「さあ、進め ! と命令しなさい。命令は、はっきり と。そして犬がそれに応じたら、ほめ言葉をかけてや て夢ではなかったのだ。 起き上がって着物をきかえた私は、パディを連れてりなさい」 外側の階段をおり、裏庭に出、朝の用足しをさせてや胸をはすませながら、私は引き具をつかんで、やや った。それからパディと私は、食堂へ行ったが、食堂ふるえ声で、 ではもうみんながレマン湖を見はるかす広い窓のかた「進め ! 」といって、「いい子だね ! 」とつけ加えた。 わらの朝食のテしフルを囲んでいた。アル。フス地方独引き具の取手は、ほとんど私の手からとび出さんばか りだった。私たちは、ただもう門のところまですっと 特の濃いクリームをかけた、おいしい野生のイチゴと つよいプラック・コーヒ ] がすむと、ジャックはいすんで行った。門の前でパディはピタリと止まった。一 瞬、私は前後によろめいて、もう少しで。 ( ランスを失 を押しのけて、 うところだった。 を「さあ、モリス、仕事始めの時間だ」といった。 光 「門のかけ金のあり場所を教えているんだよ」と とうとう私の訓練が始まるのだ。私は部屋に戻り、 のパディに引き具をしつかりつけた。そして玄関でジャックがいった。 こ ・ハディの頭に手をやって、鼻先のほうにずらして行 ジャックといっしょになった。 9
みたくない思いを、ほとんどたえることができなかっ た。だれかに連れられて下町へ行き、町角で「ちょっ と待っておいで」といわれて立たされ、その用足しが 一時間の四分の三もかかるというような日常は、私に とっては苦悩そのものだった。友人たちは家族同様に すばらしかったが、待たされることにおいても同断で 新聞や雑誌が、・ハディに関する記事や物語や写真な あった。 どを全国にばらまきはじめると、多数の盲人から手紙 一ばん悪いのはころぶことだった・・・ーーいすにつまずが来た。なかでも、・・・フレア牧師からの手紙に くとか、わずか一、二段の踏段につまずくとかしてー は心を打たれた。師は、マラリアのため、三年ほど前 。そして、私は傷つかなかったとみんなに保証しな に失明したのだ。 ければならない。肉体的には、私は傷つかないでも、 「私は現在、点字も読めますし、タイプライターも 心のうちのすべては傷ついた。 たたけます。しかし、教区の人々を訪問することが 私の無力の悲惨な、これらの実証は、いまやまった できません。最初は妻が連れていってくれたのです く過去のものとなった。それに代って、パディは私に、 が、これまた病気のため、一年半以上も寝たきりな 自由、友誼、愛情、そして自尊心をもたらした。 のです。娘は、小児麻痺のため不具で私の訪問の手 助けはできません。このように、私の仕事はひどく 妨げられているのです。あなたのお話を読んで聞か せてもらったとき、私もそのような助力を得られな いものかと思いました。もし教区内を連れて歩いて 五盲導犬学校設立さる 2
すと、噛まれた親指をぎゅうっと押した。傷口からう見ると噛まれた場所から一センチほどもずれているの っすらとにじみ出る血を見つめながら、私の頭の中に だった。もう一度思いを新たにしてやったが同じ事で、 は三つの事実が走馬燈のようにかけめぐっていた。第こんな調子ではヘビの毒で死ぬ前に自分での応急手当 のために出血死してしまうんじゃないかと思って憂欝 一に、カメルーンには毒蛇血清のないこと。第二に、 一番近くの医者は約五十キロ離れた地点にいること。 になるのだった。私はヘビに噛まれた時の応急手当の 第三に、その医者のもとに行くすべのないこと、であ方法を書いてある本を思い出して恨みたくなった。ど った。そんなことを考えると、私は気分が悪くなった。の本にも、噛まれた部分を牙の刺さった深さまで切り 私はたたせい一杯のカで親指のつけ根を握りしめ、傷広げると書いてあったはずである。全く言うはやすく 口を強く吸いつづけるだけだった。見回すとジャコプ行なうはかたしである。いざ切開する親指が自分のも の姿はなかった。私が腹立ちまぎれにどなろうとしたのであってみると、うまくできるのは全く別問題にな ってしまう。 時、彼はカミソリの刃と紐を持って、あたふたとべラ いずれは噛まれた所にうまく当たるたろうと一寸刻 ンダに戻ってきた。私のガミガミ命令するとおりに、 彼は紐で手首と前腕とをできるたけきつく縛った上で、みに指を切り刻み続けるのがいやなら、すべき方法は 一つしかなかった。私は親指のはらに刃を慎重に当て 妙な身振りをしながら、私にカミソリの刃をわたして ると、歯をくいし・はって思いきりカを入れて引いた くれた。 私には、我が身をカミソリで切るのにどれほどの思今度はうまく行き、血はあちこちへ流れとんだ。次に いきりがいるものか、その刃がどれほど切れるものなすべきことは、私の記憶では過マンガン酸カリをつけ のか、ぜん・せんわかってはいなかった。ちょっとためることたった。ばっくりと口をあけた傷口にその結品 らったあとで私は思いきって指に傷をつけたが、よくをふりかけると、私はきれいなハンカチで傷口を包ん 8
の経験はまったくなかったが、バディが壇上のそばに この親善は、私を落ち着かせ、うまいスタートを切る ことができた。 いてくれるので、私の聴衆は喜んで聞いてくれると私 は確信した。 「盲導犬学校」連営の説明にはいる前に、私は視力の 第一回の出演のことは、決して忘れないだろう。そある人の態度が、盲人にいかに絶大な影響を与えるか という事実を語る機会を得たのは、まことに幸福であ れはケンタッキー州ルイスヴィュ市の国際ライオン ズ・クラブで開催され、実に七千五百人の聴衆が集まる、と私は前置きした。私は彼らに要望した。 った。たくさんの声のさざめきが、興奮とともに次第「盲人に対するときは、声も態度もごく自然にしてく に大きくなるのを聞いているうちに、私はすっかり上ださい。同情はやめてください。盲人に面と向かって、 がってしまって、いささか気が遠くなりかけた。とこ同情を明らさまにいうことも禁物です。世話を焼きす ろがパディは落ち着きはらったもので、まるで劇場用ぎてはいけません。彼自身の力を使えるようにしてや ってください。快活に、しかしにせの快活はだめです。 のトランクのなかで生れた楽屋っ子みたいにふるまっ ていた。彼女の舞台度胸は、私が上がっているのを埋あなたの友人が視力を失う以前と同様、『読む』とか め合わせて十分だった。興奮でりこうそうな目をばち『見る』とか同一の表現を使ってください。 つかせながら、敏活な頭を高く上げ、ディはまっす「私自身は、ふつうの意味で『見えない』とは、決し て思っておりません。私は、心の目で見る能力を信じ ぐ背をのばしてきちんとすわっていた。 紹介の辞の最後で、司会者が私の名前を紹介し、会ています。白亜の建物に輝く日の光、緑色のよろい戸、 場一ばいの大聴衆がかっさいするのを聞いたバディは、樹や小鳥を心に浮べることができますーーーときどき、 活発なほえ声をあげてその歓呼に参加した。喜んだ聴私は見向こうともしないで人生を盲進する人たちより 衆は、万雷のような歓声をあげた。脚光灯をはさんだも、もっと多くのものを『見ている』のではないかと 348
のみじめな失敗に腹を立て、彼らを解散させると食事私は、両の手を広げて見せながら、きつばりと言っ た。お供の連中は、それを聞くと驚異の吐息をもらし に帰った。 その夕方、五人のお供を引ぎつれたフォンが、ジンた。フォンは、身をそらし大きく目をみひらいて私を を一本かかえてやってきた。我々は月光の下のべラン見つめた。 ダで、とりとめもない話にふけった。そのうち、フォ 「それで、いつ、どうやってつかまえました。」 ンはそっと椅子をずらすと、私の方に身をのり出し、 「あいつは、私に噛つきましたよ。」 フォンのお供がいっせいに唸った。 大きな白い歯を見せ、愛きようのある笑いを浮かべて ささやいた。 「ここですよ。ここを噛まれたんです。」 私が手を差し出しながら言うと、フォンは。ヒストル 「あなたがケ・フォン・グーをつかまえたと誰か言っ をつきつけられたかのように顔をそなけた。やがて安 てました。本当ですか。」 「本当ですよ。あれはすばらしい動物ですね。」 全距離をとると、彼と五人のお供は、熱心に話しあい と、私はうなずいた。 ながら私の指を調べるのだった。フォンがたずねた。 「どうして、どうやってあなたは死なないんですか。」 「その男は、あなたが素手であいつをつかまえたと言 ってましたが、うそでしようね。ケ・フォン・グーは 「死ぬ ? なぜ私が死ぬんですか。」 私は眉をひそめて聞き返した。フォンは明らかに興 人恐ろしいやつです。素手でつかまえるなんて。できっ のこありません。そんなことをしたら、たちまち死んで奮して、ロ早に言った。 「あいつは危険な動物です。あいつの噛みようはひど しまいますよ。」 フ いものです。黒人があいつをつかんだらすぐ死にます。 いえ、その男の言ったことは本当です。私は、こ あなたは、どうして死にもしないでいるんですか。」 の手であいつをつかまえたんですよ。」 9