私 - みる会図書館


検索対象: 現代世界ノンフィクション全集10
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1. 現代世界ノンフィクション全集10

て右の目を奪われた。それから、十六歳のとき、拳闘になれるーー・朝のくるのを待ちかねて眠りもやらず、 0 の試合中に不連の一撃を受け、二日ののちにはなにも私はこう考えた。アメリカ全国には、盲目の牢獄を打 見えなくなってしまった。さて、無明の四年間ののちち破る熱意に燃えた私のような青年が大勢いるにちが に、盲導犬という考えが、永遠に私には閉ざされたと いない。盲導大こそは、私たちみんなを解放してくれ おそれていた視界をひらいてくれた。 るのだ。 私は、自由に町を歩いている自分の姿を心に描いた。 日が上るやいなや、私は「サタディ・イヴニング・ 保険勧誘の仕事でお客様のところへ行くのにも、おポスト」誌気付で、ユースティス夫人に手紙をつづっ しゃべりな、気の合わない案内人のやっかいになるこ た。私がロ述するのを、父がタイプしてくれる。私は ともあるまい。私はひとりで学校にも行ける。女の子こう頼んだ とのデートもできる・ーーそれも付添人っきのダブル・ 「あなたのお書きになったことは、ほんとうのこと デ 1 トではなしに。 なのでしようか ? それなら、私はそのような大の というのは、女の子とどこかへ出かけたとき、私は 一匹がほしいのです。いや、私ひとりではありませ 付添人がいっしょに彼女の家の戸口までおくって行き、 ん。私と同様に盲目の何千人もの人々が、他の人た そこでおやすみのキッスを私がするということになら ちにたよらなければならないのを心の底からきらっ なくてもすむわけだ。私は私の犬といっしょに彼女を ております。私に手をかしてください。そして私は おくって行く。大が戸口の階段をかけ上って私を導い 他の盲人たちに手をかします。私を訓練してくださ てくれる。そこで私は「おやすみ」と彼女にいって、 、。そうすれば私は大を連れ帰って、この国の人々 まるでふつうの人のように私の車で帰ってくる。 に、盲人がいかに完全にびとりだちできるかという ことを見せてやります。それから、われわれはこの 視力を失った人のだれもが、またもとのふつうの人

2. 現代世界ノンフィクション全集10

私は答えなかった。ジャックは、さらに言葉をつづたまらないホームシックの念にかられた。 けて、 すると、私が打ちひしがれているのをまるで知って 「君がアメリカに帰れば、もう・ほくはいないんだよ。 いるかのように 、バディはべッドわきの自分の寝場所 君の将来は、君自身の考え一つだ」 から起き上がり、掛けぶとんの上にはいあがって、私 私が気がっかなかったほど静かにドアをしめて、彼のくびのうしろに鼻をすりよせ、びたりと私にすりよ は出て行ってしまった。私は、まったく恥ずかしかっ るのであった。そして、満足と友愛の低い、長いうな た。ジャックは不親切ではなかった、私は自分にいし り声をたてた。 聞かせた。彼は、絶対に正しかった。 彼女のあたたかい愛情が、私の精神状態を一変させ その晩へ 、。ッドにもぐりこんだ私は、さびしく、やた。朝のことをふりかえってみながら、それほど不出 るせなかった。結局私が犬の使い方を覚えられなかっ来ではなかった、と私は思いかえした。それどころか、 たら、どうなるのだろう ? 私の集中力がそんな貧弱後半はかなりうまくやれたんだ。ジャックもいった だったらどうなる ? ・ハディと交流し合えなかったじゃないかーーー「助手なしの最初の外出としては、か ら ? 失敗を認めて、ナッシュヴィルに帰る私は、まなりの出来だよ」 さにばかそのものだろう。私が手をかそうと考えた他 一ばん重要なことは、私さえ自分の役目を忠実に果 の盲人たちは、私がやってみたことさえ知らずにすんせば、ふたりは安全に歩ける、ということをパディが 教えてくれたことだった。私の悩みは去った。ディ をでしまうにちがいない。 光 うちから遠く離れていてひとり・ほっちだ、という思に寄りそう心地よさのうちに、私は眠りにおちた。 の その夜、ふたりの盟約が生れたーーひとりの人間と いが非常な勢いで、私を襲った。広い大洋と異国が、 一匹の犬の。その人間にとってその大は、解放を意味 私を愛するものたちから隔てているのだ。はじめて、

3. 現代世界ノンフィクション全集10

この手紙で、母も私に旅行させることに同意した。 二週間後、私はユースティス夫人から、その晩電話 をかけるという電報を受け取った。その時刻が近づく につれ、うちじゅうの興奮はいやました。私は電話器 のすぐそばに腰かけ、ジリジリしながら待っていた。 とうとうべルがなった。私は歓喜にとびあがった。私翌年の四月ーーーまるでアメリカン・ = クス。フレス扱 の耳の底にひびいてきたのは、落ち着いた品のいい声いの小包のような状態で、私はスイスへ旅だった。こ の体験は、私を怒らせ落胆させた。そして人にたよる 「モリスさん、あなたはまだ犬を捜しにスイスまでおことをいっさい止めたいという私の決心を、ますます 出かけになる気でいますか ? 」 固めさせた。 私は、のどがつまって返事ができなかった。その天私の係のステ = ワードは、特別気のきかない男だっ の声は、静かにつづいた た。侍者というより、船員の服を着た典獄だった。朝 「目の見えない人には、ずいぶん長いひとり旅です食に連れにきてくれるまで、私は毎朝外から錠をおろ よ」 された船室の囚人だった。私がコーヒーをのみおわる た 私は声をはげまして叫んだ。 ゃいなや、彼はまた私をもとの独房に連れ戻すのだっ え 与「ユースティス夫人、独立をとり戻すためには、私は 光 地獄へでも行きます ! 」 十時になると、私をデッキに連れ出し、まるで馬を の 訓練するように組織的に私を運動させた。それがすむ 2 と、私はデッキ・チェアにまかされる。やさしい同船 こ こ 0 二スイスへの旅

4. 現代世界ノンフィクション全集10

いまま るこんな美しい動物を手に入れることができたら、ど出来事は私ひとりの上にだけ起ったので、 こへ遊びに行こう、何をしようと夢をみはじめました。でのように、私と私の連れの上に起るのではなくなっ たからです。 『レイデイ』を手に入れてから、私の夢が小さすぎた ことを知りました。『レイデイ』が私につくしてくれ私は、職業学校に入学して、タイプライターとディ る能力を、想像さえもできなかったのです。 クタフォーンの扱い方を習うことにしました。自分ひ 一個人としての私の新しい身分を、最初に啓示してとりの考えでそう決め、レイディとふたりだけで手続 くれたのは、ある電話でした。ある朝、この町の百貨きをしに行きました。その学校を修了しましたので、 店の婦人店員が、私にーー・私を名指してですよーー電私は仕事を捜しに歩きまわりました。私が仕事をやっ 話をかけて来ました。『アンヌさん、いまドレスが新て行けるということを、雇主に信しさせるのは、骨の しく入荷したところです。そのなかにうすい褐色の色折れることでした。とうとう私は、ある小さな製造工 あいのがあるんです。私はレイディちゃんの毛色と、 場の所有者ロジャースさんという人に、もし機会さえ とてもよくうつると思うんですけど ! 』 与えてくれれば、一カ月間は無給で働く、一カ月後も これが、私への直接の通信のはじまりでした。電車し私が役に立たないとお考えなら、そのままやめても のなかでは、大の名前や年や、どこで手に入れたのか、結構です、と申しました。 一カ月はたちましたが、私がやめようと思っても、 さまざまの質問をあびせかけられるようになりました。 を私を長い年月のあいだ閉じこめていた沈黙の壁は、ややめられるどころではありませんでした。ロジャース がぶられたのでした。夕食のとき、私は、みんなと同じさんは、毎朝私のデスクにやってくるのです。といっ のように、その日の経験を話すようになりました。そしても、別に私に話があるというわけではなく、『レイ 3 て、自分の話し方で話すのです。なぜなら、その日の デイ』に、お早ようをいいにくるのでした。『レイデイ』

5. 現代世界ノンフィクション全集10

ことができた。秋の枯れ葉が、おだやかに舞ってやが なくなったのが、嬉しかった。 6 て私たちの通り道に落ちる、その葉の色さえ見えるよ 知らない人も、気楽に私に話しかけた。以前は、た引 うな気がした。 とえば電車の停留所などで、お互に知り合いでもない 市中であれ郊外であれ : ( ディの自在なること、いさ目あき同士が、気軽に語り合うのを、私はどんなにう さかの変るところがなかった。私たちが下町の街路をらやんだことだろう。お天気だとか、何かごくつまら 自山にとっとと歩いて行くと、ナッシュヴィルの人た ないことをとり上げて、片方が話しかけると、たちま ビフォア・六デ ちはびつくりするのだった。「・ pa こ パディ以ちふたりの会話がすべり出す。私も仲間に加えたかっ 前ーーー身近な人たちをのそいては、私を知る人はごく たのかとも思うが、彼らは私の注意をひく方法を知ら 少数だった。私のうちからちょっと離れたところで、 なかった。私をのけ者にする失礼をしたくなかったの 私が歩道の外へそれて歩き出しても、私を名前で呼びかもしれないが、私が盲目であるのを知りながら、私 かけてくれる人は、ほとんどなかった。窓のなかから、を仲間人りさせるにはどうしたらいいのか、知らなか 通行人に「あの肓目の子を歩道に戻してやってくださ っただけた。パディといっしょにいれば、 い」と頼んだりした。 「なんてかわいい大だろう ! 」 いまでは、 とロ火をきるのは、世界じゅうで一ばんやさしい 「やっ、あすこにモリスと大がやってくる」というのまた最も自然なことだった。私が犬の名前を教え、ど を私は聞く。 んなにりこうかを説明すれば、もう会話は、、ハディのし つぼと私の舌が振れるだけの早さで進行して行く。 「モリス ! 」私はふたたび、自己生得の権利を持フ一 個の人格に帰った。私はふたたび自分の名前を持った 私は幸運たった。私が得つつある友人のほかに、 ほかの通常人と同じように。「あの盲目の子」でナッシュヴィルには誠実な旧友がいた。六人ばかりの

6. 現代世界ノンフィクション全集10

与えよ」 しの字が目の前に、ちらついた。「非運フランク氏を ようやくのことで渡りきった私は、バディをかたく捕う ! 」 抱いて、そこへすわりこんでしまった。精も根もっき立ちすくんだ私のすぐそばで、怒声が爆発した。 果たのである。角に立っていた交通巡査がそばへ来て、 「ばか運転手め ! も少しであの婦人をひくところだ 「へえッ 君が目が見えないとは知らなかった。気ったそ ! 」 と、つこ。 が狂ったんだとばかり思っていたよー あの・フレーキの音は、私に捧げられたものではなか よろしい、気が狂っていようがいまいが、バディと った。「運」は、私に忍びよるどころか、私の味方だ 私はふたりきりで戦いぬいたのだ、と私は考えた。私った たたえられてあれ ! そしてバデイも ! は大きな教訓を得た。緊急の場合には大にたよれ。私私がどんな危機を一髪の間にきりぬけて来たか、ま は、大こそたよりになることを知る。人間についてはさに追いつめられるところをどういうふうにのがれた 知らない。 か、いつでもみんなが私に説明してくれた。しかし、 バディといっしょの私は、いまだかってかすり傷さえ もう一度恐ろしい目にあったことがある。二十三丁 受けない。 目通りと三番街との十字路を横断したときであった。 まだ高架線も路面電車もあったころだが、それがいっ ウィリイおじさんが、。ヒッツバーグにいた私に電話 しょになってかきたてるこの町角の騒音ときたら、歩をかけてきた。私の声を聞いた彼は、「ああ、神様 ! 」 行者の心臓に恐怖をまともにぶち込むほどだった。車といきなりいった。私がトレーラーに衝突し、二十ャ 道に一歩はいったとたんに、その大騒音をつらぬいて、 ード引きずられ重傷たという通知を受けとったばかり こまく だというのだった。 自動車のブレ 1 キの叫喚が私の鼓膜を破らんばかりに 響いた。「もうおしまいだ」と私は思った。黒いみだ私の死の報道が、私に届いたことは無数である。ま 408

7. 現代世界ノンフィクション全集10

カリフォルニア州のある海軍航空基地病院で、私はやつのみそおちのあたりを突いて、 「設備を利用する」チャンスを与えるため、パディを「君、そこをどかないか。もう司令官がくるんだ。用 連れて外へ出た。大と盲目に関する兵隊たちのあらゆがおくれちまうじゃないか ! 」といってやった。 る種類の質間には、私もいまではすっかり慣れつこに 私が映写機の組立を終ると、当直将校がつぶやいた。 ジー・アイ なっていた。ところが、このときの男は私につきっき「民間人でよかったね、君。・—だったら、将官を りで、私がヘト〈トになるまで尋問した。それは、おこづいたというんで、軍法会議ものだ ! 」 よそ四十五分間もつづいたろう。ようやく帰れそうに 全国屈指の多数の眼科医が、これらの病院で働いて なったので、私はその水兵に向かって、 いた。彼らの業績は絶大であった。目医者といえば、 「ねえ、君、これで君の小さな胸の知識欲は満足させ私を案内してくれたひとりが、 られたろう ? 「フランクさん、私がバディをよけても気にかけない でください 私は、どうも犬がこわいんで」 大廊下にはいると、当直士官がいった。 私の答えは手際がよかった、と私は思った。 「いや、大層長い提督ご訪問でしたな ! 」 これは私にいい教訓を与えたとお思いだろうが、私「かまいませんとも。私も目医者がこわいんです」 はすごく物お・ほえが悪い。数週間後、東へ向かって大ところが、彼の答えはさらにすばやく、しかも要領 陸を半ば横断し、そこの大きな陸軍病院に行ったときを得ていた。 のことである。そこの職員相手に講演するので、例に 「だけどフランクさん、私はまだ目医者にかまれたこ よって映画を使おうと思って、ベル・アンド・ ハウ工とはありませんよ ル映写機を調整していた。ところが、何度でも私につ 私の自足経済に対する真の挑戦は、ようやく旅行も き当るやつがいる。とうとうたまりかねた私は、指で終ろうとする頃に襲って来た。猛烈などしゃぶりのな

8. 現代世界ノンフィクション全集10

米最優秀の選手のひとりのようだった。 段の寝台に寝ていた私を、車掌が起しにきた。 ディは、大成功をおさめた。フィラデルフィアを「大が放れてしまったんです。どうかつないでくださ あとにするころには、同市のあの有名な「友愛」の大い」 部分を、運び去ってしまった。 私は、ぶスロ 1 ブを引っかけてスリッパをはき、せ シンシナティ市のシントン・ホテルにつくと、ここまい通路をすこぶるあやしげに歩いて行った。パディ では私の家を知っている人がいるという幸運にめぐまは、大喜びで私を迎えた。まるで何日も会わなかった れた。母の伯母にあたるやさしい老婦人の招きをうけようなはしゃぎ方だった。私が抱きしめているうちに、 たのだ。私たちが、その玄関の踏段を上ろうとすると、車掌はどこかへ行ってしまった。私がバディをつない 「モリスや、犬は外において、あなただけはいっておで、寝台に帰ろうとすると、かの悪漢めがみごとに私 いで ! 」と彼女は叫んだ。 をとじこめてしまったことを発見した ! 私はすわり 彼女のこうした態度に、私はわれにかえって、私の場所を捜したあげく、壁ぎわに細長いぐあいのよさそ とりかかった仕事の重大さを思った。盲導犬の真価をうな箱があったので、ようやく身を横たえた。。ハディ 認めさせるのには、私たちはまだほんの表面を引っか は私のそばに寄りそった。汽車がルイスヴィュにとま いたにすぎなかった。私の両目をポーチにおきつばな ったとき、数人の人が荷物車にはいって来た。だれか しにする、まったくそのとおりだ ! 「ハディがいなのお棺の上に寝ていたのだと教えられて、私は恐怖に ければ、モリスもいません」と私は説明した。そして、震えた。 私たちは愉快な訪問の一刻を過ごした。 あまり恐ろしかったので、停車中に私は・ハディを連 シンシナテイからの汽車では、なんと抗議しても、れて汽車を降り、。フラットホームに出てしまった。・そ ・ハディは荷物車にのせられてしまった。真夜中に、下して。フルマン特別車をやっと捜し当て、乗ってしまっ

9. 現代世界ノンフィクション全集10

ジャックは、もうすぐそばについていないでも、私 父と母へ、私はうれしい便りを書いた 私はもうどこでも私の 「考えてごらんください たちふたりがヴェヴィーの町なかを歩きまわるのを安 好きなところへ行けるようになったのです。ご承知 心していられるようになった。 のように、視力を失ってからの四年間、私はただの 丘からケーゾル・カーで町までおりると、ジャック 一度も泣いたことはありませんでした。ですが、こ は私たちをふたりだけで行かせるようになった。 の犬が私たちのそばを、びゅーびゅー通り過ぎる自 私たちは、この小さな町のごろた石の歩道街ではも 動車のなかを、安全に町の向こう側まで私を導いて うおなじみのふたり組たった。そしていつもたくさん くれるとき、私は歩道にすわりこんで、犬のくびを のあいさつを受けるのたった。今では私も郵便屋さん や花売りの婦人や下っ端の憲兵などのひとりひとりの抱いて、泣き出したいと思うだけです」 アメリカじゅうの全盲人も、いまにバディのように 「今日は」を区別できるようになり、それそれふさわ 身を守ってくれる友だちを持っことができるようにな しい応答をするまでになった。 バディと私は、ジャックが私たちのためにたてる旅るかもしれないと考えると、私の喜びは何千倍かする のだった。 行日程を、急速に消化していった。ジャックと私は、 帰りのケー・フル・カの到着まで間があるときは、駅しかし、愉快なことばかりでもなかった。ある日、 のそばの歩道のキャフ = でビールを一杯飲むのが常だ私がバディといっしょにヴェヴィーの十字路で立ち止 与 を った。ジャックのたてる旅行計画をすっかりすませて、まっていると、私の上着の袖を荒つ。ほく引っ張る人が がケーブル・カーが着く前に、ビールを二杯飲めるようあった。語尾の ( ッキリしないイギリスふうのアクセ のになるまでには、そう暇がかからなかった。これは相ントの一婦人が、私にこういうのだった 当な進歩た、と私は思った。 「お若い方、かわいそうに犬をこんな奴隷みたいに使

10. 現代世界ノンフィクション全集10

おわかりのように、 いくつかの成功は、純然たる偶入学させるある有名な女学院で、私は私といっしょに 然によるものであったー・ーしかし、それがほんとの突逃亡しましようなどと冗談をいって、失明前は馬術の 発事件に終らなかったのは、幸連であった。ある学校名手だったといささかほらを吹いた。 で、映写機をすえつけ終えた私は、いつものとおり、 「その後も、何度も愛馬を走らせたものです」などと 通路を通って演壇に上るために、 ハディに「進め ! 」無謀にもつけ加えた。 と命令した。私たちは、会場の左側通路からオーケス 「まあすてき ! お昼からいっしょに乗りましよう」 トラ・ポックスの上に渡された渡り板を通って、舞台とみんなが叫んだ。 の中央に行った。 いっしょに馬を歩ませはじめたが、飛越用の馬であ 講演が終ったので、私たちは同じ道を逆に通った。 ることは、だれも注意してくれなかった。私の馬は飛 いや、私は同し道を通ったと思ったが、実は私がしゃび手だな、と私はすぐわかった。バディとちがって、 べっているあいだに、子供たちはいたずらにも、その私の未知の天馬は、途上のいかなる障害物も、またそ 渡り板を取り去って、ごくせまい板と取りかえてしまの一つ一つを飛び越すのだということも、 いっさい予 ったのだった。危険きわまるこの橋の上を、私たちは報してくれなかった。その度ごとに彼は、突如として 無事渡り切ったのだが、目の見える人なら足が震えた空間をはね飛んだ。私の心臓もこれに調子を合わせて、 にちがいなかった。私たちが何をやろうとしているの私ののど元まではね飛んだ。四肢安泰で廐舎に帰った をかを知っていたら、私は安全ベルトと救助網なしには ときの、私のほっとした気持をご想像ください。 がやらなかったろう。 この経験から、二つの貴い教訓を得た。一つは、決 の私の訪問したいくつかの学校では、上級生と私の年してもう馬術のじまんをしないこと。他は、パディ以療 3 齢の差は、大きくなかった。選ばれた若い淑女だけを外の四つ足の動物を信頼するようなばかをやらないこ ・ヘガサス