ワルシャワ - みる会図書館


検索対象: 現代世界ノンフィクション全集13
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1. 現代世界ノンフィクション全集13

ま、過去の事件や人びとのことを思い出し、戦争が間 行くためにヴロヒー行の電車に乗ることもなかった。 0 もなく終わり、それと共にユダヤ人たちの怖しい悪夢その上、ニエゼルスキー家が、通貨不足を口実にして、四 も終わるだろうと想像した。私は、べッドにはいって、数カ月前から給料を払わなかったので、私は実際上無 目覚めた夢の沈黙の中に、自分の信念と希望をとり戻一文たった。さらに私は自分自身の用事のためにはた った一日の休暇ももらえなかった。しかし心から愛し すことのできる瞬間を待ちながら毎日をすごしていた。 イレナはある時間以上家にとどまっていることがでていた二人の娘から遠くはなれて、たったひとりで、 きなかった。しばしば、行き先を言わすに何時間も外一日をなんに使えただろうか。最も心配になったこと 出していることがあった。もっとも私にはなんの関係は、金がないために、髪を染めるものを買えないこと : 」っこ 0 もないことなので、イレナに訊ねようとはけっしてし 多 / ュ / それは私にとって生きるか死ぬかの大問 なかった。しかしイレナは前に知っていた時よりもは題であったからだ。その上、私はお腹が減っていた。 たいていの時はオ 1 トミ 1 ルを食べてすましていたの るかに神経質になっていた。 だ。こんな粗食をしていては、とても神経がもたない。 その上、ワルシャワの生活条件も大きく悪化してい た。正規の身分証明書・ーー本物の証明書ーーを持って空腹に、たえすイライラしていた。 クリスマスの雰囲気は、ニエゼルスキ 1 家のいつも いるポーランド人さえもはや街上で安全ではなかった。 ドイツ軍は恐怖と士気沮喪の戦いをはじめていた。ロ は陰気な家庭を活気づけた。私もクリスマス・トリー シア戦線における大敗走が知られて来ただけ余計に、 や贈物や讃美歌に対する子供たちの熱心さに興奮した。 ワルシャワで企てられはじめた反抗の秘密連動にたい 夕方、自分の心とただひとり相対した私は、クリスマ する反動であった。 スに匹敵するハヌ力の祭のことを思い出した。燭台の 私は外出を怖れた。ビルサにフェラの消息を求めに上の小さな蝋燭の輝き、二千五百年も昔のマカべ族の

2. 現代世界ノンフィクション全集13

おそろしい戦闘が東部および西部の戦線で、さらに遠 い太平洋でもいまだに行なわれていることを知った。 一九四四年十二月の頃だった。戦いの終りはまだ見え ていなかった。まだ寸だ私は女教師レオンテナ・レリ ッチのままでいなければならなかった。この終りのな い喜劇において自分の役をまだ務めなければならなか 一九四五年は暗い前兆の下に明けた。ドイツ軍がず っこ 0 うっと標榜してきた主義主張はすでに失われていたけ クリスマスのお祭りの前に、私は過ぎさった二カ月れども、戦争はあいかわらず激しかった。ワルシャワ に応ずる最初の月給を受け取った。私はそれをイレナはすべてからたち切られ、誰もそこへ行くことはでき に渡して、小麦粉と肉を買い、それから村の店の借金ず、最近そこから出て来たという人も一人も知られな っこ 0 を払いに行ってきてくれとたのんた。子供たちにとっ 、カ多 / てクリスマスのお祭りは美しく、幸福でなければなら イレナは物狂おしくなりはじめた。 よ、つこ 0 「わたしがルドウィッヒと別れてからもう六カ月経っ わ」と、ある日イレナが私に言った。 「レナ、もしあの人が生きていて、自由の身なら、き っとここへ会いに来る方法を見つけていたでしよう。 わたしには、どう考えてよいのか、どうしてよいのか わからないわ」 私はイレナが安心するようにと努めたが、たいした 七荒廃

3. 現代世界ノンフィクション全集13

すくなくてもある人たちは助かる機会を持てるでしよそれもある日、フェラが持ちこんで行ったものは、靴 う」 さえも奪われた上、追い出されてしまった。 「なぜしないのか。しかし、お金を持っているのは若私は、死を目指して走る貨物列車の中に投げこまれ い人たちではなく、・ 両親たちなのよ。そして両親たちた。まわりには、女たちがわめいたり、着物をひきさ は最後のズロティをごしよう大事にしているわ。両親 いたりしていた。男たちは大声でどなっていた。その たちはなにを言われても信用しないの。眼をとじて、 途中のどこかで、わけはわからなかったが、汽車が止 お祈りをして、奇蹟を待っているだけだわ、それが理まった。動く棺桶の扉が開かれ、幾人かのものが逃走 山よ」 した。私もその中にはいっていた。 それからフェラが低い声で言い加えた。 「もしわたしたちが出て行ってしまったならば、お父 フェラはワルシャワの私といっしょになることがで さんはどうなるの。あなたもわたしも父を捨てることきた。追いつめられた獣に似た私たちは、制服を見る ができるでしようか。わたしたちの仲間にとっても、 と恐怖に身をふるわせたが、ことに密告者たちを怖れ 同じことだわ。老人たちをドイツ人の手に落ちるにまていた。というわけは密告者たちは非ユダヤ人のよう かせて逃げだすことができるかしら」 な外貌を持ったユダヤ人をあばきたてるだけの猛禽 のような眼を持っていたからである。ただ、金、無限 数週間後、ドイツ軍が現われた。私たちの番が来たの金たけが、密告者たちにゲシュタボの前に犠牲者を のだった。 ひきずって行かせなくすることができた。ユダヤ人を 父はべッドの中で殺された。レギナのお蔭で、フェ 引き渡せば莫大な報償金がきっともらえるからであっ ラは一人の百姓の家にかくれることができた。しかした。 708

4. 現代世界ノンフィクション全集13

だから、レナにかぎらず、ユダヤ系のポーランド人にとって、ナチスとの戦争はユダヤ殺害という局面におい て、もっとも悲惨な姿をみせたのである。アウシヴィッツ、トレ・フリンカ、あるいはワルシャワのゲットー焼 打ちといった事実がくりかえしくりかえし問題にされるのは当然のことだろう。 よう 敵はナチスだけではない。戦争勃発直後、レナの夫はソビエト側に走ったが、以来彼の消息は査として分らな いという。ナチスの場合ほど徹底したものでなかったにしろ、ソビエト軍がユダヤ人迫害を行っていたことは現 在すでに常識となっている。いや、それだけではない。ポーランド人自身が戦前、戦中を通じて、たとえ国籍の うえで同胞であるにしろ、ユダヤ人ときけば、ナチスと同じような心理的反応を示したのである。 : ホーランドの田舎貴族の家庭でも、三人の人 事実、レナがユダヤ人であることをかくして身をひそめてした、 : 物がつぎのような会話を交わしている。 「私は = ダヤ人が嫌いです。もしドイツ軍があくまで = ダヤ人たちを追い払いたいと思ったとしても、私はすこ しも不都合とは思いません。しかしドイツ軍のなすべきことは、ユダヤ人たちを大西洋や太平洋のどこかの島へ 連れてゆくべきでした。もし、そこで死んだとすれば不幸なことだ。もし生き残ったとすれば、結構なことた。 「しかしドイツ軍は他の行動をとることができなかったのです。ドイツは大洋上の島を持っていません。たとい 持 0 ていたとしても、単に人道主義的な感情から、遠い島に = ダヤ人たちを送るだけの金を使うつもりはないで 争しよう。ユダヤ人の問題には多くの解決策はありません。いかなる国家もしていないことだが、ユダヤ人たちにユ 3 完全で全体的な市民権を与えるか、ユダヤ人たちを追い払うかのどちらかです。私としてはいつも第二の解決策

5. 現代世界ノンフィクション全集13

た。私は、すくなくとも二日に一度は老人に食べもの を持って行ってやるように工夫していたが、老人があ いかわらず元気でいることがうれしかった。 私にとって夜の仕事がますます難しくなって来た。 子供たちは朝まで一気に眠るということがけっしてな くて、ときどき眼を覚ました。そういうときはいつも 所有地の食糧補給はますます難しくなった。ドイツ 軍はザトッカ家に一頭の牝牛を持ちつづけることを許起き上がって、泣いているガガを腕に抱き上げなけれ したが、家畜の大部分は徴発された。しかも、その唯ばならなかった。そしてガガが落ちついて、また眠り 一の牝牛は子供を生もうとしていたので、ごくすこしにおちるまでにはしばしば三十分かかった。またク の中にすべり しか牛乳がとれなかった。その上、今は八月だった。 リシャが悪夢にうなされた。私はべッド 収穫のはじまるのはまだ三、四週間もさきのことで、 こみ、クリシャをかたく抱きしめて、気をおちつけさ そのためパンさえも容易に手にはいらぬことになった。せた。時が経つに従って、子供たちはますます私自身 そこで私たちの食糧の大部分は野菜だった。私個人の子供のようになった。他の女が生んだ子供たちをこ としてはそのことに少しも困りはしなかったが、家畜んなに熱情をこめて愛することができようなどとは、 小屋の溝の中にかくれた「私」の老ユダヤ人の食物をけっして想像もできないことだった。 台所で見つけることが難しくなった。食卓についたと しかし私にとっていちばん面倒な事態は、ポールに き、二、三のパン片を床上におとし、誰も見ていない関することだった。ポールはもう私にたいする関心を ときに、こっそり拾い上げて、ポケットにしまいこむかくさなかった。公然と、臆面もなく、貪るように私 という方法で、その困難を解決しなければならなかつを見つめていた。ポールが私の胸、私の腰、私の腕、 四ワルシャワを去る ノ 82

6. 現代世界ノンフィクション全集13

わ。 ( 私はカジャの頬を軽くたたいてやった ) 心配し「ありがとう、カジャ、ありがとう、じき出て行くわ ないでいいのよ」 : いつまた会えるかわからないけど」 私は、その最後の言葉を、二人にむかづて言ったの 「わたしの帰るまでここにいなさい」とカジャが言っ ・こっこ 0 た。「さようなら」 安心したカジャは私の着物をさがしに行った。 カジャはそっとアパートの外に出て、私が扉をしめ 「あなたの体に合いそうなものはなんにもないわ、レて鍵をかけた。 ンカ」と、上着とスカートと下着類をいつばい抱え、 私はすぐに針と糸をとって仕事をしはじめた。服の 針箱と一緒にさしだしながらカジャが私に言った。 縁かがりをほどいて、長さを半分にちちめた。カジャ 「なぜ、神様はあなたをそんなに小さくつくったのかの言ったように私の体は小さかったからである。それ しら。さあ、この中から必要なものをとって、縫い直からスタシェックと私は低い声で話し合った。孤独が すといいわ。私は遅れているから、もう出かけなけれこの青年に重くのしかかっているせいか、私のささや くごくわずかな言葉もききのがさなかった。 ばならない」 自分の針仕事に満足した私は服を着換え、ゆったり カジャはハンドバッグをとり、中から十ズロティ ポーランド と安楽椅子に腰をおろして、スタシェックが詩をよん ) を出して、私の手においた。 の金貨単位 「今私の持っているのはこれだけなの、レンカ。でもでいた間、少しばかりうとうととまどろんだ。 スタシェックはカジャと同じくカトリック教徒だが、 し食べるものはたくさんあるわ。好きなだけ食べていし わ。ただ一つ、二人で話し合っては駄目よ」とカジャ母親がユダヤ人なので、ドイツの規則により、ユダヤ の 人と見なされていた。ワルシャワのユダヤ人街に幽閉 人が低い声で言い終えた。 されていたスタシェックを、カジャが脱走させるのに 私はカジャを抱いて、接吻した。

7. 現代世界ノンフィクション全集13

設中なの。あなたは何千という農民の少年たちの育成 一週間後、私は自分のわずかばかりの身の回り品を に参加すべきよ。小さな村にいる数人の子供たちたけ整理するためにオルホヴェクへ戻った。そこでは吉報 を相手にしないで」 が待っていた。テオドールとマリンカの両親ばかりで なく、ルドウィッヒも、多くのワルシャワ人の連命を 庶民大衆とフラニヤは言った。どんな大衆たろうか。 どんな人びとだろうか。わざと手をこまねいたまま、免れて、オルホヴェクに健康な体で戻っていた。イレ ユダヤ人の血がたくさん流れるのを黙認した人びとナの妹のカティャも脱出してきていた。私は大喜びで、 じゃないか。けっして戻ってくることはないと知ってカティヤに学校の先生の役をひきつがせる準備をはし いたユダヤ人の家庭や財産に手をかけた人びとじゃなめた。私が村へ帰っても期待していたような効果はな いか。私は、眼をとじたまま、フラ = ヤにも、明日をかった。私の長い不在と春の到来は、ある程度、勉強 期待されている新しい世界の壮大な叙述にももう注意 にたいする子供たちの最初の熱心さを鈍くしていた。 を払おうとはしなかった。 カティャも子供たちに最初の頃の関心を再びひきお しかしフラニヤは私の従妹であり、どうしても私をこさせるにはたいへん苦労することだろう。私はカ 助けたいと望んでいた。そしてまず、たいていの時政ティヤに、この仕事 ( 官憲は同意していた ) をする上 府の命令で出張していたので、フラニヤはこのアパ 1 に気をくばらなければならない重要なことは愛情をこ トを自分のものと考えるようにと言い張った。フラニめて教えることだと言った。 ヤの説明によると、このアパ 1 トはあるユダヤ人の持「そのことが、あなたの教えられたあらゆる近代教育 ち物たったが、新政府の一員として、フラニヤが他の学の技術よりもいっそう重要なことだわ、カティャ。 誰かが手に入れる前に徴発したのだった。 もしあなたが子供たちを愛さなければ、教えこなこと はできないと思うの」 224

8. 現代世界ノンフィクション全集13

戦争が終わったらば、セルゲイはもどってきますて私は言った。「しかし、不幸にも私には夫がありま す。夫はワルシャワにとどまり、生きているか死んで そうだね、セルゲイ」 いるかわかりません。しかし、現在のところでは、私 セルゲイは立ち上がって、中佐の机に近づいた。 「そのとおりです、中佐殿」とセルゲイは言った。そは他の人と結婚する気はありません」 れから私にむかって言った。「・ほくの母はウラル地方「それはばかばかしい話た」と、明らかに不興な顔色 に住んでいます。そこに四つの部屋のある美しい家をを浮かべて中佐はさけんだ。「私はここで今すぐ、あ もっています。あるいは飛行機であなたをそこへ連れなたの離婚を宣言し、あなたをセルゲイと結婚させる ていってもいいのです。お望みならば戦争が終わるま力をもっているのです。あなたの夫君は他の女性をみ つければよいでしよう」 で、そこでぼくを待ってください」 また、なんと言ってよいかわからなかった。私はわ その口調は率直で多くの熱情がこもっていた。私は 自分がセルゲイの信頼を濫用しており、セルゲイの信なにひっかかったような気がした。そして、できるだ じているような女ではないと感じていた。セルゲイはけ早く立ち去る方法をみつけないと、ここから逃げ出 ウォッカのコツ。フを私に差し出したが、その臭いをかす機会を失ってしまうと考えた。 ぐだけで私はボウとなった。私の膝はふるえ、すっか「はい、わかりました」と私は言った。「しかし、今 り自分を失ったような感じがした。すべてがあまりには体の具合が悪いのですーー戦争のおかげなのですー しも早くすぎ去っていった。私はコツ。フを取って口をつ ーですから長い旅行はできません。なぜ、私が健康を けたが、燃えるようなアルコ 1 ルが冷えきった指の先回復するまでもう少し延ばすことはできないのでしょ の 人までおそいかカった うか」 「私はたいへん名誉に思います」と二人の男にたいし「素晴らしい」と中佐が叫んだ。「わが軍の軍医をあ 、 0 205

9. 現代世界ノンフィクション全集13

よこした。まもなく再会できるという考えに私の心はとこの戦争の終りは見られないわ」 喜びにふくらむのを感じた。私たちはワルシャワの旧「そんなこといわないで、フェラ。私たちは二人とも 市街ノーヴィ・スヴィアットで出会った。私たちの知生きていけるわ。戦争はもうじき終わり、きっと私た っているかぎりでは、まだ生きていた家族はこの二人ちは新しい人生にむかって出発できるわ。あなたは私 きりになってしまった。多くの年月をへて再会した私の言葉を信じなければならない。いいわね」 フェラはうなずいた。しかしその両眼は遠くかなた たちはつぎつぎと泣いたり、笑ったりしながらたがい に抱きあった。もちろんもの珍しい光景ではなかったをみつめて、まるでいつも自分に姿をみせていないあ ろう。フェラは私の覚えていたよりもずっと逞しく見るものをみつけようと努めているかのようだった。 フェラはその日すぐソコロフの森の仲間の隠れ家に えた。しかし口をききだすとやつばり可愛いい妹であ っこ 0 加わるため出発し、私はニエゼルスキー家の女家庭教 「レナ、奴らは『鷲』を殺したの。わたしはあの人を師レリッチ嬢にもどった。 愛していたわ。レナ、わたしたちは夫婦として暮らし ていたの。ところがドイツ兵はあの人の背中に弾丸を春になって私たちは、オルホヴェクにもどった。し 打ち込んで殺したのーーそれが奴らのあの人を捕えらかし、昨年隠れ家をみつけたと私の感じた印象は、閉 れた唯一の方法だったの」 ざされた生活の感じに変わった。もはや以前のような 児 私はフェラを抱きしめて、泣き悲しんで、慰めてもものはなんにもなかった。ライラックの花も朝の突き らいたい子供のように、その体をゆすっていた。 さすような新鮮な空気もなかった。ただ一つの考えは、 の 人「わたしの心の中で何かが砕けてしまったのよ。レナ、 いっこの戦いの悪夢が終りになるかということだけだ 7 っこ 0 わたしはこれ以上生きてゆけるとは思えないの。きっ

10. 現代世界ノンフィクション全集13

英雄讃歌、独楽の遊戯、みんなのお皿の中でじゅうて間もなく会話の調子がはずみ、面白くなった。その ラトケス じゅういっている菓子バン、その日が再び戻ってくる頃のポ 1 ランドではたいへん珍しいことだが、盛んに だろうか。ユダヤ人たちは、ポーランドで、ヨーロッ笑い声がおこった。 スで、ふたたびハヌ力の祭の「世紀の岩」を歌うこと 判事が、出頭したある百姓夫婦のことを話しだした。 があるだろうか。それらの質問になんと答えればよい妻は夫をぶったというので訴えられたのだった。 かはわからなかったが、もし一九四三年のワルシャワ「私は、家庭の長 ( 頭 ) は夫だということを忘れては の冬に、あえてそれに答えねばならなかったとしても、 いないかと訊ねたのだ」と判事が言った。 私には然りと答える確信はなかった。 「忘れてはいません、判事様ーと妻が答えた。「しか クリスマスの晩餐は壮大で、輝かしいお祭りだった。し私たって時々は自分の頭を石鹸で洗ったっていし ォルホヴェクから来たポールと母親、イレナの夫のルじゃありませんか」 ドウ ッヒ、イレナの妹カティヤ、夫ニエゼルスキー ポ 1 ルもまたかなりおかしな話をいろいろとした。 判事を連れたイレナの義妹、そして、その三人の子供自分の飲んだ酒杯の数を正確には知らなかったらしい たちが加わっていた。いちばん美しい服を着た私たちイレナも、いろいろおかしな話をはじめた。それをき は、華やかに飾られた食卓につき、あいかわらず厳か いてその話の中にはきわどいものもまじっていると感 な黒い服を身につけ、一度も私を見ようとはしなかつじられた。しかもイレナは、子供たちのために、不謹 いたザトッカ夫人が、すべてをとりしきっていた。 慎な個所は曖昧な言い方でごまかしていた。判事の息 「私の」二人の娘を横において、私は末席に控えてい子のテオドーレ・、、・ ノ力とうしても兵士になるのを嫌った の 人た。珍しく、献立はたっぷりあった。私は大いに食べ『モーゼ』の物語をはじめて若者らしい意見を述べた。の たつもりである。飲むものもふんたんにあった。そし やがて話題はユダヤ人のことになった。