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検索対象: 現代世界ノンフィクション全集14
407件見つかりました。

1. 現代世界ノンフィクション全集14

切なものは評判です。残念なことに、それは簡単に傷ていると、わたしにはっきり申しておりました。それ つきやすく、回復するのはむつかしい。あなた ( ル にわたしは、あなたがわたしたち兄妹とタウテン・フル はお若いから、娘さんはどんなに気をつけなければい クでいっしょに過ごすというのは本当か、と人に聞か けないか、また。ヒンとこないかも知れませんがーー・何れて迷惑しました。あなたはわたしの兄を誰たと思っ 気ない身振り、ちょっとした視線、軽はすみな言葉ひているのですか ? 兄が、現存する指折りの大思想家、 とつで、何もかも失くしてしまうのです。そう言って最も高潔な人であり、ほとんど聖者と言ってもいい人 エリーザベトは溜息をついた。ルーはこれを聞いて思 だということを、あなたはご存じないのですか ? そ わず吹き出した。お姉さんもうたくさんです。あなたの兄の敵とおおっぴらに付き合って、恥すかしいと思 のおっしやるとおりなら、きっともう何もかも失くし いませんか ? てしまいましたわ。でも、ちっとも後悔しておりませ ーコフスキ ルーはたじたじとなった。彼女は、ジュ ん。それをたっぷり楽しんだのですもの。 ーとの一件がひとの噂にの・ほっていることは知ってい ーザベトはルーを厳しく咎めた。若いレディが たが、そんなことは気にも留めず、ゴシッ。フを気にす そんな話し方をするものではありません。事実、わたるなど軽蔑にも値しないと考えていた。自分が自分の パイロイトでのあなたの挙動にすっかりあきれ生活をどう生きようと、他人の知ったことではない。 生 愛てしまったことを、是非あなたに伝えておく必要があニーチェ対ワーグナーの喧嘩に片棒をかついだという コ メると思いました。あなたがジュ ーコフスキ , ーと戯れてのは濡衣た。彼女はやや当てつけるように、ジュー サ いたことは公然のスキャンダルになっています。みんフスキー伯爵ほどニーチェのことなど問題にしていな 一ながそう言っています。マルヴィーダは、あなたを。ハ い人もいないでしよう、あの人はニーチェの名前すら イロイトのお友達に紹介したことを今になって後悔し口にしませんでした、と答えた。 ぬれぎぬ

2. 現代世界ノンフィクション全集14

せんさく フリーダは申し分のない女主人で、なにも穿鑿せすにある。キリスト教の神は死に、西欧の日曜礼拝式のう ふたりだけにしておいてくれた。ふたりは熱心に勉強つろなシンポルと化してしまった、とリルケは感じて し、長い散歩にでかけ、お互いにいっしょにいること いた。ロシアの修道士 ( リルケが記述しているのはか を愉しんだ。かれらの愛は、いまでは落ちついてきた。れらの祈疇であるわけだが ) にとって、西欧の芸術家 ルーは彼女の弟子を、ふたりが共同で始めたこの仕事たちの神の描き方にはなにか漬神的なものがあった。 にひきつけておくことに成功したらしい。しかし、 無限の唯一者を限定し、かれを時間と空間のなかに閉 ルケが、自分が主役を演することを主張して、彼女のじ込めようとするかれらの努力は、成長する神という 意志を自分の命令に従わせてしまう、反抗の瞬間もあロシア的概念とはきわめて異質のものであった。強力 な、逆説的なメタファー ( 暗喩 ) の奔流をもってリル リルケにとって、一八九九年の秋はきわめて多産なケがその到来を予告したのは、この成長する神、この 時期であった。ベルリンに到着するがはやいか、ロシ 知られざる未来の神である。かれは、いつでも突き破 ア体験の結果、わけても、モスクワで復活祭の礼拝式ることのできる薄い壁によってのみわれわれから隔て のあいだにかれがロシアの民衆の敬虔さを神秘的に分られている、われわれの隣人である。かれは巣から落 ひなどり かちもった結果、かれの内部に渺渾とわきおこってきちた雛鳥、ひげをたくわえた農夫、永遠の平原の上に たイメージの洪水が、暗い光輝をはなつ「僧院生活のあからむ偉大な夜明け、矛盾の森である。かれは 書」の諸詩篇となって解き放たれたのである。それら をかれは祈りと呼んだが、それらが捧げられている神 : もののふかい精髄た は正統的キリスト教徒が崇拝する神となにひとっ類似 自分の存在を口をとざして語らず 点をもたないにもかかわらず、たしかにそのとおりで 別のひとにはいつも別の姿で現われる 162

3. 現代世界ノンフィクション全集14

ルーがかなり健康を害していて、徹底的な休養と安静 思想の結晶を変質させることはなかった」 ( 刀オン・ を必要としていることを知らされていた。彼女自身が ンバジーンの反逆者』緒言 ) ルーは、この端倪すべからざる女性に逢えるまで待病弱な体質で、これまで一再ならず同しような危機を ちきれなかった。そしてマルヴィーダの回想録を、深脱してきた経験から、マルヴィーダは事情をよくのみ こんでいた。彼女は深い同情を寄せ、ルーが楽しく、 い感動をお・ほえながら読んだ。ここに、わたしとよく 似た素姓と教育をもった女性がいる。この人も、自分快く口ーマに滞在できるよう、できるだけの努力を惜 の理想に従って独自の生活を生きぬくために、敢然としまなかった。そして、ルーを知れば知るほど、二人 して全世界に挑戦してきたのだ。マルヴィーダ女史もの関心と理想があまりにもよく似ていることに ノカマルヴィ 1 ダの著書を読んたときのよ わたしのように家族や階級の偏見と闘わざるを得なかちょうどレし、 マルヴィーダの驚きは増すばかりであった。 ったし、わたしと同じく教会と袂別している。この人うに が激しい恋の歓びと哀しみを経験したことまでわたし「わたしが若い娘さんにこれほどの温かい情愛をおぼ と同じた : えたのは、もういつのことだったでしようか。あなた に初めてお逢いしたときには、まるで若いころのわた ローマに到着するとルーは、さっそくボルヴェリエ よみがえ ラ通りに向かい、そこで最大級の歓迎を受けた。マルしが甦ったのではないかとこの目を疑いました」マル エーリッヒ・ポーダッ ヴィーダは、まるで実の娘のように彼女を迎え入れてヴィーダはルーにこう書いている。 ( 、 『フリードリッヒ・ ニ 1 チ工とルー・サロ くれた。二人は胸襟を開いて語らい、波瀾に富んだ過 メーーーその出会い』 そのうちに、マルヴィーダは思い違いをしていたこ 去をもつ小柄な老婦人と、人生のーー・・あるいは死のー ー入口に立っている若い娘とは、お互いの境遇を理解とがわかってきた。彼女はーー最初はルーもそうだっ しあったのである。マルヴィ 1 ダは、キンケルから、 たがーーー二人の個性と、人生における目標、目的との 0

4. 現代世界ノンフィクション全集14

された長い手紙で、彼女はふたりの愛の足跡を要約し、って成長をーーっづけざるをえなかった、ということ です。奇妙な言い方かも知れませんが、わたしは青春 リルケの求婚に反対して注意をうながしている。 に向かって成長したのです。と申しますのは、、まは 彼女はまず、かれに対しては母親のように話す権利 があゑと前置きして、もしかれが結婚生活に入れば、じめてわたしは若さを知り、ほかの人なら十八歳でな フセヴォロド・ガルシ ロシアの作家ガルシン ( ) の運命の轍をれるものに、つまり完全な自分自身に、いまこそなり ン。一八五五ー八八 踏む ( ガルシンは抑欝の発作で自殺した ) ことになるえたのです。あなたという人が・ーー・ヴォルフラーツ ( のではないかと心配している。かれがこころの平安をウゼンではあれほどいとおしく、身近に感しられたの まはしゃ いわば大きな風景、広大なヴォルガの風景のな 見いだすには、仕事をつうじてしかない。い いでいたかと思うとたちまち欝にふさぎこんでしまかの一つの相にすぎないかのように、わたしの視界か うかれのはげしいむら気には、すっかり神経をすり減らしだいに姿を消し去ったのもそのためです。そして らされたし、かれにほんとうの暖かさを与えることもあの小さな家はあなたのものではありませんでした。 できず、ただ機械的にかれと並んで歩いてきただけだそうとは知らず、ほほえみながら、理解や期待をはる ったと彼女は告白する。「でもそれから」と彼女は書かに絶したひとつの贈りものを差出してくれた、わた いているーー・・そしてこれがいちばん重要な告白なのだしの人生の大計画にわたしは従いました。わたしはそ 「あるなにか別のことが起こったのです、あなの贈りものを謙虚に受け取り、いまわたしは予言者の 愛カ ようにはっきりと理解してあなたに呼びかけるのです メたに対する悲劇的な罪ともいうべきことが。それは、 あなたの暗い神にむかって同じ道を行きなさい、 サわたしたちの年齢の違いにもかかわらず、ヴォルフラ ーツ ( ウゼン以来、わたしが成長をーーーお別れのときと」 ル それは感動的な手紙ではあったが、リルケにクララ あんなに幸福な気持であなたにお話したものに向か てつ 783

5. 現代世界ノンフィクション全集14

たくないくせに、やはり愛している ! きのうだって、のある明確な言葉がほしかった。しかし結局のところ、 きみと手を組むことはなかったのに、結局は手を組ん・ほくの気持ちのすべては〈愛する ! 〉という一語につ きてしまうようだ。 で歩いてしまった ! ・ほくは、きみがジョルジクに夢中になっていると責 ・ほくは愛する ! だれを ? 知らない。 めたことは一度もない。もしきみがあす別の人を好き けれど・ほくの胸の奥はこんなにもほの・ほのとして になるとしても、きみはやはり正しいのだ。きみは・ほ ぼくはささやかずにいられない夢見すにいられな くからは、ひとことの非難も聞かないだろう。 きみが〈男から男へうつり歩く食わせもの〉だなん 来たれ愛するひとよわがもとに来たれと : : : 』 て話は、ばかげたことだ。問題は、きみがそういった ことに熱中できない性質だという、そのことにあるの もうひとつ、別の手紙から書きぬきをしておこう。 だから : ニーナ、ニーノチカ、ニーノク、ぼくはきみが好き『ある眠られぬ夜、恐ろしいほど時間が長く感しられ 。もちろん、きみのことを。 このたわごとのなた夜、ぼくは考えた : だ、以前とおなじように好きだー そして、考えぬいたあげくが、つぎのようになった。 かで、これひとつだけはたしかなこと。いま・ほくの背 ルーこアに近 ) の民族楽団が演奏し・ほくには実にいろんな欠点がある。きみもその全部に 後ではモルダビア ( い ている。・ほくの気分は、ちょうどこの音楽のよう。踊は気づいていないくらいだ。だからぼくは、きみをあ きらめなければいけない。しかし・ほくはそれを、きみ って、泣いて、思いきり笑いたい気持ちだ。 やはりぼくは、なにかたわごとめいたことを書きつを苦しめないようにしてやらなければいけない。・ほく ÄJ らねているらしい。なにか強烈な言葉、ずしりと重みのほうかい ? ・ほくなんか、どうなってもいい !

6. 現代世界ノンフィクション全集14

こうなるとただでは済まされない。 フォン・サロメ夫なたは何か秘密になさっておきたいことがおありのよ 人は一部始終を聞きおわると激怒して、娘をすぐロシうですね。若い娘さんたちが、同じような無思慮な行 アへ連れ帰ると言っておどした。マルヴィーダにして為のために名声を傷つけた例を二、三わたしは知って もショックだった。ルーほどの知的な娘が、どうしておりますが、わたしはあなたのお母さんとわたし自身 こんな身に累を及ぼすような立場にすすんで身を置いのことを考えました。わたしは前にも一度、信用して たのか、彼女は理解に苦しむばかりであった。 いた娘さんの振舞いにたいへん迷惑した経験がありま 女史カノ : レーに宛てた手紙を読んでみよう。 す。そのことはレーも知っているのに、わがままでそ 「思ってもみてください、レーがすっかり取り乱してれを思い出そうともしないのは困ったことです。それ 帰ってくるなり、あなたのためにかれのためにも、 が、今度は二度目で、しかも前よりも興奮してやって すぐローマを発たねばならないと言いだしたとき、わくるなり、明日帰るから母には病気だと言ってくれな たしがどんなに驚きかっ苦しんだかを。わたしは、せどと、またも言いだす始末なのです。もちろんわたし つかく楽しく幸福たったあなたたちの汚れない友情をは断わって、もしどうしても逃げる必要があるなら行 こんなふうにして壊してはいけない、と厳しく言い論きなさい、ときつばり言ってやりました。 涯しておきました。それでどうやら気も鎮まったようで 「でもあなたなら、意志を抑制できないばっかりに、 す。あなたたちの夜の散歩のことをわたしがまだ知ら汚れない知的な友情を育てる試みがまたしても失敗す メュ / 。し月 よ、蔔、あなたと初めてお話したとぎ、あなたがたい るのを見て、わたしがどんなに悲しんでいるか、わか サへん落ちついたかたなのでわたしはすっかり安心してってくださるでしよう。それにしても、あなたのよう 一おりました。ところがたいへん困ったことに、その後に分別もあり、またあなたのお話によれば、この方面 とうしてこんな あなたがたが夜歩きなさっていたところをみると、あでたいへん苦い経験をなめたかたが、・ 5

7. 現代世界ノンフィクション全集14

. わたしの顔だ。たいていこの顏はまじめくさっている。ていないだろう。グリーシャには、わたしの少女時代 肩は寄せられ、眼は細められ、唇は前に突き出してい が、青春が、人生への第一歩が、清らかな夢が、青春 る。笑うと、頬骨が左右に開くーー蒙古系の顔 ! の迷いが結ばれている。グリーシャ、レーナ、わたし こういう顔は、恋をされる顔ではない。でも、好意のだいじな友よ、あなたたちは知らないのね、わたし をもたれることは ? がどんなにあなたたちを愛しているか、そしてどれほ グリーシャはいっか、わたしをきれいだといったこ どたびたび思いだしているか ! グリーシャには詩があった。けれどジョ 1 ・ラには・ー とがある。この男の子は、わたしのすべてを理想化し ていた。あのいっさいが、なんと遠くなってしまった ー病的な熱中、狂気、悪酔い。なぜわたしたちの関係 ことか : 二人でモスクワ河のほとりを歩いたこと はあんなに早く切れてしまったのか ? わたしの強情 を思いだす。冬だった、実にきびしい冬だった。けれが彼を怒らせたのか ? それとも彼がイーラに惹かれ どわたしたちは、わざわざいちばん寒い場所を選ぶよ たのか ? でも、これはすべてすんだこと。いま、ふ うにして、人気のない河岸通りを、何時間も歩きまわりかえってみても、退屈な灰色に塗りつぶされた光景 っこ 0 しか目に浮かばない。すべてがいとわしい 最後のころ、わたしたちは、よく接吻を交わした。 なんの変哲もない、ゆるやかな生活の流れに倦み疲 彼の接吻はおずおずとしていたが、熱烈だった。でもれている。新しいもの、わたしを元気づけてくれるよ ・記わたしは、一度も彼に接吻のお返しをしたことがない。 うなものが欲しい。試験のときのほうがまだましなく のな。せ ? なんだか気がひけて、滑稽で、ばつの悪い感らい あの興奮と、たたかいと、情熱 : 一じだったのだ : 古くからの友で残っているのはニーナさん一人にな 3 だが、すべては終わった ! もう八か月も行きあっ なんと聡明な、思いやりのある、 h ネルギッ

8. 現代世界ノンフィクション全集14

そこで、レーが邪されずに勉強できるように大学のかわし、かれと結婚したいと思うと言い出したときに 近くに部屋を借り、週末だけルーといっしょに過ごすは、かれら ( ルーとレー ) の関係を妨げないことを条 ことに意見が一致した。生涯の友情を誓いあった仲だ件にアンドレアスの求婚を承諾したとルーは言うけれ ども、レーは自分が見棄てられ、裏切られたことを感 から、二人ともこの一時的な別居はたいした問題では ないと思っていた。 じとった。ここで愁嘆場を演ずるのはかれの性に合わ ないこと。かれは静かに退場したーーしかし、かれの そしてたぶん、それはたいした問題とはならなかっ たかも知れない、もし、ルーの生涯に決定的な変化を退場はルーのこころにぬぐうことのできない刻印を押 しつけたのである。 もたらしたある事件が起こっていなかったとしたら。 それは、フリードリヒ・カール・アンドレアスとの出「夜ふけてからあの人は外出し、数分後に、ひどいど 会いである。レーは、無侖、レ ; 、 ノーカしつかは彼女の占しゃ降りだといって戻ってきました。しばらくしてま 有権を要求する男性、彼女が逆らいえないような男性た出かけましたが、本を取りにまた戻ってきました。 に出会う日のくることを覚悟していた。それでもいざあの人が最後に家を出たのはもう明方近くだったで 実際にそうなってみると、かれは不意をつかれて狼狽しようか。窓の外に目をやったわたしは、ぎよっとし した。 , 彼女の話では、はじめはただ、アンドレアスとました。乾いた路上を、雲ひとつない空から青白い星 会ったが、レーが反対でなければ今後もかれと会いた星が見おろしていたのです。窓から視線をうっすと、 いということであった。レーは黙諾した。かれは疑い ラン。フの灯に照らし出された一枚の小さな写真に目を とめました。わたしが子供のころ撮った写真で、レー もなく彼女が、いつもそうであったように、結局はか れのもとに戻ってくるものと楽観していたのであろう。 にあげたものです。その包み紙のうえにはこう書いて ところがある日、彼女がアンドレアスとすでに婚約をありました ″おしあわせに。ぼくを捜さないでく

9. 現代世界ノンフィクション全集14

ない人で、点字によるほかは話し合うことは出来ませ前の晩、非常に面倒な例題に取り組んでいる最中に、 んでした。試験の監督官も知らない人で、少しも私と角括弧と大括弧とルート記号の組合わせがわからなく挈 なりました。ケイス先生も私も悲しくなり、明日のこ 相談して下さろうとはなさいませんでした。 点字は語学の場合はうまくゆきましたが、幾何と代とを思って非常に不安でしたが、翌朝、試験の始まる 数になると困難が起こりました。私は困り切って、特少し前に大学に行き、ヴァイ = ング先生にアメリカ式 に代数では、大事な時間を無駄に使い、気落ちしてし記号をもっと充分に説明して頂きました。 まいました。わが国で普通使われているすべての点字幾何で主に困った事は、ふだんは命題を浮出し印刷 法ーーイギリス式もアメリカ式もニ、ーヨーク・ポイで読むか、私の手につづってもらうことに慣れていた ント式もーーを言葉の場合は知っておりましたが、幾ことでした。ですから、命題はちゃんと眼の前に書か 何や代数のいろいろな記号や符号は三つの方式ではそれてあるのに点字にまごっき、読んでいることをはっ れそれ大変違っており、私は代数ではイギリス式点字きり頭に留められないのでした。しかし代数を受けた だけを使っていたのでした。 時は、もっと苦しい目に会いました。つい最近習った 試験の二日前に、ヴァイニング先生は、古い ばかりで、わかっていると思っていた記号がどうもふ ヴァドの代数の試験問題を点字に打ったものを送ってに落ちないのです。それに自分がタイ。フライターで書 下さいましたが、アメリカ式で書いてあったので驚き いたことを見ることが出来ません。いままではいつも あわてました。すぐに机に向かってヴァイニング先生点字か頭の中で計算しておりました。ケイス先生は私 に記号を説明して下さいと手紙を書きました。折返しの問題を頭の中で解く能力を信頼し過ぎて、試験の答 お返事がきて、別の問題の記号の表を受けとり、アメリ 案を書く練習をして下さいませんでした。そういうわ カ式の勉強に取り掛かりました。しかし代数の試験のけで、怖ろしいほど遅くしか出来ず、例題を何度も何

10. 現代世界ノンフィクション全集14

のである。そのかれが結論に到達するまで半生を要しそれならばなぜ彼女は、あらゆる反証にもかかわらす、 たのに、ルーが短期間の研究でそれをわがものにしょ「愉快なオ。フテイミズム。を主張したのか ? この疑 うと熱心になっているとは。かれが面白がって、目を 問はフロイトを困惑させ、彼女と長年交際をつづけた ばちくりさせながら、自分をサンタ・クロースと間違あいだもずっとかれを困惑させた。 っているのではないかと彼女にたすねたのも当然であ ワイマル会議のあいだ、非公式の話し合いでニー ったろう。しかしフロイトの皮肉もルーを思い止まらチェの名前がたびたび話題にの・ほった。 = ーチェの妹 せることができず、そのうちに面白半分の気持が隨嘆の Y. リ ーザベトがこの町に住んでいて、彼女が設立し レ に変わっていった。なんと不思議な女性だろう ! たニーチェ文庫の館長として精力的に活動しているこ ーが作家たとは聞いていたし、ニーチ工との親密な仲 とは広く知られていた。ルーは無論この宿敵を注意深 も知ってはいた。きっとニーチェの運命が、人間精神く避けていた。フロイトといちばん親しい協力者のう とはいかに複雑なものであるかを彼女に教えたにちがち二人が h リ ーザベトを訪ね、彼女の有名な兄がフロ いない。しかし、こうして目の前に、いきいきと輝くイトの発見したことをすでに数多く予見していたと伝 ばかりに立っている彼女を見ていると、どんな悲劇的えてきた、という話を聞いたとき、ルーはよろこんだ 世界観とも相容れない生きた実例のようだ。彼女は明に違いない。 ーザベトの毒意あるアンチ・セミ らかに思慮深い女性だ たしかに、ル 1 の話すとこ ティズム ( ユダヤ人嫌い ) は知っていたから、ルーは、 ろを聞きながら、フロイトは彼女の観察の深さにおど ニ 1 チェの名がフロイトの名と結びつけられたと思っ ろいた。彼女の知性の明晰さには疑いの余地がなかってエリーザベトが地団駄ふむところを思い浮かべてい た。フロイトは、彼女と会った当初において、すでに 。ノーカワイマル たのである。「忠実なるリャーマ」よレ : ノーがかれを完全に理解してくれたと感したのである。にいると聞いて激怒した。あのロシアの女冒険師には