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検索対象: 現代世界ノンフィクション全集16
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1. 現代世界ノンフィクション全集16

なかった。パヴリク・チュヴァ 1 エフはもっとも能力私たちは・ハイン・ザクへ行くのではなかった。まもな あり、もっとも怒りつぼい男で、常時エグロンの助手く車は左へ折れて、グルバン・サイハンの大べ となって発掘作業に傑出した技倆を発揮した。厳格で近づきにかかった。 怠け者をさげすむエグロンに可愛がられた彼は、他の礫がだんだん大きくなってきて、私たちは冲積扇状 者からいくらか羨望を混えて「アシスタント」と綽名地地帯に入りかかっていた。山脈のふもとの広大な盆 された。他の者とは、小柄で努力型のクリモフーーー美地は、北に向けて百キロメ 1 トルも続いていて、角礫 におおわれたもろい堆積岩におおわれていた。これは、 男子でおとなしい若者と、とくにワーニヤ・シーゾフ とのことである。ワーニヤは発掘作業では死物狂いで私が最近ダラン・ザダガドへ行く途中に通過したホロ ト ( 鮭 ) ソモン地区の延々と続いた平地とは、まるつき パヴリクと竸争したものだが、いまは不便な燃料輸送 りちがっていた。 トラックの上で、「砲兵」の仲間だ。 * 山脈の崩壊による産物が山麓に堆積したもの、ふつう 州庁所在地から西方および北西へかけての平地は驚 なら 険しい山谷の入口にあって、円錐状をなす。 くほど坦々として堅固であった。ここでは車で均され た道の上だけでなく、どの方向へも車を進めることが その地は典型的なハムマダ , ーー石の多い砂漠だが、 できた。角礫はいたるところにあり、まれに生えてい 化石ハムマダで、すでに草が生え、芝におおわれてい る植物のくさむらも、自動車の車輪にはたいした障碍た。ただ残留砂礫のうすい層が岩石連丘、あるいは盆 てではなかったからだ。アメリカ人たちが二十三年前に地の底につきでた岩の多い基礎をかくしていたが、植 求ここを通って、彼らの最良の発見地の一つ、パイン・ 物の状態は、現在の気候が、ハムマダ形成の時期にお を 竜ザク ( シャ・ ( ラク・ウス ) へ行ったとき、「百マイルのけるよりも、つまり、最高の乾燥時期におけるよりも、 4 テニスコ 1 ト」と呼んたのは、まさにここであった。湿潤になったことを物語っていた。

2. 現代世界ノンフィクション全集16

真中にぼつんと立っていて、まわりは水のない大きな からこれだけ大きな骨格をひきだすには、現在の私た 2 河床でかこまれていた。これがオルゴイ・ウラン・ ちのカでは、ほ・ほ一年を要すると考えられる。さらに ツア・フ ( 赤い太い腸の峡谷 ) であった。研究者たちは、その骨をモスクワで復元するには、数年の月日が求め 多くの谷の斜面や崖を長時間這いまわって、中央アジられるであろう。それゆえ、この発見は放置せざるを アでは発見されたことのないような恐竜の骨を見つけえなかった。 だそうと試みた。ついに、ある細谷の崖で、巨大な草 東よりの、オルゴイ・ウラン・ツア・フとダラン・ 食恐屯ーーザウロポドの骨格が発見された。この種のザダガド道路との中間に、二番目の山塊があった。こ 爬虫類にあるべきはずの長大な尾は、洗い流されて完れは、もっと暗赤色の粘土でできていて、砂岩はわず 全になくなっていた。ただ、大きな第一第二尾骨が二かしかまじっていなかった。ウラン・オシ ( 赤い水飼 個、残っているだけで、これは、エグロンが苦労のす場 ) である。 グロモフ、エグロン、オルロフは、ウラン・オシの え、堅い砂岩の板石からとりだしたのである。 * 山々が水で洗い流されたあとに、。ほっんと残った兵赤色の山壁の狭い細谷で、小さな「オウムの嘴」恐竜 高地。 の骨と、亀鼈類の甲の破片を見つけた。小恐竜の鋭い 薦骨と骨盤は崖の内部奥深く入りこんでいて、おそ爪をもった完全な肢骨は、材料の良好な保存状態の証 らく、その先に残りの全骨格がつづいているのだろう。拠として、私の目のまえの机の上におかれた。私は地 その大きさは、すでに発掘した尾骨の大きさから推定図を見た。ォルゴイ・ウラン・ツア・フもウラン・オシ すれば、約二十五メートルと考えられる。これは、全も、一つの大きな盆地の中にあり、この盆地は、緯度 中央アジアにおける、ともかくも完全なザウロポドのの方向に伸びていて、以前は、明らかに、白堊紀の、 遣骸の最初の発見であった。しかし、この堅固な岩石骨を含んだ赤色の岩石によって完全に満されていた。

3. 現代世界ノンフィクション全集16

ヘーリ。モンゴル語。山脈の高い基底のことで、山脈 教授。 の崩壊の産物から形成され、山脈のふもとを取り巻く。砂 * * 後期哺乳類および第四紀地質学専攻、教授。 漠地帯に特徴的。山麓堆積物。 * * * 熟練した化石整型技師、発掘技師。探検隊の発掘隊 「三つの美しい〔山〕」は、ふもとにひろがるダラン・ 隊長。 ザダガドの上に傲然とそびえていたが、そこには美し 黒く陽焼けして、皮膚が風で荒れた「ゴビ人」たち いものはなんにもなかった。しかし、その懸崖や、風 の賑やかな一隊は、顔の白い「市民」たちと、はっき にみがかれた巨大な露出した岩の縁には壮大さが感じ り区別された。もっとも、この「市民たち」の方も、 られた。 ゴビの熱風に焼けて、むしろ皮膚は赤色に近かったの 私は州知事を訪問して快く迎えられたが、よく話し 」、 0 ュ / ・カ 合うことはできなかった。知事はロシア語はほとんど ォルロフ、グロモフ、エグロンたちは、古生物学上 話せす、またこちらの通訳は先発隊の方に加わってい の発見を誇らしげに述べた。彼らと同行した小柄で髪 たからである。そのかわり、人民革命党の委員会では の人参色の、そばかすだらけの運転手アンドレーエフ 成功だ「た。書記たちは。シア語に精通していて、探は、後続の運転手たちにゴビの悪路の状態を説明して 検隊の仕事に深い関心をもっていたので、私は一時」 おどした。ようやく冗談はおさまって、私たちはテー た「ぶり話をしなければならなか 0 た。仕事の上で互プルの上にひろげた地形図の上にかがみこんだ。先発 、こ劦力する約東を交して家に帰 0 た。日記を書きは隊が走破した最初のルートは、二つの興味深い産地を おじめ、ちょうど終ったときに、オルロフ、グロモフ、 明らかにしたのである。 竜エグロンの三人があらわれた。 州庁所在地の北方、昔の隊商路で、白堊紀の赤色岩 科学アカデミ 1 古生物研究所所長。化石哺乳類専攻、層の巨大な山塊Ⅱ残丘が発見された。それは、盆地の 9 3

4. 現代世界ノンフィクション全集16

はるかに明るい。砂漠漆は車輪のために擦りとられ、 試みの跡であろう。 いまは、この平地にはどのような危険もなか 0 た。角礫は砂塵をかぶ 0 ていゑそれで道路全体が明るい 雨季はずっと以前に終り、粘土は充分深くまで乾いて灰色をおびているのだ。太陽が空高くあるときのゴビ では、純灰色は、空色またはうす青にみえる。 * 岩石の表面の、黄色みがかった褐色、赤みがかった色、 車の動きが止ると同時に、耐えがたい炎暑がおそっ あるいはほとんど黒に近い色の、〇・五ー二ミリメートル てきた。塀のあいだのそよとも動かぬ空気が文字通り ほどのうすい被覆物。岩石の内部からごく徐々に表面にで に灼熱されてきた。私たちは直射日光をさけて車のか てくる混合物中の鉄、マンガン等の酸化物の沈澱によって できたもの。 げに入り、食事をしたためると、しばしまどろんだ。 しかし長く休息することはできなかった。きよう中に後にも一度ならずこの現象を見うけた。いまも、焼 ダラン・ザダガドに行く予定が、まだ百九十キロメー けつくような太陽のもと、黒ずんだ角礫の多い平地の トルも残っているのだ。 上では、彼方に鮮かな空色の道がまがりくねっていた それで、だんだんきびしくなる暑さにもかまわずに、が、ここでは、自動車のラジェ 1 タ 1 の前では、完全 死んだような平地に車をすすめた。私は太陽と焦がすに青く見えた。珍しい色の道は空想を招き、前途にお ような風とで熱くなった耳をふきながら、共和国の首ぼろげではあるが並ならぬ可能性を約東しているかの 都から南へたった四百キロメ 1 トル、つまり緯度にしようだった : て約四度まっすぐに下っただけなのに、ウラン・バ 1 時がたち、太陽が彼方に沈んでいくにつれて、空色 トルとゴビとでは天候がはなはだしく相違することをの角礫は赤みがかった灰色に変っていった。二台のモ 満足して認めた。 ンゴルの自動車 3 Ⅱ O ・ 5 に出会った。私たちとはち 道の両側の角礫は黒ずんでいたが、道路上のそれは、 がって、モンゴルの運転手たちは、道のわたちゃ穴の

5. 現代世界ノンフィクション全集16

恐竜を求めて 周りを切り縮められたような灰色の粗粒砂岩の塊が 高さ七メートルの崖からわれわれの頭上に覆いかぶさ っていた。岩塊はひじように重くて、私たちの班の者 全部の力をあわせても、貴重な発見物の破減を意味す 蓋るその落下を阻止しえないほどであった。慎重に岩石 のを小さく打ち壊しながら肉食恐竜の大きな頸椎の一群、 恐 左の顎骨、二本の肋骨を取り出した。岩塊の重さは半 食 トンぐらいにまで軽くなったが、それでもその重量は れ 危険なほど大きかった。 発 エグロンが私たちの肩に乗り、両手で崖の張出しに で つかまって体を上げ、頭蓋の露出部分を石膏で覆い 響ゲ岩塊を草や・ほろきれで包んだ。ついでこの柔かい覆い ネ に縄をかけ、上方に打ちこんだかなてこに縄を縛りつ け、そうしておいてから岩塊の下の岩を打ち砕いた。 岩から離された岩塊は、細谷の底に掘った穴に頑丈な 箱を置き、その底に敷いた柔かい敷物の上にまっすぐ 静かに下された。隣りの細谷からはかものはしをもつれ た草食恐竜ー・ーザウロロファスの完全な顎骨が引き出

6. 現代世界ノンフィクション全集16

ていた。海は塩分を含んできた。澄みきった大気の中られた水路や鹹湖では、おびただしい量の塩とマグネ 8 で太陽は現在のこの山中でのように輝いていた。際涯シア沈澱物ーー白雲石とが水分の蒸発により脱水され なき海はきらきら光る青い遠景を広げていた。石炭紀ていく。現在のアジア大陸の北部では、沼化した森林 には大陸はいっそう低くなる。浅い海と沼化した低地の茂る広大な低地が存続していた。ここでは石炭の沈 との境はほとんど消えた。広漠たる暗い沼には密林が澱が続いていた。 生い茂った。全土にわたって、後に石炭と化した木質深い大洋に囲まれた高い大陸は中生代の初期ーー・三 のおびたたしい埋蔵がはじまり、地球上の大気は大部畳紀にも残り、現在私が立っているアジアのこの地域 の地質学的証拠は、その時代からのものとしては残っ 分の炭酸ガスを失った。 ジュラ ここでは中生代の二つの別の紀 石炭紀の終期には大陸の隆起が特徴的である。このていない。 紀と白堊紀の堆積岩層が大きく広がっている。その時 隆起は太陽温度の上昇と合致し、太陽の増大した放射 は大気を水蒸気で飽和させた。曇天の日が幾千年も続代にはふたたび大陸の沈下が起り、部分的には浅い海 いた結果、地殻のなだらかな瘤のように隆起した地域に浸された。暑い湿潤の気候は陸地における植物の発 の上に氷が集積するようになる。大氷結がはじまり、達をうながし、太陽によく暖められる塩分を含な海や、 その中心部は当時の極の状態から考えれば、現在の赤または沿岸の沼沢における動物生命の豊富化をすすめ た。まさにその頃、巨大爬虫類ーー恐竜類が出現した 道から遠くないところにあった。古生代の終りーーー二 畳紀に氷結は終ったが、大陸の隆起は続いている。ふのである。私たちはその遺骸を求めて、いまこのネメ : この考 ゲトウ盆地にたどり着こうとしているのだ : たたび透明な大気の中に太陽が照り、その起伏状態か ら見れば現在のアフリカに似ていた諸大陸の高原を焼えが私を現実に引戻した。夜営に適当な場所を探すた きつくしていった。後退した海の、暗礁の防壁で仕切めさらに前進しなければならなかった。

7. 現代世界ノンフィクション全集16

とによって切断したのである。風化の破壊力は山脈のた。ただ、まともに吹きつける風から守られた懸崖の 尾根においてのみ威力を発揮したにすぎない。そこで裂け目では、二メートルに及ぶ鏡肌の、褐色というよ りは黒に近い磨かれた表面が、砂岩の掘り起されたよ は浸蝕された砂岩の表面が多数の鋸歯状の峰や、空に 突きでた巨大な指状、塔状、頭状の岩塊を形づくってうな岩壁の上ではっきりと目立っていた。この山の鏡 に映る自身の姿を見るのは妙な心持である。タ陽の赤 いるのたった。 、斑点を浮べた輝く表面は、岩塊の奥深く果てしなく まるでなにものかの歪んだ顔が高い山壁からこちらし を見ているようである。ときには、猛禽の嘴が巨大な続いており、影像は明瞭な、体のない幻のように前方 山壁の端から突き出ているようにも思え、その先、タにとびだしてくるようであった。これに関連してすぐ 思い起されたのは、限られた人にだけ開かれる秘密の べの青い靄に包まれる山脈の延長は、後に曲った刺に おおわれた怪奇なワ = の背にたいそう似ていた。それ山の通路や、「主」の御殿のことを伝えるウラルの山 品に通じる にもかかわらず、 ( ナ・〈レは「三人の役人」の岩塊の物語であった。私は数分の間、岩塊の内 幻のドアの前で、我を忘れて、神秘の廊下への奇妙な のようには、輝くような黒い地殻におおわれていなか った。この山脈に「馬に乗った騎士の姿を映す」大き憧れにふけって立ちつくしていた。その廊ドは、地殻 の岩塊の奥だけでなく、想像もっかない長い過ぎ去っ なすべり面 ( 鏡肌 ) が在るという案内人ツェデンダン た時間の無限の底へも導いているように思われた。私 パの話は確認された。 * 断層、つまり、割れ目にそった岩石の垂直転位によるは息を止め、さながら禁断のものの中を覗きこむよう な思いで、私たちのまた到達できない惑星の深淵にそ 求石の表面の磨かれたような平面のこと。 はす 竜山脈の懸崖は、青い宵闇の靄の中に沈む遠くの端れの証拠を秘めている太古天文史ではなく、岩石層の中 に書きこまれた地質史における地球の外貌の変化を想 に至るまですっと、つやのない灰色じみた黄色に見え

8. 現代世界ノンフィクション全集16

をすすめた。 いる小さな平坦地であった。 2 ソモンは狭かったので、先へ進んで誰にも妨げられ ビラミッド形の残丘や、突起の多い変った円頂形の 丘や、鋸歯状の山頂がソモンの上にそびえ、少し離れない静かな所で寝ることにな「た。好奇心のある人は、 たところには、正円錐形の丘が見えた。これはほんとむろん多勢いて、その中には娘さんたちもおり、私た ちにはわからない冗談みたいな言葉をとばしておとな うに正円錐形なので、すぐさまこれは死火山ではない かと思「たほどである。私たちはソモン長のパオに招しいダンザンを困らせるのである。さらに三十キロメ なら ートルは、自動車で均された道を進むことができ、そ かれ、こんどの探検の目的を説明した。この土地の知 識人たちが集ま「たが、中にモスクワ大学の法科の学の先は道のない不安な土地であ「た。 生 ( もちろん、やはりモンゴル人 ) が一人いて、検事天候は先ほどソモンに入るまえに急変した。陰鬱な 黒雲が山々の円錐頂の上に垂れ下り、冷たい風が唸り 補として実習のために派遣されてきているのだった。 この頃、つまり第一次探検の時には、ノヤン・ソモだした。怪物の背のような、突起の多い長ったらしい ンは南ゴビ州のソモンの中でも最遠隔最南のソモンで、黒い山を迂回し、思いがけず吹きつけてきた吹雪の中 モンゴルの辺境であり、極端に言えばこの世の果てとを西に向って進んだ。日中の暑さからタの降雪への突 然の変り様に驚いた私は、真向いから吹きつけてくる、 まで思えた。 いたる所に舞っている雪の中を不審の気持で覗きこん 古老たちも集まった。ダンザンとツェデンダン・ハは だ。周り一帯は挑んでくるように暗く陰気になり、山 彼らと長く話し合ったが、ネメゲトウのことに詳しい 案内人は見つからなかった。ッ = デンダイ ( は、「竜山の濃黒色は孤独と陰欝の感じをいっそう強めてきた。 しかし数キロメ ] トルも行かないうちに、雪は降り の骨」のもっとも豊富な土地をより確実にすみやかに 見出すには、直接ネメゲトウ盆地で案内人を探すこと止み、一片の雲もない空にはふたたび太陽が輝き、真

9. 現代世界ノンフィクション全集16

念しなければならなかった。短い一日は暮れかかった。砂を撒いた斜面で道をさえぎっている。乾上った河床 現在の私たちはいつも急いでいた。去りゆく秋が残すの浸蝕溝と、砂丘の雑然とした群がりが、山から平地 にかけて遠く広がっていた。 明るい時間は余りにも少なく、果たしたい仕事は余り にも多く残っていた ! ふたたび、旅の間に何百回目になろうか、車は停止 車は遠くに高まっている低い山塊に向って、やはりし、研究者たちは急いで車を降り、歩きながら「戦闘 草の生えている路を進んだ。そこには ( マリン・フラ隊形」をとった。つまり、左右の者の検分する場所が ル ( 岬の上の廟 ) の廃墟があり、そこではまたもう何重複しないように、各自の方向を選んだ。これはプレ 年も地下の石炭が燃え続け、また、そこで地質学者が 1 の上手なフットボールのチームのように、あらかじ 恐竜の骨を発見している。ある報道は完全な骨格のこめなんの打ち合せをしておかなくても、うまく実行さ とを伝えていた ! 私たちが以前からそこを志してい れた。太陽が地平線の彼方に沈みかかった頃、ここに たのは当然である。やがて草原の上に、鉄質砂岩の固は骨格も、その破片すらも全然ないし、かってもなか い薄層の交った、薄灰色の粘土質岩石の崖や、浸蝕谷ったことが明らかになった。白堊紀の岩石の崖は東と が現われた。この黒く細い帯状の薄層は、灰色の表面南に遠く伸びて、骨があるとすればそこでなければな を黒く流し書きしたようで、無秩序な成層状態を証拠らなかったが、今はそれを調べる余裕はなかった。こ 立てるものだ。遠方の段の上には壁状及び望楼状の赤の地区の詳細な研究は次年度以降の調査計画に入って てい玄武岩が高くそびえ、赤味をおびた砂岩塊からなる いた。最初のうちに私たちは白堊紀の下半期に属する 求基底を踏みにじっているかのような感じだ。そそり立これらの下部の層準についての概念をすでに得た。わ 竜っ砂岩の岩壁は夕日をうけて赤紫色に染まっていた。 が探検隊の作業が終了後三年経って、地質学者たちは 下方は、崖の下で、高い砂丘がその柔かい、きちんと巨大恐竜イグアノドンの顎骨をハマリン・フラルから

10. 現代世界ノンフィクション全集16

恐竜を求めて : 。私たちはまだモンゴルのことをほとん れていた : ど知らなかったので、かりにこの厚い層を、以前にモ ンゴルの北部で記録された同じような層との類似によ って、ジュラ紀のものと見なすことにしたが、後にこ の結論は正しくないことが解った。われわれ自身が、 後年の作業の際にそれを訂正することになったのであ朝はまたも明るい空のきらめきとわずかな霜とを私 たちに送った。乾上った河床の斜面ははっきり目立っ * 熔解した岩石が水成岩の間に流入し、層の形をとったてきて、砂は硬くなり、自動車は軽く進んでいった。 もの。 河床の岸の岩壁は高くなり、谷は狭い峡谷に変った。 岩の浸蝕された表面は、角のとれた岩柱や円錐形の岩 の集まり , ーー明るい空の輝きの下に群なした風化によ る奇妙な像を形づくっていた。下方の河床の砂地のそ ばや、岩々の割れ目には大きなハイリャスーー砂漠の ニレが生えていた。ひどく曲った幹と広い頂きの木々 は、この遅い季節には一枚の葉も残していないが、み な同じような高さで一定の間隔をおいて岩にねばりつ くように立っていた。これは、この容易に入りがたい 峡谷に植えられた並木路という奇妙な印象を与え、山幻 山の野性的な形と鋭い対比をなしていた。曲り角をす 二赤い迷路