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検索対象: 現代世界ノンフィクション全集16
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1. 現代世界ノンフィクション全集16

に戻った。ニキ 1 チンは私より「快足」なので先に車人は言った。 のところに帰し、そこでみなが集合し、移動の準備を相談の結果、私の見つけた盆地が明瞭にすぐれてい するように計らうと、私は坂に登りはじめた。山壁のることが解り、この盆地は直ちに「主要盆地」と名づ 陰では静かで暑く、頂きに出ると風がすごく強く吹きけられた。この名は、次の年々に私たちが赤い迷路の つけるように思え、汗ばんだ背中を冷っこくした。強他の場所で発掘を行なったにもかかわらず、ずっと後 い向い風に逆らって登るのは困難で、私はゆっくりとまでもこの盆地に与えられた。 歩いた。車のところまでは結構遠かった。 私たちが先に接近した最初の残丘は「第一の丘」と 私は黒ずんだ角ばった石の上を進みながら思った。呼ばれるようになり、エグロンとグロモフとが発見し グロモフもオルロフもエグロンも何か見つけたにちた新しい盆地は「北西盆地」と名づけられた。 : いない。私が調べたのは、迷路の西南の端たけだか私は「竜巻」に乗り換え、「第一の丘」と「主要盆 ら。今日という日は永久に忘れられない、どうやら恐地」とをへだてている険しい岸の河床を迂回するため に戻った。最初の長い連丘の頂きで、案内人は車を止 竜の大墓地を見つけたようだ : ・ 最後の丘に登ると、黄色い小さな残丘と、その傍のめさせ、家へ帰るにはここから歩いて行くのが好都合 三輛の自動車とが見えた。隊員たちはニキ】チンを取だと申し出た。私はアンサルモ 1 にもう一夜を共にす り巻き、彼は勢いこんだ身振り手振りで、私の方を指るようにすすめた。明日車の荷を下したら車で送って 行くことができる。案内人は首を横に振った。 し示した。 「下のサクサウルの茂みの中にパオがあるんですよ。 エグロンの眠鏡がひたと私に向けられた。 「ほくたちもやつばりあっちの小盆地でたくさん骨を半ウルトンもありません、夜には着きますよ。そこか 見つけたんた。どちらへ行くんだね ? 」とラトヴィアら馬に乗って帰ります。車は通れないでしよう : : : 」

2. 現代世界ノンフィクション全集16

ス竜はとびきたって大地に近づき、落ちて死んだ。 っていたが、この人はハゲタカのように顔を回し、汗 その骨は大地に深くつきささり石と化した。はじめに ばんだ額を帽子でふいていたものだ。とうとう・ハルサ その尾と後肢が大地に打ちあたった。彼地、ウネゲンドルジさんは歓声をあげて馬からとびおりた。私た トウ ( 色のついた山々 ) の山中こよ、、 冫。しまもこの遺骸ちは五つの低い丘にかこまれた平らな広場に近づいた。 がよこたわる。首と胴体は西方一ウルトン半先のゾスそこにはいたるところにものすごく大きな骨がころが トウ・ウンドウル . 、 ′ラ ( 黄土色がかった黒い高み ) っていたのだ。その大きさからみれば、現在生存して の山中に落ちた。竜の大きさはこのように大きい ! 〉 いる動物のものではない。まちがいなかった。この骨 二十五年前、私はバルサンドルジさんからこういう は白くて、この草原ではどんな骨でも白くなるのだが、 話をきいたんだ。私たちのパオはザ・フ ( ン ( 氾濫する ) それとおんなしなのだ。 のそばにあったので、ウネゲトウまではごく近かった。私は羊の小骨一一十個分ほどの大きさの、足首の骨を その時の私は、いまのホルロ君と同じように竜の存在見つけた。曲「たするどい恐ろしい爪は、長いナイフ なんか信じていなか 0 た。すると父がや「てきて、三よりも厚くて大きかった。その先の丘の向う側にも、 十年前隊商とい 0 しょにそこを通ったときに竜の骨を骨が数十もころがっていたよ。私はだま「てつ 0 立っ 見たというのだよ。 ていた。つい少しまえにラマ僧の教えからぬけでたば それで私とバルサンドルジさんとは馬に鞍をおいて かりの私の頭は、混乱してしまったよ。それまで誰ひ てでかけた。井戸へ通じる路をすすんで、遠くに低い赤とり竜を見たことはなかったのだ。私は、竜なんて、 求色の丘が見えてきた。丘はたくさんあって、どれも丸仏教でいう極楽と地獄の仏と鬼と同じように、宗教の 竜く低く、対になっていた。ながいあいだそこいらを乗っくりごとだと、固く信じていたのだが、目のまえに 5 3 りまわした。私はおとなしく・ハルサンドルジさんに従怪物のような骨があるのだからね !

3. 現代世界ノンフィクション全集16

か出ていた頭を打ち、尖った照星が、寝たままかぶつ らえきれないと感したとたん、前後不覚に眠りこんだ。 深い眠りを通して、強いきしり音がきこえ、なにもていた毛皮帽の庇を裂いたのだ。しかしはそれはかす のかが私の額を突っつき、いやな煙が鼻をくすぐりだった程度だったので、熟睡していた私には軽い衝撃に した。やはり眠り続けながら、嵐の唸りと幕舎のどよしか感じられなかった。もし支柱がべッドの上に倒れ めきとを通して、びったりと閉じた寝袋の中までかすたならば、恐らく私は昆虫採集の標本のカプトムシの かに届いてくる哀れつぼ、叫び声みたいなものが聞えように突き刺されていただろう。煙突はストー。フから た。無理に眼を覚すべく意志を振るい立たせているう 引きちぎられ、不完全燃焼のサクサウルがいやな臭い ちに、エグロンがろうそくを灯した。私は寝袋から首をだしてくすぶっていた。ォルロフとダンザンは頭を を出し、何事が起ったのかとしばらくあたりを見回し寝袋の中に引っこめていて身動きもしなかった。彼ら て、ようやく、吹きちぎられた幕舎の下になって圧しも目がさめなかったのではなく、後でわかったのだが、 つぶされたグロモフ教授が助けを求めて唸っているの たとえ何事があったにしろ、寒い外へ出るのはおこと だとわかった。叫び声が幕舎の外から聞えてくるようわりと決めこんだのであった。 に思えた訳も明らかになった。教授の体は実際幕舎の 私は少し体を動かしてみて、後部の四本の張り綱の 外に出ていたのであって、大きな帆布が強い風の力をうち二本が寝袋にびったりと圧しつけられているので、 うけて、べッドの上の彼を抑えつけ、そのため身動き寝袋を出られないことがわかった。いちばん体が自由 もできなかったのだ。太く堅いシラカバの木を使った なのはエグロンだった。彼は寝袋を出て、隣の幕舎へ 大きな後部支柱は真中あたりで折れ、私のべッドすれ援助を求めに行った。ます私の張り綱が取り除かれた すれの所に飛んできて、堅い地面の中に深く突き刺さので、私は寝袋の外へ出、コック、「砲兵」、。フロ = ン っていた。柱にかけておいた小銃が、袋の中からわすの手によって新しい後部支柱が立てられ、グロモフも 4 / 8

4. 現代世界ノンフィクション全集16

みなは熱心な関心を示して話を聞いた。それがすむ 見つけて、キャンプに戻った。帰途に要した時間はた 0 と、ダンザンが案内人クホの体験した思いのことを話 った二時間十五分だった。 キャン。フでは小銃を射「て喜んで迎えてくれた。私しにかかり、それは私たちが言葉を知らないために気 は骨格の詳細を知りたくてたまらず、ましてその一部づかなかったことなので、みなの注意はすっかりこの ことに移った 0 はすでに岩石から取り出されてあるものと思っていた。 ところがたいそうがっかりしたことに、私たちが留守こういうことだった。クホが ( ラ・フトウル山を見 していた二日僴に、隊員たちは完全に「動員解除」さつける力のないことを自認し、それで私が案内人の役 を受け持った後、彼は自分の不首尾を強く感じ、一見 れていた。 エグロンは呑気に言った。明日は仕事を終えよう厳格に見える隊長から懲罰に付されるのではないかと 心配していた。 今年は骨格を取り出そうなんて考える必要はないと ハラ・フトウルの山々の調査が終って、私とグロモ フとが最初に車に近づいた。ダンザンとクホの姿はな るし、骨格も大きすぎるから、労務者二人、運転手一一 人の力を合せなければ、それを掘り出して木枠にはめかったので、出発が遅れることを危ぶんだ私は、いっ こむことはできないと言った。私はすっかり憤慨してものように小銃をとって二発空に射ち、集合の合図を エグロンに食ってかかり、仕事に対する安易な態度はした。ところがクホは五歩ほど離れた岩陰で風を避け 懲罰に価すると威した。エグロンも怒って食事もとらて居眠りをしていたのだ。頭上に銃声が轟いたので跳 ずに寝袋の中に入ってしまった。グロモフは緊迫したび起きたが、なんのことやらわかるはずもなく、寝ば 空気をほぐそうとしてハラ・フトウルのことを話しはけていたので胆をつぶしてしまった。その後、すでに じめた。 車に入ってから、彼はダンザンに訴えた。隊長は「イ

5. 現代世界ノンフィクション全集16

った。アンドレーエフはすでに機敏に熱いお茶と昨日メ類の化石を豊富に含み、これは間違なく、イン・ シレでは一番下に、盆地の底に横たわっていたものだ。 の冷たい羊肉とを用意していた。 玄武岩の下に位置する、樹木の化石を含む砂岩は、 ( 先へ進んでハラ・フトウルの尾根の南側に回った。 玄武岩の尾根の向う側は一面の丘と細谷と、河床ラ・フトウルの三つ目の、骨を含な層準で、私たちが で、後者は広い谷に落ちていた。ほ・ほ三十平方キロメ見たもののうちではも「とも古いものだ。ここには東 1 トルのこの野原は私たちの手に負えない作業量であゴビの白堊紀の盆地における堆積の解釈の鍵があ 0 た。 この点で私とグロモフとは仲良く一致して、岩石標本 った。アンドレーエフは「竜巻」を運転して勇敢に一 つの峡谷〈下りてい「た。それは、もし私自身が目撃と骨とを自動車のところに運び、と言うよりは引きず って、カつきはててぶつ倒れてしまった。 したのでなかったならば、自動車で入っていけるとは 決して信じられないほどの谷であった。この降下は案「やれやれ、古生代研究者も息たえたえというところ だね ! 」とグロモフが勝ち誇ったように言ったが、彼 内人をまったく感心させ、以後、彼がアンドレ 1 エフ の耐久力は私よりはあらゆることで劣りはしなかった を見る眼は恍惚以外のなにものでもなかった。 私とグロモフとは数時間にわた「て峡谷を歩き回り、のである。「ゴビを残らず調べようとしているわい ! 」 私は彼の皮肉に答える気力もなくもの憂げに言った。 メモを取り、標本を叩きとって袋に入れ、汗を流しな 「じゃ君は調べたくないというのかい ? どっちがた がら崖をよじ登った。この地の状況が徐々に明らかに な 0 てきた。玄武岩の上には骨を含む二つの層準があくさん崖を見て回 0 たか、わかりやしないよ。」 教授は石棺の蓋のような砂岩の長方形の板石の上に った。一つは灰色の砂の中にあって、カモノハシ竜ー ートラコドンの骨格の大きな部分を含み、ネメゲトウ仰向けにな 0 た。私はそ 0 と立ち上「てカメラをと 0 のそれと類似していた。今一つは一番上にあ「て、カた。撮影は地質学的な意味で成功し、断面の中程の砂

6. 現代世界ノンフィクション全集16

事実、恐竜が生存していた時代には、大きな哺乳類 い掘られたところから、大小さまざまの白、薄灰色、 鋼色の骨が突き出ていて、保存状態は良好なのだ。労はまだ地球上に現われていなかった。 「・ほくは前から解っていたよ、ここは恐竜たってこと 務者たちがつるはしを持ってきたので、私はオルロフ やエグロンといっしょに砂岩の中の大きな骨を掘り出は。ちゃんとその証拠があったんだよ」とグロモフは しにかかった。小峡谷の底では太陽はひとしお強烈に得意げに言った。 照りつけ、私たちは汗びっしよりになりながら、この 「そうだ、うつかりしていた、歯だよ ! 」と私は気が 墓場で取り組んでいる相手の動物がいったい何であるついた。 か、少しでもはやく証拠を得、確めたかった。おそら「うん、そうだよ、歯だよ」とオルロフが応じた。 くこの墓場は、私たちが見た赤い「町」の迷路で判断興奮の余り大事な目印となることを忘れていたのだ すればきわめて大きなものにちがいない。 が、それに気づけば、化石哺乳類の墓場と爬虫類の産 「どこだ、君たちは ? 古生物学者どの ! 哺乳類だ地とはただちに区別できるのだ。哺乳類の骨格のうち と言ったのはだれだったかね ? これはなんだね ? 」 でいちばん堅固なのは歯で、爬虫類のそれとは対照的 ほうろう と上方からグロモフが叫んだ。 に、複雑な構造の厚い琺瑯質でできている。トカゲ類 教授は険しい段を騒々しく滑りおりてきて、私たちの方は、どんなに体が大きかろうと、歯はつねに簡単 に差し出したのは、まるでス 1 。フの中から取り出してな構造で、薄い琺瑯質におおわれた円錐形骨質である。 てきたばかりのような、きわめてよく保存された指骨ー このような歯は地表ではたいそう速く破壊される。哺 求ー肉食恐竜の爪の骨の元だった。 乳類の歯は化石骨格が地表に洗い出されるときでも他 竜「これで問題は解決だ ! 恐竜がいるところには哺乳のすべての骨よりも「生き永らえる」。それゆえ、哺 恐 乳類の墓場では私たちは地表に主として歯を見つけよ 類はいない。」私たちは同時に叫んだ。 43 ノ

7. 現代世界ノンフィクション全集16

き払われ、遠くに飛び去り、大気の中に消えていく。 ともなく一一 = ロった。 「うるさいそ、地質学者どもはいつになったら眠らせ空気は風除けに当って腹立たしげに唸った。 てくれるんだ」とオルロフの不満の声がきこえた。 アンドロソフがやぶにらみの眠を丸く見開いて、片 「君はすぐに眠れるのか ? 」と別の車のかげからエグ手で綿入上衣のホックをびったりしめようとしながら、 ロンが大げさに驚いて見せた。 私の方を向いて言った。 ( いったいどういうわけです 実際、明日という困難な日をひかえて、運転手たち「この『竜』というのよ、 の眠りを妨げることはいけなかった。私たちは話をやかい、イワン・アントノヴィチ ? 」と彼はわざとそん め、いっしか眠りについた。 ざいな口調で尋ねた。 私は説明したが、運転手長はなおも満足しなかった。 「昔は悪いやつが、無頼漢とか、お巡りとかいうやっ が竜っていわれていたんですよ」と彼はこぼしていっ の斜面に上るやいなや、ヨ 乾上った河床からべーリ モギのすがすがしい匂い、強い風、驚くほど澄みきっそう鼻に皺を寄せた。 私はなるほどと合点して笑いこけた。 た空気に迎えられた。 「君は車の名前が気に入らないんだね、そうだったの 車はおびただしい細谷や丘の上で激しくゆれ、けい か ! 大丈夫、竜は名誉ある力強い獣だよ、モンゴル れんしながら、盆地を横切っていった。いつものよう てに、先頭は新しい案内人を乗せた「竜巻」だった。私や中国の昔の民間の信仰ではね : ・ 求の乗っている殿りの車から、「竜巻」が通り良い道を「いったい私がどんな竜だというんです ? 教授とも 探してあちこち向きを変え、うろっき回っているのがあろうお方がつまらんことを楽しんでいらっしやるも 4 見える。車の後に舞い上る土・ほこりはたちまち風に吹のだ。」 しんが

8. 現代世界ノンフィクション全集16

風は追い風で、ますます強く吹き、綿入上衣すら吹 うとし、爬虫類の場合は、骨を、そしてきわめて稀に 歯の小さな破片を見つけようとすゑだから古生物学き通してきた。しかし私の歩みは重く、長い登り道で紹 者は、発掘にとりかかる以前に、地表に転がっているはなぜかとくに高さが感じられた。このネメゲトウの 骨の破片の成分によって「下書き」として知ゑすなペ 1 リはおよそ千七百メートルの高度であった。コッ わち、そこで扱う相手が爬虫類であるか、獣であるクのニキーチンは私の右方を進み、私を追いこして、 か、従って、中生代堆積層であるか、新生代のであるある頂きのかげに姿を消した。陽気なコックはもっと も熱心な骨の狩人の一人であることがわかった。その 産地の本格的な綿密な調査にかかる必要があった。動きの目立たぬ職業は、この不運な男にその能力を発 車に戻った私たちは、目的地に急ぐの余りまた朝か揮する機会をこれまで一度も与えなかったのだが。一 つの急坂を越えた私は前方にこれと同じなのを見た。 ら何にも口にしていなかったので、朝食をとることに した。ついで、調査に重複のないように区域の分担をただそれはもっと大きな多面体の角礫が散らばってい 決めた。エグロンとオルロフとは残丘からいくらか斜た。下り坂では足許の角礫は大きな音を立てて転がり めに北東へ、グロモフとダンザンとは細谷をまっすぐ落ちた。斜面はとっぜん懸崖で切れていた。十五メー 北へ、私は赤い迷路をさえぎっているように思える高トル下に水のない河床の底があり、それは二つの平行 い坂を越えて東へ向った。車は、人をつけてしばらくする急坂を分けていた。私は崩れ易い崖のはすれで安 その場に残ることになった。後ほど土地の調査を終え、全な下り道を探したが、見つからなかった。左手に狭 発掘にもっとも適当な場所を見つけたら、なるべく背い枝溝があったので、そこへ下りていった。いや、正 負って連ばなくてすむようにそこへできるだけ近く車しくは転がり落ちたのである。しかし小さな壁につき あたって止まり、下の砂が衝撃を柔らげてくれた。次 を進めるのである。 、 0

9. 現代世界ノンフィクション全集16

送ってきてくれた。これによって、今日までヨーロッ平野では限りなく孤独なものに思われた。まだ燃料を パ型と考えられてきた下部白堊紀のほんとうのイグア車に積みこみ終らぬうちに近寄ってきたのを見ると、 ノドンがアジアに棲んでいたことが証明されたのであ若いモンゴルの女性だった。彼女は少しも照れず、こ だわりなく、誇りをもってダンザンと話をして、それ 私は忌々しさを抱いて車のところに戻り、同僚たちから私たちの方へ急いでやってきた。挨拶を交して、 私はタバコを取り出した。女客は利ロそうな眼を光ら を呼んだ。ハマリン・フラルでの不成功を償うには、 今日中にできるだけ遠くへ進まなければならなかった。せながら、長い手綱を手にしたまま坐り、タバコを吸 生き生きとした丸い顔を起して話を交した。タ・ハ 近くの砂丘に大きな灌木が生えていたので、燃料としい、 コを吸い終えると、身軽に鞍に跳び乗り、馬を駆った。 て切ってくるように命じ、労務者たちが運転手やコッ マリン・フラルにあるソモンへ急いでいるらしい クといっしょに急いだたが、ダンザンがそばに来て、 肩越しに振り返って私たちに笑顔を見せながら、若い この植物 ( サンザシの一種 ) はひじように燃えが悪い ので、薪には不向きだといった時にはたいそうがっか女牧人は丘の中に姿を消した。私たちが後姿を見送り りした。それでも一本の大きな灌木を切り取り、それながら思わす溜め息をついたほど、彼女は、重苦しい にカラガナと。 ( グレレアカザ科 ) の一抱えをつけ加えた。服を着た陰気な私たちの中で、とても身軽に生き生き ノ / の灌木 盆地は暗くなったが、上方、赤い玄武岩の岩壁は明と感じられ、まねのできないような優美さで馬を乗り まさしく との民族にせよ、 るい太陽を浴び、鉛色の砂地に陽気なばら色の照り返こなしていた。私は、・ しを注いでいた。下方の盆地で、乾上った河床の彎曲それぞれの祖国の子であると思った。この砂漠をひと りで数十キロメートルも用事を果たしに馬に乗ってい 部の陰から、馬に乗った者が現われた。最初は黒いシ ルエットが遠くに見えるだけで、さえぎるもののない く口シアの女性は考えられもしない。それと同様に、 454

10. 現代世界ノンフィクション全集16

青年たちは爬虫類の太古の墓場の頑固な砂岩をつるは 立っ崖を登って運びだした。 山々はさながら、竜の墓地を騒がした私たちに激昻しで打ち砕き、掘り下げ、石膏をこね、板を切った。 したかのようであった。この墓地がものすごく大きなへとへとに疲れ切った彼らは夕食がすんで幕舎に入る ことが、日とともにますます明らかになってきたのでとたちまち眠りこんだ。タベの合唱、冗談、音楽は一 時中止となった。夜の寒さのため、労務者の幕舎のべ ある。 恐ろしい風が荒れはじめた。昼も夜も休みなく吹きッドは全部一緒に集められ、綿入上衣、フェルト、山 続け、発掘の現場では鋭い針のように砂を顔に突き刺羊皮の外套など暖かい衣類の山で覆われた。砂やほこ りで埋まり、煙で煤だらけになった幕舎は陰気な洞穴 し、幕舎を引き裂き引きむしるばかりで、夜にはスト 1 ・フを焚くこともできなかった。スト 1 ・フの煙突に補みたいになったが、私は、献身的に働いて疲れ果てた 青年たちに秩序を維持させる勇気はなかった。発掘の 助用の煙出しをつけねばならなかった。 風は発掘の現場ではとくにひどく吹き荒れた。眼に終るまでやむをえずこの状態にがまんすることにした。 私たちの幕舎には、オルロフ、グロモフ、ダンザン、 砂を投げつけ、耐え難いほど仕事を妨げた。シャベル エグロン、私の五人が寝起きしていた。それそれ好み をひと振りし、つるはしあるいは槌をひと打ちするご とに、ひと握りの砂あるいは数片の石がすごい勢いでの場所を選びとったが、それは後々もどこへ移動して 顔にはね返ってきた。保護眼鏡はレンズの質が良くなも厳格に守られた。グロモフのべッドは私のべッドの ていため、細かい仕事の妨げになり、はずさざるをえな真向いの脇壁のそばにあったので、私と彼とはオルロ フのべッド越しに盛んに地質学の論争を交した。いち 求かった。 を ばん論争の的となったのは、ゴビ砂漠の地表にある石 若い労務者たちは不平も言わずにあらゆる不便に耐 え、全力を尽して働いた。夜明けから早い秋の夜まで、の発生の問題であった。私はこの表層が、ゴビの諸盆