クランプ - みる会図書館


検索対象: 現代世界ノンフィクション全集17
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1. 現代世界ノンフィクション全集17

大説走 1 クランドと、 待機する。 操車係は全員ノー・フル、リース、 ったトンネル班員としての経験者なので、地下では万 人の流れは徐々に調子づいてきた。 事順調に運んだ。各操車係が十名の脱走者を扱うと、 十一、十二、十三人目の男たちが各々三カ所で交替し、 トレンスは二人の伝令を机のそばに控えさせておい た。脱走者が縦坑を降りて行くと、トレンスは名簿の旧操車係は脱走組に入る。穴の外の茂みに隠れた調整 次の男の許に伝令をやって五分間で支度を命ずる。指係は二十名の脱走者を扱うと二十一人目が彼と交替す 図をうけた男は装具を身につけ部屋中のものに小声でる。 別れを告げる。そして伝令が彼を迎えに戻ってくるま 間もなくクランプは予定よりひどく遅れているのに でには準備を完了しているのだ。 気づいた。ブッシェルの計画では、事故さえなければ 彼は揚けぶたわきのドアのところへ行ってクランプ三、四分に一人の割合で脱出させる筈であった。しか の合図を待つ。名簿を持って揚げぶたのところにいるし最初の一時間でこれが無理な話だということが分っ ディヴィッドソンが彼の名前を照合し、梯子を降りるたのだ。その間トンネルに入って行ったのは僅かに六 要領を教える。 名だけだ。旅行鞄が面倒の種なのだ。そして暫くはこ 底にいるクラン。フは彼にトロッコの乗り方を教える。の調子が続きそうであった。 ビカデリーに着くと、そこのトロッコ操車係はレスタ最初の三十七名は汽車を利用することになっている 1 ・スクエアからトロッコをたぐり寄せてある。脱走ので、殆んど全員が旅行鞄を携帯する必要があるのだ。 者は中継小屋の中を這い進みトロッコに乗りこんでレ鞄といっても大ていはポール紙あるいは合板製で靴墨 スター・スクエアに向う。そこでさらに乗り換えて終を塗りたくったしろものである。そしてこの三十七名 9 点に向うのである。 の殆んど全員がトロッコに乗ると鞄の処置に当惑する

2. 現代世界ノンフィクション全集17

四角に張りつめたタイルを一つずつはずし、それをト赤ら顔のクランプはつるはしにかけては達人であった。 8 ラヴィス配下の大工たちが造った木の枠組にセメント 最後の揚げぶたが完成したという心躍る報告がフラ ッデイからロジャーに伝えられた。この作業は計画全 づけした。この枠組を元の場所に蝶つがいで留めると、 揚けぶたが出来上った。 体を通じて最大の難関であった。というのは、床板が ごっそり破られているのを見れば、監視兵の中でも鈍 タイルの下は煉瓦とコンクリ 1 トで固めてあった。 い方の旗頭ドウピーにしたって不審な点があると感づ ロシア人捕虜の作業班が残していった柄のとれた古い いたであろうから。クラン。フが「ハ リー」の揚げぶた つるはしを有難く頂戴してしまいこんでいた男があっ た。クランプはそれに野球のバットをとりつけて、そにとりかかっているとき、床は十日にわたって開けら れからカ一杯、コンクリート で固めた基礎に打ちこんれ、監視兵が近くをうろついているときは藁ぶとんで だ。けたたましい金属音が鳴り響いた。つるはしが煉おおい隠していたのである。暫く後のことであれば、 こんなことでごまかし通すことは出来なかったであろ 兀とコンクリ 1 トにぶち当る音だということはごまか しようがなかった。グレムニツッとラバネックを先頭う。しかし北収容所へ移動した最初の数週間は監視兵 に一キロ以内にいる監視兵全員が、おっとり刀でとん自体の組織もよく整っていなかったという幸運がわれ でくるおそれが多分にあった。 われに味方したのである。 おとりが六人、窓の外に集って、空きかんを叩き始揚けぶたのありかを知っている者は所内全員のうち めた。二日間、彼らはパン焼き皿のような安全無害な ほんの二、三十人しかいなかった。残りの者の大部分 代物を造るという名目で、出来る限りの騒音を出し続はそれがどの小屋にあるのかさえ知らなかった。これ けた。この間、クランプは汗まみれになってつるはしをみても如何に万全な機密保持が行なわれていたかが を振い、煉瓦とコンクリ 1 トを突き崩した。角ばった分って頂けると思う。しかしほとんど全員が何らかの

3. 現代世界ノンフィクション全集17

なく冷たい空気が彼の顔を撫でている。全身を鋭い歓 んだおかげで緊張感も僅かだが弛んだ。 トレンスは揚げぶたのある部屋の外の廊下に机を置びが貫いた。顔を上けると押し殺した声で言った。 いて陣取っていた。各棟の施錠も済み、所内には軍用「やったそ。貫通したんだ。トレンスに伝えろ。」 トレンスが揚げぶたから身をのり出した。 犬を連れた巡察兵が残っているだけなので、これまで 部屋の中にすし詰めになっていた人々は廊下にあふれ「確かか ? 」 出した。まず第一にトレンスは廊下の床に毛布を敷き「確かだ」しわがれ声のクランプ。「ここの空気の流 れをみれば疑う余地はない。すぐ始まるそ。次の男に つめるよう命じた。歩き廻る足音を消すためである。 準備するよう言ってくれ。だが合図するまでは降りて それに全員靴は脱いでいた。 くるな。」 廊下の眺めは驚くべきものであった。脱走者たちは 床一杯にごろごろしていて、足の踏み場もない。伍長さらに十五分も待たされた。十時半になって、やっ の制服を着こんだトボルスキーは、・ほろ服にゴルフズと起点のトロッコに腹ばいになっている男は、引き綱 がぐいと引かれるのを感じた。。ヒカデリーからの合図 ポン姿の人々の上を靴を手にした優雅な足どりで、 ひょいひょいと乗り越えていゑ丸めた毛布や一時しだ。彼が綱を引いて合図を送り返すと、トロッコは消 のぎの旅行鞄のそばに腰をおろしたべレー帽やら布帽音用毛布を巻いたレールの上をゆっくりと中継小屋め 子をかぶった奇妙な人種は、煙草をふかして努めて平がけて転がり出した。 気な顔をしようとしていたが、実際のところ地下組織クランプは上に向って叫んだ。 「次の方、どうぞ。」二、三秒後には次の男が梯子を の避難民といった様子だった。 十時十五分、クランプは頬に冷たい空気が当たるの降りて来た。 トロッコは直ぐ戻ってきた。次の男が腹ばいになり を感じた。彼はトンネルの奥をすかして見た。間違い 8 9 3

4. 現代世界ノンフィクション全集17

大脱走 「クランプ、君は ? 」 「トンネル作業班全員を代表して申し上げる」とクラ ンプは言った、「この期に及んで全てを失うことなど は、われわれの甘受しうるところではない。んなる もっ 士気を以て、決行を支持する。」 「よし。決行は今夜だ。」ロジャ 1 は力強くさっと立 ち上った。「さあ一発ぶちかまそう。」 十一鉄条網の外に出た ! 五分もしないうちにこの決定は全員に伝わった。び りびりと電流のような緊張が漲った。 ラングフォ 1 ドとクラン。フは『ハ リ 1 』に直行した。 ラングフォ 1 ドが揚げぶたの縁のセメントを削り落と す。掘り手一名を伴ってクラン。フがもぐりこみ、一抱 えの毛布を持ってトロッコに乗りトンネル先端に向う。 クランプは脱出用縦坑寄りの中継小屋出口に毛布を釘 づけしてカ 1 テンとした。さらにもう一枚の毛布をそ の中継小屋の内側一メートルのところに釘づけする。 これは縦坑が貫通したときの遮光ならびに防音用であ る。二人は中継小屋の床に毛布を敷きつめた。こうし ておけば小屋を這い進む人たちが脱走用衣服を汚さず に済むのだ。 クラン。フはさらに毛布を十五センチ幅に切り裂き、 8 3

5. 現代世界ノンフィクション全集17

大脱走 も脱走用食糧をせ「せと口に放りこみはじめた。これよろしい、ゲシ = タポは諸君を銃殺にし、す 0 かり片 は大へんな濃縮食糧なので全部をのみ込むわけにはい をつけてくれるだろうからね。」 かなかった。二十三号室ではクランプが揚げぶたの下 こんな調子で彼はぶちまくった。捕虜にとって気の を引っ掻くかすかな音を聞いた。監視たちが到着した しい収容所長などいるものではない。しかしフォン・ のだ。招かれずにやってきた客なのだから、出口も勝 リンダイナ 1 は例外だったと思う。少くともヒットラ 手に見つけるがいい。クランプには手をかしてやる気 1 のドイツにおいては、こんな親切な所長はいなか 0 はさらさらなかった。 ただろう。われわれに十分な食糧を与えられなかった のは彼のせいではないし、鉄条網越えにとりつかれた 衛兵室ではフォン・リンダイナーがトンネル脱出口捕虜が、手の早い衛兵に射殺されたのも彼の責任とは でつかまった四人を前にしていた。顔を真赤にしてわ いえなかったのだ。それに今、彼が取り乱すのも無理 めき立てている彼の口から、つばきが盛んに飛び散っもない話だった。この事件で彼の一生も終ったのだ。 ていた。黙然として直立不動の姿勢をとっている彼ら彼自身の逮捕も遠くはないことを彼自身一番よく知っ には、所長の言葉が皆目分らなかった。所長の演説は ていたのだから。 支離滅裂に近かったのだ。ラングはかろうじてその一 部をとらえた。 六時、完全武装のドイツ兵約七十人の一隊が、軍靴 「つまり諸君はこの収容所がお気に召さんというわけを重々しく響かせながら行進してきた。彼らは散開し なんだな。」フォン・リンダイナーのうわず 0 た声はて全ての窓のシャッターをしめ、百四棟の周囲に包囲 びりびりと震えていた。「のこのこ外へ出て行ってゲ陣を敷いた。 シュタボのお世話になりたい そう思っているのか。 いぜんとして顔を真紅に染めたフォン・リンダイナ 409

6. 現代世界ノンフィクション全集17

「まさに妙案だ、まったく。あの床は約一メートルのた。二十分もあればすむと思っていたのに、封印した 高さはある。」 ときのクランプの仕事が非常に入念なものだったので 「それに安全でもあるし」とクランプが言った。「あ結局たつぶり二時間もかかってしまった。ストーヴを いつらだってこれまでにわざわざあんなところを詳し動かすと揚げぶたは簡単に開いた。はたしてトンネル く調べたりはしなかった。」 は無事だろうかと気づかいながら三人は手に手に油脂 演劇班はこの考えを歓迎しなかった。床下の土砂が ランプを持って降りて行った。『ハ 丿ー』は三カ月も 発見されでもしたら、劇場は閉鎖され、所内の娯楽活封鎖されていたのだ、トンネルというものは絶えず補 動が禁止されることになるだろうと思ったからだ。 修する必要があるというのに。 「脱走の方がもっと重要だ」とウイングズ・ディは言 クラン。フはトンネルを這い進んだ。ところどころ僅 い、劇場は以後土砂処理用に供すべき旨の厳命を発しかばかりの砂がこぼれ落ちている箇所はあったが、ゆ - 」 0 がんでいる枠組は四つを数えるのみであった。クラン トラヴィスは観客席最後列の座席をちょうつがいで。フは後で修理するようにチョークで目印をつけていっ 後ろに倒せるように細工し、その座席の下の床に揚げた。フラッディは空気ポン。フの蛇腹が故障しているの ぶたを切った。油脂ランプを手に床下にもぐりこんだを認めた。その日の午後、部下を連れて降りて行った ファンンヨ 1 は、『ハ トラヴィスがその蛇腹を新品と取り換えた。空気ポン 1 』から掘り出される土砂を 。フはどうやら動き始めたが、 処分するだけの余地は十分にあることを知った。 トンネル先端にいるクラ 一月十日の点呼が済むとフラッディ、クライフ、それイフから送りこまれてくる空気の量が少なすぎるとい 丿 1 』の揚げぶた係パット・ラングフォードは、う報告があった。 ハリー』の揚げぶたの周りのセメントをこわし始め 「送風管のどこかが詰っているんだ」とフラッディは

7. 現代世界ノンフィクション全集17

にやにや笑いを浮かべた見なれぬ顔がのそいていた。 のだ。鞄を落とす者あり、支柱にぶつけて鞄をひどく 一、二秒たって、やっとそれがロひげなしのテイム・ 凹ます者ありの態たらくであゑ鞄を前に捧げ持とう として体の・ハランスを崩し、車輪を一方に浮き上がらウオレンだと分った。テイムは脱走に際してあの巨大 な口ひげを剃り落としたのである。 せ、脱線事故を起こす者も数名はいた。脱線となると 何とも面倒なことになる。 「こんな大荷物をかかえこんでお前さん一体どこへ出 トンネルはひどく狭いので、トロッコに乗っているかけるつもりなんだ ? 」とクラン。フはきつい口調で尋 男は車輪を元に戻そうといくらもがいても結局何も出ねたものの、いぶかしいやら、腹立たしいやら、それ 来ないのだ。操車係は引き綱の手応えが突然張りつめに何となくおかしくもありで、まことに奇妙な気持だ っこ 0 くらカをこめても動か るのを感じとる。次の瞬間、い ばこそである。こうなるとトンネルを這って行き、ト 「出来たらわが家へ」とテイムは相手のきげんを取る ロッコの男に手をかして両手と爪先に体重をかけて体ような調子で言った。「でもまあ本当のところ独房行 を浮かせ、車輪をレ】ルに戻す以外打つ手はない。そきというところかな。」 れから操車係は中継小屋まで這い戻り、作業を再開す「そんな物を持ち出せるわけがない」とクランプ。 る。トロッコを小屋までたぐり寄せる前にまた脱線す「御心配なく。うまくやるから。」 「まあ無理だねーとクラン。フが言った。「やれる筈が るというのも珍らしくないのである。 ない。」押し問答が一「三分続いた。 作業中、次の男は誰かと振り返ったクランプの眼に、 人間の顔ではなく旅行鞄が飛びこんできたので仰天し結局クラン。フはまずこのトランクだけをトロッコで たことがある。実際のところそれは旅行鞄というより積み出し、それからテイムを送り出した。 は大型トランクと言う方がふさわしい。その後ろから真夜中を少し過ぎたころ、サイレンの音を聞きつけ 400

8. 現代世界ノンフィクション全集17

それを折り重ね、トンネルの起点および終点の約十五の靴のかかとを材料に日付けスタン。フを刻み始めるよ うアル・ヘイクに頼んであった。それは決定が下った メートルの区間のレールの上に釘づけした。トロッコ が走るときの音を消すためである。トラヴィスは木製ときまでには出来上っていた。偽造班員は全部の書類 のトロッコ用車台を運びおろし釘づけにした。脱走者の日付印押し作業にとりかかり、次々にそれを手渡し ていった。 は装具を持ってその上に腹ばいになれるのだ。 地上では二百二十人が最後の準備を整える間、一種五時の点呼にはクラン。フも這い上ってこないわけに よ、つこ 0 。し、カオ , 刀ュ / の秩序ある混沌が続いた。監視の眼をおそれて土壇場よ、 「仕事はまだ、うんざりするほど残ってる」と彼はロ まで手控えていた仕事が山ほどあるのだ。各棟の「リ トル・〒ックス」は脱走予定者を呼び集め、水筒、 ジャ 1 に一一一口った。 ファッジ、磁石、地図、そして金を手渡すと同時に、 「八時半までには片付くだろうか ? 」とロジャ 1 。 各人がその部屋を出る分秒たがえぬ正確な時刻、およ「何とかなるだろう」とクランプが答える。「大部き びどの地点で統制係の指図を受けるかの細目を伝えた。ついが最善は尽そう。」 ドイツ兵がこの只ならぬ動きに不審を抱かぬよう彼ら彼とラングフォードは点呼が終ると百四棟にとって は出来る限り室内にこもっていた。 返した。監視が身をひそめている場合に備えて見張り ゲス 数十人の見張りが配置についていた。トミ 1 ・ たちが例の通り小屋を調べ、異常なしの合図を出す。 トは隠しておいた衣服をとり出すと、汽車旅行の連中ラングフォード が揚げぶたを上ける。 に手渡した。 「『異常なし』もこれが最後か」と呟いてクラン。フは ディ 1 ン・アンド・ドーソンでは偽造班が熱に浮かそそくさと降りて行ったが、その様子には何か物悲し されたような騒ぎであった。テイムは前の晩、ゴム底げな気配があった。クランプとカントンは今回の脱走

9. 現代世界ノンフィクション全集17

るという厄介な仕事にとりかかったのである。これだた彼は脳震盪を起こしていて顔面蒼白であった。べッ 2 ドにおさまった彼は二日間というもの身じろぎ一つし けの大物になると綱はたえずもつれ合うので、彼は二 人の男に手伝せてこのじれったい仕事をなんとか仕上なかった。 げたのである。 その翌日こんどは金属製水さしが落ちてきてフラッ ディの頭に当った。水さしのヘリの直撃ではなくその 胴腹が斜めに当ったのは不幸中の幸いであった。そう 月は欠けた。トンネル班は作業を再開した。フラッ ディは一日三・七五メートルの新記録を樹立した。そでなければ彼の頭はざくろのように割れてしまったこ れから急に土質が軟弱になり、フラッディがまた生きとだろう。とはいえ彼はひどい打撲傷をうけ、頭の繃 埋めになった。しかもてひどく。約百キログラムの砂帯は何日もとれなかった。つまずいて玉突きの球よろ ーに一一 = ロうと、 が崩れ落ち、押し潰されたフラッディは殆んど意識をしく扉に頭をぶつけてね、と監視のビー 失っていた。彼を引きずり出すのに手こずったクラン この男有難いことにひどく気の毒がってくれた。 ラングフォ 1 ド、、、 プが大声を発して救援を求めると、カントンが中継小 カ寝台板をとり落したときは危うく 屋から這い寄って来た。力を合わせてフラッディを引 クランプの頭をぶち割るところだった。クランプは二、 きずり出す。意識を回復したこの男、あとかたづけは三分間も口汚く彼を罵った。 おれに任せろと言い張ってきかないのであった。 「わざとやったとでも思ってるのか」とラングフォー 落ちてくるのは砂ばかりではなかった。揚げぶたのドも負けずにわめき返したが、すぐに謝った。揚げぶ 傍らに積み上げてあった寝台板が一枚、縦坑を真逆様たのある部屋がラングフォ 1 ドの住居で、揚げぶたは に九メートルも落下して、トンネルロから這い出して いわば彼の恋人であった。みんなの神経はひどくささ ・マーシャルも きたクーキー・ロングの頭に命中した。運び上けられくれだってきていた。快活なジョニ 1

10. 現代世界ノンフィクション全集17

ウイングズ・ディが北収容所に送りこまれてきた。 る。地下十メートルのこのねずみ穴では生命にかかわ シュビンの収容所長はトンネル脱走事件のあときびし引 る大問題なのだ。 けん い譴責をうけた。逮捕されたウイングズは独房暮しを 落盤寸前にかすかに砂のきしむ音がする。とみるま に二、三百ポンドの土砂がのしかかってくるのだ。地たっぷり味ってからシ = タラ 1 ク・ルフト・Ⅲに追放 全身これ耳となって危険されたのだ。ウイングズにしてみればこれは願っても 下ではロをきく者はいよ、。 ないことだった。例のトミー・ ガンの護衛つきで正門 に備えているのだ。 から堂々と所内に歩を進めてきた彼は、以前にもまし 「トム」の縦坑は二週間で十メートルになった。 ハて飢えた孤独な鷹といった様子を強めていた。彼はそ 「ディック」も二、三日後には同じ深さに達した。「 リー」ではクランプが六メートルの深さに掘り進んでの足ですぐさまロジャ 1 の部屋を訪ねた。 いた。マ】シャルとその配下は「トム」の基底を掘り この出会いはまさに両巨頭再会の図であった。ロ 拡げて作業室の建設にとりかかった。彼らはます長さジャ 1 は手短かに現況を語ったあとで、その部屋に何 一・五メートルの小部屋を掘った。道具一式とトンネが仕掛けられているか伏せておいて百四棟二十三号室 ル支柱の置き場である。四角形の基底の次の辺に掘りを居住区とするよう彼にすすめた。ロジャーに伴われ 抜いた小部屋は、トンネルから掘り出される土砂を一 てその部屋に一歩足を踏み入れたウイングズの眼に映 時貯えて処理班に受け渡すためである。基底の第三辺ったのは、開いた揚げぶたとそこから今まさに這い出 に造った一・八メートルの長さの部屋は空気ポンプとようとしているフラッディとクランプの姿であった。 ポンプ掛り用である。第四辺は西側、つまり鉄条網の 「これはかなわん ! 」と彼は唸った。「この部屋はご 方向に面している。トンネルが真黒な口を開けている。めんだ。」もっと静かな部屋を探そうと彼は脱兎のよ うに走り出した。もうトンネルはこりごりだというわ