監視兵が彼を取り押さえたりしないところを見ると、マキントッシュをはじめとする細工師たちは何時間も 6 この持論は的を射たもののようであった。いずれにし根気よくやすりをかけて、金属用たがね、ねじ廻し、引 てもこれは都合のよいことであった。というのは、彼針金切り、錐といった貴重品を仕上げてしまった。 市・ . ィリ . 1 ー・ ウィリアムズは収容所内で数多くの資材 はいま器具製作場の仕上げにかかっており、彼自身も ポケットにはやっとこ、のみ、かねのこの刃を一杯にを手に入れた。寝台板、壁板など手当りしだいである。 つめこんで、いわば歩く作業場だったからであゑ彼彼は部下に命じて建物の釘、ねじの類を引抜かせたが、 小屋が崩れ落ちなかったのが不思議なくらいである。 の配下の金属、木工細工師は現在十人をこえていた。 大工の筆頭、ディガー・マキントッシュは一九四〇年 一日置きに約三十名の監視兵と衛兵が朝の点呼のあ フランス戦線でマーストリヒト橋に自殺的な攻撃をしとで宿舎になだれこんできて手入れを行なった。まず ガンを構え かけて撃墜され、全身火傷を負いながら生き残った男ある小屋の全員を外に追い出し、トミ 1 ・ で、収容所暮しもこれで四年目を迎える。もう一人の た兵士たちが小屋の周辺をかためる。それから小屋の ボ・フ・ネルソンはドイツ軍前線を越えること百六十キ隅々まで捜索が行なわれる。なにもかもひっくり返し、 ロの荒地で撃墜され、直ちに敵中を味方前線に向って汚ない指を砂糖と大麦の中に突っ込んで隠してあるも 歩き出した。あと三百メートルで味方陣営に辿りつくのはないかを調べ、藁ぶとんを床の上に放り出す。一 というところで、彼はドイツ巡察隊に捕えられたので回の検閲で手入れをされるのは一つの小屋だけで、一 ある。 日置きに狙いをつける小屋を変えて行く。たっぷり三 ヴァレンタ配下の情報員は話のわかる衛兵二、三人時間かけた捜査が終ると、小屋は台風一過の無残な状 を手なずけて、少しばかりのやすりと一見何の使い途態になる。しかも彼らが見つけだそうとしている肝心 なもの、例えばトラヴィスの道具類などは無傷のまま もなさそうな金属片とを持ち込ませることに成功した。
大脱走 「クランプ、君は ? 」 「トンネル作業班全員を代表して申し上げる」とクラ ンプは言った、「この期に及んで全てを失うことなど は、われわれの甘受しうるところではない。んなる もっ 士気を以て、決行を支持する。」 「よし。決行は今夜だ。」ロジャ 1 は力強くさっと立 ち上った。「さあ一発ぶちかまそう。」 十一鉄条網の外に出た ! 五分もしないうちにこの決定は全員に伝わった。び りびりと電流のような緊張が漲った。 ラングフォ 1 ドとクラン。フは『ハ リ 1 』に直行した。 ラングフォ 1 ドが揚げぶたの縁のセメントを削り落と す。掘り手一名を伴ってクラン。フがもぐりこみ、一抱 えの毛布を持ってトロッコに乗りトンネル先端に向う。 クランプは脱出用縦坑寄りの中継小屋出口に毛布を釘 づけしてカ 1 テンとした。さらにもう一枚の毛布をそ の中継小屋の内側一メートルのところに釘づけする。 これは縦坑が貫通したときの遮光ならびに防音用であ る。二人は中継小屋の床に毛布を敷きつめた。こうし ておけば小屋を這い進む人たちが脱走用衣服を汚さず に済むのだ。 クラン。フはさらに毛布を十五センチ幅に切り裂き、 8 3
大脱走 壁にこの新しい手順を走り書きした。 いた。背後の林には全く注意していないようだった。 「縦坑出口で待機せよ。梯子に結ばれた合図用の綱をおそらくそちらを見てみようなど思ったこともないの 握れ。綱が二度引かれたら、這い出せ。綱に沿って待だろう。彼が操る探照燈は右から左と鉄条網をなめま わし、所内の小屋と踏みにじられた雪の上を飛びはね 避場に向え。」 るようによぎると、他の監視小屋の探照燈の光とまじ 彼はダウスに向って言った。 「後から来る者にこの手順に注意するよう伝えてくれ。り合うのだ。 ・フルは西から誰かが近づいてくる足音を聞きつけた。 手違いのないよう念を押してくれよ。君の替りの引き 綱係が来たら、同じことをするよう申し送ってくれ給鉄条網沿いにゆっくり歩いてくるドイツ兵の姿がぼん やり浮かび上った。ライフルの銃身がその肩から突き え。」それから一同に向って言った。「手抜かりはない 出している。彼は監視小屋まで行くと、一、二度足踏 「では始めるそ」と言って・フルは毛布から這い出し縦みをしてまた元きた道を戻って行った。二、三分後、 坑をよじ登った。手には輪にした長い編み綱を握ってもう一人の歩哨が反対側から姿を現わした。この男も いゑその綱の一端を梯子最上段の横棒に結びつけた監視小屋まで来ると引き返した。二人とも林の方なり 彼は、注意深く穴から頭を突き出して周囲の様子をう所内なりに眼を向ける様子はなかった。凍てつくよう かがった。異常はない様子だった。彼は綱を繰り出しな寒さの中をむつつりと行ったり来たり、行ったり来 たり只ひたすらに歩き続けているだけなのだ。 ながら音をしのばせて雪の上を這い進み、かってドイ ッ監視兵が身をひそめるためにこしらえた囲いの背後身をひそめた茂み越しに見ると、トンネルの穴が雪 にたどりついた。 の中に黒々と口を開けていた。頭の位置を下げると、 監視小屋の見張りはいぜんとして所内に眼を向けてその穴もかすかな線ほどになる。歩哨たちの眼の位置 395
り口を開くことになるのだ。鉄条網の向う側には外套統制係はトボルスキーがドイツ兵に扮することを前 8 を着た歩哨が二人巡回している姿がうかび上る。一人もって知らせるのを忘れてしまっていたのだ。トミ田 ・ゲスト手製のドイツ軍服は、まことに見事な出来 は監視小屋と衛兵小屋との間をゆっくりと往復し、も う一人は監視小屋を起点に反対方向の西側鉄条網までばえで、かぎ十字章、鷲印、徽章の類にも手落ち一つ の区域を巡回している。監視小屋の上で探照燈を操作ない。正式軍装と比べようといくら日の光に当てて眼 している兵士よりも、この二人の方がもっと警戒を要をこらしてみても、色のエ合が灰色の本物よりも心も ち青味がかっているかといった程度の違いしか見つけ する。 八時十五分前、トレンスは最悪の瞬間を迎えた。百られないのだ。 四棟のドアが開くと、ドイツ軍服に身をかためた伍長恐縮したトボルスキーは平あやまりに謝った。ほっ が姿を現わし、軍靴を重々しくきしらせながらこちらとしたとたんにトレンスはロもぎけないほど全身のカ が抜けて、このドイツ兵に割り当てられた部屋を弱々 に向って大またに歩み寄ってきたのだ。 廊下には平服を着た脱走者が三人いたが、泡をくっしく指さした。トボルスキーがその部屋のドアを開け て手近の部屋に走りこんだ。一瞬凍りついたように身て踏みこんでいったとき、なかにいた人々は腰を抜か をかたくしたトレンスは、それでも気をとり直すと彼さんばかりに仰天した。トボルスキーと同行するのは に近寄った。どんなことをしてでも、彼を押しとどめ、ウイングズ・ディで、彼は海軍の飛行服を仕立て直し 気をそらし、この小屋から外へ連れ出す算段をしなけたダ・フルの背広とグレイのズボン、布製帽子を着用し ればならぬ。万事休すーー彼の体は震え、吐き気さえていた。二人はシテティーンに向い、そこからスエ 感じられた。そして次の瞬間、彼はそのドイツ兵が実ーデン船にもぐりこむ計画を立てていた。 マ 1 シャル、ンヨニ 二十三号室ではロジャ 1 、 はポーランド人トボルスキ 1 だと知ったのだ。
大脱走 小屋を建設した。これは『トム』の場合と全く同じで、 長さ二・一メートル、高さおよび幅はそれそれ七十五『ハ ー』が全長六十メートル近くに達したとき満月 センチのものである。この中継小屋はピカデリ 1 と名の時期とぶつかった。空は雲一つなく晴れわたり、一 づけられ、独房の真下に位置していた。 週間というものは雪に照りはえる月光が所内隈なくし やわらかい砂の場合、音響はよく伝わるものだ。独っとりとした輝きで充たした。 房のコンクリート床を歩き廻る軍靴のぎしぎしいう音「危険すぎる」とファンショーがロジャーに言った。 「外はまるで白昼同然だ。ペンギンたちはすぐにも目 が聞える、とシャグ・リースが言い出した。 「おれにはよく分るんだ」と彼は言った。「あの音だをつけられてしまうだろう。監視小屋からまる見え けは忘れられねえ。」 ロジャーは自分も降りて行って作業に加わると言っ ロジャーは歯がみせんばかりに苛立ちながらも作業 てきかなかった。陰欝な表情は相変らずだが彼の闘志停止命令を出した。一週間にわたってトンネル班の活 は燃えていたのだ。脱走の執念にとりつかれた鬼を思動は止まった。毎日彼はチャズ・ホールを訪ね、その わせるものがあった。 晩の天気工合を尋ねた。毎日、ホ 1 ルの答は同じだっ こ 0 「中継小屋は、少なくとももう一つ必要だ」とフラッ 「名月。快晴。」 ディは彼に言った。「うまくいけばそれだけで済むか クランプはこの余暇を利用してトロッコ用の新しい も知れない。われわれは既に三十ズ ートル掘り進んだ。 あますところ約七十五メートルというところだろう。」綱を作った。古いのは傷みかけてきたのである。材料 それだけ掘れば外側鉄条網を抜け道路の下をくぐっては既にウィリアムズに頼んで集めてもらっていた。ク 3 ラン。フは九十メートルに及ぶ四重よりの綱を編み上げ トンネルは林の茂みに達するのである。
「どうやら銃声のようですな。」 突然、静寂が戻ってきた。全員の眼は小屋のドアに 「くそっ ! 司 ド違いなく銃声だ。」誰かが引きつった向けられる。かんぬきがはずされる音が聞えたのだ。 ドアが開き、軍用大を連れた巡察兵が入ってきた。軍 声で言った。 「こりや一大事 ! 」最初に行動に移ったのはクランプ用大の方は関係ないとばかりにと・ほけた顔をしていた だった。「誰かやられたんだ。ディヴィソン、トンネが、巡察兵は一瞬不安気に立ちすくむと、眼ばかり ルの連中を引き上げさせろ。」ディヴィソンが梯子をきよろきよろさせていた。どうしたらよいのか分らな いので、彼はとりあえず二、三の者に部屋へ入るよう 滑り降りて行くとクラン。フは戸口のトレンスに呼びか けた。 命じた。従う者はいなかった。廊下をうろうろ歩き廻 って、この男は壁から外套をはすし、出入口のそばに 「この棟の全員に書類を始末させろ。とにかく罪にな ードの方は心得たものだ うず高く積み上げた。シェパ りそうな装具は全部片づけるんだ。」 一斉に書類と地図に火をつけたので、部屋も廊下もった。その外套の上に寝そべると眠りこんでしまった いたるところに小さな炎がちらっきはじめた。小屋はのである。 煙で充満した。磁石をこわし、ドイツ紙幣は藁ぶとん お人好しの巡察兵には、それ以上の仕事が思いっか にかくす。仕立て直しの服から背広用ボタンを剥ぎと なかった。彼は外套の山のそばに坐りこむと、自分の るとこれも燃やすなり隠すなりする。 靴のつま先をしげしげとみつめるばかりであった。 窓から飛び出す者もいた。これは捕虜心得に全く違幕はおりた。一夜の緊張は弛んだ。約百四十人の捕 反する行為である。彼らはほの明るい構内を自分たち虜たちは笑いさざめき、うっぷんをはらしはじめた。 間もなく取調べをうけ、水とパンだけの独房送りにな の小屋に向って駆け出した。監視小屋の衛兵が一「三 るのは分りぎっていた。そこでしばらくすると誰も彼 発お見舞いすると、この不法行為もあとをたった。 4
一一十三棟のまわりにも地響きを立てはじめた。沈痛な危険は覚悟の上である。それにどっちみちこれ以上の 面もちのグレムニツツはこの小屋の中を歩き廻ってい 安全策を講ずる時間的余裕は残されていない。南鉄条 たが、やがて此処は既に二回にわたって捜索したこと網の向う側では、新設アメリカ人捕虜収容所の最後の でもあり異常なしと判断した様子だった。いずれにし小屋が建てられ、屋根ふきとペンキ職が仕上けを行な ても赤十字箱は所内ではごくありふれた品物なのだか っているのだ。情報班が探り出したところによれば、 ら。 アメリカ人捕虜は二週間以内に移動する予定とのこと フォン・リンダイナーはその日の午後命令を出して、であった。 箱の類の北収容所への持ち込みを厳禁した。その日は フラッディは慎重な口調で、地表まで掘り上げるの これ以上の騒ぎもなく過ぎたが、緊張はいぜんとしてに四日はかかると言った。ファンショーはその分の土 続いていた。夕方、ロジャーはミンシュケヴィッツに砂処理に頭を痛めたが、何とか片づけようと言い切っ 命じて『トム』の揚げぶたをセメントで封じこませた。 た、そう、いざとなったらその砂を胃袋に呑みこな覚 十分に掘り進んだと彼は判断したのだ。それは約七十悟でやれば何とかなるさ。 八メ 1 トルの長さに達し、林の縁まであますところ十 二メ 1 トルである。それでも既に鉄条網を越えること グレムニツツは北鉄条網側の小屋のどれかがくさい 約四十五メートルにおよび、監視小屋周辺の明りも届とにらんでいた。いかにも脱走に恰好の西側百二十三 かない地点に達しているのだ。 棟寄りに比べれば、こちら側にトンネルを掘るのは一 この地点で脱出し、林の縁まで匍匐前進するという見馬鹿げている。しかし彼は狡智にたけた捕虜たちが 非常手段が現在の情況で考えられる唯一の途だ、とい 一筋なわでいかないことを肝に銘じていた。彼らはい うロジャーの判断は、大半の委員たちの支持をえた。 つも裏をかくのだ。彼は百四および百五棟の捜索を命
いざとなると地上を疾走するのと変らぬ素速さで身体その週の終りまでに『トム』は四十五メートルの長 ーキヨー を後退させる。ト ・ジョーンズは相も変らずさに達した。そこでフラッディ、クラン。フおよびマー 自分に限って生き埋めになることはないとのんぎに信シャルは中継小屋を掘りあけた。フラッディにしてみ じこんでいた。翌日、フラッディは彼を一番手にした。れば三十メートル毎に中継地点が欲しいところであっ ジョーンズが〇・六メートルほど掘り進み、枠組をは た。それ以上の距離になるとトロッコを操作する綱が めこみ天井板を差し込もうとした瞬間、約百キロの土支柱をこする様になり、枠組を破損するおそれが多分 砂が崩れ落ちてきた。落盤がおさまると彼の足だけが にでてくるからである。 砂の山から突き出していた。二番手のフラッディに引 中継小屋は長さ三メートルで、主トンネルよりも幅 つばり出され、息を吹きかえしたこのアメリカ人は何および高さは十五センチ大きくなっており、レールは やらぶつぶつ言っていたが、やがてものすごい顔つき敷設されていない。二人の要員がそこに待機している で黙々と砂をかたづけ始めた。 が、かろうじて身体の向きを変えるだけの余地はある。 「君がこんなに長く黙っていられるなんて思ってもみ採掘現場からトロッコが戻ってくると、第一の男が砂 なかったよ」とフラッディはからかい半分に言った。箱をはずして控えの男に手渡す。二番手はその箱を第 するとジョ 1 ンズは肩ごしに振り返った。泥と汗にま二のトロッコにのせ、縦坑へ送りこむ。中継小屋が出 みれた彼の顔はランプの光をうけて眼だけが白く異様来上るのに歩調を合わせてトラヴィスは第二のトロッ なほど浮き上ってみえた。 コを仕上けていた。 「幸福なるかな、柔和なる者。その人は地を嗣がん。 フラッディの計算によれば中継小屋はほ・ほ鉄条網の 大第 ) 」と彼は言 0 た。「全くのところ、こんどばか真下に当る。あと三十メートル前進すれば林の縁に到 りはこの・ほくもしたたか地を嗣いだというわけさ。」達する。林の中に七メートルも入りこめば安全に脱出
は、決してグリ 1 ク・マイクやビッグ・ジョー・ンは、 たがた走って小屋のわきにたどり着いた。 私に関する限り許そうとか忘れようとは思っていない まずは無事平穏の旅たった。車を走らせている時、 ひょう と私は信じていた。実をいうと、私に対してなんら具道を横切る大きな豹がヘッドライトの中にぬっと現わ 体的な行動が取られないので、私のほうでむしろ驚いれて、叢林の中に姿を消したが、たぶん獲物を追って ているくらいだった。おそらく私のように、彼らも獲いたのだろう。それ以外には私のあとをつけるものは 物の時機をねらっていたのだろうーー彼らの組織と密何もなかった。 偵網が思ったよりよほど貧弱でない限り、私がヌドラ私は常にどんなに用心しても用心に越したことはな にいるのを知らないと思うのは、余りに虫がよすぎる いと思っているので、静かに小屋の背後に回ってから、 というものだ。 懐中電燈を照して窓から中を見た。そこはただ一室た 金曜日の夜、夕食をすますと私はボブとかねて打ちけの粗末な造りだった。二つの簡単な寝台と少しばか 合わせたように、清算をすませてホテルを出、そのまりの簡単な家具のほかは、全くがらんとしていた。そ ま夜道に車を走らせて、週末に出かける小さな釣り小 こで私は中にはいると、簡単な鍵をなりにドアにかけ 屋に向かった。それはボ・フの友人の小屋でカフェ川のて ( というのは、ボ・フは大事を取って彼の友人にも、 団上流のはるか離れた場所にあ「た。ボブから大体の略この小屋を利用することを話していなか 0 た ) 、蚊を 密 図をもらっていたので、それを頼りに進むと見つける追っ払いながら古ストしフでコーヒーを沸かし、地酒 のにそれほど困難を感じなかった。ボブという男は常にプランデーを混ぜて飲んで、川から上って来る冷た イ日ごろ物事をきちんとやる男だったので、それを頼る い明け方の霧の寒気を防ぎ、片方の耳だけはよく開け 際のが一番安心だった。こうして夜をついで走って土曜ておいて、まずべッドに横にな「た。すぐ近くで豹の 2 日の未明には、私は最後の細いやぶ道を数メ 1 トレ : ノカそっとするような叫び声が聞えたーー・おそらくさっき
大脱走 を浮かべていた。眼ざといフォン・リンダイナーはこうずうずしながら待っているのだ。 の青年にも目をつけた。 フォン・リンダイナーとしては全員を独房送りにし たいところであった。独房の数が足りないのは実に残 「独房」と彼は前と同じ険悪な表情で言った。衛兵が 二人ホレ 1 スを引き立てていった。こんどはハトスン念なことであった。 がにやにや笑う番であった。 暫くするとアイカツへルが照合用の写真を持ち出し てきて、雪の中に立ちつくしている連中を調べ始めた。 写真照合が済むまでの二時間、フォン・リンダイナー は捕虜たちを雪の中に立たせておいた。 脱走者数七十六という報告を聞いたフォン・リンダ イナ 1 は、顔を凍てついたように突っ張らせて歩み去 った。間もなく百四十名の捕虜たちは正門まで行進さ せられたが、そこでまた止められた。この連中をどう 処置すべきか、所長自身もとまどっていたのだ。彼ら はその位置で三十分も待たされた。すると伝令がやっ てきて、ビーハー冫 こ耳打ちした。この小柄なオースト リア人はぶるぶる震えている連中の方に向き直った。 「解散」と彼は言った。彼らは自分たちの小屋に駆け 寄った。小屋では他の連中が昨晩のことを聞きたくて 41 ノ