ルの所まで到達したのであった。皮肉なことには、彼 女はこのような深海の圧力にはりつばに耐えたくせに、 不思議にもレ 1 ダーマストを失ったり、海面の波浪の 十海底動物園 ために役にたたなくなるほど打ちのめされたのである。 すなわち、私たちは深海に人を送ることのできる器械 は作りえたくせに、ぜんぜん問題にならないような空深海潜水艇実験の航海の途次、数週間にわたって、 気と水の層のほうはうまく通過できなかったのである。私たちは大西洋の大海原ではじめて仕事をした。私た この経験を基として深海潜水艇はよく海に耐えうるよちが海図を調べているとマデイラとカナリヤ諸島との うにふたたび設計しなおされている。こんどのものは 間のサレく ノ / ージ島に不思議な標が二つ付いているのに 母船なしで曳行できるもので、操縦者は沈下の直前に 気がついた。案内書を見ると、これらは無人島だと書 乗り込めるし、また観測球が浮上するとすぐ出られる いてあった。私たちはこの島にむかって行くことにし ようにしてある。将来、もういちど実験が行なわれる たが、そこはサメのいる海域が待っていたので、私た だろうが、この第二の深海潜水艇は必ずや、世界の深ちは十分安全策を講じて行くことにした。すなわち、 奥に人間をもたらすことを私は固く信じて疑わない。 潜水者たちは二人一組になって下り、互いに警戒する こととした。さらに醋酸銅というサメよけの薬品 ( トル潜水に成功し ~ 」。フランスの深海水艇号がそれで そのことを私たちは「フライ・トックス」と呼んでい 界ある。八年前に日 世本にもやってきた たがーーーを足首に結びつけておいた。 の この大サルバ ジ島に着くと、ディディと私は最初 の潜水をするために梯子を下りた。このとき彼は破裂
ジャック・イーヴ・クストー 佐々木忠義訳 沈黙の世界 一人間魚 二深海での陶酔 三沈没船 四海中調査団 五洞穴潜水 六海底の宝物 七海底博物館 目次 108 9 / 79 60 40 27 7 5
示すようにしてあった。艦橋の士官は、精密な水路表うに頼まれていたのであるが、この仕事は潜水艦が海 0- 示海図に従って潜水者を曳きよせたり、または綱をゆ中を航行するところを写した最初の映画へと発展した「 るめて繰り出したりした。このため潜水者は、海床のものである。 地形が変っても常に海底から一メートルの一定距離に探知器は海中のレーダーに相当するもので、元来 あるよう調整されていた。私たちは、半時間ごとに交ポートを探知するために連合軍によって使用された超 替することにしたので、冷えきった潜水者は交替ごと音波装置である。これに対抗するためナチスの考え出 したのが上記の防探具で、これは追われているポー に浮き上ってきた。 私たちは、このカーニ・ハル船のような掃海船を誇り トからばらまかれる一種の錫の箱のことである。その にしていた。揚げ索につかまった二十人の中二人だけ箱はうまく海の真中にひっかかっているように調製し は、以前潜水者の経験のある者だった。他の志願者は、てあり、そこで泡の層を発生するもので、追跡者たち をしてたしかにポートの反響だと誤認させ、この泡 二週間契約の少年らであった。 機雷の鉄線網にからまりはしないかと、私たちは初を目掛けて爆雷攻撃をさせるよう仕組んだものである。 心者のことをたえず心配していたが、 / 彼らは誇らかにすなわち、ある一つの潜水艦から放たれた一連のこれ らの箱をみたならば、必ずやその下の辺に、この危険 人間魚となって上ってきた。 爆破の日には彼らは、自分らが黄色の・フィで印をつな代物がうろついているだろうということがわかるわ けた紐つき機雷を結びつけるために自由に海の底に潜けである。 らされた。彼らはその日を休日のように考えていた。 フィリツ。フ・タイエはカメラを持って飛び込み、潜 この時期に、海底調査団は、調査器具としての潜水水艦の行手に場所を占めた。潜水艦は潜望鏡の中程の 艦写真術を発展させた。私たちは防探具を撮影するよ深度を保ってこの防探具を撒きながらやってきた。タ
色フィルターの影響でしたものや、糸状の生き物や、杯の形をしたものや、 2 ・ 事物を見誤らぬように きのこの形をした物などがたくさん付いている。これ ッしなければならない。 らのものは、もはや色で区別することはできない。し サンゴの枝は青黒く見かし無色というわけでもなく、まるで不自然な色をし 活えるのである。枝は青ているのである。ぶどう酒のかすのような紫色だった る 白い花のようなものでり青黒かったり、または黄緑色などである。これら え に蔽われているが、それはみな陰気に沈黙を守っているが、なにかしら多少生 よを邪魔してやると引込気を持っている。 る んで見えなくなってし さて岩礁の根本からは丸裸の砂地が海床まで単調に て まう。このあたりではのびており、この生命の端とも思われる所には何物も 赤サンゴなそは流行お生成しておらず、または冊いまわってもいない。人間 そ 出 くれであって、そんな ももはや脳の支配を離れて、半ば自動的に動いている び にものは四五〇グラム十のであって、ただその奥底で古い記憶、すなわち水面 空ドルぐらいの価値しか に帰らねばという考えが残っているだけである。さて ないくらいだろう。 色の特色を失った場所、すなわち、いまだかってその 赤サンゴのある海域真の姿を現わしたことのないこの海底の世界をあとに して壁に沿って登りはじめると、たちまちその麻酔状 では岩礁の隙間から大工ビが触角を突き出していて、 潜水者が近くにくると軋るような音を立てて動き出す。態は消失してしまう。 岩の上にはまるで生きている腫瘍のような乳房の形を 魚は上ったり下ったりすることを好ます、ちょうど 4
深海潜水艇のかずかずの付属品にまじ 0 て、私たちることにな 0 ていた。この。ヒカールーコサイン砲の根 がツーロンで作ったビカールーコサイン式深海砲もあ元には銛と怪物とをたぐるためのス。フリング仕掛のリ ールがついていた。 った。これは陸上では、かって見たこともない一種の この深海潜水艇は既述のように水平方向に自由に航 海中砲であり、口径二五ミリの砲身が七個組みになっ もり ていた。各砲身には一メートルの銛が装填されており、行できるので、浮き上った場合、乗組員の酸素が尽き ないうちにどうやったらこれを発見できるかというこ これは砲身の根元の水圧。ヒストンで発射される仕掛に なっていた。すなわち、砲が海中に下るにつれて、そとが問題であった。この船が静かな海底に降りている の水圧自体が砲の推進力になるわけである。九〇〇メあいだに、その母船は風や海流のために流されること ートルの深さで、操縦者がその砲の引金を引いたとすもあろうし、浮上しても霧の中で見失われる心配があ 丿 1 ・モニエ号に特 れば、飛び出した銛は四・五メ 1 トル離れた樫の板にる。海軍ではこの万一に備えてエ 1 八センチ突き刺さるほどの威力を持っていた。水面で殊の超音波探知器を設備したり、ル・べリエ号やクロ ワ・ド・ロレ】ヌ号などのフリゲート艦のマストの上 は当然この銛は無力である。 海底で興味ある動物に出くわしたとき、この深海砲または飛行機に特殊レーダーを装備して万全を期した。 深海潜水艇は電磁石でつけてある錘を落して表面に でやつつけようというわけである。海底にはもしかす るとガリハ 1 の巨人国に棲んでいるような巨大なイカ帰ることになっていたが、万一乗組員に事故が起った ときは自働的に浮上できるような万全の準備が整えて 界がいないともかぎらない。動物は銛でやられるばかり 世 でなく、さらにその銛索を通って流れる電流のためにあった。 の 私たちの最初の旅行地はポルトガルのベルデ岬にあ 黙弱らされるようになっていた。もしそいつが電流にも 抗するようなときは銛の先からストリキ = ンを注射する一群の火山島の一つボアビスタ島の陰になるような
とはできないのである。この深海潜水艇の金属風船はることとなっていた。観測球の下にはスケート型をし 理論的には一五〇〇〇メ 1 トルという実在しない深さた一三六キロの錘が付いていて、これが海底に着いて の圧力にも耐えうる。私たちは安全なゆとりを残して船をとめたり、速度をゆるめたりする。なおこれは深 平均海深四〇〇〇メートルの所に降りようとしている海潜水艇の長靴のような役目もするのであって、この おかげで船は海底から一メートル離れながら一八キロ のである。 。ヒカール教授の最も思い切った着想というのは、海の距離を一ノットで航行できる。船の外側には、深海 面から何ら連絡綱なしに降下することであり、これはの暗黒の中でも天然色映画が十分撮れるほどの強力な すでに私たち海中調査団のアクアラング使用者たちが、照明が用意されており、その光の下に操縦者はリ、ー っとにその価値を認めていたことである。彼は以前ケサイトの窓越しに海底の景色が見られるようになって 1 ・フルで装甲球を吊り下げる式の深海潜水球を設計し 観測球の中にはまるで迷路のように恐しく多数の操 たことがあるが、それは採用しなかった。ウィリアム 博士はかって、このような莫大な重さをもったケープ縦装置が配置されていた。私たちグル】ブは機械の爪 ルでぶらさげた球体を使って降下したことがある。こを作ったが、内側の人々はこれを使って海中の物をつ の種のものは操縦性がないばかりか、長いケ 1 ブルのかむことができるようになっていた。またたくさんの 指示器やゲージや種々の装置があったが、この中には ために乗手が危険に陥ることがある。 この深海潜水艇は普通の潜水艦の二五倍の深さに潜宇宙線測定用のガイガーカウンターも含まれていた。 航できる。これは垂直に降下するのであるが、そのとその他、現在最も進歩した酸素発生器や空気浄化器も 備えてあって、この装甲球の中で二人の人が二十四時 き鉄粒 2 ハラストを捨てて降下速度をおくらせたり、 間生存できることになっていた。 ・パルプを調節したりす または必要に応じてガソリン ノ 34
かを正しく知っていたのである。イルカはあの金切り これらの鼠の鳴き声のような金切り声が聞こえるが、 その音はこの堂々たる動物に似つかわしくない滑稽な声で、目に見えぬ海底の地形を感ずるような、例の音石 叫び声である。イルカの、この金切り声はその集団で響機または超音波探知機のような装置を持っているの の会話のみでなく、さらに有用な役をするものである。ではあるまいか ? 上記のように、たしかにジプラル タルの方角を感知していると思われるような出来事が 次にそのわけを述べよう。 の速度よくあるのである。おそらくやつらのあの鼠の鳴き声 ある日エリー・モニエ号が正しく一二ノット で八キロ沖の大西洋上をジゾラルタルにむかった航路のような金切り声を海底に反響させているのに相違な に沿って航行していたとき、イルカの一団が船尾からい。たぶんイルカはその動物的本能の深奥に、この目 追随してきた。このときは陸地は全然見えなかったが、に見えぬ海底の遠い丘や平原をとおして、地中海の運 動場の入口へのコースを探し当てる能力を秘めている その一団は正しくジ・フラルタルの方角に頭を向けてい のだろう。 こ。私はしばらくいっしょに船をはしらせていたが、 一策を案じ、わざと船を五ないし六度だけまけて、や つらをそらせた。数分間の間一団は方角をはすれて遠 まわりしていたが、たちまち船首の方向を放棄するや、 またもとの方角にむかって頭をそろえはじめた。私も また船をまわしてイルカのコースに戻ってみたが、一 団は正しく海峡の方になかって泳いでいた。 イルカどもは、どっらの方からやってきても、この 広漠たる海中のどこにあの三メートルの入口があるの
しかし、不幸にも船の中に閉じ込められて沈んだ人事情にうといからである。宝探しを起すための技巧や があったとしても、もしその遺骸の一部でもいいから知識をよく身につけた慎重な引揚げ人は、彼の行動を これを発見するためには、少くも最初の数週間の内にできるだけ隠密にするであろう。一般に宝探しの探険 というものは、とかく公けの寄付をつのるものである 船内に潜ってみなければならないのだ。人間の肉は、 数日の間に、魚や甲殻類、さらに、ヒトデなどのためが、これも、この企画が単に海底の金塊をめあてにし に食いつくされるのである。このヒトデは一見そのよたものでなく、べつに海底とはかぎらぬ金銭がめあて うに思えないが、事実はたいへん暴食な動物なのであであるということの一つの保証である。私の想像では、 る。残った骨は主に虫類や細菌類によって効果的に消船主にとって、実際宝物を発見する仕事ほどひどい災 耗されるのである。 難はないと思う。 海底の宝物に関する言伝えの九九。ハーセントまでは、第一に彼は乗組員全部に分け前をやるという約東の 人を担ぐためのものか、くわせものである。これらのもとに通例の引揚げ契約書を書かされたり、これを船 話の中でたった一つの確かな富というものは、投資者員に通告したりしなければならない。まずこうしてお から発起人に手渡される資金である。にわか成金になけばもちろん彼らも秘密を誓うだろう。 ろうという倒錯はだれしも持っているものであるが、 第二に、三等航海士と浜辺の一流。ハーで一杯やると よくあ その方面で最もひけをとらぬのは、この沈没ガリオンき、この秘密によく注意しなくてはいけない。 ることだが、このスペインの金を引き揚げる際には、 ン ) の色あせた地図をにぎった、 界船 ( の = 「四層甲板の大帆船 世 宝物引揚げ発起人どもである。彼らは、一つやってみその沈没船に関係のある征服者や王様たちの、後継だ の 黙ようかと軽く信じ込ませることのできる広い海域をもとか財産譲受け人といった連中が系図をたずさえて現の っている。というのは、投資者は必ず発起人より海底われることなども覚悟しなければならない。次に、彼
り残されたような気持ちだった。羅針盤を持っていな クールは疑い深く微笑しながらも外交的に沈黙を守っ 4 かったので、海底では方角が全然わからなかった。私「 ていた。「彼にやらせてみましようかーと私はいった。 リクーレよ、・ テイディが片手にハンマ 1 を持ち、片は絶えずふりかえっては、リュビ号を待ち構えていた。 手でリュビ号の網切りにつかまって艦首の所に足をふ彼女が視野に入ってくるずっと前から私は彼女のエン うな ジンの唸りを聞いた。この海中の巨大な機械から発し んばって立っているのを見つめていた。艦長は、下に ・こうおん 降りて潜望鏡をのそいた。艦首が白浪をけたてて水のた音は、一種こもった轟音となって海中あらゆる方角 中に突入したとき、この気ちがいのような男に何が起から聞えてきた。騒音がうるさくなるにつれて、私の るだろうかと、一心に見守っていた。彼は艦首の大波心配は増大した。 ーマが最初に私を発見した。二七メートルの所 が一アユ ーマに激突して、しぶきとともにそのゴム鰭が 投げ出されたのを見た。その後も乗り手はまだ艦につで彼は私の出した泡を認めたのである。私の方では、 かまりながらどんどん下りたが、彼の出す泡は指揮塔艦首がちょうどその場所に侵入してきたときやっと彼 くちばし をよぎって流れていった。リクールは、どうしてデュを認めた。彼は何か巨大なものの嘴の上にくつついた ーマがこの五ノットもある水流に抗して、船につかま幸運のお守りとでもいった奇妙な小さな立像であった。 って行かれるのだろうといぶかったが、依然としてつ彼は船体をハンマ 1 で打ったが、この内部にいる機雷 かまったままだった。リクールは潜望鏡の深さに艦を敷設者への大きな信号音をきいて私の心配は消し飛ん 調整すると、さきの通路状の。フィの線に沿って潜航し だ。あのクジラのような巨体のとおったときのすばら しさといったらなかった。艦の横腹はゆれながら進み 私は冷たい通路の真中の憂欝な海中で油断なく見張ディディは運び去られた。そして最初のクラボーは、 りながら待っていたが、まるで海底に一人ぼっちで取私から三メートル離れた所に音もなく落ち、泥のカー こ 0 ひれ
たちは海に支えられたのである。私たちは泳ぎ下りな 銛のついた大弓を持ち、私は映画カメラを携行した。 私たちは梯子を突き離してマスクまで沈んだが、同時がら、お互いに眺めてみると、この外科医の使うよう なきれいな水の中で相手はひどく大きく見え、何か見 に反動的にまた梯子をつかんだ。私たちは何か目先に ちらっくような感じがして、いままでにない一種の不なれぬ動物のような感じだった。数メ 1 トル下のほう で、じっとしているスズキの群のそばをとおったが、 安をお・ほえたが、これは単なる眩暈にすぎなかった。 私たちは互いに一瞥すると、船につかまりながら、彼らは私たちのことに気がっかなかった。またニシン ふたたび注意深く下の方に目をむけた。私たちは三〇 ( = 近い ) があたかも魔法をかけられたように海中に浮 いていた。 メ 1 トルの海底をむきだしのまま詳細に見ることがで きた。下の方にはまるで水はないような気がした。そ奇妙に思われたことは、ここの海底は光沢のある褐 こには動物、植物、または鉱物の一片だにないようだ色の熔岩の階層からできており、さわってみると、ま った。それは私たちが普通透明な水と呼んでいるあのるで磨いたようになめらかであった。私たちの友人の つばい漂っている水とは ふわふわした徴細なものがい 。ヒ工 1 ル・ドラハ教授の話によると、地球上どこの海 まったくちがった一種の蒸溜水のようなものであって、底岩礁でも、これに動植物のついていないものはない その異常な透明さのためにまるでコンサート・ホール ということであったが、ここだけは例外であった。こ ージ島の海底斜面では幽霊の出そうな熔岩 ほどもない広さの所を見ているような感じがした。もの大サル。ハ し私たちが取手を離したなら、この空間に落下してしの上に何一つ普通の動植物がなかったのである。しか まい、海床にならんでいるあの恐ろしい岩礁にたたきしたった一つ、たいして問題にすべきものでないが、 つけられそうな気がするのだった。 はっきりしない種類の動物がいた。すなわち、断崖に ついに私たちは手を離した。しかし意外なほど、私沿って無数のウニがついていた。これは熱帯種の大型