対側の壁を照らす。 「点検は土曜日ごとですか ? 」 浅い眠り。窓の側で、夜間飛行から帰ってきた上級 「授業はきついですか ? 」 生の話声がする。「おれはいままでにあんなの見たこ 「飛行機はどんな感じですか ? 」 ともないよ。彼はたったの九五パーセントしか出して 「いっから飛ぶんですか ? 」 ないのに、尾灯がものすごく赤いんだ : : : 真赤なんだ 白いべッドで迎える寒い夜。窓ごしに見る見なれたぜ ! 」 星の冷いまたたき。暗いバラックの中の会話。 「 : : : で、そのときビルが言うんだ、区間一は一〇、 「考えてもみろよ、おい、とうとうジェット機だぜ ! 」〇〇〇メートルへって。おれは飛行場さえ見えなかっ 「だからきついんだ。おれは間違いなく放り出されちたぜ。区間一だけだが : ・ : ・」 まう。絶対に助からんよ、つらいからなあ。」 わたしの空軍用夜光時計は〇三〇〇を指している。 「・ : ・ : 減速 : : : 着陸 : : : 機銃区域と : : : ドアを開け : ・奇妙な夢。きれいな・フロンド娘がわたしを見上げる。 : は一二〇。フラス燃料プラス一〇、これでいいか ? 」彼女がたずねる。「一、 三二〇リットルの燃料を搭載 「待てよ、ジョニー。七、五〇〇まで上昇して翼を振してべース・レッグをまわる場合の気速は ? 」ごちゃ るってところか ? 七、五〇〇メートルだって ! おごちゃした幻想的に錯綜した計器板。巨大な高度計が 、おれたちはジェット機で飛ぶんだぜ ! 」 九、〇〇〇を指している。バイザーをおろしたヘルメ 「基礎学校に入れるとは夢にも思わなかったな。予備ット。赤い覆いのついた射出シート。計器。そして = 学校からずいぶん来たものだな : : : 」 器。 低い話声の・ハックには夜間飛行のタービンの轟きが 眠りはすっかり枕に吸いとられてしまう。夜は静か ある。上級の授業だ。着陸灯の明りが、一瞬、窓の反で暗い。ロードメ 1 タ】が零になったらどうしたらい 三一口
トの一人なのではなかろうか。きわめて少数ながらそ体にったわる。私の足下を操縦室の一方からもう一方 ういう人間がいるのだ。そして引退できる日までひたへったわり、ひどく大きくなり、消えた、と思うとま すらその恐怖を隠しておく。経験は彼らを強くするど たかえってくる。いやな震動だ。ひどく感じが悪い。 ころかすり減らす。まるでパンチをくらってふらふら私は「プロップ」と書いてあるバル・フを回し、力を の選手のように悪夢のなかで生きていく。あらゆる人 いれてすぐ背後の手動ポン。フを動かす。操縦室にはた に同情されながら。 ちまち鼻をつくようなアルコールの匂いがひろがる。 とっぜん誰かが私にむかって石を投げてくる。私の ポン。フを動かせばプロペラの羽にアルコールが行き、 席のすぐ背後にあたる機体の上で、・ハンととんでもなおそらく氷を溶かすはずだ。 い音がする。私は本能的に体をひねって身を隠してか 一分とたたぬうちに私も汗をかきはじめる。事態の ら、この音はヒュ 1 ンの背後でもしたのだということ進行がじつに早い。あまり感心した事態ではない。 に気づく 私のポン。フ作業にもかかわらず震動は大きくなって 「。フロペラにすこしアルコールを吹きこめ。」 ゆく。ばんばんぶつかる氷の音は連射のようだ。気流 説明するまでもない。。フロペラの羽にも翼とおなじはまだそれほど荒れてはいないのだが、計器と私のズ ように氷がつもったのだ。溜ってきたと思うとやがてポンの尻が嘘をついていないかぎり、機は考えられな 遠心力によって振りとばされる。野球のポールくらい いような突っこみ方をし始めている。ヒューンは制御 ほほぼね ある大きな塊が反響のよいアルミニウムにむかって投装置と格闘している。汗はもう頬骨をだらだらとった げつけられてくるのだ。そして片方の翼にもう一方のわり、呼吸も荒い。 翼よりよけい氷がついてくると、百七十キロあるプロ 「もう一度ノックスビルをやってみろ。ループでや ペラの微妙な。 ( ランスが狂う。震動ががたがたと機全れ ! 」
トルも静かにひきよせられる黒い雲のおだやかな波頭というのはじつにいい仕事だ。同室の。 ( イロットが目 標につつこんでいけば、気の毒に、ということになる。認 ・が見える。空を飛ぶには美しい夜だ。 人は言葉をおぼえる。言っていいことと悪いことの なんだ ? わたしはなんと言ったのだろう ? 美し しか ? これは、弱虫やセンチメンタルな人間や夢けじめを。二、三年前に発見したことだが、太陽の残 想家のつかう言葉ではないか。一〇、〇〇〇キロの燃照をうけた僚機と飛行機雲が簡単に片づけられぬ美し いものであると思っているときや、わたしは自分の飛 料をかかえる航空機に乗ったパイロットのロにする言 葉ではない。自分の指を動かして、大地が崩壊するの行機を愛していると思っているとき、祖国は、自分か を見る人たちゃ、天国が自分のと同じところにある外らよろこんで生命を投げだしてもいい国であるなどと 国人を殺すために鍛えられた人たちのつかうべき一一一〔葉思っているときのわたしは、ほかの。 ( イロットとかわ オしへつにかわったところのないパイロットであ ではないのだ。美しい。愛。やわらかい。繊細な。平らよ、。・ 和。静けさ。いざというときでも物に動じない図太い 神経の持主に鍛えられて、路上の敵軍に機銃掃射を浴わたしは「単発で飛ぶのはいいね。」という言いか びせる戦闘機パイロットがロにしたり考えたりする言たを知っている。そして、人が自分の仕事に誇りをも 葉ではない。感傷は大きな災いのもとになる。しかし、つように、わたしはジェット戦闘機の。 ( イロットであ その言葉の意味はいつも存在する。わたしが完全な機ることに誇りを感じている。空軍のほかのパイロット はそのことを知っている。それにしても、「ジェット 械になったことがまだないからだ。 人間 / 飛行機の世界では、わたしはものごとをなん戦闘機。 ( イロット」ほど不快な気持ちを抱かせる言 。「じえっと」。映画のポ でもひかえめに言う。夕日を浴びて深紅の飛行機雲を葉はほかにないのではないか りスターや。 ( イロット以外の人につかう言葉である。 びいている僚機は、まあきれいなほうだ。戦闘機乗
黒いレコード盤のてつべんにおくのだ。そう考えて微く気配もなく、一年も前から立っていたようにじっと 0 笑する。空気がさわやかだから、。ヒッパーを目標の黒待っている。それから、突然にふきあげる多量の埃。引 点の何センチ上だとか何センチ下におこうなどと考え目標の左に落ちていた小枝が驚いてとびおき、宙には るのだが、こんなことはしよっちゅうあるわけではなねあがる。それはゆっくりと方向を変え、例のスロー モーションに移ったかと思うと、機関銃の銃弾の雨に 、。対地射撃目標のどこかに。ヒッパ 1 を固定させるの は、わたしの得意なのだ。それにしても、今日は射撃とらえられる。そして、ほこりの雲の上で二度、完全 に向きを変えた後、そのあつい雲の下へ優雅に沈んで 日和である。敵戦車隊も静かな日は気をつけたほうが いく。コンクリートの幹線道路はこつばみじんになり、 小枝は生きのこる。これは一つの教訓を含む。 「リコシェット二番機、攻撃開始。」 「二番機、完了。」煙が銃口から消える。飛行機は卵 「隊長機は完了。」 わたしは二番機を見まもる。天蓋のまがった。フレキ形の機首を空にむけて、目標から去る。 シガラスに、じっと見ている自分の姿がうつる。火星「三番機、開始。」 小枝の教訓とは何か ? わたしはそれについて考え、 人だろうか ? 頑丈な白のヘルメット、なだらかなカ ー・フを描くひし、顔全体をおお 0 ている緑の酸いきなり次の射撃のことが頭にうかんできて、照準を 素マスク、見えないところへつづいている酸素パイ。フ。再び点検、右手人差指を高度計のほうにのばす。小枝 この金具のかげに生きた、ものを考える生物がいるこの教訓とは何か ? ほうきのような煙がリコシェット 三番機のなめらかなアルミニウムの機首の銃口から流 とを示す証拠は何一つない。天蓋にうつる像はリコ れる。わたしは三番機のようすを見る。 シェット二番機を見まもる。 やはり、機首の銃口から灰色の煙が出る。目標は動教訓はない。かりに目標が小枝の東だとすれば、銅 、、 0
いう具合だ。雨は翼を激しくたたきつけ、操縦席にも 彼は大圏コースによって、真昼までにノヴァ・ス コーシアの上空を通過し、そこで暴風雨の中へ突入吹きこんできて、地図の上にはねかえる。 ときどき地上の輪郭をわずかに見ることができる。 した。ここではじめて彼は、非常に疲れているのに もし雲が前方の山の頂きにかかっていれば、いつでも 気がついたのである。 引き返せる用意をしながら、谷を目がけて機首をつつ 最初のスコールは大きなものではない。霧雨をとおこみ、低く飛ぶ。点火装置がこんなに水浸しになって も大丈夫かしら ? 「セント・ルイス号」は豪雨の中で してよく見える。ノヴァ・スコーシアの丘陵や湖は、 うっすらと白いヴェールにおおわれているだけだ。しはテストしていなかったが、いまここでは磁力発電機 かしつぎつぎと襲うスコールのたびごとに、雲は暗くを点検する勇気もない。 なり、雨は激しくなり、稲妻は樹木や岩の上にひらめ風は北西から南西に変り、さらにまた西に転じ、新 く。風は翼桁や部品を吹きちぎるかと思われるほどのしいスコールごとに前後に方向を変える。ついには南 激しい突風となってたたきつける。私はショックを少東に変り、しだいに弱まる。北西から南東へー、ーこれ をよし前兆だ。暴風雨圏が狭ければ、風が変るのが通 なくするため速度を落とした。 例だ。 ついに私はこのコースをあきらめて、もっと激しい 嵐ではあるが、そのふちに沿って進むことにし、東の時計は午後一時五十二分をさしている。ルーズヴェ ほうに・同かう 0 ルト飛行場を離陸してから六時間になる。航空日誌に ある時はどしゃ降りの中を、またある時は青空の下書き入れる時間だ。計器盤を読んで数字を簡単に書き をと縫って飛んだ。嵐の中心をしやにむに突っきろうとめる。 とするよりは、むしろ機首の向くままにまかせて、と マグネット 0 9
ルーズヴ = ルト飛行場西の最期」ー。ー私には飛行士たちのそういう声が聞こえ 側の離陸位置についた後る。 ガン グに変ったのだ。 さて、機を移動する時間もない。 こんなに小さく、 バリンを全部タンクに入れ か弱く、しかも重すぎる機ー・ー燃料満載、一一トン半も ンおわ 0 た後に変 0 たのだ。の重量がこの小さいタイヤの上に載 0 かっているのだ。 の機首からの風が機尾から移動するとなると、引 つばってもらわねばならないか 分の風にーー時速八キ 0 のら、またトラクターを呼びにやらねばならないだろう。 追い風だ ( 髜 このどろんこの滑走路を千五百メートルも滑走するな んてことはやるべきでない。 エンジンは過熱する しかし、手の ( ンカチしーー・燃料タンクを再びいつばいにしなければならな をやっと吹き上げるくら いしーー時間の損失ーー・アイルランドの海岸で夜にな いの徴風だ。もし機を滑走路の反対側に動かすとしてろうーーすでに遅いーー夜が明けてだいぶ経つ。 も、また風がいまのようにすばやく変るかもしれない。 長く狭い滑走路が前方へ延びている。そのはずれの 追い風で、西から東に向け離陸することは相当危険だ。電話線を越えたところに大西洋が横たわ 0 ているのだ。 飛行場のはるか端には電話線がある。しかし、東そしてそのはるかかなたにヨーロ , パがあり、 から西に向けて離陸すると、納格庫と一かたまりの家あるのだ。今こそ、私がこの何カ月間か寝てもさめて の真上を飛び越えることになる。ちょっとまちがっても頭に描いていた瞬間だ。決心は私次第だ。 も生きるチャンスはない。シリンダーが止まって 整備員、技術者、青い制服の警官ーー・・そういった人 「家屋に激突、大破、炎上。もう一機、大西洋横断機たちが機のそばに立っている・ー・この人たちは今まで 7
たまま二十分ごとにエンジンをかけて、冷やさないよてきちんと扉のしまるキャビンがあったらーーーここで うにしよう 0 夜を過ごすのも簡単なことだ。しかし、また考えても ようだ。空気みろーー胴体に燃料タンクを抱いたニューヨ】ク = ぶらぶら歩ぎまわっていたほうがいい リ飛行のべランカ機に乗って、ガチャンとやったとき はひどく冷たい。私は牧場のやみの中へ歩いていった。 明日、ライト社へ電話をかけないでどうする。しかし、のことを。おまえなんか、サンドウィッチの中身だー 待てよ、洋服を買うのにちょっと時間がいる。それはー膝は、エンジンの防火壁にくつつき、背なかはガソ リンタンクに抑えつけられているという寸法だろう。 ちゃんと洋服屋で仕立てたのでなくてはいけない。私 の古い紺サージの服はくたびれて光っているし、あまもし離陸のとき脚が故障したら ? ホア】ルウイン エンジンは、ほうっておいてもどのぐらいもつも ライト社の人たちと り体に合っているとも申せない。 会って話をするには、もっとちゃんとしたものがほしのだろうか ? ニ = ーヨークパリ間となると、四十 時間近くの滞空ということになろう。 フェルトの帽子にオーヴァ 1 コートもいるだろう。 ットは、どのぐらい眠らずにいられるものかしら ? ・ほくの知っている一応のビジネスマンたちは、みんな フェルトの帽子とオーヴァーコートを持っている。 パターソンのライト航空会社に の 道路にそって南のほうから光が近づいてきた。郵便つないでくれたまえ : : : うん、だれでもいい。」 私はいままでこんな遠くへ電話をかけたことがなか トラックだ。門を通ってガタガタはいってきたので、 った。ガチャリという音やプー・フーと信号する音や、 あ私は運転手に郵便袋を渡す。トラックは地面をかむよ ニうな音をたてながら去る。私一人だけが、夜やみの飛断片的な言葉や、番号を呼ぶ声が聞こえる。私は新調 行場に残る。いまここにべランカ機があったら、そしの洋服とス 1 ッケース、それからいっさいの荷物の用 、 0 2
歌的な環境のカルヴァ・レーダーまで、さまざまの人極超短波もすぐには使用不可能だ。だが、完全にだ たちと手を結ぶ。誰でもっかう常套手段が効かないこめだとしても、ショーモン +<-)<Z 待機径路までひ とはわたしも承知している。レーダー・ステーションきつづいてフライト・レヴェル一〇〇の飛行を許可 は交通管制本部より規模が小さいばかりでなく、はるされている。こんなときは、飛行機に無線機をもっと かにたてこんでいて忙しいばあいが多いのだ。それでとりつけておけばよかったと思う。しかし、 は、話をするためではなく戦うためにつくられたの も、レーダー・ステーションを呼びだすと、気分がい くらか楽になって、明るい緑の野に建った小さな赤煉で、いまあるものでなんとかやりくりしなければなら 瓦の建物と、そこから遠くないところで草をはんでい 「カルヴァ・レーダーへ、 4 0 5 号機はフランス管制 る牛の姿を想像する。 「カルヴァ・レーダ 1 、カルヴァ・レーダー、こちら塔と連絡とれず。一〇でラン通過、計器飛行規則によ りフライト・レヴェル一〇〇、スパングダーレム通 空軍ジェット 2 9 4 0 5 号機、チャンネル一八でどう ぞ。」極超短波がフランス管制塔の周波数に通用しな過は二八、次の予定はヴィース。ハーデン。」乱暴なや い場合、この周波数なら通じるという見込みは、おそりかただ。めくらうち。しかし、すくなくとも情報 らく三つに一つだろう。煉瓦の建物の外にいる牛は眠資料は伝えたのだから、指定の通報は行なったことに っていて、暗い草原におりた玉石の彫刻のようだ。建なる。カルヴァからマイクのボタンを押す音が聞こえ て 物の窓の明りが一つ。男の影がその窓ガラスをよぎつ をて、マイクに手を伸ばす。 : べつの : : : ・〇・ : : ・どうそ・ : ・こちら : : ェロ五。 : ・絡・ : : ・カル ヴァ ? 」 カルヴァはちがう周波数をすすめているが、いまの 3Z5
な・せ、おまえは待っているのだ、死を ? わたしは かったのに。 知っている。それに間違いはない。数十秒のちには大「先導機へ。二番機はここだ。三、〇〇〇メートルま 地に激突することを、わたしは確信している。実際ので高度を回復するのに、すこしばかり手間どって : : : 」 ところ、わたしには死にたいする心の用意などない。 「三、〇〇〇メートルだって ? 」 だが、いまとなっては、そのことはただ、非常に残念「そうだ。すぐ追いつく。 +<<O<<Z で飛んで、ツー なだけだ。わたしは死との出会いに、ショックを受け、ルの上空で合流できると思う。」 驚き、そして興味ぶかく感じている。耐えがたいのは、妙な感じだった。まもなく死ぬと、あんなに信じこ んでいたのに。 激突の瞬間を待っことだ。 そのとき、突然、わたしは再び生の世界にかえる。 飛行機が上昇をはじめた。 ファールブール北方上空の黒い雲塊にひらめく稲妻 わたしは生きている。 いま、一段と数がふえ、荒々しい。わたしの飛行 高度計はたちまち一、八〇〇メートルに達し、急上機の後方でも、前方でも、同じくらいだ。稲妻は雷雨 昇はつづく。・フレ 1 キをインに。スロットルをいつばの中心部を示すよい標識になる。だが、それはかなら いに前に倒す。わたしは上昇をつづける。水平飛行にずしも、わたしの知っている、雷雨が「分散した」こ えいこう 移行。三五〇ノット。もう安全だ。照明弾の曳光は、 とを示す徴候に合致しない。まっすぐ前方、進路の真 はるか下方に消えようとしている。加速度計を見ると、上に、すばやく明るい稲妻が三つ、一列になって光る。 降下から上昇に移るさいに、七・五の圧力がかかっ進路を三〇度、左に修正。孤独感がかえってくる。心 たことがわかる。わたしは何とも感じなかった、飛行の裏側で、さまざまな思いが乱れるときだ。「おまえ 服のプラグは圧縮空気取入れ口につながってさえいなは気が変になったのか、それとも、とんでもない阿呆
ろう。 機を調べていた。彼は地上整備員と一緒になって長時 彼女のそばから離れた時、また皿がかたかたと鳴っ 間梯子のてつべんで尾翼を調べていた。ようやく指令 室へやってきた彼をみると、ずっと安心しているのが 飛行中の最後の四時間、この震動は五分おき、八分わかった。彼らはたった一つごく小さい故障をみつけ しめがね おき、あるいは十分おきというように突然やってきた。 たのだった。第二エンジンの排気装置の締金がこわれ しかもとにかく操縦席では何一つ手のくだしようがなていたのだ。前にとりかえたきり、まさか震動の原因 さそうだった。われわれはサンフランシスコを無電でになろうと思わずに問題にされなかったのだ。 呼び出し、不思議な震動のあることをつたえた。 二十一人の乗客がバ ーバンクで降りた。のこりの十 「震動の性質はどういうものですか ? 」 二人はオークランドまでつづけて乗ることになってい 「わかりません。激しくはありません。〒ンジンの一 た。私は乗りこみロのところで彼らを追い越した。み つが原因です。」 んな大切なおみやげの包をしつかり抱いていたが、夜 「目下三つのエンジンで飛行中ですか。」 の疲れですっかり参っているようだった。しゅろの葉 であんだ帽子さえだらりとみえる様子に、私は早く飛 第一こんな呼出しはしたくなかった。サンフランシびますよ、すぐお宅へ帰ってお寝みになれますと言っ スコにいる人間にできることなど何もありはしない。 てやった。間違いのない予言だった。乗客がこんなに 〕呼んでみたのは、本能的に自分たちの信念をかためよすくなければ機は非常に軽快に飛ぶ。そして私はいっ のうとしたからなのだ。尉をあげるのに成功しただけのばい積んでいる時と同じ動力で飛ぶつもりだった。 命ことだった。 気持ちのよい夜で気流も穏かだったから、私は自動 2 し ( ンク到着は三十分遅れた。スノウは徹底的に制御装置に頼らずみずから全行程を操縦してみること こ 0