仕事 - みる会図書館


検索対象: 現代世界ノンフィクション全集22
109件見つかりました。

1. 現代世界ノンフィクション全集22

思うだろうが、われわれはミシシッビ川を信頼してい 分もの利子で抵当に入れている人には、公平なチャン スというものがない。もし百姓たちが組織を持たなけ いんた。川はどこに流れようと、最後には私たちをわ れば、大事業が彼らの持っているものを何もかも取っれわれの農場につれていってくれる」と父はいう。わ てしまうだろう。この国は人民のものなのだ。けれどれわれは急流をあちこちと渡る。雲が西の空でうす桃 も彼らはまだ経営の方法を知らないのだ。困ったこと色に変る。われわれはポートを岸につけて天幕を張り、 には、人々には真実を知る方法がないのだ。」 夕食の火を燃やす。 父はまた一九一四年に起こった戦争についても心配炎は森の影で踊る。フライバンでスズキを二つ油で していた。ある特別の利害にわれわれを引きこもうとあげる。フクロウが遠くで鳴く。水は石の上をゴボゴ し、その宣伝がすでに行なわれていると、父はいってポ音をたてて流れる。父と二人、煙の中に立って蚊を しやっかん いた。「あまりにも多くの外国が借款をしようとしてよけながら、食事をして話し合う。 いる」と私にいった。「戦争で困ることはいちばん優テントの中は暗い。蛙とコオロギがわが夜とばかり 秀な青年たちを殺すことだ。」 鳴く。昼の仕事が心を去る・ーー明日は日の出とともに われわれは川を見つけるーー・・・それはほんの小さな川起きるんだーーーそうすればどこにいるか、はっきりわ かる。川を下ってゆくのに、道に迷うこともあるま だーー・そして風は静かに草のはえている堤の上や、タ の 「ラ〉ク羅や、松の木の間を吹いていた。太 やふ カ陽とにわか雨が、交互に照ったり降ったりする。藪が あざわめく。 ぼんやりと霧のかかった、天色のウロコが下のほう 東に転じ、北に転じ、また南、西にと方向を変える。に現われる。機首を下げる。三十メートルも降下しな四 「川にはまるで目的というものがないようにおまえは いうちに霧に閉ざされる。四百五十メートルの代りに

2. 現代世界ノンフィクション全集22

目を閉じ、開き、また閉じる。しかし、私は私を助のなかにあると同時に、わが頭蓋骨のなかに閉じこめ ファクター けてくれている新しい要因がわかりはじめた。私は三られてもいる。 エレメント つの要素からできているようだ。体があるーーー眠りた第三の要素は「セント・ルイス号」がちゃんとまっ がる体。心がある , ー・・・・絶えず決定をくだしてはいるが、すぐに水平に飛行しているかぎりは、心と体をくつろ 決断力の弱くなっている心。そしてもう一つある。そがせてくれた。ところが、計器盤の針が急激に動く。 れは疲労とともに強まってくるもので、心と体のどち私はハッとする。心も肉体も、もうくつろいではいら これ らにもつながっている精神の要素だ。 れない。これ以上、機首をふることはできない。 体が眠らねばならないとわめくと、この第三の要素以上、上がったり下がったりすることもできない。私 、もうろう は、それは休養にはなるかもしれないが、眠ってはなは朦朧状態からさめ、機を水平にし、舵を蹴って、羅 らないと答える。心が、体は油断してはならないと要針儀の方向にもどし、体を揺り動かして半分目をさま 求すると、こんな状況で緊張しつづけるのを求めるのす。そして計器盤の針をまた合わせる。私は半睡半醒 は、あまりひどいという。すると心は興奮して、眠っ の状態だ。私は夢であるところの現実に生きている ! たりすれば大洋の中でおぼれ死ぬそと反対し、そこで時計は、毎時航空日誌をつけるきまり仕事の、だい 第三の要素は、あらためて眠ってはいけないというこたいの時間を示してくれる。この努力も耐えられない。 とを冷静に認める。重いまぶたの下で、私の目は肉体鉛筆を引き出して、日誌を地図の上におくのがやっと から分離し、目とはいうものの、それは見るためとい うよりは、むしろ意識するためのもののようになって時刻午前一時五十二分、風速不明、風の方向不明、 しまって、第三の要素の一部となる。それはわがもの羅針儀の方向九六度、既飛行距離二千八百八十キロ。 でありながら、わがものでなく、はるか永遠なるものあと二千八百八十キロある。

3. 現代世界ノンフィクション全集22

分たちの正確な位置がわからず、したがってはっきり質である。しばらく放っておくと自然にうまくなおっ したことはわからなかった。 て完全な働きをするようになる。その不調には誰一人 ワシントンでは、すべてごく楽な仕事だと聞かされ説明がっかず修理もできそうになかった。そしてもう てきていた。ただリオデジャネイロまで飛行機を運ん一つ、左エンジンは右エンジンの悪癖にいっこうに同 で、サインしてプラジル人に引渡したら、べンチにご調しようとしないという性質だった。まるで胃弱の人 ろごろしながら帰りの便があるまで待っていればよい 間とっきあってでもいるようなのだ。 という話だった。この機の操縦もじつに快適だといわ このロッキ】ドは工場から急いで出したもので酸素 れたーー新型のロッキ ード・ロードスターなのだ。 吸入装置がついていなかった。ベルーのリマからだと、 だ、たい事実だったのはこの最後の話だけだった。 ポリビアに降りる前にアンデス山脈を越えなくてはな ロッキードは本来の目的とはまったくちがう条件下でらない。さいわいアレキ 1 。、 ( , 部調市 ) の東にこの山 もすばらしい性能を発揮したのである。 脈を切り下げている道があった。チベットの道筋とで この空の楽園にもまもなく最初の害虫が登場した。 も比較しないかぎりは、けっしてあまり楽な道とはい ロードスターには当然順調にはこぶべきときに右エン えない。い ちばん低いところでも五千四百メートルに ジンがじーじー言いだして逆動する癖があったのだ。 ちかいのである。それはまた巨大な送風管でもあった。 この故障は知 0 ていたし予期してもいたから驚きはせ太平洋から海風を吸いこんではチチカカ湖獸い ずただ困「ただけだ「たが、海、ジャングル、山間な海世界爐高位 ) 周辺の広大平坦なポリビア高原に吹 どの上を飛んでいるときには神経をすり減らした。こきつけるのだ。そこは荒涼として近づきがたい世界で の困った癖には妙な点が三つあった。一つは、始めかある。大禿鷹の旋回している下に波うっている山々は、 ら終りまで故障し 0 ばなしということがないという性まるで流血のやまぬられた大地の傷口のように、赤

4. 現代世界ノンフィクション全集22

猛烈に逆動する。即座にヒューンはふたたび燃料レ・ハをもちそうなのた。 1 を全開する。その反応は歓呼の叫びのようだ。 / 彼の何本も位置決定のための方位線をひくことができる。 ニンジンは全力をとりもどしたのだ。彼はこの操作をこれで、引っ返せば助かることは間違いない。われわ 右エンジンの制御装置にもくりかえす。こんども一瞬れは傷ついた虫のように地図の上をはっていく。だが あらゆる行動の終止符となる、目的地をしめすたった の逆動ののち、みごとな動力の復活だ。 一つの x 印よりも、現に今いくつもの点をあたらしく 一分間百五十メ 1 トルは上昇できる。 ヒーンには活路をみいだす落着きと勇気があった。記入している方が重要なのだ。前方にはもっと低い地 ニンジンを逆動させると空気孔から烙がふきだす。こ域がひろがっている。天候もおそらくよくなるだろう。 れは烙ではなくエンジン内部からの強力な気流なので、実際に氷の中にいたのは三十分以下、機の能力をうば それがこびりついた氷をたたきおとす。両側とも、つうほどの時間ではない。それなのにこの半時間は永遠 よい噴流で事はうまくいくようにみえる。それから三、 のような感じだった。 四分たっとふたたび危険なときがやってくる。これは その時まったく思いもかけず、われわれは雲の外へ 恐るべきエンジン虐待だが、それでも山間を飛ばせるよろめき出て月の下を飛ぶようになる。かろうじて叫 のにくらべればまだしもだ。ヒュ】ンは機をすこしずび声を抑え、前にある皮の衝撃よけのパッドをたたき ほん つ、だましだまし千三百メートルまでもって行く。しもしないのは、ただそれがやりにくいからだ とうはそうせずにはいられない気持ちだった。 たかし全力でもこれだけだ。彼はかなり確実に西南のコ の ースを維持している。いままで飛んできた方だ。 ヒューンは彼の年齢と経験にふさわしく威厳をたも 命逆動作業の合間はルー。フ・アンテナの仕事で手いっ っている。安心しても彼はほっと嘆息をもらすだけ、 ば、だ。ありがたいことに、もう一度機の位置が意味難破した船員がついに陸にはいあがってもらすあの声 205

5. 現代世界ノンフィクション全集22

シカゴとセント・ルイス間の航空郵便空路の開通式れわれの改装軍用機をシカゴのメイウッド飛行場に着 の行なわれたあの劇的な四月の午後も、つい一、二週けるときもある。 間ほど前のことのように思われる。この空路の主任パ わが社ロく ートソン航空会社は、われわれの運ぶ郵 イロットとして私は処女飛行の光栄をになった。あの便の重量で収入を得ているのだが、積みこんだ郵便が 日はこの航空路線のいたるところで、写真をとられ、袋よりも軽いときがよくある。だから、会社は新しい 市の役人に迎えられ、握手された。 飛行機を買い入れるなどという余裕はない。わが社の だが、最初の飛行のときは、機もはち切れるばかり 飛行機は、全部陸軍の払下げを受け、セント・ルイス にたくさんの手紙を積んだが、人々にはもうその興味のライ ( 1 ト飛行場のわが社の工場で改装されたもの も薄らいだらしい。私は大きな誇りをもって、定期的だ。いずれも複葉機で、機首にリーティ・エンジン に郵便袋を運んで往復したが、それも一週間ごとに分が一基あるだけだ。われわれは、これをと呼んで 量が減り、いまではほとんどからつ。ほだ。 いるが、それはこの機の設計が戦時中イギリスのデ・ 契約は一週五往復だ。セント・ルイスで積んだ郵便 ( ヴィランド ()e Haviland) で作られたからだ朝 物を、西の線から飛んでくる飛行機への連絡にまに合 にデ ' ド・〈 ' ド、、 0 まり乗客を ) 。しかし一九一一六年の今日 うようにシカゴでおろすのがわれわれの任務だったー では、これはもう廃物だ。 ーこの時間は、その日の仕事はじめまでに、手紙が 私は最近機を一機台なしにしてしまった。それ ちょうこうだん ニューヨークに着くように計算されていたのだ。こは会社が貧乏なために、着陸に必要な予備吊光弾も翼 の任務についているのが、フィリツ。フ・ラヴとトーマ端燈も帰投標識燈もつけてくれなかったからだ。その ス・ネルソンと私の三人だ。われわれは、他の路線が夜、私はマルセイルズとシカゴ間の北回り飛行の途中 取り消されたときには、低い雲の下に道を求めて、わで、霧にあってしまった。私は機首をめぐらして、照 8

6. 現代世界ノンフィクション全集22

の一部分は、わたしがこのささやかなゲームをおしまの無用な操縦装置と戦い、錐もみになって落下し、結 いまでやって、飛行機から冷たい空に飛びださなくて局、飛行機は地上にぶつかってとまるのだ。 も、一生楽に空を飛ぼうと思えばそれができるのだと だが、単発機の。ハイロットはちがう。上昇、降下、 さとるまでに、人騒がせなことを口走る機会が無数に背面、錐もみ、分解ー・・ーいずれの場合でも、搭乗機が ある。しかし、座席のすぐうしろに三七ミリ砲弾が待 。 ( イロットの死場所になることはめったにない。地上 っていて、わたしが引金を押す瞬間を待っていると知近くにもごくわずかな余裕がある。そこでは、射出座 っていれば、やはりいい気持ちだ。 席も運しだいの勝負になる。そして、わたしにその余 わたしが空中で他の航空機と接触するとしても、座裕があるのは、滑走路の先端がわたしの足下で過ぎて 席のシートはわたしを空へ投げだしてやろうと待ってしまった後の五秒間である。五秒後には、わたしは安 いる。作動油圧から操縦装置まですべてを失っても、全射出高度まで上昇できるス。ヒードに加速している。 それは待っている。錐もみになり、地上が近づいてきその五秒前なら、わたしは愛機を滑走路にもどし、ナ て、なお回復のきざしが見えなくても、シートは待つイロンとスチール線でできたクラッシュ・ リアーで リアー ている。プロペラ機や輸送機にない、それがいいとこ止まらせることもできる。このクラッシ、・ ろなので、わたしは、危険な仕事に従事する彼らをに一五〇ノットでぶつかると、わたしがスチ 1 ル線を ちょっと気の毒に思う。 ひきずり、スチール線は長い繋留チェインをひつばる 乗客のことは考えないでも、他の航空機と空中衝突から、どんな航空機でも何トンもの太いチ = インをひ すれば、輸送機の。 ( イロットはフライト・デッキの床きずることになって、もはや飛べなくなる。その五秒 についた揚蓋まで這っていって、脱出するわけにも がきわどいところなのだ。離陸後フラツ。フをひっこめ いかない。彼らはただ座席にすわって、すでにない翼る前でも、エンジンが爆発すれば、射出できる。そし トラップ・ドア 3

7. 現代世界ノンフィクション全集22

てみる。 わたっていく。光が二番機の風防から消える。 夜間編隊飛行で、エンジンが神秘的な光に包まれる時はつねに、わたしたちが闇にのこしてきた滑走路 ところを見る機会にめぐまれるのは、二番機として飛へもどってくる。そして、夜間編隊降下を行なうとき ぶときにかぎられる。ほかにタービン・エンジンの火は、わたしの飛行機の優雅なことやつつましやかな美 を見ることができるのは、エンジン始動の瞬間しかなしさについて考える余裕がほとんどない。わたしはラ い。たまたまわたしが乗った飛行機の前にいるもう一イトを点滅させずに飛び、四番機を飛びやすいように 機のパイロットが始動スイッチを上にあげたときだ。 してやり、愛機が位置からずれないように心がける。 そのときは、弱々しい黄色の烙がタ 1 ビン羽根のあい しかし、そんなときでも、まったく同じもう一機から だから十秒か十五秒にじみでてきたかと思うと、尾筒一メートルほどはなれて九、〇〇〇キロの燃料をかか が再び暗くなった。 えた戦闘機を操縦するという、さらに苦しい神経の疲 ジェット・エンジンの推力を増すためにタ アフター れる仕事にかかりながら、わたしの思考の一部分はあ ービン後部の排気部に燃料を添加して、燃 焼させ、排気ガス ) のついた、もっと新型の航空機なら、 らぬことを考えつづけ、およそあり得べからざる問題 を加速する装置 かならず離陸の際に烙を誇らしげに出し、真昼の太陽に真剣にとりくむのだ。 が輝いていても見えるほどの爆発を起こして、その衝 ジーン・イヴァンは今週、汽車でチューリッヒへ行 撃波を糸のようにひいていく。しかし、夜になると、 ったかどうか。ヨーロッパに来て五カ月になるのに、 サンダーストリークのエンジンの秘密の回転炉は、多わたしはチューリッヒをまだ見たことがない。気をつ くの人には見る機会のない光景で、神々しい眺めとい けろ、あまり近づいてはいけない。楽にして、三〇セ ってもいいだろう。わたしはそれを記憶にとどめておンチか六〇センチはなれることだ。滑走路はどこだ ? き、空にあまり美しいものがない夜など、地上で考えわたしたちはすぐにも滑走路限界灯の上に出なければ

8. 現代世界ノンフィクション全集22

いま、わたしは、試合前にグローブをはめるボクサ をとらえていたのに、はげしく動いて、飛行機乗りの 1 のように、左のほうへ手をのばし、「ビトー管加熱」 仕事について・ほんやり考えていたわたしに、いきなり と書かれたスイッチを押す。右のコンソールには 眼をさまさせる。 ウインドスクリーン・デフロスト 針は動いてはいけないのだ。スパングダーレムの上「風防防曇装置」の提示が出たスイッチがあって、わ たしの右手袋がそれをオンに入れると、赤いライトが で揺れだすと、それはまず、ダイアルの上で左右にこ まかく震動して、わたしに警告する。この左右への揺つく。わたしは念を入れて、安全ベルトをできるだけ れはどんどん大きくなり、針そのものはラン上空を通しつかりとしめる。二分の一センチばかり落下傘縛帯 過したときのように、ついにはダイヤルのいちばん下をしめあける。今夜はわざわざ雷雲のなかにつつこん をさすにいたるはずだ。 でいくつもりはないのだが、わたしの長靴の前方、銃 チェック しかし、無線距離測定器では、最初のドイツの照合器室にはいった、ズックの鞄から、自分の任務がつま 点からなお六〇キロもはなれている。ラジオコンパ らないものでなく、天候の危険を計算にいれなければ スはたったいま、正常であることをわたしに教えてくということを思いだす。 れた。これは低周波放射能の中心をさすようにできて ラジオコンパスの針が再びはげしく揺れる。稲妻の いる。そして、低周波放射能では完全に発達した雷雨閃光をさがすが、雲はあっく、黒々としている。。 ( イ ほど強力な中心はないのだ。何年か前に、わたしは親ロットとして飛んでいるときに、ちょっとした荒れ模 指の規則ということを聞いて、以来それを応用してい様には出遭 0 たことがあるのに、な。せ、このラジオ = ンパスの警告が、いつもとちがって不気味に、また決 をる。層雲は安定した天候と順調な飛行を約東するとい ( ッディング・インデイケーター とう規則だ。ただし、これには、「層雲中に雷雲がある定的に感じられるのか ? わたしは、針路指示器 ときはそのかぎりにあらず」という補則がつく。 の針が〇八四度のわたしのコ ] スにとまっているのを ポイト ンールダー ーネス 33 ヱ

9. 現代世界ノンフィクション全集22

なたまで、空にはほかに飛行機雲はない。ア・フヴィル、ている。右手はるか前方の小山に似た雲に、巨大な熔 スパングダーレム間の高高度の世界を形成する、雲の接器で弧を描くのに苦労しているような、かすかな閃 上の千平方キロにわたって、今夜飛んでいるのは、わ光が走る。しかし、夜の遠景は人目をあざむくので、 たしひとりだ。それが孤独感である。 閃光は四カ国のうちどれか一つの国の上空で発したも コーヒー・グライ・ダー しかし、仕事が残っている。同時整流器にもどる。 のかもしれない。 周波数を四二八へ。音量をあげる。空電。こんどは考 えないし、まちがえることもない。 とと。数千 パイロットとして、わたしは数百万平方キロに及ぶ の人が住んで苦労とよろこびをわかちあう街。わたし土地と、その上の雲を旅し、この眠で見てきた。ヨー はたった一人で、彼らの地上一〇キロにいる。その街ロッパ駐屯の、アメリカ空軍に編入された州航空兵の は黒い雲にさえぎられて、明るい灰色の光すらない。 パイロットとして、七カ国のアスファルトやコンクリ 彼らの街は、やわらかなイアフォンにったわると トの滑走路で、何百キロも搭乗機の車輪をころがし とだ。彼らの街はダイヤルのいちばん上をさす針のてきた。大陸を見ている点では人後に落ちないといえ 先だ。 よう。が、ヨ 1 ロッパは、ほかの人よりもわたしにと 右手袋で O Z の周波数セレクターのつまみをつてかなりかわったところである。陽光豊かな、ひろ チャンネル一〇〇へ。しばらくぐずぐずしてから、モびろとしていて、南の。ヒレネー山脈と東のアルプスの て ダーンな、感度のいい無線距離測定器の進行距離円筒あたりはしわが寄っている、模様のついた国だ。誰か をがいきおいよく動いて、スパングダーレムのラジオビが大きな袋いつばいの空港を投げおとした国であり、 ーコンの距離を一八〇キロと出す。極超短波無線機のわたしのほうはそれらをさがし求める。 夜 故障をのそけば、わたしの飛行はたいそう順調にいっ フランスは観光ポスターのフランスではない。フラ 3 ノ 7

10. 現代世界ノンフィクション全集22

の四月十二日はこうして終わった。床に入ると、私は私は集まった人たちの前で、飛行中の宇宙船の全機 数分のうちに、飛行前夜とおなじ安らかな眠りに落ち械装置の作動ぶりについて第一回の報告を行ない、地 球の大気圏外で目にしたこと、体験したことをすべて 物語った。みなは注意ぶかく聞いてくれた。私は夢中 宇宙飛行から帰ってはじめて迎える朝は、いつもど になって長々としゃべった。印象は実に豊富で、しか おり、準備体操ではじまった。朝の体操の習慣はもうもどれも異常なものだった。早くそれをみなに話した 欠かせないものになっていた。おろそかにしたいと思くてたまらない気持ちにかられた。私はひとっとして ったことも、また一度もなかった。それにきようは、 言い忘れのないように努力して話した。集まった人た とくに元気をつけておく必要があった。大事な話しあちの顔つきから察して、私の話は彼らにとって興味深 いや面会でぎっしりとつまった重要な一日がひかえていものであるらしかった。つづいて質問がはじまった。 いるのだ。 そのひとつひとつに、私はできるかぎり正確に答えよ 朝の十時、「ワストーク」号の第一回地球一周飛行うと努めた。それが宇宙征服の今後の仕事にとってど を準備した科学者や専門家たちが、ヴォルガ河畔の家れほど重要なことか、私にはよくわかっていた。 に集まった。そのなかに設計技師長の姿が見えたこと モスクワからは私のために「イル咫」型特別機が差 は、私をよろこばせた。彼は徴笑をうかべ、若返ったし向けられてきた。首都へ近づくと、機には栄誉護衛 ような顔つきだった。人間が宇宙へのぼり、地球をまの戦闘機が随行した。それは、かって私も乗ったこと わって帰還したいま、ようやく心の重荷がとれたのだ。のある美しい「ミグ」だった。戦闘機は私たちの空の 設計技師長は私を抱きしめ、私たちはロづけをかわし巨船のごくまぢかまで近寄ってきた。飛行士たちの顔 がはっきり見えるほどだった。彼らは満面に微笑を浮 こ 0 こ 0