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検索対象: 現代世界ノンフィクション全集22
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1. 現代世界ノンフィクション全集22

ここは、二月の二十三日だというのに、シュロの葉が、 います。」 2 暖かい風と太陽の中にさらさらと音をたてている。 われわれは大きな屋根裏になってる二階にあがった。 4 もくめ タクシーの運転手に料金を払うと、私はドアをあけ二人の職工が、木理のまっすぐな針樅の翼桁に肱をは て、紙片の散らばっている事務室へはいった。背のすめ込んでいた。もう一人の職工は、綿布でおおった補 航空機翼に塗る らりとした青年が、「ドナルド・ホールです」といっ助翼に、ドー プ塗料 ( ) を塗っていた。 一種のワニス て自己紹介したが、彼はライアン航空会社の主任技師 下におりて、私は組立て中の胴体を数えてみた。一一 なのだ。それからこの会社の社長・・マホニイ氏つは骨組みの段階で、一つはもうほとんど翼を付けら も出てきたがーーー彼もまた若く、三十まえと私は見てれるばかりになっていたが、 工場を維持してゆく とった 0 だけの商売にはなっていないようだった。やがてマホ 「ビジネスの話にはいるまえに、工場を見ていただき ニイ氏は私を彼の部屋に案内した。 たいんですが」とマホニイ氏はいう。 「私たちは、あなたの飛行機を製作させていただきた 床面で六人ほどの職工がスチ 1 ルのチュープを熔接 いと思うんですが」と彼はいう。 したり、ケー・フルを継ぎ合わせたり、穴をあけたりし「あなたの電報では、エンジンなしで六千ドルという ていた。彼らは私のほうをチラリと見たが、見込みのことでしたが、いっさい付けたらどんな値段になりま ありそうな客だと感じとったふうだ。こんな小さな航すか。」 「ー 4 ・ホアールウインドを取りつけますと、九千 空機製作会社は、いわばその日暮しの経営に違いある ドルを出るでしよう。もし特別の計器と新しいー 5 チュー・フ エンジンを取りつければ、一万ドルにはなりますね。」 「当社の機の胴体は、全部管式スチ 1 ルです」とマホ よくげたろくざい 「ほくはむしろー 5 で飛びたいと思います」と私は ニイ氏はいう。「それから木製の翼桁と肋材を使って はりもみ

2. 現代世界ノンフィクション全集22

翼の長さを延ばす必要があります。このためには、安 4 定度と操縦性を考えて、尾翼を後方に移さなければな「余分に一人乗せるくらいなら、・ほくはむしろそれだイ らないでしよう。そしてこのために、同時にエンジンけ余分にガソリンを積みますよ。」 は前のほうに取りつけなければならないでしよう。私「そうですか、それなら胴体の長さをそれだけおさえ としては、あなたのご希望に添うように、完全に新しるから、約百五十キロの経済になりますね・ーーっまり、 タンクの重量も入れて、少なくとも五十ガロンの燃料 い機体のデザインをしなければなりませんからね。」 ホールはこういって、一枚の紙の上にスケッチをはを積めるわけです。ニ、ーヨークと。 ( リの距離はどの ぐらいですか。」 じめた。い くらか不均勢な単葉機の形が描かれる。 われわれは地球儀にひもをまわして計算したーー五 「私のあらかじめの計算ですが、燃料タンクを限度ま で積んだ機を、適当な距離で地上から飛びあがらせる千八百キロ、安全率も計算に入れて、飛行機は六千四 ためには、当社のー 2 機の翼長を三メートル延ばさ百キロ分の燃料を搭載しなければならない。 ホールがライアンー 2 のデザインに大幅の変更を なければならないでしよう。それから主タンクは飛行 加えなければならないといっても、マホニイ氏は、 機の重心近くの胴体に取りつけなければならないで しよう。それからあなたと操縦士の座席を、どこに取「いや、われわれはすでに見積り価格を申し上げてし まったのだから、そのままの値でお渡ししよう。とこ りつけましようかね。」 「座席は一つだけでいいんです。操縦は自分一人でやろで六十日でできあがるかね」といった。 「できると思いますね、職工が残業してくれれば」と りますから」と私は答えた。 ホールはいささか驚いたようすだった。「私はまたホールは答えた。 「オーライ」マホニイ氏は私のほうに向いた。「どう カ必要だと思いましたが 別に操縦する補助パイロット : 、

3. 現代世界ノンフィクション全集22

つも、いまと変わらない謙虚なきみらであってほし い」とあいさっした同僚たちがいった。 私のあいさつの番になった。私はいった。 「最初の宇宙飛行士の一人に選ばれたことをよろこび、 また誇りとしています。私はこうなるように力を惜し 打上げの時が近づいた。・ ( イコヌルの宇宙基地へ出まず努力したつもりです。党員の同志諸君に誓います。 発する日はもう目と鼻の先だった。だが、それでも私党と政府に課せられた任務をりつばにやりとげるため はもどかしかった、これほど待っ身のつらさを味わっに、私はなにものもかえりみず全力を注いできます。 たことはめったにない。私の乗りこむ宇宙船は「ワス こんどの宇宙飛行を遂行するにあたって、私は一党員 トーク」 ( 東 ) と命名された。太陽は東からのぼり、 として、あくまでも完遂をめざす清らかな心と大きな 昼の光は徐々に東から夜の闇をせばめて行く、命名の願いを抱いて出かける覚悟です : ・ : ・私は宇宙船を造り いわれはそんな意味合いと思われた。 あげ、これを第二十二回ソヴェト共産党大会にささげ 出発をまえにして、私たちのために党員の歓送会が た科学者と労働者の多数の集団に双手をあげて賛意を ひらかれた。最初の宇宙飛行には私が指名されるにち表するものです。」 、よ、、とみなは決めこんでいた。宇宙基地へ旅立会では長い演説をやるものはなく、ふつうの政治的 つ人たち、送る人たちがめいめいあいさっした。 集会とはすこし様子がちがっていた。だれもが興奮し 「友人としてきみらを実にうらやましく思っている : ていたのだ。そうだ、戦争中には前線へ向かう同志も、 ・ : どうか幸運な飛行を祈「ている : : : 宇宙から戻 0 てこうして党員たちに心から暖かく送られたに違いない。 きたら、あまり得意がって鼻を高くしないように。、 宇宙基地へ飛び立った飛行士は数人だった。どんな 二地球は青かった 470

4. 現代世界ノンフィクション全集22

にした。星をえらんで道案内とし、意のままに星を上 グライムズが煙草をもらいにやってきて、ちょっと にしたり下にみたり、あるいはわずかに右や左へ移し静寂を破った。ほんとうに美しい夜だわ、と彼女は言 つつとぶ、こういう人間の巧みな技倆というものにもったが、誰も返事をしないのでそれきり黙ってしまっ やはりふかい、感覚的な歓びがあるものだ。下を見お ろせば宝石をちりばめた王冠のような、眠っている都朝の八時にべッドの脇の電話が鳴った。あくびをし 会が想像力を刺激する。そしてその都会と都会のあい ながら出てみるとすぐに誰かの声が、もう教会へ行っ だのほとんど人間の住んでいないところにも、ちかちたかと言う。 かと鉄道の信号灯がきらめいているのだった。 ほとんど一晩中起きていたので眠ろうとしていたと いつもとは違ったスピード感があった。眼下を灯り ころなのだ : : : それにこんないたずらをするとは時間 が飛ぶように過ぎて行き、魔法にのって飛んでいるよ がわるいじゃよ、 オしか、と答えてやった。 うな感じがする。乗務員には一人として、かってこれ「そうか、とにかくどこかでお祈りをした方がいいそ。 ほどみごとな組合せの眺めをみたものはいなかった。 それから飛行場へ来い。」 だからほとんど最後まで誰も口をきかなかった。一人 整備士長の声だとわかったので、間違えないでくれ 一人が自分の物思いに沈み、目にうつるものがあらゆと私は苦情をいった。正式の休殿をとってあるのだ。 る音を押えてしまったのだった。いまだかってこんな 「もう少しで永遠の休瑕になったところだ。君の機の ちょうつが、 雰囲気はなかった。 左昇降舵の外の蝶番のポルトがとれてるんだ。おめで 震動もなかった。あの震動についての航空日誌の記 とう。後で会おう。」 録は今では根拠のない、いささかばかばかしいものに 数時間でも帆走の時間を減らすのが残念だった私に さえ思われた。 は、オークランド空港までの道は無限に長く感じられ こ 0

5. 現代世界ノンフィクション全集22

には、おそらく耳をかさないでしような。」 しかし私はあきらめない。「でも、われわれとして 「フォッカー氏なら、パリに着くまで燃料を絶やさぬ だけの航続力をも 0 た、りつばな飛行機を設計できまは、ひどい過重の場合は、単発機も三発機も安全 の度合いではたいして変りはないと思うんだがな。」 すよ」とセールスマンは答える。「いますぐご注文い 『われわれ』 ただければ、来年の春までにはお引き渡しできますね。 ( 私はいったい何をいっているんだ だなんて・・ー・・そう信じているのは、・ほくだけじゃない 値段はまあ九万ドルはするでしよう。」 か。 ) 私はあやうく顔色を変えるところだった。九万ド レ こんな値段は考えてみたこともない。彼は言葉「フォッカ 1 氏は、大西洋横断飛行のために、 = ンジ ン一つの飛行機を売るなんてことは、おそらく考えま をつづける。 「もちろんですね、フォッカー社としてはこのようなせんね。」セールスマンの語調が急につつけんどんに 飛行のために飛行機一台商売しようと思う前に、まずなった。どうみても、たいして重きをおくだけの客で それをやれるだけの能力のある操縦士についての条件はなさそうだと思ったらしい。 私は、一人で歩きながら考えてみたいと思って、す が、満たされなければならないでしような。」 これはとてもお話にならないと、そのまま聞き流しっと外へ出た。私は三発機なんかほしくない。私があ んなことをきいてみたのは、私のためというよりは、 て、私は話題を変えた。 「じつは = ンジン一基の飛行機のことを考えていたんむしろトンプソン氏のためだったのだ。しかし、フォ ッカー氏が私の計画のために単発機などは売らないだ だけど、それならどのぐらいかかるかしらーーー」 ろうという、あのそっけない言葉は痛いことだった。 するとセールスマンは、さえぎるようにいう。 「わが社は、大洋横断飛行に単発機を売るなんてこと オーヴァーロード 8

6. 現代世界ノンフィクション全集22

まかふしぎ 違いもないようだ。私は、生命とそのかなたの偉大な 眠ったり、さめたり、夢うつつの摩訶不思議な状態 において、計器盤を見つめていると、私の背後は、な世界との境界線に立っている。これが死というものだ しゅうえん んだか幽霊のようなのでいつばいになっているようろうか ? 死はいまでは最後的な終焉とは思われない。 に思われる ぼんやりと透明な形をしたものが、機むしろ新しい自由な存在への入口のように思える。 内で重みもなく私といっしょに乗っているようだ。振私はヨーロツ。 ( に向かって飛行をつづけ、いままで り返らなくても、私にははっきりとそれが見える。私どおりに飢えや苦痛や寒さを感ずる肉体の中に生きる のか ? それとも私は幽霊の姿をしたものの仲間入り の頭全体が一つの大きな目なのだ。 この幽霊たちは、親しみのある人間の声で話しかけしようとしているのだろうか ? 幽霊たちはがっちり とした肉体をもってはいないが、それでも外形だけは る。そして入れ替り立ち替り私の肩を押したり、また ちんにゆうしゃ 自分たちのほうへ引っぱりこんだりする。またときに人間のかたちで残っている。彼らは、闖入者でもなく、 は空中から声をかけて、飛行について助言したり、航見知らぬ人でもない。それはむしろ友達の集まりのよ 法について議論したり、私を励ましたり、普通の生活うなものだ。そしてその連中をなんだかみんな昔から ではとうてい及びもっかない重要な言葉を与えたりし人間として知っているような気がする。 てくれる。 私は忽然として、過去、現在、未来のなかに生きて の いる。私のまわりを取り巻いているのは、過去の連想 私の体にはもう重量というものがない。肉体という 感しは去ってしまっている。私はまだ生命というものや、過ぎ去った友情や、遠い昔の祖先の声だ。私はい ・あにつながっているが、しかしいつなんどきその細い絆ま大西洋上を飛行機で飛んでいるのだが、同時にはる 気がたち切られるかもしれない。 か遠く過ぎ去った時代に生きているのだ。 ホイボーウイル・ : ホイボ 1 ウイル : : : あれは父の 私と、私の霧のような乗員たちとの間にはなんらの ノ 2 /

7. 現代世界ノンフィクション全集22

陽気そうにいっこ。 突然、ひきしまった。その顔、そのまなざし、彼女の 「火は強い、水は火より強い、土は水より強い、しか唇がふるえ、声が変わった。ワーリヤはこのことが誇 し人間はなにより強いんだ ! 」 りなのだ、しかし少し心配でもある、かといって私を 家に戻ると、ワーリヤは、どうして私がそんなに有興奮させるようなことはしたくない、私は彼女の表情 頂天なのか、このごろしよっちゅう見えなくなるが、 にそういう気持ちを見てとった。その夜、私たちはま いったいどこへ行くのか、とたずねた。 んじりともせず、昔の思い出や将来の計画などを語り 「宇宙へ飛ぶことにしたよ : : : スーツケースに下着を明かした。私たちは、二人の娘がもう成人してお嫁に 行っているさまを思い、自分たちが孫をあやしている 用意してくれ。」私は例の冗談ではぐらかそうとした。 「もう用意はできています。」ワーリヤが答えた。す様子を夢に描いた、そして私たちの目の前の全生活は、 まるで共産主義の時代のように、戦争もなく不和もな つかり知っているな、それを聞いて私は理解した。 こどもたちをベッドに寝かしつけ、夜食をすませるく過ぎて行くのだ。 と、さっそく二人の間でまじめな会話が始まった。私話しつかれた末に、私はワーリヤに、私がこれから はいった、そうなんだ、最初の人間宇宙飛行はもうま受けようとしている試練をどう思うか、たずねてみた。 ワ 1 リヤはさすがにコムソモルカらしく答えた。 ちかだ、ひょっとすると、そのときは・ほくが飛ぶこと 「あなたに自信があるなら、だん・せんおやりなさい ! になるかもしれないよ。 た : きっとうまく行くわ : : : 」 「どうしてあなたが ? お友だちがおこりやしな し ? 」ワーリヤが聞いた。 球私は、自分が選ばれるかもしれない理由を、できる だけワーリヤに説明してきかせた。ワーリヤの表情が っ 475

8. 現代世界ノンフィクション全集22

んだった。 メラにおさまった。これが宇宙飛行後最初の写真であ る。 「宇宙からですって ? 」夫人はまだ信じられぬといっ たふうに聞きかえした。 軍の同志たちに助けてもらって宇宙服を脱ぎ、私は 「驚かれたでしようけれど、そうなんです。」私は答空色の飛行服姿になった。一人が自分の外套をすすめ えた。 てくれたが、私はことわった。飛行服は軽快であたた カカ 1 リンー ・ガガーリ ューリ かかったのだ。兵士たちは宇宙船に関心をそそられた。 ソ ! 」畑のなかの建物から、そう叫びながら、トラクそれは、春の水のさわぐ深い谷間から数十メートルは ター手たちが駆けてきた。 なれて、すき起こされた畑のただなかに置かれていた。 これが、宇宙飛行を終えて地球上で最初に行きあっ 私は綿密に「ワストーク」号を点検した。宇宙船とそ た人たちだった。平凡なソヴェト人、コルホーズの農の内部設備にはいささかの損傷もなかった。もう一度 場の働き手たちである。私たちは、肉親のように抱き宇宙飛行に使えるくらいだった。はげしいよろこびが あい、接吻をかわした。 こみあげてくるのを、私はどうすることもできなかっ ほどなく、将校にひきいられた兵士の一団が、鋪装た。人間の最初の宇宙飛行がソ連で実現され、祖国の ・路をトラックでとばしてきた。彼らは私を抱擁し、手科学がさらに一歩前進したことを思って、私は幸福だ をにぎりしめた。そのなかのだれかが私を少佐と呼んった。 ・だ。聞きかえすまでもなく、私は国防相マリノフスキ 兵士たちは衛星船のかたわらに警護兵を立てた。 1 元帥が二階級特進の栄誉を私に与えてくれたことをちょうどそこへ、出迎えの専門家や、宇宙飛行の記録 悟った。予想外のことに私は頬を赤らめた。写真機をを登録する役目をもったスポーツ委員会の委員たちを 持参していたものがいて、私たちは大勢いっしょにカ乗せて、ヘリコ。フターが到着した。彼らは「ワス 500

9. 現代世界ノンフィクション全集22

その日は一日シンシナチで休んでいてもよかった。 にはまわらなかったはずだから、もう一度着陸をここ 6 ろみていたら、まず確実に途中で失敗しただろう。翼そして絶望も恐怖も消えたいま、疲れきっていたわれ とエンジン・カ・ ( ーと尾部から氷をたたきおとすには、われはぜひそうしたかった。二人は長いあいだ坐った 整備員が二時間苦労しなければならなかった。ほとんまま、話もせずにふかい嘆息ばかりついていた。 たまたまここでは他の乗組員がいなかった。義務を どの部分が厚さ十二センチに達していた。 ナッシュビルの上空が晴れてきたのは昼すぎだった。果そうなどという気になったからかどうかはあやしい ルイスビルとセントルイスはそれよりややおくれて晴けれども、おそらくその事情がヒューンを動かして仕 れ上った。コラン・ハスへは決意のいかんにかかわらず事をつづける決意をさせたのだろう。彼はただ家に帰 というのだった。そして寝てから事件をふり 行けなかったのだから何の関心もなかった。 われわれは空港のカフェで変に黙りこくった朝食をかえってみたいと。私は彼の言葉に賛成し、ひと眠り したらしばらく安楽椅子でビールでも飲んでくれと言 とった。実際何も言うことはなかったのだ。コーヒー カツ。フのかちんという音にさえ頭の中をかきまわされったのだった。私の方は、はたしてー 2 の代りが るような気持ちがした。スチ = ワーデスや乗客には昼あるのか、シンシナチの天候がすっかりよくなるのか どうかを気にしていた。それにめくらのまま下降しな ちかくまで会わなかった。彼らは朝食のためにホテル がら何にも衝突せずにすんだ渓谷のことも気になった。 へ連れていかれたのだ。実にありがたかった。彼らに こんどは渓谷がないかもしれないのだから、機につく 会わずにすなのは大助かりというところだった。誰に もあわず、椅子の背にもたれ、天井にむかってタバコ結氷もなんとか手段をとらなくてはならないとも思っ こ 0 をふかしながら、ただじっと物思いに沈んでいるのは こうしてわれわれは良いとは言えないがまあふつう 大助かりだった。

10. 現代世界ノンフィクション全集22

しているのかもしれない。しかも私の飛行機はまだ着一部が見える。ル・・フールジェかしら ? 私は左翼を 陸予定時ではない。私がパリに着くかもしれないと考下げて降下旋回に移る。光が南の境界線に沿ってひろ えている人々でさえ、こんなに早いとは思うまい。そがっている。工場の高い煙突がつっ立っているかもし れにしても、なぜフラッドライトだけを照らしたままれない。 翼を傾けて、各角度から見てみると、新しいいろい にしておいて、境界燈も、空路標識もないのだろう ? これは、ル・・フ 1 ルジェ飛行場への方向に違いないろな細部が夜と影の中から生まれてくる。いまフラッ が、しかし、それはパリからはるかに遠いところにあ ドライトの近くに・ほんやりと輪郭を現わして、大きな ると私は思っていた。もう四、五キロ北東に飛んでみ格納庫の角が見える。飛行場を遠ざかって反対側から よう。それでも、もし飛行場らしいものが見えなけれ見ると、無数の小さな光は、工場の窓ではなくて、み ば、引き返して、もっと低空を旋回してみよう。 んな自動車のヘッドライトであることがわかった。自 五分過ぎた。小さい町や田舎の家々の明りが地上の動車は格納庫のうしろの道路上でごったがえして動け なくなっているらしい。なるほど大きな空港だ。フラ やみを破っているにすぎない。私は引き返し、スロッ トルをいくらか減じ、ゆっくりと降下しはじめる。再ッドライトは飛行場のほんの小さな一すみを示してい これはル・・フ 1 ルジェ飛行場に違いな るにすぎない。 びフラッドライトに近づいたとき、高度計は六百メー 、 0 、 0 0 、 のトルを示した。あまり低く飛ばないほうがよし の付近にはどこかにラジオ塔があるはずだ。懐中電燈私は飛行場の表面がきれいになっているかどうかを 見きわめようとして、高度を下げて旋回する , ーー乾草 あを地上に向けて通信を送ってみたが、応答はない。 旋回する。そうだ、まちがいなく飛行場だ。ドアを機械や家畜や羊や、あるいは障害物よけの旗などが 半開きにした大きな建物の前に、 = 。フロン (% 装され ) のじゃましていないかと。