翼 - みる会図書館


検索対象: 現代世界ノンフィクション全集22
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1. 現代世界ノンフィクション全集22

けない。できない、できない、外に出て歩くなんてこ不安そうな顔をしていたからだ。ダン大尉は離陸し、 ともできっこない。 目をこするんだ。頭を振るんだ。 翼を傾けて群集のほうに向かった。人影がのろのろと いまは大洋のまっただ中を飛んでいるのだ。 翼の上を歩き、手を振る : : : そこまではよかった。さ しかし、私は大洋のまっただ中を飛んでいない。私てこんどは「離れわざ」だ。実演者は翼から飛びおり よ : る。 : : : 群集はかたずをのむ : : : 彼は飛行機の下に弓 なりにぶら下がった梯子にしがみついて・フラン。フラン 「さて、みなさん ! 」客寄せの声が、疲れきった私をしている。これで終りになる。 前に、金切り声を張りあげる。 しかしどうしたことだろう ? 彼は滑走車輪の下の 「リンドーグ大尉は、これから決死のアクロバット 梯子の端にぶら下がったままだ。梯子を登ってゆかな 飛行をごらんにいれます。さあ逆転飛行ですそ : : : 」ければならないはずなのに。離れわざでけがをしたの それは一九二五年の夏の週末だった。フランク・ダ くツ、ド・カ だろうか ? 恐れをなしたのだろうか ! のセント・ ンとくッド・ガーニイと私は、ミズ 1 リ月 ーニイが私の機に飛びこんできた。すぐわれわれは上 チャールズの近くの牧場に、飛行機を三機持ってきて昇していた。われわれは実演者の真下を飛んで、前部 いた。通行人を引き寄せるために、われわれは、翼歩操縦席を彼のからだに近づける。同時にパッドが梯子 きや、アクロバット の綱を切る手はずだ。 飛行を宣伝していた。 きりも らせん しかし遅かった。ダン大尉はガソリンを充分持って 私は急角度で上昇し、宙返り、螺旋飛行、錐揉みな いなかった。彼は麦畑に機首を向けた。実演者は弱々 どを演じて、それから地上に帰る。つぎはダンが翼歩 きをする人間を乗せて飛ぶ番だ。われわれ。 ( イロット しくぶら下がり、体は地上を引きずられて地に跡をつ は、この翼歩きをやる男のことを心配していた。彼はけーー飛行機は地上でひっくり返った。 ノ 24

2. 現代世界ノンフィクション全集22

天蓋のない操縦席から飛び降りてさえも、パラシュ ング ( の ) へ前額部をごっんとぶつけたとき、金属 1 トは飛行士にあまり役に立たなかったのだ。 部品がポキンと折れ、木がねじれて砕ける音がして、 「セント・ルイス号」が翼を失えば、ジェニイ機より機は空中で横ざまにとん・ほ返りした。私はスロットル も早い速力で墜落するだろう。あらゆる角度から考えをぐいと引いた。だが半メ 1 トルと離れない横に、マ ッカリスター中尉機の機体があって、両機の破れた翼 て、私がパラシュートを携行しないと決心したのは、 はからみ合っていた。 そのときは正しかったのだが・・・ーーしかし、持ってきた ほうがよかったとも思ってみる。 マッカリスタ 1 中尉が、安全帯を締めようとして、 論理も、空中でいまにも機体のどこかが、ポキッと操縦席に半ば立っているのが見えた。それから、われ 折れそうに感じることを、忘れさせてはくれない。 われは空中でぐるぐる回転しはじめた。破れた翼から ーこれは肉体的動揺と精神的衝動だ。 ぶら下がってる翼布の端が、操縦席にかぶさってきて、 かって、私は機翼をめちゃくちゃに破砕してしまっ私の飛行帽をゆさぶる。両機はからみ合ったまま風車 たことがあった。それはテキサスでの演習の時だった。のようにぐるぐる回る。私は、破れた翼を押しのけ、 その時、私は陸軍の航空隊といっしょに練習をしてい カウリングに踵をかけ、思いきり体を空中に蹴り返し た。われわれのー 5 追撃中隊が、ケリイ飛行場か が開くか開かないうちに、壊れた らほど遠くないところで、模擬攻撃で機首を下げ、三 私のパラシュート 機編隊の仮想敵めがけて急降下した。引きぎわに、私飛行機は、私を通り越して一直線に落ちていった。わ は操縦桿を強く引きもどし、障害物がないと思った空れわれは耕作地に無事着地した。もしあのとき落下傘 いうまでもなく事故死にな 中のほうに左方向舵を蹴った。 を持っていなかったら ? っていたかもしれない。 その時、偶然が起こってしまった。操縦室のカウリ こ 0 カカと 8 8

3. 現代世界ノンフィクション全集22

翼よ、あれがパリの灯だ 「飛行性能は ? 」 「そして、。フロペラは金属にしたいんです。それから「大丈夫と思います。しかし、ドナルド・ホールと、 旋回計をつけなければならないし、磁気羅針儀もほしお話になったほうがいいでしよう。彼が計算を立てた いです。」 のですから。」 「よろしうございます。エンジンも、特別の装具も、 「ニューヨークからパリまで飛ぶだけの十分な航続距 コミッションなしの原価でさしあげましよう。われわ離をもっ飛行機を提供するのだということを、保証で れもこの飛行には、大いに興味をもっているんですかきますね。」 マホニイ氏はあまり愉快ではなさそうに、体の向き を変えた。「この値段では、実は全然保証金が出せる ほどのマージンは出ないんです。われわれは、たくさ ン ジ ん金のある大会社とはちがいますからね。」 ン 工 私はとにかくドナルド・ホールに会って、彼がどの ン程度の能力をもっ技術者なのか、確かめなければなら ウ ない。注文はそれからあとだ。われわれはホールの製 一図去亠こよ、つこ : 、 冫なしナカマホニイ氏はわれわれ二人だけを ホ残して出ていった。 「ライアン社の標準機体は使用できませんね。離陸の ウイング・ローディング を ) を減らし、 ときのために、翼面荷重 ( 翼面積で除した数 アスペクト・レーシオ ヒ翼の幅と弦 ) を増し、 航続距離を延ばすために縦横上 ( 長との比 っこ 0 3

4. 現代世界ノンフィクション全集22

ここは、二月の二十三日だというのに、シュロの葉が、 います。」 2 暖かい風と太陽の中にさらさらと音をたてている。 われわれは大きな屋根裏になってる二階にあがった。 4 もくめ タクシーの運転手に料金を払うと、私はドアをあけ二人の職工が、木理のまっすぐな針樅の翼桁に肱をは て、紙片の散らばっている事務室へはいった。背のすめ込んでいた。もう一人の職工は、綿布でおおった補 航空機翼に塗る らりとした青年が、「ドナルド・ホールです」といっ助翼に、ドー プ塗料 ( ) を塗っていた。 一種のワニス て自己紹介したが、彼はライアン航空会社の主任技師 下におりて、私は組立て中の胴体を数えてみた。一一 なのだ。それからこの会社の社長・・マホニイ氏つは骨組みの段階で、一つはもうほとんど翼を付けら も出てきたがーーー彼もまた若く、三十まえと私は見てれるばかりになっていたが、 工場を維持してゆく とった 0 だけの商売にはなっていないようだった。やがてマホ 「ビジネスの話にはいるまえに、工場を見ていただき ニイ氏は私を彼の部屋に案内した。 たいんですが」とマホニイ氏はいう。 「私たちは、あなたの飛行機を製作させていただきた 床面で六人ほどの職工がスチ 1 ルのチュープを熔接 いと思うんですが」と彼はいう。 したり、ケー・フルを継ぎ合わせたり、穴をあけたりし「あなたの電報では、エンジンなしで六千ドルという ていた。彼らは私のほうをチラリと見たが、見込みのことでしたが、いっさい付けたらどんな値段になりま ありそうな客だと感じとったふうだ。こんな小さな航すか。」 「ー 4 ・ホアールウインドを取りつけますと、九千 空機製作会社は、いわばその日暮しの経営に違いある ドルを出るでしよう。もし特別の計器と新しいー 5 チュー・フ エンジンを取りつければ、一万ドルにはなりますね。」 「当社の機の胴体は、全部管式スチ 1 ルです」とマホ よくげたろくざい 「ほくはむしろー 5 で飛びたいと思います」と私は ニイ氏はいう。「それから木製の翼桁と肋材を使って はりもみ

5. 現代世界ノンフィクション全集22

目次 チャールズ・リンドく ーグ佐藤亮一訳 翼よ、あれが。ハリの灯だ 一夢と決意 一一飛行計画 三競争者たち 四準備完了 五暁の離陸 六かぎりなき行くて 七おそう睡魔 八つきまとう幻想 九最後の力をふりしぼって 十翼よ、あれがパリの灯だ 1 イ 9 Z34 〃 9 翹 4 89 73 57 41 25 7

6. 現代世界ノンフィクション全集22

翼よ、あれがパリの灯だ っか ま 機 過を準補はら のす首慎 し、 そ私 て計 げ ス器 避だ し が側モ板ンゴル ロ類 く つみ た失 な 見 - ー っ 、丿プ た を方 の機 お首 い視 ちを では い補 つ首 けカ 大は でき いを に下 里れ が縦絞短下わ がそ す力 つれ は社 設上 か れ最 か わ後 る し号 ヒ。飛 のた に調首た 。を な整 に下 る よ う に てそ 変めを平 し釣 か行 た 0 離わはれ と き ロす ッれ浮 / も ど き し操 気桿 . 機飛そ 流 が 降も の上は 度か の がを は待 っ た し 力、 し 、機 私げ度 はた機 操ま首 せ 下ちを放 ・オよ し た ま ま い も の と り も う 1 は手操 手を縦 な し に し て 機 は 、下 が っ た 私 . 標 に し て い 私 をよ ほ と ん ど ら海定 上 ルれを軍 の メ 本旱 っ徐 々 き・ 機 を・ 0 〕吏 冫こ . も 込 フメ、 、オ旱 の ロ ス ド ス と し て 孑旨 し す標イと 浮 べ て しをだ負期機 。荷待 に な る を け る よ う に っ助載 、ば翼重 く 作 ケ ア た の 私 には ス ロ ッ ト ル レ 1 い っ て 力、 っ て び 出 す と に し た は が キ向 のれ基 し て のた の ホ 1 ル は で は わ の り も と 回 よ翼操 : 項ぎを重体料 る 、垂フ が 助 ほ ら 、私れ の縦ィ目 い効ぎう ら ァ 、ノ サ き が お 。そ し、 よ ろ 、し い 芽つ の 試 、験 は 五 四 日 に 彳丁 な う と に し は 不ム の 目リ た め し 、た フ イ ア 桿 : を 、方は の 作」 し た 片 翼 下 た 計 し を , 私 メ に板も に き し る か た翼た 面 積 小 さ く しは 安イイ 定ェ 禾ム をよ に ハ 百 メ ト ま で 回 つ と を わ き に ー寄た ち前を ょ部 の 燃 せ れ タ ン ク の め 冫こ 目リ の ら せ る し ッ ト ノレ 開 く て の よ う だ は と 目リ の ち と 調 がたを助。 る で作き っ で は な い じ ら すれ性 は 悟に の 湾 に ょ向 つけ旋 た し整補 : 上 。要翼ノし ち つ り し か定 め飛を 安 定 を 覚標と し 昇 そ よれ ル イ ス 。は 安 に 重 お 機かた補 て な い が は ば ん な 。でわ野 も 、なな い は 正 常み お り ま き の点をた足水 え こ翼 ー 1 セ き 、座冫 んれ縦 でか桿 ら どた私握 0 0 よ を向機 か再 ら に放飛 し て だ けナ で か し 。が席 と : 久うノレ カ定 ; ま を板で 零の一機 れ は の基飛 地行 ッ チ月 フ フ ツ ツ か ら キ ヤ ン フ。た に 0 よ 私 ら か . そ - ナこ し 移 冫こ 場 兵を 兀 の イ の だ げ か ス ト を い縦全十か 開 さ よ つ り し、 と り に 航 続 距 をれ 増わ よ う に の み 方 に向方 し性た変舵を ん る 。助 いれを操き で傾縦も 、け桿 る と な空 目 を 、て び 行 に 、引 ど し

7. 現代世界ノンフィクション全集22

わたしは基地の上空を横切るあいだとるべき位置へばならない位置であり、見物している人たちはわたし しばらく上昇する。位置が正確だと感じるときは、隊の問題などには関心がないのだ。わたしはスロットル 長機の尾筒の黒いぼっかりあいた穴が、こちらの風防を二・五センチひいて再び前方へ押し、操縦桿を前へ ガラスの前方二メートル、天蓋の三〇センチ上に、漆倒して、滑空しながらもっとゆるやかで楽な編隊に移 黒に輝く円盤となって見える。機の平行安定板はむこ うのジェット噴射を受けてもびくともせず、わたしは 二番機と三番機はフォーコン大編隊がそれそれの位 不快な震動を避けるために長靴の重みを方向舵ペダル置をチェックするために大きく旋回するあいだの時間 からゆるめる。ペダルから長靴をはずしてしまうことを利用する。大気は荒れていて、彼らの飛行機は胴震 いし、跳ねあがりながら、隊長機の背後で主翼を重ね ・、可能ならばそうするだろうが、そこへいたる傾斜孔 には足を休める場所がないのだ。わたしは燃焼するあわせるかたちになる。緊密な編隊で飛ぶためには、 ー 4 で平行安定板がまっ黒になっていることを意味彼らの翼が隊長機の翼が、はげしくふるわせる大気に する震動と共存していかなければならない。ねじくれはいりこむまで接近しなければならない。あの気流は た気流が方向舵を打っ絶えまない、鈍く重い音が耳にこちらの方向舵に噴きつける熱風ほど強烈ではないが、 ひびく。この気流のなかで飛ぶのはなまやさしいこと力が不規則で変化しやすいため、いっそう飛行は困難 ではない。べイカー ・・フル 1 の隊長機のタ 1 ビンからである。気流は三五〇ノットで綱鉄板のように強固に せびれ て 噴き出る熱風に巻きこまれて、巨大な魚の背鰭のよう なる。編隊を円滑に保ちつづけようとするとき、翼端 の近くにあるエルロンがはげしく上下するのが見える。 をな尾翼といっしょに飛ぶのはけっして愉快ではない。 としかし、それがべイカ 1 ・プル 1 中隊が緊密で完璧な普通の編隊飛行のあいだは、彼らの翼は隊長機の翼か四 3 ダイヤモンド編隊を組むために、わたしが飛ばなけれら押し流されてくる空気などの外にあり、長い間その

8. 現代世界ノンフィクション全集22

よ . 鬲れがパリの幻だ し、少なくとも関心と行動がすばやい。私はさっそく、 その明細と、もっと早くできあがらないかどうかをた 一九二七年二月三日 カリフォルニア、サン・ディエゴ ずねる電報を打った。すぐ返事がきた。 ライアン航空 貴社で、ニューヨークパリ 無着陸飛行に可能 ガソリン搭載量一・四キロリットル。巡航速度時 な、ホアールウインド・エンジン機の製作できるや。速一六〇キロ。翼面荷重一三五〇ポンド平方メート もしできるなら、値段と引渡し期日お知らせ乞う。 ル。馬力当り二〇ポンド。必要ならば発注日より二 ハートソン航空 カ月で完成。保証金五〇パーセント。 返事がきた。 私は電報をビクスビイとナイトに見せた。二人とも ライアン社の名まえを聞いたことがなかった。この会 製作可能なり。機と同型、ただし、翼やや大き社は、どんな種類の飛行機を作るのだろう ? く飛行可能なり。モーターおよび部分品なしで、価「これは高翼の単葉機で、べランカ機に似ていますー ー座席はオー。フンで翼長は短いです。西部沿岸で郵便 格約六千ドル。引渡しに約三カ月を要す。 輸送機に使っています」と私は説明した。 ライアン航空 相談の結果、私がライアン社の幹部と会うために、 エンジンを人れても、約一万ドルだろう・ーー予算内カリフォルニアに行くことになった。もし買うことに さしね だ。しかしこの指値は、信用できるだろうな。ライア決めたら、飛行機が組み立てられるあいだ、私はカリ ン社には、しつかりした技術者がいるだろうか。しか フォルニアに滞在するようになるだろう。 3

9. 現代世界ノンフィクション全集22

墜死したことーー・以上、二つの要素から成っている。蝋で翼を造った点も興味ぶかい。ダイダロスとイーカロス は、一説によると、それそれ帆船を仕立てて、脱走したが、イーカロスのほうは、船の操り方を知らなかったの で、難破して、死んでしまったという。このほうが、古い伝説かもしれない。それが、ある時期に、空を飛ぶ装 置に変ったのであろう。空を飛ぶ話は、ギリシャ神話には意外に少ない。そのなかで、ペ 1 ガソスは、翼をもっ 神馬として名高い。ただし、ペーガソスは、ギリシャではなくて、リビア ( 北アフリカ ) から移入されたもので ある。ーー私の想像を付け加えれば、魔法の敷物とか千里を飛ぶ長靴など、空を飛ぶ装置は、アラビアないしオ リエントに発生したものではないかと思う。 ユダヤ教、キリスト教その他で、大切な役割を演じる天使は、大きい翼を付けて、天界と地上の間を自由に往 復する。天使は、ギリシャ語では、アンゲーロス ( 7 ) で、これは使者の意味である。空を飛ぶという意 味はない。だが、天界と地上を往復するためには、空を飛ばなくてはならぬ。天使の翼は、初めからついていた そそ ものか、どうか、興味を唆られる。 キリスト教では、天使たちが活躍した。天使には階級があり、九つに分れていた。天界から堕ちた天使もいた。 堕天使、つまり、サタン ( 悪 ) である。悪に似て、空を飛んだのは、例の魔女である。魔女は、えにしたの ほうきに跨って夜の空を飛び廻った。五月一日の前夜、ドイツのプロッケン山には、各地から魔女が集まって、 悪と無礼講を開いた。これはサストと呼ばれた。魔女は、猫、ひきがえる、三本足の兎などに姿を変える。人 間の病気、家畜の死亡、天候の悪化など、すべて魔女の仕業である。魔女は、醜く恐ろしい顔をしている。彼女 が、二階の窓から、ほうきに跨って、暗い空に飛び出す光景は、中世紀の人びとの恐怖のまとでもあった。天使 と魔女では、おなじく空を飛んでも、光と闇のように違っていた。 またが

10. 現代世界ノンフィクション全集22

空がそろそろ曇ってきた。まず、二、三のはなれば落下傘がありさえしたら ! いや、私は決心して落 なれの積雲が太陽の光線をおおい、それから積雲の群下傘を持ってこなかったのだ。二十ポンドの重さは一 れが高く層をなして漂う。がっしりした雲のかたまり時間の燃料の三分の一に当る。それにしても、ともか が北をふさいで、すさまじい黒さだ。不吉な予感がすく、いま翼が折れたら、すばやい動作で操縦席から飛 る。スコ 1 ルが前方の地平線を走る。 び出さねばなるまい。高度は四百五十メートルだ。 風が行く手をまっこうから吹きつけて、大強風とな スミス中尉がナショナル・ガード ) のジェニイ った。風に流されるのをさけるため二五度加減すべき機で宙返り中、翼を失ったときよりたいして高くはな だ。しかし、そうすれば、機はまっ黒い嵐のまっただ スミス中尉は、完全に機体から離れきることはで 中に巻きこまれることになろう。 きなかった。私は当時飛行場上級士官として、遭難を 調査した。 空が荒れはじめる。翼の先端があっというまに撓み、彼の惨死体の現場に着いたとき、パラシュートは機 操縦席は上下左右に動揺する。私は安全帯をぎゅっと体にからみついていたが、スミス中尉の足は操縦席の 締めなおす。機は離陸の時より五百ポンドばかり軽く端と張線とのあいだに挾まれていた。彼は地上に激突 なっているが、それでも一トンの燃料を持っているのする前に、なんとかしてパラシュートを開こうと、死 で、まだまだ過重で危険だ。 物狂いで落下傘開放索を引っぱったに違いない。スミ 荒れ狂う突風は、翼桁をぼきんと折るかもしれない。スの同乗者は、高度二百四十メ 1 トルで完全に機を放 あ嵐は、大が歯をむいてうさぎを追いつめるように、い れた。私は彼の体が空中を落ちてくるのを見たが、落 よまにもかみつかんばかりに機に襲いかかる。一六二五下傘が開きをうな気配はなかった。彼の体は穀物畑に 回転に絞り、気速を百四十四キロに落とす。 激突して、二メートルも空中にはね返された。 たわ 、 0 7 8