白人 - みる会図書館


検索対象: 現代世界ノンフィクション全集24
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1. 現代世界ノンフィクション全集24

だ。おまえが黒人だからこそ、そんなことをするんだ よりよい仕事を探して丁重に断わられ、黒ん・ほ、 黒公、黒助と言われているのをきいたり、手近かにあよ。」 る便所や食堂の設備を避けて、黒人専用のものを探さ しかし、拒絶されるときは、それがたとえば「黒人 なければならないということに、無感覚になってはい 用」という標識を見つけるまで膀胱をおさえていると ない。新たな無力感はどれも生傷にふれ、その傷を深いったような、黒人すべてが味わうような場合すら、 くする。わたしはこれを自分の個人的な反応からだけ黒人の方はそれをそういうふうには思えない。黒人は で言っているのではない、たまたまそれが他人に起こそのことを個人的に感じ、そのため身内が煮えくりか り、その人たちの反応を見たことから、言っているの える。それで白人なんかにわかるものかという白人観 である。 が生まれる。なぜなら、もし黒人一人一人が黒い大衆 完全な絶望から黒人を救う唯一の道は、このようなの一部であるなら、白人はいつも個人なのであるから。 ことが黒人一人一人にむけられているのではなく、そそして白人は、自分が「そんなふうなもの」という考 つも黒人に の人種、皮膚の色にむけられているのだという、黒人えかたに真剣に反対するだろう。現に、い の信念、先祖からの古い信念のなかに、存在する。母対しては公平かっ親切であろうとしてきたのだから。 や叔母や先生たちが、ずっと昔から、おまえはたとえ このような人たちは、黒人が自分たちを信じないこと 黒人としてはできなくとも、一個の人間としてなら、 がわかると腹をたてる、なぜなら、黒人たちの疑問に 堂々と胸を張って生きてゆけるのだと教えさとし、注気づかないからである。つまり黒人たちは、白人たち 意深くその心構えをうえつけてきた。「白人たちはおが集団となると、どうしてーーー個人としては、白人た まえがジョニーだからといって、そんなことをするわちは黒人に対して寛大で、「親切」であるからーー里 けじゃないんだよ、おまえのことなど知りもしないん人の個人的な価値感を破壊し、黒人の人間としての威 244

2. 現代世界ノンフィクション全集24

るような白人は一人としてなかった。 パス停にさしかかったとき、わたしはこの小さなグ ート・ホテルのま 立派な身なりの男が二人、アル・ハ ル 1 プと別れて、表の、電話ポックスの近くにある公 えで立ち話をしていた。 衆べンチに腰をおろした。一人の黒人が電話をかけ終 るのを待って、急いでそこへゆき、ドアを閉めると、 「失礼ですが」と女たちのなかの一人が、パンフレッ トを手にして言った。「わたしたちの伝道にご寄付を交換手に料金先払いでわたしの家へ長距離電話を中込 んだ。 おねがいしているのですがーー」 「ばかいえ」年とった方がどなった、「こんなくだら妻が電話口にでたとき、自分の奇妙な立場に、ふた たび思い知らされた。わたしは妻や子供たちと、夫と ぬ紙切れはもう何冊ももらってる。」 若い方の男は、ためらっていたが、ポケットをさぐして、父として話しているのに、電話ポックスのガラ って一つかみの小銭をコップのなかに投げ入れた。かス窓に映っているのは、かれらの見も知らぬ別人なの だ。このときほど、この幻を消してしまいたいと思っ れはパンフレットをことわり、「たしかにこの金はい たことはなかった、これまでにないほどこの幻が気に いことに使われるんだろうね」と言った。 二丁ほどいってから、うしろに足音がきこえてきた。 なった。こいつは妻の知っている男じゃない、同じ声 わたしたちは町角で立止まったまま、うしろを見なかで話し、同じ思い出をもっているが、あかの他人なの 0 - 」 0 った。若い男の声がした。「いまさら言っても仕方が ないのだが」とかれはおだやかに言った、「おれたち 少なくとも妻や子供たちの声がきけたのは幸福だっ の日人の無礼を勘弁してくれ。」 た。電話ポックスから夜の冷たい空気のなかへでた。 し 「ありがとう。」わたしたちはうしろを振返らずに言夜はいつも気楽にしてくれる。白人たちはほとんどそ幻 3 っこ 0 の家庭にいる、脅かされることもずっと少ない。黒人

3. 現代世界ノンフィクション全集24

「だめよ ! 」白人の女が叫びかえした。 しやくしやする気分になりはじめた。白人だったら、 「ご親切にありがとう。」わたしは言って、店をでた。 ためらうことなく、小切手を現金化してくれたのだろ ドライアディーズ街とラム。、 ート街の商店に、つぎう。断わるたびに、おそらくわたしがなにかよからぬ つぎに入っていった。どの店でも、わたしが物を買う ことをして、この小切手を手に入れたのだろうから、 つもりはなく、小切手を現金にかえたいだけなのだと小切手にしろ、このわたしにしろ、かかりあいになり 知ると、ほほ笑みがしかめ面にかわった。これは拒絶たくないのだということを、明らかにほのめかした。 ではない わたしにはそのことがわかった。かれら とうとう現金化することをあきらめ、月曜日に銀行 が見せる無作法さなのだ。わたしは、捨てばちなむが開くまで、所持金切れのままニュー・オーリアンズ にいなければならぬと覚悟をきめて、町の方へと歩い ていった。店のウインドの小さな金色の文字が眼につ いた、カトリック書店、とある。カトリックの人種主 善て義に対する立場を知っていたので、ひょっとしたらこ の店で、黒人の小切手を現金化してくれるかもしれな の 店 いと思った。いくらかためらいを感じたが、ドアを開 けてなかへ入った。失望は覚悟のうえだった。 「二十ドルの旅行者用小切手を現金にかえて頂けるで しようか ? 」女主人にこう尋ねた。 「よろしいですとも。」女主人は至極当りまえのこと 2 のように、なんのためらいも見せずにこう言った。わ

4. 現代世界ノンフィクション全集24

えも、個人の価値を意識せずには生きてゆけない。白とまったく同じ家庭礼讃、同じ理想、同じ目的をもっ 8 人の人種主義者は、この意識を黒人からうまうまと捲ていることを示している。黒人の教育程度が低いとい引 きあげたのだ。もっとも目だたないことではあるが、 うことは、人種的欠陥によるものではなく、文化、教 あらゆる人種の犯罪のなかでももっとも兇悪なものだ、育から受ける利益を、白人に取りあげられていること に由来している。差別主義者が、黒人の教育程度が低 それは精神を、生きようとする意志を抹殺するからだ。 これはあまりにひどすぎた。わたし自身もこのこと いことを云々するとき、この事実をもっともよく例証 を経験していたが、とても信じられなかった。たしかするものとして差別廃止学校のことをあげる。つまり にアメリカにあっても、まじめな人たちであればみな、 かれは、黒人が十流程度の学校に入れられているかぎ こまね このような大量の犯罪が犯されることを、手を拱いてり、その教育程度は白人の子供たちにも劣るというこ 見てはいられないだろう。わたしは、これまでずっととを認めているのだ。 わたしは黒人を弁護しているのではない。黒人のあ 自分がとってきた白人の立場を見ようとした。人類学 的な論証を、文化上、人種上の相違について言われていだにあるというあらゆる面の「劣等性」を、いろい きているきまり文句を、わたしは客観的に調べてみた。ろの角度から探してみたが、見つけることができない すると、それらがとりあげていることは、全然根拠ののだ。善意の人たちでさえ一般にそれが真実だと思い ないものだということがわかった。二つの大きな論点こんでいる、黒人たちに奉られた、根深い誤った修辞 黒人の性道徳の欠如、知性の無力ーーは、偏見とはどれも、人が黒人のなかで生活してはじめてそれが 不道徳行為を正当化するために張られた煙幕なのだ。真赤な偽りだとわかるのである。もちろん、これには = = ー・ヨークとに公けにされた最近の科学やくざ分子は論外である。それはどこでも同じことだ 『八代目』 Q 的研究は、現代の中産階級の黒人が、現代白人のそれし、黒人にかぎらず、白人のあいだにもいることは明

5. 現代世界ノンフィクション全集24

いは、が収集した厖大な資料を考慮に入れるヴァ郡大陪審が、その内容を検討しないことにしてい ことさえしなかったのである。・ : ・ : 法廷で有罪が立たことであった。 わたしは新聞をスタ 1 リングに返した。怒りをふく 証されないかぎり無罪であるという原則も、ミシシ ッビー州では、これまで一度ならず、いとも簡単にんだ声で、かれは腕いつばいに新聞をひろげると読み 州における法と秩序を計画的 だした。「ミシシッ。ヒ 無視されてきた。被告が公正な裁判も受けられず、 リンチの暴徒によってミシシッ。ヒー監獄から拉致さに無視する態度は、まさにミシシッ。ヒ 1 州を、強い者 れ殺害されたという事実は、明らかに大陪審の考えだけしか生き残らない、脅迫、テロ、残虐行為の真の ジャングルにしてしまった。そのうえこのことは、世 方になんら影響をあたえなかったようである。無言 の処置は、暴徒の手に法をゆだねることを是認した界の人々の眼のまえに、合衆国の恥をさらすことにな ミンンツ。ヒ り、白人支配の暴徒の申しあわせが、あまりにもしば 州は、黒人に対する犯罪 にすぎない。 行為により告発された白人たちを処罰しないことで、しば、民主主義にとって代っているために、すでに不 これまでも有名であった。これは、黒人を民主的方自然で緊迫した暴発しやすい人種関係を、身をもって 法で「幸福にし、満足させ」、そして黒人を、アメ体験している南部の恥を、このうえさらに加える結果 リカ市民としてその権利を尊重しながら、いかに大こよっこ かれは新聞をおろした。「ばかにしてるぜ。こいっ 事にしているかを、世界に示しているミシシッ。ヒ 1 らは、国を挙けて南部の白人に反対しているとわめい 州独特の方法である。 こいつらがなにをし てるーーー糞くらえだ、いったい いちばんこたえた点は、がリンチを加えた連てくれるというんだ ? そうだ、これが証明してる 、。、ール・リじゃねえか。おれたちが白人の正義から期待できるも 中を確認した証拠書類を提供したことと / 246

6. 現代世界ノンフィクション全集24

たの絨毯の感触に眼を見はったり、一つ一つの家具、 いう印象はぬきがたかった。わたしは数人の人たちと 電燈、電話の陳腐な奇蹟をあらためて見直したり、タ話をしたーーあちこちでとりとめのない話を。その人 イル張りのシャワーのところへいって体を洗ったりしたちは、黒人を知っている、自分たちはもう長いあいだ、 てみたかった・ーーでなければ、また通りへでていって、黒人たちと話をしてきたのだと言った。かれらは、黒 居酒屋だろうと、映画館だろうと、レストランだろう人がずっとまえに、白人たちには本当のことではなく と、どこへでも自由に入ったら、堂々と白人たちとロて、白人たちがききたがっていることを話さなければ さと ビーで話をしたら、女たちを見つめてもかの女たちが いけないのだと覚っていることに、気づかないのだ。 しとやかにほほえみを返してくれたら、どんな気持がわたしはあいかわらずのことを耳にした、黒人ってえ するだろうか、こんなことがただもうやたらにやってのはつかまえどころがない。あわてちゃだめだ。南部 みたかった。 はなにも懐手をして、共産主義の北部なんかに南部を 牛耳らせるようなまねはしないさ。事情が「のみこ めーないよそ者なら、なおさらのことだ。わたしは一 十一月二十九日 応耳を傾けたものの、答えることはさし控えた。いま 今朝のモンゴメリーはさすがにこれまでとは違っては聞くときであって、話しあう時機ではない。だが、 昭見えた。人々の顔はほほえんでいたーー、善良な、温情これはむずかしいことだ。かれらの眼を見ても、真剣 にあふれたほほえみだ 0 人を惹きつけるようなほほえさがわかった。だからこう言ってやりたかった、「わ からんのか、あんたがたは人種主義者の毒舌をたたい のみではあるが、この人たちは、通りでゆきかう黒人た ちの立場をまったく知らないだけなのかーーーお互いのているのだということが ? 」と。 モンゴメリー かってわたしが嫌っていたこの町は、 あいだには知的に認めあう伝達手段さえないのか、と 9 2 3

7. 現代世界ノンフィクション全集24

したことが有名である。 日に及んでいるが、その間約六週間を、作者は自ら完全に黒 ディープ・サウス 人になりきって、最南部に潜入し、現地における人種間題 うちゃまっとむ 内山敏 の緊迫した空気を肌身に感じ、それをそのままっとめて客観 一九〇九年、福島県に生まれる。一九三二年、東京大学的に叙述している。本書は一九六一年に出版されると大きな 文学部を卒業。読売新聞、都新聞 ( のちに東京新聞 ) の反響を呼び、六一一年にはサタデー ・レヴュー誌の賞を受けた。 作者ジョン・、 / ワード・グリフィン ( 一九二〇ー ) は、テ 外報部記者をつとめ、一九六七年六月、三十余年の新聞 記者生活に終止符を打つ。著書『フランス現代史』、『ア キサス州ダラスに生まれ、高校・大学時代をフランスで過し ナトオル・フランス』、訳書『宅沢東の中国』、『世紀の た。二冊の異端的な小説『悪魔、屋上席に乗車』 (Devil Ri 大行進』、『中国の発見』、『誰がケネディを殺したか』、 des Outside, 1952 ) 、『ヌーニ』 (Nuni, 一 956 ) を公刊してか 『海運王オナシス』ほか。 ら、一部の批評家から異色作家として注目されるに至った。 本書のなかでもふれられているが、第二次大戦中、太平洋で 負傷、視力を失い、それが五七年奇蹟のように恢復した。この わたしのように黒く 危険な南部探訪を試みたのも、あきらかにこの視力の恢復 混血の白人が、白人と区別できないくらい白い皮膚をして が、かれに大きな転機をもたらしたからである。八年間の盲 いるために、そのまま白人社会へ逃避・同化してしまう現象人生活が、かれに他人とは違った視点を、ものの本質を「見 うろこ を、。ハシングというが、こうした例は実際にいくらもあり、 る」眼をあたえたのである、色を超越して。まるで眼から鱗 その記録も残っている。しかしその反対の場合、つまり白人が落ちる思いで、かれは黒人と白人との相違がたんに皮膚の が黒人になるという例は、ニグロ・ミンストレルズの場合な色の相違でしかないことを悟るのである。この盲目からの驚 らともかく、絶対に考えられさえしないことだった。この日 くべき恢復の物語は、のちに『散りちりの影』 (Scattered 記がルポルタージ = として異彩を放っているのは、まさにそ Shadows,1963) となって、ホートン・ミフリン書店から刊 の虚を衝いた点だろう。 行されたはずだが、・ほくはまだ見ていない。また本書のほか 日記の日付は、一九五九年十月一一十八日から翌年八月十七 にも、かれの黒人問題への傾斜を示すものとして、共著では ( 内山敏 )

8. 現代世界ノンフィクション全集24

白人が本当のことを知りたいのなら、黒人になるよ 十月二十九日 りほかに、どんな道があるだろうか ? わたしたちは 南部のいたるところで肩をならべて生活しているが、 この二人種間の意志の疎通は、まったく途絶えてしま午後、旧友のジョージ・レヴィタンとこの計画を討 っていた。どちらもお互いに相手の人種の人たちがど議するために、フォ 1 ト・ワースへ車を走らせた。か んな生活をしているのか、本当は知ってはいなかった。れは、『ルック』誌と同じ版型の、世界じゅうに発行 南部の黒人は、白人に本当のことを話そうとはしない。されている黒人の雑誌『セ。ヒア』の経営者である。大 黒人は、白人を不愉快にするような真実を話せば、白柄な中年の男で、どんな人種の人々にも、その能力と 人が黒人に惨めな生活を味わせるということを、とう未来への有望性に応じて仕事を選ばせて、平等に仕事 の機会をあたえてやっていることに、わたしはずっと のむかしに知っていた。 わたしたちのあいだのこの溝を埋めることができる以前からかれに尊敬の念を抱いていた。就職への訓練 計画をたてて、かれは『セ。ヒア』をモデル誌にし、編 と思える唯一の方法は、黒人になることだけだった。 集、印刷して、百万ドルのフォ 1 ト・ワース工場から わたしは黒人になってやろうと決心した。 わたしは、にわかに、神秘的なそっとする様相を帯売りさばいた。 びた生活に踏み入る準備をした。黒人になろうといざ美しい秋の一日だった。かれの家へと車を走らせ、 決心してみると、わたしは自分で人種問題の専門家と昼すぎに到着した。戸口はいつも開いていたので、そ 自認していたのに、黒人の真の間題についてはまったのまま入りこみ、かれに声をかけた。 くなに一つ知っていないことに気づいたのだ。 気持のやさしいかれは、わたしを抱きかかえて迎え ると、コーヒ 1 をだし席をすすめた。かれの小部屋の 200

9. 現代世界ノンフィクション全集24

た。ほかにはなんとも言いようがないかのようだった。な結果になった責任をいくらかでも負っている白人た 0 テープから流れるジャズが、はらわたを引っぱるよちに対して、閃光のような、盲目的な憎悪が。「なぜ うなすさまじいリズムをあげて、通りに鳴り響いてい かれらはこんなことをするのだ ? なぜわたしたちを た。歩くたびに床板がきしんだ。電灯をつけると、・折こんなふうにしておくのだ ? なにをねらっているの れ釘で壁にとめられた割れた鏡のかけらをのそきこんナ ・こ ? どんな悪魔に魅入られたのだ ? 」 ( 黒人たちは だ。坊主頭の黒人が、鏡のまだらになった輝きのなか「どんな病気にとりつかれたのだ ? 」と言う ) と訝し から、わたしをじっと見返していた。自分が地獄にい く思うあいかわらずの当惑が。わたしの反動は悲しみ るのだと覚った。地獄でもこれほど寂しく絶望的なこ にかわった、自分が属する人種の人たちが憎悪の眼差 ともあるまい、秩序と調和の世界からこれほど隔絶さしを投げ、人々の心をしぼませ、家畜にさえ平気であ れて苦悶することもないだろう。 たえている権利を人間から剥奪するとは。 わたしは、自分の声が、あたかもだれか他人の声の わたしは鏡から顔をそむけた。焼け切れた電球が床 ように、孤立したがらんとした部屋のなかに響いてい板の隅にころがっていた。その透明なガラスが、天井 るのを耳にした。「黒ん・ほよ、そんなところに立って、 の電灯を一点の輝きにして、映しだしていた。そのま なにがほしくて泣いているのだ ? 」と。 わりに、フィルムのネガが六枚、落葉のようにまるま 黄色い光に照らされて、頬にったわる涙が見えた。 っていた。わたしはそれをとりあげ、異常な興奮に駆 それから、自分にむかって言った、黒人たちがいくられて、電灯にかざしてみた。まえにいただれかこの どとなく言うのをきいたことのあるあの言葉を。「そ部屋の主が、なにを写真にとったか、見たくてたまら れは公平じゃない。どうみても公平じゃない。」 なかったのだ。 やがて奔流のように急激な反動が襲ってきた。こん どのネガも、なにも写っていなかった。 いぶか

10. 現代世界ノンフィクション全集24

いのだ。 かに消えてしまったからだ。家に帰っても妻や子供た ちは、わたしがわからないだろう。かれらは戸口を開 どんなふうにはじめたものか ? そとには夜が待っ いて、。ほかんとわたしを見つめるだろう。子供たちは、ていた。疑問が山積していた。わたしの立場のこの奇 この大きなくりくり坊主の黒人はだれなのか知りたが妙さが、あらためて感じられた , ー・・ーわたしは真夜中に、 るだろう。友だちのところへでかけていっても、その年寄りのまま、この世に誕生した男だった。こんな男 眼を見れば、きっとわたしに全然気づいていないこと はどう行動したらいいのだ ? 食糧を求め、水を求め、 がわかるにきまっている。 ねぐらを求めに、どこへいったらいいのだ ? けいれん わたしは存在の神秘にあらぬ手出しをして、自分の 電話が鳴った。神経がびりびり痙攣するような気が 存在感を喪失してしまった。この喪失感がわたしの気した。電話にでて、主人は今晩でかけていますと相手 持を踏みにじったのだ。かってグリフィンと言われたに伝えた。電話の相手は自分が黒人と話しているのも 男は、すでに消えてしまっていた。 知らないのだ、とひそかに気づいて、また奇妙な気が いちばん悪いことは、この新しい男になんの親しみした。階下で、古い時計の静かなチャイムの音がきこ も感じられないことだった。こいつの姿・形がどうもえた。数は数えなかったが、真夜中であることはわか 気にくわなかった。おそらくこれは、最初の反動からった。でかける時間だった。 黒起こったショックにすぎないだろうとわたしは思った。 犱だが賭けはなされたのだ。もうもとへ引返すわけには 少なからず他人を気にしながら、家から夜の闇へと のゆかなかった。ここ一「三週間は、この、年輩の丸坊でた。人っ子一人いなかった。街角まで歩いて街灯の 主の黒人でいなければならない。わたしの皮膚の色を、したに立ち、電車のくるのを待った。 わ わたしの肌を、敵視している国を歩かなければならな 足音がきこえた。ものかげから一人の白人が姿を現 2 ノ