イギリス人 - みる会図書館


検索対象: 現代世界ノンフィクション全集4
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1. 現代世界ノンフィクション全集4

コ国旗の下に、民主的選挙と、人種宗教の差別なしのツと手を結ぶことが戦術的には自明の筋であった、カ 自山平等という、かっての理念は、もはや地をはらっ イゼルは乗り気で手を差し伸べているし、彼こそトル てしまう。とっくに華々しさの失せてしまった統一進コ陸軍を立ち直らせ得る立場にいる。ところがドイツ 歩委員会は、今や容赦ない党機関としての正体を現わ人は好かれない。 コンスタンチノー。フルのアメリカ大 す。それは、廃位された悪王アブドルの考案した制度使館に在る特命公使ルイス・アインスタインが、トル と同しくらい無気味で、また一層仮借ない機関であっ コ人は外国人の中ではイギリス人を最も好いていると た。財政的には現政府は破産状態である。当然、強要述べているのは、多分当 0 ていたであろう。それも、 と賄賂という旧習に戻っていったわけで、アジア側に イギリス官僚どもはとかく、一日に五回もお祈りをし 帝国領として残 0 た地方には、これとい 0 た町にはす忠告を求めてイギリス人のところに来るようなトルコ べて統一委の出先機関があり、政治的なポストに就け人だけを、「善良な」トルコ人と見做す傾向があ「て るか否かはその支持如何にかか「ていた。首都 = ンスも、しかもなおこの評言は当 0 ていた。イギリスは金 タンチノープルから遠く離れた地方中心地、バグダッ がある、制海権を握っている、しかもフランス、ロシ ドやダマスクスなどの地方行政は驚くべき混状乱態でアを味方に持「ているのだ。もちろんロシアがこの協 あり、しかも首都の影響力は皆無に近いから、地方の商の中に入っていることはまずいことであ「た、何し 族長がいつでも立「て新しい独立国を宣一言する可能性ろロシアはトル「の宿敵である。しかしそれも青年ト があったのである。 ルコ党にとって、目をつぶって呑み込めぬ程のもので このような内外ともにお手上げの状態が、トルコをはなかった、もしもイギリスの方から温かく手を差し して国外に友邦を求めしめたのであり、それも結局、伸べさえしたならば。ところがそうではなかった。大 イギリスかドイツかという選択に煮つめられた。ドイ体イギリス人はこの若き革命家達の政府を、いっこう

2. 現代世界ノンフィクション全集4

た。フォン・ミュッケは丁重に耳を傾けたが、出航準 の手におさめておくことを怠らなかった。 それからフォン・ミュッケは局長に、食糧の貯えが備の手を止めなかった。このイギリス人のいうことを どれほどあるかたずねた。ファラント局長の返事では、聞き入れたところで、ほかにどうしようもなかったの 緊急事態になっても島にいるものが四カ月間食べるだ けのものはあるということだった。フォン・ミュッケ午後もおそくなって、『シドニ 1 』号が『エムデン』 は、気の毒たが二カ月分はいただいて行くといった。 号に接近したころには、『アイシャ』号の準備は完了 それからシンガポールの電信局の住所を書きとめ、二し、ドイツ水兵がそれそれカッタ 1 と小型蒸気船に分 カ月以内にはできるかぎり、ディレクション島のイギ乗して、万歳を三唱しながら岸壁を離れ、スクーナー リス人にひもじい思いをさせたことをその電信局に伝船に向かった。イギリス人たちも歓声をあげ、それか えるつもりだとファラントに約東した。 らばちばちと、別れて行く敵の写真をとりはしめた。 スクーナー船に補給物資を積み込むと、フォン・ ドイツ水兵は『アイシャ』号に乗り込むと、後甲板 ミュッケはイギリス人に解散の許可を与え、それそれに集合した。フォン・ミュッケが簡単な訓示を述べ、 島内の各地に引き揚げさせた。出航より前にイギリスそのあと一同が後檣にドイツの戦闘旗を掲げて、万歳 海艦がやってきたら、ドイツ人水兵は戦うつもりなので、を三唱した。小型蒸気船がスク 1 ナー船の船首につけ のそうなった場合にそなえて、イギリスの民間人はそれた綱をひき、水先案内船として礁湖を抜け出した。砂 膸ぞれ避難場所を見つけておくよう警告を受けた。 洲のそとに出ると、すでにタ闇がせまり、帆一ばいに 号 ン 。 ( , ートリッジ船長から、『アイシャ』号は外見ほど微風を受けた。『シドニー』号があくまで跡を追い ム頑丈ではないという忠告があった。船底が腐っているその夜ティレクション島の港内にはいってきたならば、 かもしれないので、調べたほうがよいということだっ 『エムデン』号の上陸隊員はつかまってしまったかも : 」 0

3. 現代世界ノンフィクション全集4

わけだ。 「こん畜生、ドイツ人め」というイギリス船の船長の 九月九日は一日中、捕獲船を従えてコロンポⅡカル声が、接近した軍艦のブリッジまで届いた。 ラウテルバッハは『ポントボロス』号に乗り込んで カッタ航路をめざして進んだ。十一日ごろその航路に いたので、フォン・レベンツオフ中尉を『インダス』 はいる予定で、それまではさらに獲物が見つかる見込 みはほとんどなかった。ところが九月十日の朝、見張号担当の捕獲班の指揮官として乗り込ませた。 台から水平線上に煙が見えるとの報告があり、『エム捕獲班はカッターに乗り移ると、イギリス船のデッ デン』号はほかの船から離れて調査に急行した。それキが見えなくなったし、艦長はほかの仕事に追われて は正しく獲物というべきイギリスの商船『・イン見ていなかった。しかし『エムデン』号の機関室の舷 窓から眺めていた乗組員の話によると、書類が焼かれ ダス』号だった。 て、海に捨てられたという。イギリス船の暗号帳や秘 『エムデン』号がイギリス商船の追跡を始めると、一 等士官のフォン・ミュッケは笑いながら艦長に不平を密指令書が焼き捨てられたのだ。予想したとおりだっ いった。彼にいわせれば、フォン・ミューラーが汚れた。 たギリシャ船を拿捕したのは、ドイツの面汚しだとい だが、獲物は獲物だった。これは三千四百トンの貨 う。こんど艦長がやらなければならないことは、石け客船で、イギリス政府がインド政府からチャーターし、 んを積んだ船を捕獲することだというのだ。フォン・ カルカッタからポンべイへ向かわせていたものだった。 ミューラ 1 は最善をつくすと約東した。 どうみても敵に間違いなかった。しかも、人馬をポン 『エムデン』号は、平然と航行をつづける『インダべイからヨーロッパ戦線へ運ぶというのがチャーター ス』号の射程距離に達すると、とっぜんドイツ国旗をの条件たったので、軍用船というわけだった。デッキ には白塗りの馬小屋が設けられていた。なによりも、 かかげ、相手の船首にむけて威嚇砲撃を行なった。 2

4. 現代世界ノンフィクション全集4

ラウテレバッ、 ノもいうことをきかないイギリス人船りつけると、乗組員は所持品もまとめられないとぶつ 2 長が不愉快になり、その顔をにらみつけた。そのときぶついいながら、移動を開始した。時間の余裕はなか 6 フォン・ミ = ーラー艦長から、船を沈めないで動かすったのだ。 上う指示があり、彼はとりあえずそれに応じた。とこ こうして『タイメリック』号はすいぶん手こすった , ろが、船長と機関長がロの端でぼそぼそ話し合ってい が、それはまた歓迎すべきニュースをもたらした。船 る言葉が二、三彼の耳にはいった。二人はエンジンに内を捜索する間に、ラウテ化 ( ッ ( は読みたいと思っ ・手を加えて『タイメリック』号の速度を落とし、『エていた新聞をみつけた。そのなかにはコロンポ発行の ムデン』号について行けないようにしようと策略をめもので、問題の艦砲射撃の当日のものもあった。それ ぐらしていた。夜明けまで立往生しておれば、『エム によって『エムデン』号の将校は、マドラス攻撃によ 、デン』号はこの地域から逃げ出さねばならなくなって、ってどれほどの損害を与え、どれほど恐怖をおこさせ イギリス船を手離すようになる。そうしなければ、 たかを知ることができた。 エムデン』号はイギリスの軍艦につかまるかもしれ陸地の設備を攻撃すればイギリス軍の士気を打ちく よい、というわけだった。 だくうえで効果があるとみたフォン・ミューラー艦長 ラウテルバッハがただちにこのことを『エムデン』 の判断は、正しかったわけで、しかも『エムデン』号 , 号に知らせ、『タイメリック』号を即刻撃沈する許可の将校には、非友好的な敵に対しても寛大になれるた ・を要請すると、フォン・ミ 1 ラーはためらわずこれけの余裕があった。『エムデン』号に抑留したタロッ に応じた。彼は拿捕担当将校の判断を信じていた。そク船長と機関長には、ほかの乗組員とは別に、時間っ こでイギリス船の船長と乗組員に、船を捨てるよう命ぶしにトランプ遊びをする便宜を与え、しかも将校の じた。『エムデン』号から爆破作業班がカッターで乗なかには、勝利に気分をよくして、彼らに親切に話し

5. 現代世界ノンフィクション全集4

海峡のペリム島に近いシェイク・サイドで、トルコ軍配色だった。これでは都合が悪いので、くすんだ茶一 とイギリス軍が交戦していると伝えられていた。彼は色に塗りかえられた。これでオランダ船に早変わりし 宜戦布告についてはなにも聞いていなかったが、これたが、イギリスは中立国の船にも目を光らせているので、 でトルコが参戦したことは明らかだった。ほかの新聞それだけでは不十分だった。フォン・ミュッケはミン をみると、十一月五日に宣戦布告され、それに続いてキエウィッツ船長の部屋で海運リストを調べているう トルコ艦が トルコ艦に変装したドイツ巡洋艦『ゲ 1 ちに、イタリアの『シェニール』号という千七百トン べン』号および『ブレスラウ』号とともに、ロシアの の船が、イギリス名義に書き替えられたことがわかっ 黒海沿岸を攻撃していた。それから九日後に、サルタ た。イタリアはまだ参戦をしぶっていた ( 一九一五年 ンが協商三国に聖戦を宣言したこともわかり、これで末になるまで ) ので、フォン・ミ = ッケはイタリア船 フォン・ミ = ッケには、アラビア半島へ行けば友好的ならイギリスも略奪することはなかろうと考え、『チ なアラブ人に会えるという希望ができた。そこで彼は、 ョイジンク』号をイタリア船に変装することにした。 数時間のうちに計画を作成した。『チョイジンク』号 『シェニール』号の大きさは『チョイジンク』号とま をアラビア半島に向け、『 = ムデン』号の別動隊はそったく同じなので、このロイド汽船の船尾に「『シ = こで上陸し、陸づたい冫 こトルコへ行ってふたたび皇帝ニール』、ジェノバ」と書き込んだ。これで、フォン・ のために戦うというわけだった。 ミュッケの考えでは、イギリス船が近くに来たさいに そこでフォン ・ミ = ッケ船長ははっきりした目的をは、『チョイジンク』号の中国人乗組員を目につくと もって、あらためて『チョイジンク』号を指揮した。 ころにおかなければ、万事うまくいくはずだった。 これはドイツのロイド汽船で、この航路の汽船はすべ て船体が黒、舷檣が白、上部構造が黄土色という一定の

6. 現代世界ノンフィクション全集4

、ミルトン中佐はラウテル フォン・ミューラー艦長と『エムデン』号の生存者 かなり手間どった。艦長の / は、『シドニー』号に乗せられてコロンボの方向へむ 。 ( ッ ( を『エムデン』号の将校として、捕えて艦内に っこ。その後の二日間に、戦闘で負った傷がもとで 移したあとも礼儀正しく、丁重に扱った。しかし結局、かナ ラウテルバッハは『エムデン』号の乗組員と同じく、 数人が死亡した。十一月十四日、負傷者は補助巡洋艦 シンガポールの収容所に送られた。そこにはすでに の『エン。フレス・オ・フ・ロシア』号に移された。この 『ポントボロス』号と『マルコマンニア』号の一部の軍艦には、臨時に病院船になるだけの余裕があった。 乗組員が移送されていた。ラウテルバッハには、脱走『シドニー』号と『エン。フレス・オ・フ・ロシア』号は、 しないという約東をすれば、シンガポールのホテルに十一月十五日にコロンボに到着した。その日の午後、 住まわせてやるという当局の誘いがあった。彼はそれ将校と身体壮健な乗組員はさまざまの船に乗せられた。 、ユーラ 1 艦長、ルーテル医師、フイケン を断り、のちに中立地帯のジャワに向けて脱走し、さフォン・ チャー中尉、殿下の四人は『オルビエト』号に乗せら らにアメリカへ行って、そこで新しい冒険を始めた。 れた。四人はそれそれ上甲板に自分の個室を当てがわ その後ドイツに向かって帰国の途につき、途中、ティ ルビッツ提督の配下にいたが、帰国して海軍本部にれたが、イギリス人将校の部屋がある部分からは鉄格 子で仕切られ、そこに番兵が立っていた。一日に二度、 海『エムデン』号の功績を報告した。それから事実上、 の襲撃船からなる「幽霊船団」を率いて出撃し、同じ型右舷のデッキを散歩することを許可され、食事は子供 最のイギリス船数隻を撃沈、イギリスの駆逐艦六隻に捕部屋を改造したところでとらされた。散歩にも食事に ンまったが小さなポートで脱出し、さらにドイツの襲撃もイギリスの将校が立ち会った。四人は護衛されてア ム船『メーウェ』号の指揮をとり、ドイツ海軍の反乱もデンに向かい、ついでス h ズへ、そして最後に古い友の であり古い敵であった巡洋艦『ハン。フシャ 1 』号に移 無事にくぐり抜けた。

7. 現代世界ノンフィクション全集4

も、まさか彼がまた海に乗り出すとは思わないだろう。 そういうわけでフォン・ 、ユッケは、今度も陸路を行 くという噂が広まるよう入念に仕組んた。彼は、包囲 されたときにキャラ・ハンから逃け出したトルコ人官吏 夫妻に、ここでまた会ったので、彼にも陸路を行くと いうふうに話した。 ジッダに到着すると、負傷者を清潔なトルコの陸軍 病院に運び、フォン・ミッケ大尉は部下とともに数それと同時に、彼はドイツ皇帝の名で新しい大型の 日のあいだ休養をとり、どうやれば最もうまく鉄道をザンブク船を買い、経験のある操舵手と乗組員を履っ すいぶんた。 利用できるかについて考えた。過去一週間、・ 彼はモーターポートを借りて、毎日港の周辺を乗り 冒険をやったが、まだ数マイルしか前進しておらず、 コンスタンチノー。フルからさらにベルリンに通する鉄回り、イギリスがどういう方法で海上封鎖を行なって いるかを調べた。四月八日の夜、負傷者は全員が退院 道までは、少しも近づいていないといってよかった。 キャラバンの旅は、それまででもう十分だった。ラし、ランク医師も、少なくとも船旅であれば全員が旅 海クダの数もへり、弾薬もとぼしくなっているので、な行できると保証したので、ザン・フク船に荷物を積み込 のかなか決心がっきかねたが、もともと海軍軍人のフォみ、海路についた。風は一晩中おたやかで、夜明けま 最ン・ミュッケは、もう一度海で運をためすほうが賢明でにはジッダの海岸からはるか先まで達し、砂洲をあ ン とにして海岸そいに北へ北へと向かった。 だと考えた。宿舎にあてられた建物の窓から、港の沖 ムをイギリスの駆逐艦や巡視艇が行ったり来たりする様船は途中の小さな町に何度も立ち寄り、体養をとる菊 子がよく見えたが、それでも海を選んた。イギリス側かたわら、海上のイギリス軍の動きについて情報を入 二十六あと一息

8. 現代世界ノンフィクション全集4

だ、『アイシャ』号というそのスクーナー船を指さし らない。ディレクション島へ二度と帰ってくることは て、あの船に乗ってみたいという軽い興味を示しただル ないだろう。 戦いの結果がどうあれ、フォン・、、こッケはやがてけだった。聞くところでは、その呼び名はマホメット イギリス艦が島にやってくるものと予測した。たとえ、の愛妻の名前をとったものだった。この船には弾薬や ほとんど見込みはないが、敵艦のほうが撃沈されたと大砲があるだろうか。外からでもそれを確かめようと、 しても、遅くとも二、三時間のうちには別の巡洋艦が彼は小型蒸気船でそのスクーナーのそばまで行き、は 現われるに違いなかった。イギリスが手をこまねいてたして海を乗り越えることのできる船かどうかを確か 破壊された電信局を放置し、また切断されたケしフルめた。 それには船長とほかに船員が一人乗っていた。フォ をそのままにしておくはすはない。上陸任務が成功し ていただけに、彼がいまに注目の的になることは間違ン・ミュッケはありふれたことをたずね、あちこちを よ、つこ 0 影 / 、カュ / 見回して、航海に耐えられる船だとみた。それから陸 フォン・ミュッケは二つの方法を考えたが、いずれに戻って、命令を出した。『アイシャ』号に乗って脱 も彼にしか思いっかないものだった。一つはとどまつ出するのだ。 て戦い、敵にできるだけ多くの損害を与え、それから『アイシャ』号のパートリッジ船長と、ココス諸島の 弾薬が尽きたとき、いさぎよく死ぬか降服するという 持ち主の息子工ドムンド・クラニ 1 ズ・ロスとその弟 ものだ。戦わずに降服することなど、彼には思いも寄コスモを船から降ろし、ほかのイギリス人捕虜といっ らなかった。もう一つは、波止場につけてある小さなしょにポートの置き場に連れ込み、小数の警備をつけ スクーナー船に乗り込んで脱出する方法だった。 た。この時点では、だれがだれの捕虜だかわからなか フォン・ミュッケは部下になにも話さなかった。た たが、フォン・ミュッケは武器をすべてドイツ人側

9. 現代世界ノンフィクション全集4

ハンガリー帝国とともに、三国同盟を結成していた。 すれば、『エムデン』号がインド洋にいることが世界 フォン・ミューラー艦長は二人の乗り込み将校を通しに知れ渡ることは、彼にはよくわかっていた。しかし、 て、イタリアはまた参戦していないことでもあるので、ほかによい方法は考えられなかった。『カビンガ』号 この同盟国に支授を頼んだ。イギリス船四隻の乗組員に積まれた補給物資は少なくなっていたし、彼として をカルカッタへ運んでもらえないかとたずねたわけでも、捕虜収容所ともいうべき船を連れて航海するわけ に ( いかなかった。余分の船のために彼の航海は船足 ある。つまり『カビンガ』号の船長の夫人を含めて、 が落ち、夜中に衝突しそうになるということもあって、 約二百人を運ぶことだった。 イタリア船の船長は断った。フランツ・ヨセフ殿下危険が伴いはじめた。『エムデン』号にどういう危険 はイタリア語を話せなかったし、イタリア人船長は英が生じたとしても、イギリス人捕虜は追い払わねばな 語を話せなかったので、フランス語で交渉した。だが、らないだろう。捕獲船の乗組員の監視を解き、監視員 殿下は計略に長じていなかった。 を『エムデン』号に引き揚げさせて、『カビンガ』号 夕方になって、また別のイタリア船に出くわしたが、を釈放した。だが、そのときしばらくその処置を遅ら こんどは国籍を明らかにせす、また乗り込み班を送らさねばならなくなった。『カビンガ』号の釈放の手筈 ず、フォン・ミューラーはその船に単なる挨拶をおく がととのったときに、カルカッタへ向かっていた空荷 っただけで、相手が国籍を明らかにすると、それにはのイギリスの四千トン石炭船『トラボック』号が捕え 言葉も返さないで、敵の追跡をくらますためにわざとられたのだ。そこで、この船の乗組員も捕虜収容船に 違った針路をとって遠のいた。 移してカルカッタへ向かわせ、捕えた石炭船はフォ ン・レベツオフ少尉の手で爆破された。 九月十四日、フォン・ミューラー艦長は『カビン ガ』号を捨てて、身辺を軽くすることを決めた。そう半時間もすると、見張台から左舷に明りが見えると 6

10. 現代世界ノンフィクション全集4

フォン・ミュッケはイギリス艦とのあいだに、まさに視し、イギリス艦から逃げようとする気配をまったく 2 そのような関係をつくり出すことができた。彼はいま見せないで、もっともらしい信号を揚げたままにして や、ぼろぼろの、つぎ当てだらけの帆を張った古いスおいた。相手の艦長の反応は想像に難くなかった。彼 ク 1 ナー船をあやつる、みすぼらしい、ばかな島の船は馬鹿か気違いを相手に信号を送っているのだと思い 乗りとみられるにいたった とうとう『アイシャ』号に愛想をつかしてしまった。 しかし、イギリス艦の疑念は、それですっかり晴れイギリス艦は向き変えて、威厳を誇示するように立ち たわけではなかった。その大きな船からまたやっかい去った。 オ尸しカカかってきた。 この事件から数日後の十二月十四日、『アイシャ』 「そちらはどこの船か」 号は『チョイジンク』号を求めてその付近を航行して いたところ、ついにその日の雨と濃い霧をつらぬいて、 フォン・ミュッケはこれに対して、自分の役どころ にふさわしい対応の仕方を心得ていた。手もとにあつ前方にその船を発見した。『アイシャ』号はそれをさ た信号旗を四枚とりあげ、それをでたらめに組み合わがして、数日のあいだ東西に行ったり来たりしていた せて意味のわからない信号にし、その半分が帆布にかのだった。ちょうど西に向かっていたときに、東に向 かっている相手の船を発見したわけだが、見たところ くれるようにマストにつるした。 イギリス艦のほうでは、しばらくそれを眺めていたそれは、港から港へ向かうこと以外の任務を帯びてい が、その奇妙な返事にとまどった様子だった。やがてる様子だった。インド洋のなかでもこの海域では、東 「そちらの信号は見届けたが、意味がわからない」とへ行っても西へ行っても港はなかったからだ。その船 を発見した瞬間から、フォン・ミュッケは味方だと思 いう信号を送ってきた。 フォン・ミュッケ船長はにこにこしながらそれを無った。問題はもう注意して確めることではなく、相手