歩い - みる会図書館


検索対象: 現代世界ノンフィクション全集7
358件見つかりました。

1. 現代世界ノンフィクション全集7

すつもりで、そこへ行ったのだが、耕作できる土地は葉むらを渡る風のしらべは、たぎりおちる滝のように、 6 すでに全部占領されているのを知って、荷物をまとめまた遠い国からのあいさつのように聞えた。しかし、 8 て、黄河の屈曲点にあるもとのすまいへ帰ってゆくとその瞬間は東の間にすぎて、ふたたび焼けつくような ころであった。一人の小さな少年が列の先頭を歩いて太陽が一行をてらしていた。 わか いた。女たちは、・ほろをまとい、よごれ、貧しそうに、 道は谷をはなれ、左へまがって、その岐れ谷に入り、 腕に赤子をだいて、荷物の上にすわっていた。男たち峠にのぼった。その峠の入口から、涸れ谷が平原へと ~ 歩いていた。三つの銅の鐘が、とむらいの鐘のようつづいていた。それはまことの死の谷であった。ここ に鳴っていた。 に、一カ所に十頭のラクダの骸骨が横たわっていた。 一日一日と、一行は西に向って進んだ。しかもつね 月の表面といえども、ここ、この土地のように荒涼 としていることはあるまい。不毛で、乾ききって、ごに果しない砂漠の中心にいた。そこにはほとんど植物 くまれにいじけた植物の株があるばかり。キャンプ二も生えず、その日その日の水もなく、生けるものの姿 十九号の近くの泉は、、 力なりの水量であったが、牧草はない。ただ一度だけ、一匹のトカゲが走りすぎた。 は大へん乏しい。 キャン。フは、シャラ・ホルスン ( 黄色の葦 ) という泉 のそばに設けられた。この小さな土地のくぼみは、石 九月七日、道は、低いが傾斜の急な二つの丘の間に づみがその位置を示していなかったら、みつけるのに ある谷をとおっていった。ふたたび堂々たるノニレの 大木が見られるようになった。道はちょうどその木の苦労するだろう。この石の。ヒラミッドの上には、ラク 一本の下をとおり、ひとびとは一瞬のあいだ、その梢ダの頭蓋骨がのせてある。口をあんぐりあいて、中に の葉ずれの音をきき、その葉の厚い天蓋の蔭をたのし石をくわえている。その様子は、おそろしく、皮肉め むことができた。これはすばらしい気晴らしであった。 いて、憎々しげで、残忍であった。それは、希望なき

2. 現代世界ノンフィクション全集7

安心感をあたえた。しかし、深さは増してきた。波頭には水がいつばいになって、浮いているだけがせいい が丸木舟の中を洗うようになったときは、水深は二メ つばいであっただろう。そうなれば、人の手足がきか昭 ートルをこえていた。これは目ざましいことになった。 なくなるまでに、冷い水の中で、どれくらいのあいだ、 わたくしは両側の丸木舟の中に足を入れていたが、す舟べりにしがみついていることができるかの間題であ っこ 0 でに水づかりであった。その水は、湖の水の動くのに つれて、前後にびちゃびちゃとしぶきをあげた。わた しかし、すべてうまく行った。深さは減りはしめ、 ぎようてん くしはふと足元を見て仰天した。丸木舟はすでに三分まもなく一メートルたらずになった。もう、必要なと の一が水びたしになっている。このよけいな重荷のたきには歩いて陸までゆける。ただ難しいのは、岸から めに、舟はいっそう重くなり、波がいっそう舟ばたをどれくらい離れているかを判断することであった。こ 越えやすくなっているのだ。 こから東を向いたように、岸が全く平らだと、湖は非 わたくしは、鉄のひしやくをつかんで、けんめいに 常に大きく見える。安全を期して、方向を変えて真東 汲みだした。一方ハスルンドは、、、・ 力して最悪の波頭をにとった。これで風を真後ろにうけ、たやすく岸につ たたいて、その打撃の力をそごうと、必死であった。 けるだろう。 ときどき、水の汲み出しは望みがないような気がした。 湖の南岸と東南岸では、草のついた砂丘、植物の生 丸木舟から汲み出すのより、入ってくる方が速いのでえた丘があった。黒いところは、タマリスクかポプラ はないかという疑問にとらえられた。しかもその間 にちがいなかった。北岸は、遠くから見るかぎり、完 じゅう、わたくしは方位角を測り、測深を行ない、そ然に不毛であった。岸からすこし向うに、傾斜の急な の他の観察をすることを忘れるわけにはゆかない。風黄色い粘土の台地があって、古代の湖のひろがりを示 がもう少しでも強かったら、お手上げだった。ポートしていた。西の方へは、ソホ・ノ 1 ルは無限の距離に

3. 現代世界ノンフィクション全集7

イシャに来てもいいと言って、後で野営したとき、彼 彼は部族随一の射手で、ムサリム同様にすばらしい にわたしの余分なライフル銃を一つ、ムカラーに着く いっしょにつれていけば、われわれの ンターだから、 行く先にはアイベクス ( 野生山羊 ) やガゼルがたくさまで使うようにと与えた。翌朝、彼は夜明けとともに アイベクス狩りに出かけ、夕刻、彼の射とめた大きな んいるから、毎日肉が食べられるというのであった。 さらに加えて、「彼は・ほくの友達です。 ' ほくのためにオスを肩にかついで帰ってきた。ペドウインのすばら たまたまその 彼を加えてください。・ほくら二人はあなたの行くとこしいハンターに会ったのは少ないが うちの一人は、優秀な射手に必要な熱意をもっていた ろならどこへもついていきます。ぼくらはいつもあな ビン・ガバイシャはそのまれなる一人であり、ム たの下僕です」というのだった。わたしはビン・ガバ サリム・ビン・タフルもそうであった。 夕食後、ビン・カビナは自分の駱駝をつれてくると いって、わたしのそばから立ち上がっていった。突然 誰かが、「ビン・カビナが倒れた」と叫んだ。見ると、 彼は砂の上に横たわっていた。そのそばに行ってみる みやくはく と、彼の意識はなかった。彼の脈搏は弱まり、体は冷 えていて、ぜいぜい息をしていた。わたしは彼を火の ところにつれてきて、毛布を重ねて彼をあたためた。 それから、・フランデーを口につごうとしたが、彼はの みこめなかった。徐々に彼の息は平静になり、体もぬ四 くもってはきたが、いまだ意識は回復しなかった。彼 い華 コーヒーを入れるビン・ガバイシャ

4. 現代世界ノンフィクション全集7

をやりなおしておいたのがよかったのだ。一日中、朝えている森を横ぎっていった。ときどき、インド人が から晩までわたしたちは歩いた。それなのにどうも同現われると、わたしたちは幹の背後に身をかくした。 じ場所を堂々めぐりしているらしい。予想に反し、そ脱走後十二日にして、わたしたちは突然ガンジス河 けいけん 。いかに敬虔なイ してまた、山稜を一つ越えたのに、わたしたちは相変に抜け出た。この聖なる河の眺めよ、 わらずドシャンナ流域にくすぶっていて、あらかじめンド人たちにも、わたしたちほどに強烈な印象を与え はしなかったろう。今後は巡礼路をたどるのだ。この 立てておいた時間表より二日おくれている始末だ。 道は再び急になってきて、しやくなげの森が現われことから考えると、これからは辛い道を歩かないです た。やっと、これで、めんどうな連中にぶつからずにむのじゃないだろうか。それでわたしたちとしては無 休めるわけだ。とんでもないおかどちがい ! 休もう駄な危険はすべて避けることにした。正しい路にでて いるからには、もつばら夜だけ歩くことにしよう。 と一息ついたところで牛番に立ちのきを強制された。 次の二晩は、住民のまばらな地方を通過した。その食料も使い果たし、気の毒なマルケーゼは人間とい のど がいこっ 理由は間もなくわかった。水が不足しているのだ。喉うよりも骸骨がよたよた歩いているみたいだ。だが、 が乾いてたまらないところで小さな沼をみつけたのでヘこたれまいと頑張って、最後の意志の力をふりし・ほ っている。わたしの方は比較的調子もよいし、新しい その水がどんなかを確かめもせずにがぶがぶ飲んだ。 苦労も突破できると感じている。食料を入手する唯一 朝になってみると、眼から星がとびでるように痛い。 の望みは、巡礼路に沿って並んでいる店だ。そこでは この沼は暑さが猛烈な時に水牛がこの中にころがりこ 、むところなのだ。水は牛の尿でよごれている。そっと茶や食料を売っている。入り口の燈火でそれとわかる おうと っ店のいくつかは、夜おそくまで開いている。そこで、 して嘔吐をもよおし、落ち着くまでに何時間もかか た。わたしたちは三日三晩、松柏科の木がまばらに生変装を確めてから、店の一つにのこのこ歩いて行った。 つら 222

5. 現代世界ノンフィクション全集7

ほ誰だとたずねると、彼は、「知らないのですか。あ気づいていたのであるが、一人の少年をつれていた。 8 れは『猫』のピン・ド、ウアイランです」と答えた。わ二人は同じ年ぐらいであった。この少年は長い青い布 を腰のまわりにまとい、ふさのついた片端を右肩の上 たしはあらためて彼を興味ぶかく眺めた。なぜなら、 ・ヒン・ドウアイランは南部アラビアで最も勇名をはせに投げ上げていた。黒い髪は彼の肩にたてがみのよう た掠奪者であったから。八カ月後、砂漠を戦いに巻きに流れていた。彼の顔には古典的な美しさがあり、じっ こんだ最もすさまじいイエメン国境での戦いで、彼はとしているともの悲しそうであるが、につこり笑うと、 自分の殺した男たちにかこまれてみずからも命を絶っ池の面にさっと日の光が射し込んだように、明るく輝 のである。わたしには聞きとれなかったが、ビン・アくのである。ハドリアヌス皇帝がフリジアの森で最初 ル・カマムが何か冗談をいって、皆が笑った。すると、に会ったときのアンティノウス ( 知少死後、皇帝によ。 て神殿が建てられ、アン ) もかくあったにちがいないと、わ いままでだまって、じっとすわっていたビン・カルト ティノエ市が建設された たしは思ったものである。その少年の動きには巧まぬ が、太く低い声でいった、「ビン・アル、・カマムをダ ( ム族にやって、ラ 1 シド族の駱駝を返すよう要求さ優雅があり、子供のときから頭に壺をのせて歩いてい せよう。もしやつらが渡せば、ラ 1 シド族は休戦を守る女のような歩き方であった。知らぬ人なら、このし る。もし返さなければ、ウムバラクをムカラ 1 につれなやかな体ではきびしい砂漠の生活に耐えられないと ていった後で、攻撃隊を結成して、やつらに掠奪をし思うであろうが、少女のようなペドウインの少年が見 かけによらずどんなに忍耐強いかをわたしはよく知っ かける。」ラ 1 シド族に関するかぎり、これで決った ようであった。 ていた。彼はその名をサリム・ビン・ガバイシャだと 翌日、われわれはキスミム峠をこえて、アイウンの告げた。そして彼もいっしょにつれていくようわたし 池のほとりで野営した℃ビン・カビナは、前の夜にもに頼むのであった。ビン・カビナもしきりにすすめて、

6. 現代世界ノンフィクション全集7

「よろしい。ラクダはおいて行こう。あいつらが匪賊ものは何もなかった。かれらは、小さい火をおこし、 だったら、ラクダを盗むだろうが、もしほんとうの兵それからまたごりおしの前進をつづけた。 隊なら、それを返してくれるだろう。」 十二月十二日には、かれらは終日終夜さまよいつづ ・ハンチェはひとかたまりの脂肪をもっていた。食糧けた。夜あけになって、水の流れる音がきこえた。っ はそれだけだった。かれらは、草を食っているラクダ いに小川があった ! その岸でかれらはたき火をした。 たちを後にのこして、歩きだした。まもなく山の中のもえかすの上に砂をかぶせて、暖いべッドをつくり、 谷間に入った。軟い砂地では、バンチェは足あとを消寝た。 すためにも毛皮をひきずって歩いた。かれはまもなく 二時間たって、バンチェは主人をおこしていった。 疲れたけれど、また、足跡を野生ロ。ハに似せるために、 「今日は天国ですぜ。」 爪先で歩かねばならぬといった。 「どういう意味だい ? 」 かれらはその夜の半ばを歩きつづけ、つかれて休ん 「ニワトリの鳴くのが聞えます。」 だ。しかし、追手に在りかをさとられまいと思って、 かれらは即刻出発し、一人の漢人が住む一軒屋に着 火はたかなかった。あいつらがきたらどうしよう ? いた。ここで、二人はたらふく食ってお茶をのみ、 かれらは考えた。しかしだれもこなかった。翌日は、麦粉と肉と、ロバを一びき買った。午後になってから、 かれらは四時まで歩いた。くたくたに疲れて休んだ。 かれらはハミへの大道を旅行しつづけた。 記 ハンチェのもっていた脂肪もなくなった。泉のところ 一時間進んだのち、かれらは馬にのった二人のモン 漠で、氷の張った水をみつけた。それからさらに進み、 ゴル人の兵隊に会った。かれらは二人にたくさんの質 ビその夜は十一時から一時まで寝たが、寒さで眼をさま問 をあびせかけ、それから馬をとばして走り去った。 5 した。つぎの日は、良い飲み水をみつけたが、食べる十分後、騎兵の一隊があらわれ、その指揮者があらた

7. 現代世界ノンフィクション全集7

あたりがすっかり闇につつまれる前にのこのこ出かけた踏みあとをみつけるのがせいぜいだった。マルケー 0 ていった。このことはすぐに後悔しなければならなくゼはこのため疲れてしまったので、彼を元気づけるた かゆ なった ! とある山路を曲がると、稲を移植しているめに粥をこしらえた。しかし食べるように強制しなく 一団の百姓に面を突き合わせてしまったのだ。肌を脱てはならない。わたしたちのいる場所は野営地として いで、彼らは泥だらけで水の中を歩いていたが、わたも実に不向きなところだ。大きな蟻がわたしたちと場 したちを見てたまげた様子だ。彼らは山の高い所にあ所の取りつこをしようとしている。蟻に刺されると実 る村を指している。多分ほかに出口はないという意味に痛いので、疲れているのに眠れない。 なのだろう。わたしたちは彼らのいいなりになって、 夜になると、仲間は元気を回復したようだ。彼は元 教えられた方へ歩いて行った。何キロも登ったり、下来ががっちりした体格なのだから、最後まで頑張って ったりするのをくりかえして、ついにドシャンナの渓くれるだろうとわたしは期待している。今朝よりはず 谷に抜け出た。 っと楽観的になって、この調子なら今夜も歩けそうな 三十分ほど前から、夜の幕は下りていた。わたした気分になっているが、彼は残念なことに、真夜中にな ちの予想していた。フランでは、この川に沿って進んでると、カがぬけてしまった。楽にしてやるため、わた から、その支流のアグラ 1 ルをさかのぼり、分水嶺にしの袋のほかに彼の分もかつぐ。荷物は注意して原地 出ようというのだった。かくしてヒマラヤの山中に源人のものと同じようなものにしておいた。ふつうのル を発しているガンジスの渓谷に達することができるわックザックでもかついでいようものなら、たちどころ けだ。 に目印になってしまったろう ! 今まで、わたしたちは大小の川に沿うて歩いてきた わたしたちは二晩つづけてアグラールの流れをさか が、道のついていることは稀だった。時に漁師がつけのぼり、流れに沿った山路がジャングルやがけ崩れの

8. 現代世界ノンフィクション全集7

めやしの実を食べ、数滴のコーヒーを飲み、太陽が昇 かが、いつなんどき彼らを襲って貧窮におとしいれ、 ると、また出発した。 あるいは、その生命までも奪ってしまうかわからない ときに、彼らにとって、明日の備えをするのは不可能その日も寒く、灰色に曇った日だったが、風はなか なのである。彼らはカの及ぶ限りをつくす。また、彼った。最初の一、二時間は徒歩で行き、やがて、駱駝 らほどに自己を頼む民族もいない。しかし、事がまずに乗りたくなると、駱駝の首を下げて、それに足をか くいった場合、彼らは、自分の運命を、神の意志としける。すると、身体が持ち上がり、鞍のいちばん近い て、いっさいの痛恨を見せずに悠然として受け入れるところにとどく。ム ( ンマッドがたいてい一番最初に 乗り、わたしが最後であった。長時間歩けば、それだ のである。 わたしたちは、小石の平原を渡「ていった。この平け乗る時間が少なくてすむ。他の連中はまたが 0 たり、 原はいつの間にかウル 1 ク・アル・ザザの砂漠の中へ鞍に膝を折ってすわったりして、姿勢を変えていたが、 と消えていく。昼ごろには北東の風が吹き寄せて、身わたしはまたがる乗り方しかできないので、時間がた を切られるように寒かったが、この風はわれわれの足っと、徐々に、鞍の端が腿に食いこんでくるのである。 跡をかき消し、追跡から守ってくれるので、ありがた次の二日間は、堅く平坦な、とび色にくすんだ砂の かった。牧草地を見つけようと、むなしい希望を抱き上を渡っていったが、相変らず牧草地は見えず、夕方 ながら、夜まで行進を続け、夜には、手さぐりで、薪まで止まることなく行進を続けた。二日目に、ちょう のを拾い集めた。ここでは、暗くなってから火をたくこど荷物を解き終ったとき、オスのオリックスがわたし バとは危険であるが、あまりにも寒く空腹で、用心もしたちの方に向かって真直に歩いてくるのを見た。オリ ックスの方からは、ちょうどわたしたちが逆光になっ 3 ドていられなかった。小さな窪みを見つけ、火を起こし、 ほっとして火のまわりにすわった。夜明けには、なっているので、仲間と間違えたのであろう。アラビアの

9. 現代世界ノンフィクション全集7

るだろう。しかしわたしは、例年、偵察隊が疲れはて ・ハイト・イマ 1 ニ族はマハシンのことや彼の身にふ てこの泉のところにもどり、どす黒くなった血のにじりかかった災難のことを語り、とめどなく質問した。 む唇から、ちょうどわたしがガニムからここへくる途そのうちフアテイムが駱駝番をしている息子に、四歳 中で目撃したような砂漠の荒涼ぶり、不毛ぶりを報告の黄色いやっと、まだ乳の出る年とった灰色のやつを するさまを想像した。そうなれば枯草一本だになくな連れてこいと大声でいいつけた。少年がその二頭を連 って、人も動物も歩く骸骨と化してついには行き倒れ、れてくると、フアテイムは少年にいいつけてその駱駝 死んでゆく。今夜でさえ、万事うまくいっていると思をうずくまらせ、われわれのオス駱駝の前脚を縛って いながらこの男たちは冷たい砂の上に薄っぺらい腰布あった縄をほどいた。オス駱駝はもう昻奮して、自分 一枚かけて裸で眠るのだろう。わたしはまた、焦熱地のからだを尻尾で叩き、歯を磨りあわせ、大きな。ヒン かもせん 獄のような夏の、塩からい鹹泉のことを思った。そんク色の気嚢を口から吐きだしたりまた吸いこんだりし なときには一時間ごとに、彼らは咽喉が渇いて群がりてり泣くような音をたてた。そしてそいつが、さか 集まる駱駝に水をやり、ついには泉が涸れてしまってりのついた滑稽な格好をして、黄色い駱駝にぶざまに も駱駝たちはそこにない水をしつこくせがんで鳴くのまたがると、フアテイムがそのわきに膝をついて、そ だ。こういう退屈な土地でのペドウインの生活はどんれに手を貸してやった。ビン・カビナはわたしに「駱 なにつらいことだろう、彼らの精神はなんと優雅で忍駝ってやつは人から手を借りなきややれないときてい 耐づよいことだろう。いまこうして彼らのおしゃべりる。うまくいれられないんですね」といった。わたし をきき、彼らが本能的にみせるちょっとした親切行為はこの二頭にだけかけてやればいいのでほっとした。 を見まもりながら、それとくらべて残念ながらわたし一ダースも連れてこられたら、こちらのオス駱駝が参 ってしまったことだろう。 にはできない、わたしは利己的なのだと思うのだった。

10. 現代世界ノンフィクション全集7

のなかにわれわれがどんなに危険にさらされているかであろうと、草が一本でも生えていれば必ずだれかが を自覚していない者がいることを示していた。夕方、駱駝を降りてそこまでよじの・ほり、それをと「てきた。 わたしは彼らにダファラが ( ウル・ビン・アタリット彼らはたとえどんなに長い退屈な旅のときでもつねに からサラ 1 ラーまでの二倍は遠いことを警告した。スそうした。われわれがキャン。フしたところは、砂丘が ルタンは浮かぬ顔で「それじやわしらも駱駝も生きて白い石膏の粉の平原上に隆起している巨大な鯨の背の ダファラは見れませんや」といった。 ような高台であった。この不毛な風景にはおよそ温み あくる日の午後、高い砂丘の側面にわずかながらひはなかった。まさに荒涼として陰気で妙に極地めいた からびた牧草地を見つけ、二時間ほど駱駝に食べさせ様相だ 0 た。わたしは夜中に二度も目を覚まし、その てふたたび暗くなるまで歩きつづけた。昼のあいだ仲 たびに焚き火のうえにかがみこんでいるスルタンを見 間のアラブ人たちは見つけしだい草を取「てきて歩きた。翌日も十時間ぶ「つづけに休まず進みつづけた。 めい ~ し ながら駱駝に食べさせた。砂丘のどんなに高いところこの冥界のような砂丘のどこにも休止する場所がなか ったからである。そのうちバイト・ムサン族の通行路 を見つけ、それをたどっていった。夕方ころ、少しば かり草のあるところを見つけた。 陽が昇るとやがてふたたび出発した。スルタンがむ つつりして話をしたがらないので、わたしはアル・ア 纛カ ぎよ ト ウフと並んで進んだ。彼は御しにくい、まだよく馴ら イ されていない駱駝をやすやすと乗りこなしていたが、 駱駝のいらいらした動きを無意識のうちに感じとって 3 イ 1