モリモ - みる会図書館


検索対象: 現代世界ノンフィクション全集9
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1. 現代世界ノンフィクション全集9

儀式的な要素がまったくないので、いったいなにを祭 ろうとするものなのか判断に苦しむ。 毎日、正午ごろになると若者が二人、野営地中の小 心にせまる哀愁 屋をまわって、食物か薪の寄進を受ける。つまり、モ リモは皆のものであるから、全員が例外なく寄進する その夜、それから行なわれたことは、その後二カ月 のである。そしてタ闇せまれば、女子供は夕飯も早々 間毎夜ひきつづいて行なわれることになった。毎夜っ らけて行なうことこそ、モリモ祭では重要なのである。にして小屋の中にひきあげる。モリモは男の行事であ るからだ。女子供が引き下がると、男たちはクマモリ モリモの祭りを儀式と呼ぶとしても、儀式の中心はニ モ モリモの中心部ーー・を囲んでモリモの火をじっ グロ族の儀式のように形式ではない。モリモのラッパ も、それ自体では神聖犯すべからざる物などとはみなと見つめる。近くには食物をいつばい入れた籠が置い されていない。理由はともあれ、重要なのはそのラッてある。が、歌うほうが先である。歌こそ、彼らが言 うように、モリモの第一の行事であるからだ。 。 ( が出す音なのである。また、もうひとっ明白なのは、 あくまで外界とは遮断して祭りを行ないたい気持ちの最初の夜、私は夕飯をすますと、すぐクマモリモへ 強いことだ。その夜、男たちが集まるまえに、野営地おもむいた。すでに男たちはかなり集まっていた。が、 から部落に通ずる道は完全に遮断された。木の枝や丸歌い手であるアマポスがきていなかった。彼がきてい ないわけは、数分後歌が始まって、それに応えるよう 太で通せん坊をし、俗界との交通は完全に断たれてい に森の奥からモリモの音が聞えてきた時になって、私 ビグミ 1 のモリモは、いわゆる儀式とも、また魔法にもやっとわかった。 ノカ金属性の水道管であっても、そんなことは とも無縁である。事実、その動作にも言葉づかいにも のである。 こ 0 8 6

2. 現代世界ノンフィクション全集9

慰める相手のセフーが寝てしまったので、なにもことまで話すと、かたくなに口をつぐんでしまった。彼は さら、彼の小屋のそばまで行く必要はないと言うわけ両手を振りあげ、いまやっているモリモは空虚で、馬 だ。セフーの一家からは男が数人やってきたけれど、鹿げている、と語勢を強めていったに過ぎなかった。 セフー自身はこなかった。歌は約四時間つづいたが、 一週間が過ぎて、ニグロが定めた喪があけると、日 モリモはあらわれなかった。三日目の夜も同じことでの出と正午と日没に泣くよう決められていた女たちは あったが、今度はセフーの家族の者は一人もこなかっ泣くのを、びたりと、止めてしまった。そのまえの晩 に、セフ 1 のニグロの「主人」の縁者が一人この野営 私は少々不思議に思って、モークにたずねてみた。 地にやってきた。男たちは彼のために最後の大合唱を 彼は、普通なら、子供のためにモリモを呼び出したりしてみせたが、そこにはせいいつばいの冷笑がかくさ はしないのだ、と答えた。それで誰も心から熱意を示れていた。こんなものは本当のモリモではなく、部落 さなかったのだが、セフーが是非にと頼むものだから、の人間に、彼らのモリモがビグミ 1 のと同じものだと やるだけはやったという次第なのだそうだ。それに、 思わせるためにやっているに過ぎない、とモークが説 モリモはニグロ部落のものではない。森の中だけのも明してくれた。部落の人間も、また、「モリモ」とよ 彼らのは動物の鳴き声を出 のである。ニグロがあたりに一人もいない時にモリモばれる楽器を使うのだが、 , の歌を歌うのはかまわないが、それでも部落の近くですだけで、歌いはしないのだと。 お歌うのはよくない。モリモ自体が森のものであって、 喪があけた印として、祝宴をはる定めになっていた。 人その世話には大変な苦労がともなうのだ。飯を食わせ大量の御馳走が・ハントウ族から提供された。。ヒグミー のねばならぬし、水も飲ませねばならぬ。しかも温めてがニグロ式の葬儀を取り行なった真意はこれだったの やる火だって必要なのだ、と説明してくれたが、そこ だな、と私には、やっと合点がいった。みんな大は 3

3. 現代世界ノンフィクション全集9

トが一生をかけた病院もちょうどそこにあったが、 私も、狩人の刻印をつけた一人まえの男となったので った あるから、結婚しなくてはならぬし、そうすれば、も今では木の生い茂るジャングルと化し、蔓のからみつ いた壁だけが残り、他のものはすべて荒涼たる藪の中 はや、森を去る気持ちも起きぬであろう、といった。 に埋没していた。 モ 1 クは、ずるそうな目つきで私の顔を見た。刻印に いま、そのあたりの暗闇から聞えてきたモリモは、 それほどの意味があるなどとは、彼の説明にはなかっ 誰かが歌っているようなひびきであったが、人間の声 たことである やさしい牛の鳴き声にも 私がモリモを聞いたのは、そのタ、男たちの合唱ものようではなかった。深い、 かなり進んでからであった。そのころには、彼らの言似て、時には、突然静かな裏声と変じ、時には、豹の 葉を充分理解できるようになっていたので、彼らがモ唸り声にも似た音となった。男たちが、森への賛歌を リモを出してくるべきかどうかを議論するのがわかっ歌うにつれて、モリモも応え、そのたびごとに応える た。モリモが「森のもの」であって、部落のものでは場所を変えるモリモは、素早く、静かに移り動いて、 ついにはあらゆるところから同時に聞えて来るように ないという理由で、反対意見も出ていた。しかし、モ 1 ク老人は、私が森を去るまえにモリモを聞いておけ思われるのであった。 と、いつのまにかそれは私から六十センチとははな ば、森への郷愁に駆られて、すぐに帰ってくるたろう れぬ、背丈の低い、密生した草むらの向う側にいたの から、聞かせたほうがよいといったのである。 最初、それは夜空を通して、ネ。フッシ川の向う岸かである。まだ姿は見えなかったけれども。ふだんと少 パットしも変らぬ態度で、男たちは歌い続けた。それに応え ら聞えてきた。そこは三年まえに私がパット・ るモリモの音はもの哀しく、またきわめて美しかった。 ナムを助けてダムをきずいた場所であった。ダムはま だ残っていたけれど、絶え間ない洪水でこわれていた。年輩のビグミーが数人私のかたわらに坐っていたが、 2

4. 現代世界ノンフィクション全集9

ていなかった。しかし後で聞いた話だが、モリモの歌くと思わされていた。それだからこそ、ラッパを野営 おとな なんびと っているあいだは、大人であるかぎり、何人も眠るこ地に運び込むまえに女は子供といっしょに寝床に追い とを許されず、ひたすら歌いつづけねばならぬのと同やられてしまうのだ。また、いよいよ運びこむ段にな 様に食いつづけることも義務なのだ。 ると、万一にも女に見られぬよう多数の若者が人垣を ピグミ 1 にとって最悪の犯罪のひとつは、モリモのつくって隠すことが多い。モリモが出す動物の鳴き声 合唱中に眠ってしまうことだ。一人の男が立ち上がるはたしかに本物そっくりだ。だが、モリモが歌を歌い と、 いかにも。ヒグミーらしい、おどけた身ぶりで経験出す時、女はいったいどう思うのだろうか。そんな動 談をやり出した。両脇に槍をかかえたまねをして見せ、物がこの世にいると本気で考えているのだろうか。 眠った男を見つけると、腹に槍を突刺してその男を完 全にかっ永久に殺してしまったものだというのである。 まる一月のあいだ、私は夕刻になるとクマモリモの こうして殺された男の死体はクマモリモの下に埋めら前に坐って耳をすませるのであった。じっと耳をすま れ、その死のことは誰も口にすることを許されない。 せていると、なにかが、そう、なにか名状しがたいも 女たちには、森の偉大な動物であるモリモみずからが、のが感じられるのであった。目の前にくりひろげられ その男を連れ去ってしまったのだと説明してやる。する事がらの意味が、まだ充分にわかってはいなかった ると女たちも男と同様に、そのいなくなった男のこととしても、なにものかが妙に心にせまってくるのであ はなにひとったずねようともしないし、二度と彼のこ った。毎夕、女たちが、さも「森の動物」を恐れるよ とを口にする者はいないという話であった。 うにして、そそくさと小屋に引きこもり、男たちも女 モリモを彼らはよく「森の動物」と呼ぶ。そして女が水道管を動物と思いこんでいると信じているような たちはそれが本当に動物であって、目にすると死を招振りをして焚火のまわりに集まり、豹や象や野牛の隝

5. 現代世界ノンフィクション全集9

わしていたが、そのうちひとつの茂みの中に入って行もう一度見上げると、黙ったまま頭を動かして道を急 ったかと思うと、私を呼んだ。行ってみると、彼は一 ぐふりをした。ケンゲは帰ってからモークに頼んでも 本の高い木の根もとに立っていた。木の下のほうは藪っと話を聞いてやるから、と私の耳許でささやいた。 で被われていた。その藪はいたるところに蔓がからみこういう話は老人のほうが向くというのだろう。 つき、木のまわりにも、地面から約一メ 1 トルのとこ ろまでは蔓がぐるぐる巻きついていた。。ヒグミ 1 なら 「森ーはわれらの神 誰でもこうした状態を見れば、それがモリモの眠って いる場所であるとすぐ見分けがつくから手を出さない その夜、歌が始まる前に、モークは彼の小屋の前に はずだとマイべはいった。なぜなら他人のモリモは彼坐って、新しい矢を削りながらひとりごとのように静 の知ったことではないし、それに第一、モリモの眠り かに語り出した。私のほうをじっと見つめると、ふた を妨げてはならぬのをよく知っているからだという。 たび矢に目をおとして石で削り続けた。 問題のモリモはどこにあるのかとたずねてみると、彼「ラハマンヤマ」と彼らが私につけてくれた名で呼び、 は頭の上を指さした。私には三十メ 1 トル以上も上の「。ヒカイト ( ここへおいで ) 。」 ほうで、四方に広く伸びた無数の枝以外に、なにひと それは矢に呼びかけるような口調であった。私がい 一つ見えなかった。「あそこが眠っている場所だ」と彼われたとおりにそばへ行っても、別に私のほうを見る おはい「た、「あそこなら安全なんだ。必要な時がくるでもなく、矢に目を向けたまま坐れと命じた。やさし 人まであそこで眠っているんだ。」 、しやがれた声で、彼は私がモリモのことを聞きた の いついるようになるのか、と私はたずねてみたが、 がっていたそうだが、結構なことだから知るかぎりの マイべはいうべきことはみないったというふうに木をことは話してあげようといった。

6. 現代世界ノンフィクション全集9

小屋から集めた食物もそれに食わせるのだそうだ。ま声でやり合っていたが、大勢は私の同行に賛成でなか しんらっ た彼は、モリモはタ・ハコもよく吸う、と辛竦な口調でった。最後に、彼らのあいだでは強大な発言力をもつ、 6 あのヌジョポが私をかばって、私にだって彼らに負け つけ加えた。そこで私が巻タ・ハコを数箱手わたすと、 彼はもったいぶった態度で、モリモの食物の入れてあぬだけ早く走ることができるから、連れて行っても大 丈夫だといってくれた。すると、マシシは金切り声を る籠の中にしまった。 一時間後、私が自分の小屋の中にいると、マクパシ上げて、モリモと私となんの関係があるのだとまくし とアウスの二人が小屋の外に立って、しきりと何か私立てた。私としては彼らに悪く思われたくないから、 にいいたそうにしているのに気づいた。だ、たい彼ら行くのをやめるといいたかった。他の連中は私などに かまわず、すでに駆け出していた。 は、人の家へ平気で入ってくるほうだったから、私に ヌジョポは私に、ついてくるだけの自信と、暗くな 外に出てくるように合図した時は、少々変な気がした。 アウスは私の耳に、今晩祭礼を始める予定であるから、ってから森の中を駆けまわるのが恐ろしくさえなけれ ば、なにもいわずについてくるようにいって、私の肩 モリモを連れ出しに行くのだとささやいた。六人ばか りの若者が、私も同行するかどうか見守っていた。モを押した。しかし私が落伍したら、誰も待ってはくれ リモの住家は非常に遠いから走って行かねばならぬし、ないと、一本釘を刺すのを忘れなかった。これは重大 ちゅうちょ 問題であった。私が躊躇していると、彼は皆に向かっ 帰りには暗くなると彼らは説明した。 もちろん、私は同行するといった。そしてただちにて、中でもマシモンゴとマシシに向かっていったのだ 出発した。だが野営地を出るか出ないかのうち、マシと思うが、私は前にもモリモを聞いたことがあるのだ モンゴが私の行く手をさえぎって、私を連れて行ってし、その時だってなんの禍いもなかったではないか、 おとな はいかん、とどなった。しばらくのあいだ、彼らは大と叫んだ。とにかく私は大人なのだし、それに森の人

7. 現代世界ノンフィクション全集9

焼にしたり、タ。 ( コを吸ったり、弓を削ったりしていてけは皆からまったく離れた場所にいた。彼は自分の小 一向相手になってくれなかった。エキアンガとマニア屋の前に坐っていた。麝香猫の皮を剥いでしまい、帽 子の枠をこしらえるために蔓を編んでいた。彼はおだ リボの二人だけはいらいらしている様子であったが、 それでも口をきこうとはしなかった。彼は椅子に腰かやかで満足げにみえた。 マニアリポは立ち上がると、きどった言葉づかいで、 けている一人の若者に近づいた。普通なら黙っていて この野営地をよい野営地にしたいのは全員の希望であ も椅子をすすめられるところであったが、その若者は り、このモリモをよいモリモにし、思う存分歌い踊り、 知らぬ顔をきめこんで立とうとはしなかったし、セフ ーもあえて求めようとはしなかった。仕方がないので、腹いつばい食べたり喫煙するのは全員が希望するとこ 今度は、アマポスの椅子に近づいたが、これも一向にろである、と演説をぶち始めた。ところがセフーは一 反応がないので、たまりかねて椅子を激しくゆすぶつ度もモリモに参加しようとせず、その家族も一度だっ てモリモの籠に寄進したことがないではないか、と彼 た 0 ところがし 、とも冷たくあしらわれてしまった、 は指摘した。マニアリポはさらに言葉をつづけ、セフ 「けだものは地面に坐るもんだ」と。 これにはセフーもまいってしまった。彼は自分が狩ーに対する不信頼の原因の数々を述べたてた。それに、 人仲間では長老の一人だし、しかも達人でもあるのだ今回は狩猟をも失敗にみちびいたのである、と彼はっ 一から、このような取扱いを受けるのは心外だとばかりけ加えた。この野営地にきた最初の日、小屋すらまだ かもしか グ長々とまくし立てた。マシシは彼の肩をもってアマポ建て終らぬうちに、われわれは森から羚羊の贈り物を 人スに椅子を譲るよう命じた。アマポスは一応命令をき授けられた。ところがセフーが加わってからというも さげす の のは不幸つづきではないかとなじった。 いたものの、いかにも蔑んだような身ぶりで席を立っ セフーはこの演説の途中で不意に相手の発言をさえ と、焚火の反対側に場所を変えてしまった。モークだ 7 8

8. 現代世界ノンフィクション全集9

どうした話のきっかけからか、話は水のことになっ くり方を話してくれた。真直ぐなモリモの若木は芯が たので、私は川をわたるたびにモリモのラッパに水をやわらかく、かたい外皮を他の蔓や木をキリがわりに 7 飲ませるのはなぜか、と再びたずねてみた。マイべは使って取り出すと、時間はおそろしくかかるが本物の 無ロのほうであったが、彼もやはりアウスと同様、木モリモがつくれる。このモリモの音が一番だと彼らは いった。ヌジョポは昔この種のラッパをもっていたが、・ のラッパに水を飲ませると音がよくなるから、それが 習慣になって、ラツ。、 : / カ金属性の場合も同様に扱う習腐ってしまったので、いまもっているのは短い竹でつ くったものだけだともいった。 慣がついてしまったのだと答えた。それなら、ラッパ を水の中にしまっておくのはどうしたわけかとたずね われわれが再び腰を上げようとした時、マイべはラ てみると、彼はそれが一番安直な場所であるからだと ッパがしまってある場所を見せてやろうといってくれ いうきわめて実利的な返事をした。そこで最後に、か た。彼は羚羊の通る道を先に立って案内してくれたが 1 ねがね一番知りたいと思っていた問いを試みてみた。 木の枝があまりに低く垂れ下がっているので、私のほ すなわち、祭りが終ったら、ラッパはどうするのか、 うはほとんど四つん這いになって進まねばならなかっ やはり水の中にもどしてやるのかと。 , 少一廻よ、 。乙川に沿ってつづいており、モンゴンゴがよ マイべとケンゲにとって、これはよほど奇妙な質問 であったらしい。彼らははっきりと否定した。いつもく茂っていた。しばらく行くと小川は幾つかの滝にな 水の中にしまっておいたら、すぐ錆びてしまうから新って分かれ、茂みはまばらになった。腰を伸して見ま しいのをつくるのに忙しくて、狩りなどしている暇はわすと、われわれは川の真中にいるのがわかった。岩 . なくなってしまうといった。それ以上こちらからはな に砕け散った川水は、下方で再び合流して、小さな淵 にもたずねないのに、二人は進んで普通のラッパのつをつくっていた。マイべはあたりをキョロキョロ見ま こ 0

9. 現代世界ノンフィクション全集9

まると、しばらくして、遠方の森から彼らの歌声に応 いつのまにかアマポスも一座に加わって、私の左手 える楽の音がひびいてきた。私には、そのなっかしい にいた。見ると彼はロに手をあてていた。その時であ 音が何であるかすぐわかった。男たちは気にもとめぬる、彼が一種のラッパに似た、長い竹の筒みたいなも ふうに歌いつづけていた。 のを吹いていたのに気づいたのは。それが、あの薄気 モリモはだんだん近づいてきて、野営地の周囲をま味の悪い、うつろな音を立てているのであった。しば わり始めた。女たちは小屋の中で静まりかえっていたらくすると、彼は立ち上がった。タンガナの息子の一 し、焚火は消えかかっていた。ある小屋で煮炊きをす人も立ち上がった。彼がラッパの他の端を支えている るのに使った焚火の燃えがらが、時折かすかな白光をのが見えた。 放つほか、あたりは真暗な闇であった。 二人は、烙の上に竹の筒を振りかざして踊りまわっ モリモの音は、数分間、やんだ。私は焚火のまわり た。そのあいだじゅう、アマポスは片時も、その筒か に坐っている男たちの顔をこっそり眺めてみた。火はら唇を離さず、男たちの合唱はだんたんと高まってい か細くゆらめき、彼らは、、・ しすれも目を見ひらいて、 った。そのうち、彼ら二人が突然キャンプの後の森に 焔を見つめていた。その目は私には見えないものを見駆け込んで、豹のような唸り声を立てたかと思うと、 ている目であった。セフーだけが、椅子に横たわってラッパの音は二度と聞こえなくなった。男たちは、そ いた。眠っているらしかった。そのとき、私の近くでの後も一時間ほど合唱をつづけたが、セフーと彼の家 何かがかすかに動く気配がしたかと思うと、突然、耳族が小屋へ引き取ってしまうと、急に歌うのをやめて、 のすぐそばでモリモが鳴った。その音は前よりも優しそれそれの家へ引き返して行った。 く、また悲しげであった。男たちの歌に応えるかのよ 次の日の夕刻、合唱は野営地の中心部の焚火のまわ りで始まった。とにかくモリモはヌジョボのものだし、 ひょう 2

10. 現代世界ノンフィクション全集9

らにはやらない。狩りを成功させるためには、男も女老人が、彼らとしてはおそらくもっともひどい罪を犯 も子供も全員が協力しなくてはならないからである。 した日であったから、今でもはっきり記憶しているの また狩りは神聖なものであるから、その前途を祝してである。 彼らは「狩りの火」を焚く。そうすれば獲物の供給者前夜、われわれのうちで、二時間以上の睡眠をとり たる森の祝福を全員が受け得ると彼らは考えるのだ。得た者があったかどうか。だれもがみな静かに狩りの 「狩りの火」といっても大げさなものではない。野営準備をしていた。。ヒグミーの野営地では、こういう状 地をちょっと離れたところにある木の根もとで火を焚態は危険信号と思ってよい。普通なら、だれもかれも やか くだけである。また別のビグミ 1 の集団では、野営地 がしゃべったり笑ったり叫んだり、とにかく喧ましい 内で「狩りの火」を焚いた例も見たことがある。その彼らであるからだ。この特異な状態はわれわれが疲れ 場合、焚火に使う特定な数本の薪は狩りが行なわれるていたためばかりではなかった。セフーが例のモリモ 方向に向けられていた。 の籠に寄進することを拒んだ上に、この朝になると大 火のまわりには長い、 ふさふさした葡萄の蔓をめぐ声を張り上げて「そっちの野営地」のモリモには飽き らせ、獲物がとれると、分配する前にこの輪の中へ一飽きしたそ、とどなったせいでもある。 度おさめる。しかし、今私が行動を共にしている集団彼は自分の野営地をいつも少し離れた場所に設けは も、この地域の他の集団も、これほど形式を重んじはしたが、同じ野営地と考えてよいほど隣接していたし、 しよ、つこ。 けっしてありがたい存在ではなかったが、それでも、 私はここである朝のことをとくにはっきりと思い出われわれのほうでは、彼も同一野営地に住居する人間 す。その朝われわれはいつものように野営地の外へであるとみなしていた。だから内実はともあれ、すく 「狩りの火」を焚きに出かけたのであったが、セフ 1 なくとも表面上は仲たがいせぬよう、彼がモリモに加 7