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検索対象: 現代世界ノンフィクション全集9
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1. 現代世界ノンフィクション全集9

1 からも丸見えの場所に坐って、恥ずかしげもなく、か まだ青い料理用パナナを熱い灰の中に入れて蒸した り、キノコや野菜を刻んだのに残りものの肉をまぜ合らだ中に煉粉を塗りたくり、自分では手のとどかぬ場 わせてシチーをこしらえる。鍋は湯気が逃げないよ所は大声をはり上げて友人を呼び、かわりに塗っても うに、また、埃や灰が入らぬように大きな葉で蓋をすらう。臀部がとくに塗りにくいらしく、またこの部分 がことに目立っ場所であるため放ってはおけないのか る。枯枝を集めてきてくべたり、赤ん坊の世話をしな がら鍋がひっくり返らぬよう気をくばったりする雑用相手の前で四つん這いになったり、の上にうつぶせ になって塗ってもらう。 は、まだ年のいかぬ小娘たちの仕事だ。年ごろの女た やっ 独身の若い男たちはクマモリモの焚火で簡単な朝食 ちは、この間、のんびりとお窶しに余念がない。どこ をこしらえ、その日の予定をみんなして話し合った。 狩りの場所とか、獲物の見込みが、いつも彼らの話題 の中心となる。このような場合、セフーは一度も話に 加わろうとしなかった。彼はいつもきまって、自分ら だけの小さなほうの野営地に引っこんでいた。が、そ 、【粤るれも他の連中が狩りに出かけるまでのことで、狩猟隊 が大きなほうの野営地を出るころには、いつも知らぬ 矢あいだに一行に加わっていた。 ビグミーにとって、狩りは、ことに網を使ってする ひんしゆく 狩りは共同作業である。抜けがけの功名は彼らの顰蹙 するところだ。弓矢で狩りをする場合でも各人ばらば 7 7

2. 現代世界ノンフィクション全集9

どうぎん 打つわけにもいかず、さりとて追放に値するような大工キアンガは彼女と同衾してはならぬはずで、彼の他 それた罪でもない場合のことだ。事の起こりはたいての二人の女房はこれで自分たちも少しはかまってもら い些細なことで、あまり近い間柄の者が狭い場所で共えるものと考えて喜んでいた。ところが呆れたことに、 同生活を営んでいるために起こる場合が多い。野営地彼は平気でカマイカンを相手にしたのである。そんな の生活はとかくこみ入ったものになり勝ちであるが、 わけで、ある日のこと、アマポスは大声を上げて妹の くちばし ことに姉妹交換によって婚姻関係を結んだ両家の者が、健康に嘴を入れてきたのであった。 同じキャンプに住んでいる時にいちじるしい。 これはアパ・レロではなく、そのあとのキャン。フの この制度について、一言説明しておくとしよう。男アパ・カデイケツで起こった話である。アマポスの小 が妻を選ぶ場合に、彼は娘をもらう代償として、相手屋は私の小屋の右手にあり、広場をはさんでエキアン の家の独身の息子の一人に自分の「姉妹」を一人ーー ガの第一の小屋と向かい合って建てられていた。この 実際には親戚の娘でもよい あてがう義務が生じる。エキアンガの小屋はキャンプ中でもっとも大きく、ま ところが、花婿に目される青年に好感を抱き、花婿自たもっとも立派な小屋で、彼がカマイカンと二人で建 身も自分の嫁にしたく思うような「姉妹」を見つけるてたものであった。 のはむずかしいから、これはなかなかの大仕事になる。 アマポスはその時、自分の小屋の前の焚火にあたっ アマポスはエキアンガの妹と結婚し、エキアンガのていた。彼の妻はかたわらでタ飯に使うキノコを刻ん グほうは、アマポスの妹である美人のカマイカンを第三でいた。エキアンガはカマイカノこ、 、つけて、赤ん 人夫人に迎えていた。カマイカンは、ちょうどエキアン坊を祖母のサウにあずけさせたまま、二人きりで数時 のガの子供を産んだばかりであったが、アマポスには子間も小屋に閉じこもっていた。はじめのうち、アマポ 供がなかった。カマイカンは子を産んだばかりだから、スがいくら悪口雑言を吐いても、小屋の扉を閉じたま シスター 9

3. 現代世界ノンフィクション全集9

。ヒグミーはなにか悪いことが起こると必ずモリモをきっとなにか理由があるに違えねえんだ。」 呼ぶのだと彼は説明した。「狩りがうまくゆかぬ時も 私は次の言葉が待ち遠しかった。部落民なら、災難 7 あろう」と彼はいった、「あるいは誰かが病気になるが起こるとなにかの悪霊にたたられたと考える。だが、 こともある。また今度のように誰かが死ぬこともある。ビグミーの場合にはそうではなかったはずだ。彼らの これはみなよくないことだ。わしらはよくないことは論理はもっと単純で、信仰がもっと強いのを私は知っ 好かぬのじゃ。そこでモリモを呼び出して直してもらていたから。 うんじゃよ。」 「わしらの世界では、よほどのことがねえかぎり、み 親切で、もの静かなモーク老人は、世話をしてくれなうまくゆくんだ。だが夜ねむっている時には、おり る妻にも先立たれ、一人暮しの気さくな働き者だ。とおりよくねえことが起こる。わしらとしては避けよう きどき、矢のそり具合を確かめながら、彼はその夜、もねえからな。大蟻が襲ってきたり、豹が夜中にこっ 私に多くのことを教えてくれた。が、中でも大切なこそりやってきて猟大や子供をさらって行くことだって とよビグミー がいかに森の善意を信じているかを、私ある。起きてる時は、こんなへマはやるもんじゃねえ。 にわかるよう説き聞かせてくれたことだ。 そこで、なにかひどくよくねえこと、たとえば、誰か 「森はな、わしらにとって父親でも母親でもあるんが重い病気になるとか、獲物のとれねえ日がつづくと だ」と彼はいった、「父親や母親と同じように、わし か、または人が死ぬとかいった場合にはだな、きっと らのいるものはーー食い物でも着る物でも家でも薪で森も眠っとって、その子供の面倒を見てやってねえに も なんでもくださるんだ。そしてかわいがってもちげえねえんだ。そこでどうするかって ? 森の目を くださるんだ。森は親御さんじやから、普通ならなんさまさせてやるんだよ。歌を歌ってさまさせてやるだ 9 でもうまくゆくんだ。だからな、うまくゆかん時は、 ええ気分で目ざめてもらいてえもんな。そうすりや、

4. 現代世界ノンフィクション全集9

のでもなかった。これが。ヒペーにはつらかった。だか って、小屋から飛び出してくると、てんでにトゲのつ 8 ら悪気のある男ではなかったが、根が怠け者であるた いた木の枝で鞭打った。それでも辛うじて彼らの手か 9 めに、夜中になると野営地の中をうろついて、あちらら逃れたビ。ヘーは全速力で森へ駆け込み、ヒリヒリす の小屋から一枚こちらの小屋から一枚と屋根の葉をか る肩をさすりながら物凄い声で泣いた。彼は二十四時 すめてきては自分の小屋を葺くのに使ったし、小屋の 間近くも森にいたが、次の夜、もどってくると、こっ 骨組みに使う若木のほうも、同様の方法で間に合わせそり自分の小屋へ入って床に身を横たえた。彼の小屋 ていた。ほうぼうの小屋から、食物も奇妙な具合に消は私の小屋とサウのとの中間にあったので、私は彼が えていった。そうした場合いつもピ。ヘーは大が盗むの入ってくる音を聞いた。家へ帰っても、兄弟すらロを を見た、といったものである。ところがついに彼は現きいてはくれなかったので、声を殺して泣いている様 場をサウ老婆に捕えられてしまった。彼はサウの小屋子が私の小屋でもわかった。 に、ある夜しのび込み、鍋の蓋をもち上げたところを、 翌朝になると、彼もすっかり元気を取りもどしてい 老婆にすりこ木で手首をしたたかひつばたかれてしまた。みな、彼が冗談を飛ばすのを聞いて安心した。そ った。老婆は彼の腕をつかみ、背中にねじり上げて戸して二度と盗みをしなくてもよいように、みなが彼に 外へ突き出した。 食べものをやった。 ビ。ヘーは滑稽な話をして人を笑わせることの天才で、 決して悪い男ではなかったから、多少の盗みを働いて 姉妹交換制度 も大目に見られた。しかしサウ老婆から盗んだのは行 き過ぎであった。彼女は夫を亡くし、息子のアマポス しかし、時にはこうした方法で解決できぬ場合も生 と嫁の世話になっている身だったからだ。男たちは怒じる。問題を起こした当人が、年寄りであるため鞭で

5. 現代世界ノンフィクション全集9

かったのだから、もっとよい場所に張り変えたってよてくれと頼んだ。これで話はきまったのである。彼は いはずだ、といい足した。なんといっても自分は重要その場に集まっていたほとんどの者に囲まれて、小さ しゅうちょう な人物であり、いわば酋長なのだから、それぐらいの いほうの野営地に行き、妻に向かって分どり品を引き わがままは許されてもよいというのである。 わたすよう、ぶつきら・ほうな口調で命じた。さからっ マニアリポはエキアンガの腕をつかんで坐らせ、自ても無駄であった。すでに彼女の籠の中やら、このよ うな万一の場合を予測して獲物の肝臓を隠しておいた 分も腰をおろして、これ以上論議をつづけても無駄だ といった。セフ 1 は自分で大酋長だというのだ。ン屋根の葉の下にまで、幾人かの手が突っ込まれていた から ブティには酋長なんてものはない。それにセフ 1 は一からだ。鍋まで空にされてしまった。それから各小屋 やさが 隊を率いているのだ。そしてその酋長であるといっての家探しが始まって、肉がことごとく取り上げられた。 いるのだ。だから他の場所へ移って狩りなり、なんなセフ 1 の家族は大声を上げてさからい、セフー自身も りしてもらってはどうだ。他の場所で長になっても泣いて頼もうとしたけれども、今回だけは聞き入れる らったらどうなんだ : : : マニアリポは「。ヒサメタ者もなかった。彼は腹をかきむしって、これじや死ん ハ ( タバコをまわしてくれ ) 」といって雄弁な演説を終でしまう、とわめいた。 よみがえ えた。 クマモリモには再び祭りの気分が甦った。そして野 セフ 1 は自分が負けたことがわかった。彼が率いる営地全部が元気を取りもどしたようだった。一時間後、 とも 一隊といっても四、五家族だけのものであってみれば、あたりが暗くなって各小屋の前にタ飯を炊ぐ火が点さ 人割りのよい狩りなど到底できはしないからである。彼れると、クマモリモの焚火はますます燃え上がり、男 のは言葉をつくして許しを乞い、本当に知らずにやった たちは明日の狩りの話に興じた。セフーの野営地から ことだし、いずれにしても肉は全部返すから見逃がしは空腹を訴える泣き声やら、不幸を嘆く老人の声など ぶん 9 8

6. 現代世界ノンフィクション全集9

と腕力では駄目なのである。だから私としては逃げる たちは、たいてい、姻戚関係にあるのだから、エリマ に越したことはなかった。他の独身の若者たちは私ほの家に招じ入れるのもますい話であるからだ。 ど逃けねばならぬ理由もなかったし、逃げたくもない 他の部落からたくさんの訪問客がきている場合もあ ので、打たれれば打たれたで石や棒切れを投げ返し、 ったが、時にはお客の数があまりにも少なくておもし 部落の中をあちこちともつれ合い戯れ合って結構楽しろくないこともあった。そんな場合には遠征に出かけ そうであった。 るのである。私は一度、自分だけは絶対に免除してく 娘は老人や少年まで鞭で打ったが、いずれの場合も、れるという約束のもとで、こうした遠征に加わったこ 普通は、一種の敬意を表したことになるに過ぎず、有とがある。 資格者の独身者を打った場合のような義務は発生しな それは随分奇妙な行列だった。娘たちは全員からた 、。しかし時によると強く打ち過ぎ、老人は大声を上中に油を塗り、例の黒い汁でお化粧し、男子の入門式 げて不平を鳴らし、少年は耳がつん裂けるような金切をまねて草のスカートをはき ( この趣向は冒漬的習慣 り声を上げた。一度などはマン・フニアが怒って小屋か だとして、部落民をいたく憤慨させ、ついには両者の せたけ ら出てきて、娘を全部小屋の中に追い返したこともあ争いの原困となった ) 、背丈の倍もある太い長い鞭を ったし、また別の場合などは、アソファリンダが狂っ たずさえていた。総勢八名で、手のつけられぬ例のフ 一たような勢いで娘を追い駆け、ひっ捕え、耳をつかんラッパー アキディニン・ハ・、統率していた。彼女は、 グで振りまわしたので、追手たるべき娘のほうが子供の乳房をブルン・フルンさせながら「狩猟場」を通り過ぎ、 人ように泣きだしたこともあった。 橋をわたってエプルー 川の向こう岸まで一隊をひきい のしかしエリマの美女たちは自分らの部落だけに閉じて行った。 こもってはいなかった。どのみち、自分らの部落の男向こう岸に着くと、今度はエボョを目ざして丘を登 ノ 09

7. 現代世界ノンフィクション全集9

どうした話のきっかけからか、話は水のことになっ くり方を話してくれた。真直ぐなモリモの若木は芯が たので、私は川をわたるたびにモリモのラッパに水をやわらかく、かたい外皮を他の蔓や木をキリがわりに 7 飲ませるのはなぜか、と再びたずねてみた。マイべは使って取り出すと、時間はおそろしくかかるが本物の 無ロのほうであったが、彼もやはりアウスと同様、木モリモがつくれる。このモリモの音が一番だと彼らは いった。ヌジョポは昔この種のラッパをもっていたが、・ のラッパに水を飲ませると音がよくなるから、それが 習慣になって、ラツ。、 : / カ金属性の場合も同様に扱う習腐ってしまったので、いまもっているのは短い竹でつ くったものだけだともいった。 慣がついてしまったのだと答えた。それなら、ラッパ を水の中にしまっておくのはどうしたわけかとたずね われわれが再び腰を上げようとした時、マイべはラ てみると、彼はそれが一番安直な場所であるからだと ッパがしまってある場所を見せてやろうといってくれ いうきわめて実利的な返事をした。そこで最後に、か た。彼は羚羊の通る道を先に立って案内してくれたが 1 ねがね一番知りたいと思っていた問いを試みてみた。 木の枝があまりに低く垂れ下がっているので、私のほ すなわち、祭りが終ったら、ラッパはどうするのか、 うはほとんど四つん這いになって進まねばならなかっ やはり水の中にもどしてやるのかと。 , 少一廻よ、 。乙川に沿ってつづいており、モンゴンゴがよ マイべとケンゲにとって、これはよほど奇妙な質問 であったらしい。彼らははっきりと否定した。いつもく茂っていた。しばらく行くと小川は幾つかの滝にな 水の中にしまっておいたら、すぐ錆びてしまうから新って分かれ、茂みはまばらになった。腰を伸して見ま しいのをつくるのに忙しくて、狩りなどしている暇はわすと、われわれは川の真中にいるのがわかった。岩 . なくなってしまうといった。それ以上こちらからはな に砕け散った川水は、下方で再び合流して、小さな淵 にもたずねないのに、二人は進んで普通のラッパのつをつくっていた。マイべはあたりをキョロキョロ見ま こ 0

8. 現代世界ノンフィクション全集9

( 部落民は。ヒグミーをこう呼んでいる。 ) 以外には、居と、その羽音から、蜜の在処を知る。 住に適せぬ恐ろしい場所だと説明する。バントウ族彼らはまた、さまざまなキノコが、無数に地表から によっきり顔を出すのは、どんな気候にかぎるかを知 ( 東部、南部および中央アフリカ一帯に棲息するニグ ロ族を総括的にさす呼称 ) とスーダン族からなる部落っているし、どんな木の下を見たら、探しやすいかも 民は、農園を離れず、よくよくの場合以外は、森へ出知っている。また、白蟻が群生する時期を正確に知っ ていて、その機を逃さず、一網打尽にする手ぎわのよ 向かない。しよせん、彼らはよそものなのだ。 パンプティこそ、真に森の住民なのだ。他の種族とさは、森の住民以外には、真似もできない。彼らには 1 異なって、ビグミー族は、数千年のあいだ森に住んでよそものにはわからない秘密の言葉があり、その言葉 がわからないかぎり森での生活は不可能なのである。 いる。森は彼らの世界であり、森に寄せるかぎりない 愛情と信頼があればこそ、森は彼らの必要を、すべて彼らは、小人数の狩人のグループをつくって、森中 を思いのままに駆けまわる。森は彼らの家だからこわ まかなってくれる。 くはない。恐怖がないから、悪霊の存在を信じる必要 彼らは、樹木を切り倒して、農園などをつくる必要 もない。彼らにとって、森ほどすてきな場所はない。 はない。彼らは、森の鳥獣を仕止める方法も知ってい るし、よそものの目には見えぬ野性の果実も、彼らに平均して、身長が百四十センチ以下しかなくても、別 は容易に発見できるからだ。イタバの蔓を見れば、そに気にはならない。彼らのことをチビだといって嘲笑 グれとよく似た無数の蔓の中にひっそりまじっていても、するノッポの部落民も、彼らの目から見れば、象のよ 人すぐに見分けて跡をたどり、栄養に富んだ、甘美な味うにぶざまにうつる。すばやく、しかも音もなく走る の覚をもつ、その根をさぐりあてる能力をもっている。 能力に、生死のすべてがかかるこの世界に入った途端、 ノッポの部落民たちが、よそ者の地位に甘んじねばな 蜂の羽音を耳にすれば、どんなかすかなものであろう つる ありか

9. 現代世界ノンフィクション全集9

に思う。つまり、青写真に合わせて、それに役立っという角度からばかり取材するのでなく、むしろ逆に存在し 4 た現実の方に従いつつ、現実のさし示すところから構成するというやり方を。手代木氏はこぼしながらしみじみ 4 と語ったことがある。 「こういうことが、日本で取材している記録映画カメラマンには、なかなかわからんのですよ。」 この問題は、別に記録映画だけのことではない。それがノンフィクションの文学の場合にも全く同じに思われ る。すなわち、現場からの生ま生ましいデータそれ自体に語らせつつ、その語る物語りにすなおに耳を傾けてい るうちに、 / ンフィクションの構成ができてしまった、というような心の姿勢が必要である。そういった作品の 場合にのみ、まさに汲めども尽きないノンフィクションの迫力がでてくるのではなかろうか。こういった場合に のみ、ぶ厚さ 、いいしれぬ威厳、そして刺戟的で魅力的な、傑作が生まれるのではなかろうか。 おのれを空しくする状況が、豊かな表現としつくり結びつくとき、すばらしいノンフィクションが生まれる。 それにくらべれば、筆達者などという要素を、あまり重く見ない方がよいのかもしれない。データのひとつひと つに真実の持っ力があるばかりでなく、それらの結合し統合されていくあり方にも、真実の持っ力がある。この 真実は、作者の心の真実といったものばかりでなく、また素材が含んでいる真実でないと困る。心の真実という ものが、いつのまにか小器用な才智のひけらかしや自分で陶酔するひとりごとに堕落しないためにも、素材の側 からの真実を強調したい。素材そのものが、ある総合と発想を自然に訴えてくるのであって、単に卓抜な構成カ という、作者の側の人工臭い努力だけでは、われわれを満足さすものは生まれまい。 とはいえ、こんな点で、一点の非の打ちどころのない傑作というものに、私はまだめぐりあったことはない。 じっさいには、それははるかな夢である。夢ではあるが、多分ノンフィクションの科学性と芸術性とが分かちが

10. 現代世界ノンフィクション全集9

んで餌に食いっかなくなると、彼らは、もっと遠くにらみても、それは決して冷酷な命令ではない。それに、 出かけなければならなくなる。エスキモ 1 の家族や犬エスキモーは、自分たちの土地を、別にひどい土地だ ともかく、それは彼らの土地なの は、一日に約二十キロの肉を食べるというのに、それとは思っていない。 だし、絶対的に彼らが支配している領土なのだから。 だけの肉が手に入らなくなるからだ。彼らは、さらに 遠くに出かけて、海豹や白熊を追わなければならない。彼らはその土地の主人であり、しかも、その土地には、 そうした狩猟をしながら、罠をしかけて狐をとる。春彼らだけしかいないのだ。平原にいるトナカイも、湖 が来ると、トナカイが北上してくる。さまざまの動物の鱒も、海の海豹も、すべて彼らのものなのだ。誰も たちが、南からやってくる季節になったのだ。エスキ彼らの領土を奪いはしない。アフリカのある地方で行 モ : は、餓えから逃れようとして、たえず場所を移動なわれているように、掠奪者が彼らに襲いかかってく しながら、大きな円を描いて、ぐるぐるさまよいつづるということもないし、彼らの女たちを奪って奴隷に けている。窮乏と苦痛にみちた、果てしもない遍歴の売りとばすということもないつまた、ヨーロッパでは 連続である。しかも、その遍歴から得るものといえば、現に行なわれているように、どこかの軍隊が侵入して 富でもなければ、楽しみでもなく、ひたすら自分の腹きて、たちまち彼らの雪の王国を占領してしまうとい うこともない。なにしろ、彼らの半ば共産主義的な社 をふくらますというひとことだけなのだ。 そうはいうものの、この遍歴には、すばらしい点も会では、ものを盗なという観念が存在していないのた。 エスキモーは、あまりにも貧しいので、そんなことを ある。季節というものが、およそこの場合ほど、人々 の熱烈な話題の対象になり、また人々に生き延びるべ 思いっきさえもしないのだ。彼らには、にくんだり、 き方法を断乎として命令することはあるまい。そして、うらやんだりする隣人たちもいない。 エスキモーのやりかたは、たとえばこんなふうだ。 エスキモーが、その季節の声によろこんで従う様子か