声 - みる会図書館


検索対象: 男の学校
152件見つかりました。

1. 男の学校

女失格 机に向って仕事をしている時、卓上の電話が鳴る。 「はい、佐藤です」 万年筆を握ったまま、左手で受話器を取っていう。 「えー、 x x 証券の△△ですが」 聞いただけで、自分の顔がみるみる怒り顔になって行くのがわかる。 「えー、今回、是非ともおっき合い願いたい割引債券がございまして : : : 」 私は「はあ」と一言。その声を聞けば、常人ならばすべて畏怖して次の言葉がノドに詰まるで あろう陰惨な呪い声でいう。しかし△△さんはそんな声など、蚊の唸りほどにも感じない。 ( の 校 か、感じないふりをしているのか ) 学 の「これはですねえ : : : 」 男 ひときわ朗らかに声はり上げて、長々と説明がはじまる。 「今、仕事中ですから後にして下さい」

2. 男の学校

退屈時代 晴れた午後、散歩をしていると、後ろでこんな会話が聞こえた。 「つまり、そうすると、惚れちまったってことなんだな」 「うん、そうもいえる」 思わずふり返ると、小学校四年生か五年生くらいの少年である。二人は私がふり返ってしげし げ眺めていることにも平気で、熱心に話しながら通り過ぎて行った。私は感慨無量といった形で、 たたず その姿を見送る。故郷の海岸を訪れた時、あまりの変りように呆然と佇んだ、その時と同じ心境 であった。 私が知っている小学生の下校風景といえば、蜂の巣をつついたようなものであった。終業のべ ルが鳴るやいなや、学校はたちまち声高にしゃべる声、呼ぶ声、叫び声、笑い声、泣く声などに 包まれ、校門から少年たちが走り出す。 実際、昔の男の子というものは、みなわけもなく走るか叫ぶかしていたような気がする。弁当 箱をほうり上げて、走って行って受け止めながら帰って行く子。喧嘩しながら帰って行く子。逃

3. 男の学校

騎士道 前回、他人の浮気は見て見ぬふりするのが騎士道であるといった男性のことを書いたら、それ を読んだという女性から電話がかかって来た。 「他人の浮気を見て見ぬふりするよりも、自分の浮気をゼッタイ妻に知られないようにすること こそ、騎士道というものではありませんか」 「はあ、おっしやる通りですが」 私は素直に賛成し、ちょっと緊張した。相手の声が何となく緊張を要求するような声だったか らである。 「これは私のことではありませんが」 とその人は断わりをいってから、 学 の「私の友達のご主人がキスマークをつけて帰って来たので、詰問したところ、逆に殴る蹴るの乱 暴を受けたのです。このこと、どう思いになりますか」 「はあ、それは : : : 怪しからんです」 3

4. 男の学校

似た者同士 ? 女友達とタクシーに乗っていると、聞き覚えのある声がラジオから聞こえて来た。 「では政治家なども多いですか ? 」 「多いですねえ。自民党は三十 x 人わかっています。これが明るみに出れば自民党は壊滅するで しようねえ」 汚職かワイロかと緊張したが、声の主は中ピ連の榎美沙子さんであるから、すぐ察しがついた。 「それがみなさん、ケチくさいんですよ。十年も関係がつづいて、お手当なしというケースも珍 しくありません」 私の連れの女性はそれを聞いて、 「男ってのはずるいからねえ : : : はじめのうちばっかりうまいこといって ! 」 と、何やら身につまされた、という感じである。 しかし私は何となく納得しかねる気持で、 「お手当か : : : 」

5. 男の学校

思いやりのあるご亭主は奥さんに浮気ばかりされているという例もある。本当に人を思いやる人 間は敗者に多いことも事実である。 一口に「思いやり」というけれど、そんな簡単なことではないのだ。思いやりを失わずに尚且、 怒るべきときは怒る。これがむつかしい。今の思いやり時代、へたに思いやってばかりいて、己 れの主義主張を失ってしまう。どこで怒ればいいのかわからなくなる。人が怒るのを見てホッと 安心して、そうか、やつばりここで怒ってもよかったのネ、では、と改めて憤慨したりする。怒 り選手を必要とするゆえんである。 ある夜更け、枕もとの電話が鳴った。 「もしもし」 低い元気のない、いやらしい男の声。 「あのね、ボク、淋しいの」 途端に私はカッとする。この頃はやりの淫猥電話だ。いつもなら、 学「恥を知りなさいッ の一喝するところだが、怒ることをやめた今は静かに、とっておきの上品な声でいった。 「さようでございますか」 「淋しいんだよオ、わかる ? このキモチ なおかっ

6. 男の学校

げる子。追う子。罵る子。歌う子。 しゅ ( しゆく だが今の子供は粛々と道路の右を歩いて帰って行く。弁当箱をほうり上げて受け止めに走っ たりしていると、自動車に跳ねられる危険がある。道の真中で喧嘩をするのも、逃げるのも追う のも、命がけである。 昔の先生や親は、子供をおとなしくさせるために声を涸らして叱らなければならなかった。だ が今の先生や親は声を嗄らす必要はなくなった。あわれにも子供たちは自ら我が身を守るすべを 考えておとなしくなったのである。 それにしても昔の子供は、どうしてあんなに絶え間なく飛び跳ねていたのだろう。常におとな の圧力で頭を押えられていたので、蓋を開けると飛び出して来るびつくり箱の人形みたいに、お となの目がゆるむとたちまち飛び出したのかもしれない。 「してはいけない」 「しなければいけない」 校すべてがこの二つに集約されて子供を押えつけていた。 の「嘘をついてはいけません」 男 「親に心配をかけてはいけません」 「勉強をしなくてはいけません」

7. 男の学校

「愚痴悪口をいうようにさせたのは男じゃないの ! もろもろの抑圧を、悪口をいうことによ てどうにか発散して、自分を保って来た可哀相な世代なんですよ、おばさまたちは。男尊女卑 ( 差別観念のもとではせめて悪口でもいうしかなかった。悲劇の世代ですよ」 「そうよ、その通りよ ( と別の若い女性が叫んだ ) 男はそんなこというけど、今のサラリーマ がそうじゃないの、愚痴と悪口をいって、その日その日を凌いでるわ」 「自分のまわりの存在しか目に人らない、狭い世界に閉じ込めたのは誰なの ! 女は愚痴と悪一 をいうことで呼吸したんだわ、そうでなかったら窒息したのよ。大きな声で思ったことを何も えなかったんですからねえ ! 」 いや、私などは何の抑圧もなかったけれど、大きな声で悪口ばっかり叫んでいました、と訂「 するのも気がひけて、 「うーむ、 . なるほどねえ」 と私は感心した。女のいう悪口の質も変って来たものだ、と感心したのである。その時、私、 同い年の女性、いみじくも述懐して曰く 「私らは『うちのお父さんときたら : : : 』という悪口ならいえるけど『そもそも男というも ( は』という上等の悪口なんか、いいたくてもいえません」 それを聞いた若き女性、 「ちょっと待って下さい。さっきの私の発言は悪口じゃありません。批判です」

8. 男の学校

「ああいう男はしばいをしているうちに、だんだんその気になって行くのよ。ウノと本当のけじ めがっかなくなるんです。我と我が演技に陶酔して涙が出て来るのよ」 ふーんと一同、溜息をつく。彼女は更に声をはり上げ、昂然と、 「だから私は、角さんが泣いてもちっとも驚かないわ。男が泣いたからふしぎがるなんて、世間 知らずよ」 泣いて危機を切り抜けようとするのは、女だけではなかったのか。 「そういえば、男は効率を考えて泣くのよ、いつだったかもねえ : : : 」 ロッキード公判の話題は、亭主の浮気や男のずるさの話になって花が咲く。変幻自在。今日は 人の身、明日は我が身にふりかかる。女の会話がおそろしいのは、こういうところなのですぞ。 男性諸君 !

9. 男の学校

今日は人の身、明日は我が身にふりかかる、クワ。 ( ラ、クワバラ、 と思っているか、高みの見物、ただ、 ア、 ノノノハ、オイラは知らねえよーツ、 と喜んでいるか。 女の純真無垢、真剣マジメな突進力を政治に役立てて、政界の腐敗をなくそう、という声があ る。だが女のマジメひたむきな情熱は、 「ごくろうさんでしたーとか、 「二度といたしません、決してしないと誓います」 などという極めて無造作な返事で行き止りにされてしまう。 「あの時、テレビの前で誓ったじゃないのよーツ と奥さんが怒る日が来るであろうことを、たいていの男は知っている。だが、女はその日が目 の前に来るまで、わからない。女の力が政治の世界でモノをいうようになるには、純真無垢、真 剣マジメを武器としているだけではどうやらダメなのである。

10. 男の学校

蚤は害虫である 二カ月ほど前のことだ。ある大新聞から電話がかかって来て、暴力団員が雑誌のペンフレンド コーナーを通じて知り合った女子高校生を呼び出して乱暴を働いた事件について、私の意見を求 めて来た。 このところ私は新聞、週刊誌のコメントには応じないことに決めている。そう答えると、では 話だけ聞いて下さいという。そういわれるとつい、 「何ですか ? 」 といってしまった。 電話の主は大 ( ん感じのいい声で、気持のいい話し方をする。 「はあ、はあ、なるほど」 はじめのうちはおとなしく聞くだけだったが、相手の感じのよさに引き込まれて、 「だいたいこの頃は一億総発情という感じでね、中年は浮気の話ばっかり、若い男女はポーイフ レンドがほしい、ガールフレンドほしいで湯気が立ってますからね」