話 - みる会図書館


検索対象: 男の学校
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1. 男の学校

ちよくせつ はそういう人間なのです、とでもいうほかない。私は直截を愛する。思いきりよく生きる、そん な生き方が好きである。損得に対して恬淡であることに憧れる。 私は勇気凜々と我が家に帰って来た。この話は是非とも娘にしておかなくては、と思いつつ。 家へ帰ると娘は勉強もせずに昼寝をしている。何分にもこちらの気分が昂揚している時である から、起きるのを待ってはいられない。ゆり起して話す。寝呆け面で、 「ふーん、ヘーえ」 と面倒くさそうに娘は聞いている。私は話し終えて、 「どう ? 」 娘は生アクビ。 「いい話でしよう。こういう話を聞くと胸がスーツとする」 すると、娘はポソボソといった。 「しかし、暴力はよくない」 「なに」 「静かに話し合えばすむものを、やたらに暴力を振るったり怒鳴ったりするのが佐藤家の悪い癖 だわ」

2. 男の学校

訂正された女性は恐縮して、 「すみません、批判ですか、ごめんなさい。この頃の人はしつかりしてなさって、頼もしいです と謝ったのであった。 ところで集まれば悪口いって過して来た我らダメ世代にも、悪口をいわなくなる時が来た。そ れ以外の話題に身を人れる時が来たのである。 「あーら、 x 子さん、お元気 ? いかが、血圧の方」 「おかげさまでここんとこは落ちついているんだけど。あなたは血圧の方はまだ何ともない 「私はどちらかというと低い方なのよ。でもここんとこ、何だか目まいがして、よくのぼせるの 「いけないわねえ。この間、 xx さんに会ったらもう二年も右腕が上らなくなってるって困って 校らしたわ」 のそういえば私も去年、そんな風で悩んでたのよ。そうそう、△△さんに会ったらねえ、あの方 男 は今五十手で : : : 」 と話は尽きない。やっと愚痴悪口から解放されたと思ったら病気の話。更年期障害の話。それ わー

3. 男の学校

「おっしやらないでね」 女の人の会話に、「ここだけの話だけど」というのがある。私はこの「いわないでね」という やつが嫌いだ。なぜなら「いわないでね」という話には、いいたくなるような内容が多くて、い いたくてムズムズするのを押えなければならないからである。 「いわないでね」といわなければならないような話題なら、はじめからロに出さない方がいい。 自分はいいたい欲望に身を任せ、相手にはそれを封じるなんて我儘勝手すぎるではないか。私は そう思う。 だからある時、私は「いわないでね奥さん」に向っていった。 「私はおしゃべりだからいいます。それで困るならいわない方がいい」 すると「いわないでね奥さん」はむっとした顔になった。なにもむっとすることはないと思う のだが、彼女としてはまさに箸をつけようとしたご馳走を取り上げられた時のような気分になっ たらしい。 彼女は一瞬、眉をくもらせてためらった。ためらって、そしてやめるかと思いきや、

4. 男の学校

蚤は害虫である 二カ月ほど前のことだ。ある大新聞から電話がかかって来て、暴力団員が雑誌のペンフレンド コーナーを通じて知り合った女子高校生を呼び出して乱暴を働いた事件について、私の意見を求 めて来た。 このところ私は新聞、週刊誌のコメントには応じないことに決めている。そう答えると、では 話だけ聞いて下さいという。そういわれるとつい、 「何ですか ? 」 といってしまった。 電話の主は大 ( ん感じのいい声で、気持のいい話し方をする。 「はあ、はあ、なるほど」 はじめのうちはおとなしく聞くだけだったが、相手の感じのよさに引き込まれて、 「だいたいこの頃は一億総発情という感じでね、中年は浮気の話ばっかり、若い男女はポーイフ レンドがほしい、ガールフレンドほしいで湯気が立ってますからね」

5. 男の学校

告訴ばやり ある人がこんな話をした。 その人の知人の家では家の中で愛玩大を飼っているが、ある日、近所の子供が遊びに来て、そ の大の前でお菓子を食べはじめた。家の中だが、大は柱に縛ってあったという。大が縛られてい るのでその子供は安心して、大の近くでお菓子を食べていたのであろう。 そうしているうちに、突然大が飛びついて子供の手を噛んだ。正確には手の中のお菓子を食べ ようとして、手をんだのである。 すると、その子供の親は大の飼い主を監督不行き届きで告訴し、裁判所は罰金一万円を科した。 「大のために前科一犯になったんですー とその人はいって苦笑した。 学 の「この頃はオチオチ、大も飼っていられません」 別の日、別の人がこんな話をした。

6. 男の学校

見かけると逃げ腰になってしまいました。どうか殴るなり蹴るなり、気のすむようにして下さ といったのである。 そこで祖父は「よし」といって立ち上り、そこに平伏している男を、ひと蹴りし、 「十円 ! 」 と叫び、またひと蹴り、 「二十円 ! 」 ついでもう一度蹴って、 「三十円 ! 」そして、 「よし、これで借金は棒引きにしてやる ! 」 と許したそうだ。 「あんたのおじいさんは実に偉い人だったよ ! 」 東光大僧正の声は感極まったかのように抑揚がついて高くなる。私も、 「はあ」 学 の と応えて深く頷く。 男 こういう話を聞くと私の胸は高鳴り、勇気凜々といった気分が体中に漲る。なぜ人を蹴って、 貸した金を棒引きにした話を聞くと勇気凜々として来るのかといわれると返答に困る。つまり「

7. 男の学校

110 彼はむっとしたようにいった。 「こういうことは見て見ないフリをする。それが騎士道というものですよ。男はみなそれを弁 ています。いわないでねといわれて、ぼくはむしろ侮辱を感じましたね」 うん、それはわかる。 「で、あなたはその話を誰にもしなかったの ? 」 「現にここでいっているじゃありませんか」 彼はいった。 「おっしやらないでね、なんていわれなければいわなかったでしようがね」 「いったからしゃべってるの ? 」 「そうです。しかし、いくらなんでも、ご主人にはいいませんよ。男が男に、そんなこといえま すか」 ふーん、なるほど、そういうもんかいなア。これが女だったらどうだろう。「おっしやらない でね」といったもいわないもない。旅からとんで帰って、しゃべってしゃべってしゃべりまくる。 帰るのが間に合わなくて、電話でしゃべる。男には騎士道があるようだが、女には淑女道なんて ないのである。あったとしてもこの興奮の前にはそんなものケシ飛んでしまう。 ところがその話は、やがてその会社の女性社員の耳に人るところとなって俄然嵐が巻き起った。 わきまえ

8. 男の学校

112 「ここだけの話よ」といって彼女らはしゃべりまくった。ひと通り噂が行き渡ってしまうと、当 の上役さんが何も知らないのが気になり出した。上伎さんの浮気奥さんが会社の運動会に出て来 て、ご主人と二人三脚をして一等賞品を貰った時、彼女らのロはムズムズして、胸はしゃべりた い欲望に湧き立った。そしてついに勇気ある一人が部長さんにいいつけた。すべては明るみに出 て、浮気妻は離婚された。 女がいかにおしゃべりかがこの話でわかる、というと、いや、おしゃべりではなく、それは正 義心のためです、といった女の人がいる。と、傍から男性がいった。 「それは女がいかにヤキモチやきかを表わしているようですね。女は他人の浮気にもヤキモチを やく」 そして、だから女はこわい、と男はいい、だから、男は油断出来ない、と女がいったのであっ

9. 男の学校

主婦の楽しみ かねてから私がふしぎに思っていることは、世の中の奥さんたちが、ご亭主の日記や手帳を一 み読みすることである。 「主人の日記を読んだら」とか「手帳を見たら」という話を、今までに何人の奥さんから聞いユ か、数え切れないほどである。たいていの場合、そこから探り出されたことは浮気の気配やマ , ジャンの負債額である。 「主人の日記を見たら、こんな善行をほどこしていたのよ」 なんて話は一度も聞いたことがない。すべて奥さんの怒りのタネとなるようなことばかりで、 世の夫族はなにゆえ、家庭争議の元となるようなことをわざわざ書き止めておくのか、そのこ 1 学も私はふしぎでならない。そのようなものを見れば、不愉快になることはわかっているのに、 のえて不快のタネを探し出すその心境も不可解である。 私がそういうと、奥さんたちはこぞって、それはあなたが今、日記を盗み見しなければなら い夫を持っていないからだ、といわれた。しかし私は二度の結婚生活を経験しているが、かっ

10. 男の学校

つい、合いの手を人れてしまった。勿論、私は会話のつもりであって、コメントしているつも りはない。しばらく話し合って電話を切った。 数日後、私は雑誌社の人から、 「 x x 新聞にコメントを出しておられましたね」 といわれてびつくりした。コメントは一切しませんといい切っていた人間が、 x x 新聞には応 じている。 xx 新聞は大新聞であるから応じたのであろうと権威に屈したかの如くにいわれると 面白くない。 「話だけ聞いて下さい」といわれた時に話だけ聞いて、ただ「ふむ、ふむ、ふむ、ではさよな ら」とだけいっておくべきだったのだ。余計な感想を口走ったのがいけなかった。しゃべったか らにはコメントに応じたものと相手は見なしたのであろう。しかしそういう場合は最後に、 「では今の言葉を記事にしていいでしようか」 と念を押すべきではないだろうか。 「欺し討ちだ ! 」 学私はいきまいた。欺し討ちのつもりではなかったのであろうが、怒っていきまく時は人はすべ のてこのように ( わかっていて ) 大袈裟にいい立てるものである。 それくらいのこと、いちいち角目立っていい立てるほどのことじゃない、といわれるムキもあ つのめ