赤ちゃん - みる会図書館


検索対象: 神の汚れた手 下
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1. 神の汚れた手 下

妬ると思うよ。当人は知ってても、世間には養子だと知られない方法があればいいん ) よな」 「そういう養子ならいやだ、という人と、うちの子供たちが結婚しても、決してしわせにな らないです。ですから断られる方がいいです」 トーマスが言った。 「全くおっしやる通りですな、トーマスさん」 「貞春さん、あなたは香苗ちゃんが、生みの親のはっきりしない子と恋愛関係になたらどう する ? 人物はいいけど、生まれだけ、はっきりしない場合 : : : 」 「僕あ、許すね」 「、なぜ ? ・」 筧徭子の声は、貞春を決して信用していず、試しているようにしか聞こえなかっ ) 。 「そうねえ、何か高級な人道的な理由でもあるかと思ったけど、考えてみたら、何なかった よ。ただ、しいて言えば、可哀相だからかな、香苗もその相手も。僕だって、生み親調べら さんたん れたら、惨憺たるものだしね」 筧徭子はふと黙った。貞春が奇異に感じて酔眼を向けると、徭子は素早く目尻のるものを、 指の先で拭い消しているところだった。 トーマスは、一度貞春に、その赤ちゃんのお母さんかお祖母さんとでも自分たちコミュニ ティを見に来てくれ、と言ったのだが、 貞春はずっと生返事をしていた。大体が内慶で、外 出が嫌いである。いずれ手続きは必要なのだから、県会議員をさし向けよう、と思た。そし 、まっと てトーマスが、紅茶一ばい飲んだだけで、にこにこしながら帰ってしまうと、内こ

2. 神の汚れた手 下

たんだ」 「すみません。ここのところ病院通いで少し疲れてたもんですから」 「いいんだよ。眠るのは、ちっとも悪くない。だけど赤ちゃんの具合がね、あんまりよくない んだ」 貞春は言った。古河安子はそれほど大きな動揺は示さなかったが、 「赤ちゃん、そんなに小さかったんですか ? 」 と尋ねた。 「ううん、二六〇〇だから、それほどじゃないけど、二五〇〇未満は未熟児ということになっ てるから、まあ、ぎりぎりだね。それに生まれてから後、どの赤ちゃんも、生理的な体重減少 があるから、今日あたりは、二五〇〇を割ってるかも知れない」 みつくち 「だけど、それだけでなくて、赤ちゃんはかなりひどい兎唇なんだ。それと目も悪い」 古河安子は相変わらず無言のままだった。 「僕はあなたがしつかりした人だし、このことをちゃんと認識できると思うから話すんだけど ね」 貞春は古河安子に言った。 「赤ちゃんを連れて来て見せようか ? 」 古河安子は頷いた。ちょうどその時、貞春の後を追って、婦長が入って来たので、貞春は、 「古河さんの赤ちゃん、連れて来て上げてよ」 うなず

3. 神の汚れた手 下

相手が日本語で喋ってくれたので、外国語嫌いの貞春はやれやれという気分になった。 「先生のところで、赤ちゃん、生まれたですか」 トーマスは、席に着くと、早速貞春に尋ねた。 「生まれたんです。筧さんから聞きましたか ? お母さんにも、ハンディキャップがあります」 「赤ちゃんも、それで病気ですか ? 」 「それはわからんですね。大きくなってみないと」 「大きくなってのことは心配いらないです。生まれて、今、すぐ病気なら、治さないといけな いでしよう。しかし、将来のことなら、大てい大丈夫です」 「貰ってもらえますか」 「もちろんです。今、病気でもかまいません。お医者さんに診せて治します」 「しかしだなあ」 貞春は突如として、いつもの口調になって言った。 「これは日本人から見たら信じられないことなんだなあ。僕が本当のこと言ったら、日本人が 誰一人として貰わない子を、どうしてトーマスさんは、貰ってくれるのかな」 と貞春は思いつつ、どうしてもうやむやにしてはおけ 霊そういう質問はロにすべきではない、 を よゝっこ。 て / 、カ子 / す「それは簡単です。私は、その赤ちゃんに選ばれたからです。私たちは、その赤ちゃんの近く に住んでいました。その赤ちゃんが生まれた時、先生は私のこと、思い出してくれました。偶 しゃべ 大分、問題のある子でしてね。お父さんにも

4. 神の汚れた手 下

れたら目方が少し足りないから、哺育器に入れてある、と言っておいてくれないか。それから、 この子のお父さんが来たら僕に知らせて」 「かし一十 6 り・ ( した」 貞春はそのまま診察室に下りた。患者を予定より三十分も待たしたことになる。 「困った赤ちゃんが生まれたよ」 貞春は中屋敷に一一 = ロった。 「ひどい奇形なんだ。後で見ておいてくれないか」 。し」 ふと貞春は自分が、中西映子の中絶した赤ん坊を、自分のところで「生まれた」赤ちゃんの 一人に数えていたことを感じた。中西映子のことがあったから、当分うちでは、確率として奇 形などできるわけはないと思っていたのだ。他人の不幸を、貞春はそんなふうにして利用して いたのであった。 翌朝ミーティングの時に貞春は、 「古河さんはどうかな ? 」 と夜勤の看護婦に尋ねたが、 「古河さん、出血その他、異常ありません。赤ちゃんも異常ありません」 のとい , っことだった。 タ「昨日、旦那さん、赤ちゃん見に来た ? 」 ししえ、どなたもお見えになりませんでした。、 こ主人はあいにくご出張だそうで、上の子供

5. 神の汚れた手 下

砂場や、運動場はあるんだけど。人形もなかったような気がしたね」 「赤ん坊が人形代りですか」 「うちの子のすぐ上が、二つ半だ 0 て言われたけどね。その子を育てたのが、殆ん・、 ) こ , つい , っ お兄ちゃんお姉ちゃんたちですよ。お 0 ばい飲ませるんだ 0 て、離乳食やるんだ 0 、皆上の 子たちが当番でやるんだそうですよ」 「うんざりしないかなあ。親の趣味でそんな子守りさせられて」 貞春は思わず、慎しみのない声をあげた。 「それがね、先生、そうじゃないんだよ。私も見て驚きましたがね。初めてのお 0 。いの時間 けんか になったら、誰がそれやるかで、喧嘩になってた。しかもその喧嘩が英語だよ、先」 その言い方がおかしくて貞春は笑い出した。 「とにかく、ここのところ、小ちゃい子がいなくな 0 たもんで、うちの子は、皆の。ットにな 0 たみたいでしたよ。トーマスさんの奥さんが、何曜日に誰がおつばい係りって、、めてたけ どね。子沢山だって、あんなふうにして育って行くんだ 0 てこと、我々は忘れちまたんじゃ ないかね。少し教育行政の面で、そういう点も考えて行かなきゃいけない、 0 てつづく思い ましたよ」 「それで、あのお母さんの方は子供あげて来てしまって平気でしたかね」 貞春は奥山県議に尋ねた。 「それが、あまり平気でもないらしか 0 たね。おもしろいもんだね。トーマスさん。別れる時 に、《お母さん、いつでも会いに来て下さい》と言 0 たけど、うちはもうトーマスきんに、あ

6. 神の汚れた手 下

Ⅷ「お玄関の所まで、私が都ちゃんを抱いてまいります」 大久保婦長がいうと、ロウリー夫人はまるで日本語がよくわかるみたいに、 頷い婦長に子 供を預けた。貞春はロウリー夫妻と先に立って歩いたが、後で婦長と並んで歩いて、る潮田が、 「ミコたん、ミコたん、いい子になって、英話覚えるのよ」 と小さな声で言い聞かしているのを聞いていた。 「ミコたん、大きくなったら、お姉ちゃんたち覚えてないねえ」 「でもババやママが話して下さることは、覚えてなくてもわかります、ってね。都やんはお りこ , っさんだから」 婦長が代りに答えている。 外に出ると今日は夏には珍らしく、空気が澄んでいた。空には星がゴミのようにらばって 見えていた。 「筧さんが運転して来たの ? 」 「そ , つよ」 赤ん坊を抱きとったロウリー夫妻が後の座席に乗った。都の財産を入れた紙袋をロウリー 氏は足許に置いた。 「ミコたん、バイハイ」 「おりこ、つにするのよ ! 」 貞春は早く車が出てくれないかと思いながら、笑顔で立っていたが、 すぐ傍に白、ハマュウ の花が、今日ほど適切な無言の証人のような表情で咲いているのを見たことはなかった。

7. 神の汚れた手 下

貞春は、もう一つ、自分に関係のありそうな疑念だけは奇妙に忘れないのであった。 「ロウリーさんたち、いっか筧さんと南米に行った時、《未婚の母》の家にいたサリドマイ いくらなんでも、もう一人は ド・ベビーを貰っちゃったんじゃないの ? その子を貰ったら、 貰ってくれないだろ」 しいえ、サリドマイドの赤ちゃんは貰わなかったんですって」 「やつばりなあ」 貞春は、やや悪意をこめて言ったが、徭子はそれをさらりと受け流した。 「貰おうと思ってたら、先に別の人に貰われてしまったんですって。半日の差で、先に約束が って言われたらしいわよ」 できてしまったので、あなたにはあげられない、 いくら美人の赤ちゃんでもそんなに売れ口があるのかなあ」 「へえ、大したもんだね。 貞春はまた、直しみのない言い方をした。 「それはね、信仰のある人から見たら、普通の子を貰うより、そういう赤ちゃんをしあわせに する方が、ずっとやりがいがある仕事だからなのよ。つまり、同じ社長になるなら、資本金百 万円の会社より、百億円の会社を経営する方が、男の人だったら、名誉だし、おもしろいと思 , つんじゃない ? 」 「僕はまあ、怠け者だから違うけど、一般的に言えばそうだろうね」 「サリドマイドの場合だって同じなのよ。普通の子供なら、誰にでも育てられる。だけどサリ ドマイド・ベビーなら、それだけ配慮も労力もいる。同じ子供一人育てるなら、その分だけ神 さまは喜んで下さる。つまり得なわけなのよ」

8. 神の汚れた手 下

せと言われたから、私、ここを退院したら、もう主人の所へは帰らないつもりです」 貞春は、空いているもう一つのべッドの付き添い用の椅子に腰を下ろした。 「私は別に、あなたの個人的な秘密を訊こうというわけじゃないけど、赤ちゃんの大きさにつ いて、どうしても僕の診たところと合わないところがあった。それを、僕は一度確かめたいと 思いますよ」 早希子は黙っていた。 「人間的な関係はどうでもいいんですよ」 貞春は言いそえた。 「よかったら、あなたの最終の生理がいつだったか教えてくれないかな」 しばらくためらった挙句、門司早希子は目を天井に向けながら答えた。 「二月五日でした」 貞春は小さな円型の計算器をポケットから取り出してみた。 「合ってるんだな、やつばり」 今日で二十四週、六カ月末までという規定きりきりであった。 「主人の子じゃないんです。お腹の赤ちゃんは : 人 「なぜ、その人と結婚しなかったのかな。好きなら、門司さんをふってそっちへ行けばよかっ てたでしょ , つ」 す「その人は、結婚できるような人じゃないんです。同棲してる奥さんみたいな人は、いるって 言ってましたけど、結婚なんか誰ともする気はないけど、ただ、私みたいなタイプが好きだっ

9. 神の汚れた手 下

、早速、佐藤の家の方から電話を致させます」 貞春は、それ以上、情緒的な話が出ないようにして、電話を切ってしまった。しかし、五分 も経たないうちに、電話は再び鳴った。 「私は逗子の小松の娘婿になります佐藤でございますが」 赤ん坊の祖父かららしかった。 「いつもいろいろとお世話になっております」 一一 = ロ葉の調子に、これが山陰なのかと思わせる丁重さと柔かさがあった。 「都を貰って頂けるよい方をご紹介下さいますそうで」 「いや、まあ、いい方だろうと思うんですけどね。弁護士といえば、アメリカでも知的なエリ ト階級だそうですから」 貞春は筧徭子から聞かされていた話をうけ売りした。 「初めにお確かめしておきたいんだけれど、佐藤さんご一家は、あの赤ちゃんをよそへ上げる ことにご反対じゃないんでしようね」 「それはもう、反対じやございません。実の親は育てられるような状況ではありませんし」 道「お嬢さん、というか、赤ちゃんのお母さんはどうです ? 時々思い出してめそめそしている かというようなことはないですか」 「相手の男も、転校して行ってくれましたし、今はもう悪い夢だったという程度にしか思い出 陽 タ さんのじゃないでしようか。バスケット・ポールに夢中になって、毎日、真黒になって帰って 来ております」

10. 神の汚れた手 下

いて喋った。 「とにかくその女、赤ん坊がもう出かかってるっていうのに、おばあさんのつきそいの手順が ついてないから、お産延ばせないかと一言うんですからね。普通の人間の心理としたら、早く生 んで身軽になりたいと思うもんだけどね。よっぱどなんだよな」 「そのお母さん、奇形の赤ちゃん見た時、どんなでした ? 」 「何だか、きよとんとしてましたよ。おつばい飲まそうとしても、鼻まで裂けてるからうまく いかないしね。その後で、やっと泣いた。全く、あれを見てるとね、健康な子供を持った世の 中の親共に言ってやりたいね。学校の成績が少し悪いくらいでぐちゃぐちや文句一一 = ロうな、って 「しかも、親が自分で努力して健康な子生めたんじゃないのよ」 筧徭子が言った。 「中西さんを見てごらんなさい。あれだけ努力しても、健康な赤ちゃん、授からなかったん だから」 貞春はにやりと笑った。 「僕、信仰ないけど、その点になると、筧さんに言い返す方法ないんだよね。親は子供生むの にちょっと手を貸すだけでね。性行為っていうのは、あれ神さまが人間に払う労賃かね。後は どんな子が生まれるか、神のみそ知り給うだよ」 ー・トウ・ヒム》と 「プレスリーの歌にまさにそういうのがありますよ。《ノウン・オンリ , つの」 しゃべ ひと