気 - みる会図書館


検索対象: 結構なファミリー
190件見つかりました。

1. 結構なファミリー

「そんなら、わたしの行きつけの美容院へ連れて行ってあげるわ。その人やったら親切で 気のさつばりした、それは上手な人やから : : : 」 「そう ? そんなら、朝からひとまずあんたのとこへ行って、静ちゃんのとこで支度させ てもらおうかしら」 「そうしなさい、そうしなさい。それにしても、あんたとこのヨメさん、今回はえらい気 を遣うてくれてはるのね」 「そうやねン。よっぽど、わたしを追い出したいらしいねんわ」 しかし気を遣ってくれてるとはいうものの、そんな大きなカッラをかぶせたがったり、 あのド派手な花菖蒲の訪問着を着ることを勧めたり、なんやしらんすることなすこと気に 人らんョメです。もしかしたら、追い出したい気持の一方で、お加代さんを喜劇仕立にし て、破談になったらオモロイ、と思てるのやないやろか ? つい満子にそういいますと、 「おばあちゃんはまた : : : すぐにそういう勘グリをする : : : やめなさいよ、そんな考え方 といいながら、クスクス笑うてるのでした。 カッラをかぶるのはやめて、お加代さんはわたしの家で支度をすることに話は決りまし た。わたしはわたしの持ってる着物をあれやこれや簟笥から出して、お加代さんに似合う

2. 結構なファミリー

「あのねえ、小百合さんのこと、おきれいで賢こそうなお嬢さんですねえ、というたらね え、いや、あの孫はなかなかの論客でして、わたしはいつもマゴマゴしてます、とかね : それからそうそう、コーヒーの時、角砂糖を人れてあげようと思て、『おいくっ ? 』 と訊いたらそしたら『八十二』やて ! クク、ククク、面白い人でしよう ? 八十二てい うのは、あのお方の年なんやわ、ク、ク」 そんなこと説明してもらわんでもわかりますがな。けどそれがクク、ククク、と笑うほ どおかしいことかいな。 「それで、あんた、気に人ったんね ? 」 というても、フフフフと笑うてる。 「先方さんはどない ? 気に人らはった様子 ? 」 「さあ ? : : フフフ、けど、加山さんにお電話したら、武林センセがカクテル奢らはった なんて、よっぽど村山さんのこと気に人られたんですよ、とかいうてはったけど、フフ 「「それでどうするの ? 今後 : : : 」 な「それではまたお会いしましよう、て、別れ際にいわはったんやけど」 しばら 結「暫くおっきあいするんやね ? 」 「そういうことになるんやろうねえ : : : フフフ」 おど

3. 結構なファミリー

く同じだ。 もし他人だったら、絶対につきあわないだろうという種類の人間がなぜか家族。なぜ だ ? と叫んでも、家族だから一緒に暮らしていくしかない。大ばあちゃんは離れがあっ て羨ましい。同じ家の中にいて、気にするまいと決めても、気にならないのとは違うから、 ストレスはいやが上にも高まる。 ちゃっかりしていて、あけすけで、やけに自分に自信があって、冷めた目で人をみてい るくせに、自分自身には思い切り甘い孫の里美のような女の子。迫力がなく、一体全体何 を考えているのかわからないくせに、大人の妙な面だけは先取りしているような男の子。 二匹の白狐と大ばあちゃんが名付けた双子の高校生は、その辺にうじゃうじゃいる。何を 隠そう、わが家にも一匹いる。 「今日の己に明日は克っという美空ひばりの歌みたいなアンタに、どうしてこういう子が 生まれたかね」と友人は不思議がるが、親である私は不思議を通り越して呆然とする。 何かしようという気はさらさらなく、高校生活とはただウダウダできる三年と信じてい て、ゲームして、 0 聴いて、携帯でのべっ友達と長々としゃべっている。聞いてるとハ ラワタが煮えくり返る。 「何してんだよ」「飯、もう食った ? 」 そんなこと電話でしゃべることか ? 初めて電話が家に人った日、それこそ緊急連絡の ための道具という目で、黒々とした受話器をおそるおそる眺めたものだ。わざわざ「飯、

4. 結構なファミリー

場合じゃないでしよう ! 」 とカナキリ声で怒ってる。ついこの間まで、 「受験受験って、みんな血マナコになってるのを見ると、うちの息子みたいに暢気にして いるのは、いっそ頼もしいわ」 ニコニコしていうてたんですがな。 これは普通ゃないな。何かおましたな。 わたしはそう思って、それとのう母屋の様子に気を配ってました。そしたら里美が離れ へ来て、 「大ばあちゃん、この頃ママ、機嫌悪いでしよ」 といいますねん。 「どうしてだか知ってる ? 」 「気がっかんかったけど、何ぞあったんかいな ? 」 とぼけていうてやると、里美は一一一只 「飯沼マダムのこと」 という。わたしは思わず緊張して、 「飯沼はんがどないしましたんや ? 」 「。ハ。ハとデキちゃってるのよ、あのマダム」 のんき

5. 結構なファミリー

までいるから、遊びに来んですか、と誘われたといいますのや。 うわ 「それでねえ、昨夜は眠らんと考えたんよ。除夜の鐘かて上の空で聞いてたの」 とお加代さんは睡眠不足のせいかしんどそうな声でした。 「何も考えるほどのことやないやないの、行ったらよろしいがな」 わたしがいうと、 「あんたは簡単にそういうけど : : : 」 うら と妙に怨めしそうにいいますのや。 「いざとなったらそう簡単なことやないのよ」 「なに ? 息子や嫁さんの気イ兼ねてるの ? 」 「いや、そんなことはないけどね。そのこと息子にいうたら、ニャーツとして『おばあち ゃん、二度目のハルやね』というのんよう・ かげ 「二度目のハル ? 『お陰さんで』ていうてやったらええやないの」 「嫁がまたニターツとして、おばあちゃん、婚前旅行ですか、やて : : : 」 「婚前旅行 : : : 」 構「わかる ? 」 「わかりますよ。よろしいやないの、婚前旅行。誰にも遠慮気兼いらんでしよ」 「けど : : : 」

6. 結構なファミリー

と尋ねると、また、 「ク、ククク」 と笑う。つまるところ、お加代さんは朝から嬉しい気持でいつばいになってるらしいん でした。つまり武林さんが気に人ったんです。あの白猩々が気に人ったんですがな、お加 代さんは。 「あのねえ、あれから二人でお食事してねえ、それからホテルの。ハーで、わたしカクテル いただいてそれからお別れしたんよ。カクテルなんてわたし、生れてはじめていただいた といつまでも笑っている。生れてはじめてカクテル飲んだことが、なんでそうおかしい のんか。 わろ 「武林さんいう人、笑たらソンという顔の人やったけど、気詰りゃなかった ? 」 といいましたら、 「うううん、それがちがうねんよ ! 」 はず お加代さんの声は弾んで、 「それは面白いこと、次々にいわはるの。冗談やしゃればっかりいうて、わたし、笑うて ばっかりやったの」 「しゃれを ? どんなしゃれ ? 」

7. 結構なファミリー

134 注文してからゆっくり店の中を見渡しました。けどどの椅子見てもショールがおません。 なんぼ上等のショールでもお便所にまで持って行くということはないやろに、と思いなが らキョロキョロしてますと、圭彦がぼつんといいました。 「この店、親父は気に人ってるらしいけど、あんまりうまかないんだよね」 「え ! お父さん、ここが気に人ってる ? 」 「うん、うまかないけど、安いから時々来るんだけどさ。親父に二度ばかり会ったよ」 「お父さんに会うた ! 」 「二階に座敷があってさ、そこの窓から表見てたこともあるよ」 「窓から外見てたア ? 二階のオ ? ソレ、なんですねん」 と思わず詰め寄る。 「なんで二階にいますねん」 「二階が好きなんだろ」 圭彦はあっさりいい、 「おばあちゃんて、どうしてそう、どうでもいいことにこだわるんだい」 うるさそうに横を向いたんでした。

8. 結構なファミリー

「いやらしいこと ? どうして ? 結婚には当然、セックスが伴うでしよ。結婚する気に なったのは、やりたいからでしよ」 やりたい ! 「何ちゅうことをいいますのや」 「だって本当のことだもの。男は幾つになってもやりたいのよ、大岡越前守のお母さんは、 いったい女は幾つまで性欲があるのかと聞かれて、黙って灰を指したっていうじゃないの。 灰になるまでって : : : 男も女も同じなのね」 いんらん 大岡越前守は立派な人やと思てましたけど、そんな淫乱の母親がいたとは知りませなん だ。灰になるまでやて ? あほらしい。あんなメンドくさいこと、この年になったらもう したいと思いませんわ。 里美は厚顔無恥にも、「大ばあちゃんだって性欲あるんでしよう ? 」 といいます。 「そんなもん、おません ! 」 きつばりいうて、さっと立ってお風呂に人りました。お風呂につかってるうちに、お加 代さんはあのことをどう思てるのやろう ? と気になってきました。お加代さんはがんも どきと里芋の炊き合わせのことばっかり考えて、「あのこと」は頭にないのかもわかりま せん。

9. 結構なファミリー

「それはお加代さん、結婚というより家政婦代りやね」 といいました。 「女房やったら、月二十万もかからへんもんね。これはちょっと考えもんやよ」 うわ けれどお加代さんは「そうかしらん」と上の空でいい、 「写真見たら、なかなかの人やねん」 という。どうやら気が動いてるらしいんです。先方はカラオケ大会の時のお加代さんの 写真を見て、 「ほーお」 というたんやそうです。 「ほーお、といわはったんやて。ク、ク」 と嬉しそうに笑います。昔は美人やったけど、今のお加代さんは痩せてシワシワの黄黒 うなってしもたおばんです。財産というて何もない、年金は食費として息子に取られてる。 八十二のおじんの安上りの家政婦にされることは目に見えてるやおませんか。 けどお加代さんは、「どうなるかわからんけど、いっぺん見合してみよかと思てるの ん」といい、悪いけど、静ちゃん、見合の時、ついて来てくれへん ? という。 「そら、ほかならんお加代さんのことやから、ついて行ってもええけど、あんた、ほんま に乗気なん ? 」 きいぐろ

10. 結構なファミリー

171 結構なファミリー 「そう見えません ? ハハハ」 と厚化粧はええ気になって笑うたんでした。