今堀和友著 老化とは何か 岩波新書 29 / 1 yruf
うことになりますが、これは不可能な話です。ェイジレスとは私の定義の後半部分、すなわち 機能の低下をできるだけなくそうという意味だと思えばよくわかります。 この定義の「加齢に伴う」の「伴う」に慎重な意味を盛り込んだつもりです。加齢に比例す るのではありません。ですから年齢によって機能低下の程度を正しく判断することはできない のです。それでも決して年齢と無関係ではないのです。これを「伴う」と表現しました。老化 と年齢との関係はこの程度のことであると了解していただければよいと思います。 老化は細胞のレベルで理解できるか 生命現象には種々ありますが、これを研究する場合、なるべく簡単な材料で研究できれば楽 る えですし早くもあります。遺伝という生命現象を司る遺伝子というものは、メンデルがエンドウ 黝豆を材料にして行った研究からその存在が推定されていました。・その後、肺炎双球菌というバ を クテリアを材料にした研究から、遺伝子の実体はどうもらしいと推定されたのですが、 老 本当にそうだということが決定されたのは、最も単純な系であるバクテリアに感染するウイル ス ( バクテリオファージ ) を材料にしての研究からでした。
には、科学的に信頼できるだけのものはほとんどなかったといっても過言ではないでしよう。 そこで、これからは本当に科学的な調査の話と、それに基づいた老化防止の方法について少し 述べたいと思います。 疫学とは 老化防止の因子を探すための科学的方法というのが「疫学」と呼ばれるものです。疫学の疫 は、昔「疫痢」という病名があったように、流行病のことです。ある村に流行病が発生したと しましよう。その原因はどこから発生したのかを発見するにはどうすればよいでしようか。そ れには村の地図を書いて、発病した患者の住んでいる場所を点で示し、併せて発病日を書きま す。このような調査地図を作りあげ発病日の新しいものから古いものへとたどってゆくと、必 ず村の中のある一点へ集約してゆきます。これが発現地なのです。 流行病とは限りません。有名な水俣病の原因が化学工場から出る有機水銀だとわかったのも 同じ方法によったのです。この場合は大変な作業でした。最初は発病の原因がまったくわかり ませんでした。同じ場所に住んでいても、発病する人もしない人もあるのですから、伝染病で 172
分裂ができない理由にもいろいろありますが、老細胞の細胞質を加えると、期での QZ< 複製が起こらなくなることも判明しました。 そこでいよいよ老細胞質と、若細胞質とを比較して、老細胞質だけに含まれる ZZ< 合成阻 害物質を探索した結果、フィブロネクチンと呼ばれるタン。ハク質が候補として登場して来まし た。しかもさらに精しく調べてみると、分裂寿命に近づけば近づくほど、フィブロネクチンの 量が増加してくることがわかったのです。 フィブロネクチンというのは、細胞内にあって、その形状を保持するのに重要な役割を果す 物質と現在のところ考えられています。これが細胞の老化とどう関連しているのかよくわかり ませんが、極めて興味があるのは、不死細胞すなわち老化しない細胞であるガン細胞では、こ のフィブロネクチンが極端に減少しているという事実です。このことからも、フィブロネクチ ンが細胞分裂を阻害する作用があることが推察されます。 細胞はなぜ死ぬのか 器官の萎縮を細胞増殖の低下と、細胞死の上昇の両面から考えることにし、前節では細胞増
0 8 00 0 0 田 0 0 分裂寿ム 0 0 0 00 冐 0 0 00 0 0 0 0 0 8 0 0 0 叩 3 ( ) 80 80 0 8 0 0 0 0 0 0 0 0 す。あるいは老細胞と若細胞とを比較して、 回老細胞では QZ<< に変異が起っているとか、 ~ 命できそこないのタンパク質が多くみられる 間寿 とか報告した人もあります。このような研 の 究は「細胞老化」といわれましてかなり流 胞 行したのでした。しかし、シャーレ上の細 の 引 2 胞を用いて老化の研究をするのには問題が ~ 者 供者すあることに気をつける必要があるでしよう。 提与示 ~ 胞供を分裂寿命とか、分裂余命とかいった場合 細の係 齢関に、細胞の分裂回数で時間 ( 齢 ) を置き換え ~ 年の こそ て議論しているわけです。分裂回数を重ね 示てることと、齢を重ねることとが同じである ー田ル」 にかは大変問題のあるところです。図 7 の縦 7 縦軸は最大分裂余命に相当するのですが、細 図を 胞によってこのように大きなバラッキを示
はありません。自制していただけのことです。だから条件を変えてやれば増殖を開始します。 ノクテリアのような細胞は無限に増殖できる能力をもっているわけで、前に「不死細 、わ「从、ヾ 胞」といったのはこの意味でなのです。このような不死細胞は当然老化しませんから、これを 用いて老化の研究をすることは不可能です。 では次に、私たちの身体を構成する細胞の場合はどうでしようか。例えば胎児の肺の細胞を とって来てシャーレの中で培養しますと増殖が起 糖菌 ウ腸 りますし、シャーレが細胞で一杯になると増殖を プる止めます。ここまではバクテリアの場合と同じこ 線お とです。次にこのシャーレの細胞のごく一部だけ 殖中をとってバラバラにした後新しい培地の上にまい 時アだて培養しますと、また増殖を始めます。ただし ( リん経 リクテリアの場合とちがって、無限には増殖できな テ含Ⅲ クを時 ヾとの いのです。 糖殖 6 果増 このような培養 ( これを継代培養といいます ) を 図との つづけてゆくと、ある一定代数になると細胞はま
ことが必要なのです。外国には「寝たきり」はないとよくいわれます。それはどんなに痛がっ ても、少なくとも車椅子に乗せて食事したり、排便したりするくらいのことはさせる。また本 人も独立心が旺盛ですから、なんとかして一人で自分の身の始末をしようとする。 ですから、身体の弱った親を大切にして、寝たままで食事を与えたりするのは、決して親孝 行ではなくかえって親不孝になるのです。 以上を総合すると、老化防止に対し明確に効果があるのは「栄養」と「運動」だけというこ とになります。それ以外の因子についてははっきりした因果関係はこの疫学調査からは得られ ませんでした。煙草とガンの関連性は到るところで強調されています。しかし、齢六十五歳を 過ぎてから禁煙してもガンの発生防止にどれだけ効果があるか疑問視されるところです。むし ろ循環器に悪影響をもっと思いますが、疫学調査では煙草ととの間には関連性は認めら 究れませんでした。飲酒との関係も同様です。一日二合くらいまでの飲酒は血行をよくしてかえ 研って老化防止によいという説もありますが、この調査ではそのような積極的な関係は出ません 学でした。 疫 195
老化防止は自らの手で 老化して身体の機能が低下してくると、何事をなすのにも手間どり、うまくゆかず、面倒く さくもあって、とかく人に頼りがちです。しかし、これから真の高齢化時代が来て、全人口の 四分の一が老人ということになると、とても充分な介助は期待できないでしよう。これからの 老人は自らの努力によって、健全な老後生活を守ってゆかなければならないのです。 例えば前節の骨粗鬆症のところで、身体を動かすことが大切であり、車椅子に乗ってでも食 堂へ行く、せめて自分で起き上って食事することが大切であると申しました。そのためには強 い精神力が必要であり、「自分のことは何としてでも自分でやろう」という決意が必要です。 それに加えて実は一つ大切なことがあるのです。自分は車椅子で食事に行くつもりでも、車 椅子が自由に使える家は日本にどれだけあるでしよう。 四十歳代になるとみな自分の家を持ちたがりますし、持とうとする人も多いのです。しかし その時、どれくらいの人が自分の老後を考え、車椅子が自由に使えるよう設計するでしようか。 逆に部屋を小さく区切り、時には和室と洋室との間に段差さえつけた、凝った設計をするので 196
も、低すぎると、ともに脳卒中を起しやすいことは、前に述べた、「これらがともに栄養状態 の反映てある」という考え方を支持しています。 栄養としてもう一つ強調しておかなければならないのがカルシウムです。すぐ後で骨粗鬆症 という病気の説日 月をします。骨が溶けて骨の壁が薄くなるのですが、高齢化により、特に女性 に多発します。これを防止する方法の一つは骨の成分であるカルシウムを積極的に摂ることで す。カルシウム源としては魚の小骨などもよいのですが、最も手軽なのが牛乳です。牛乳の中 に含まれるカゼインというタン。ハク質には大量のカルシウムが結合しているからです。このカ ゼインを濃縮したのがヨーグルトなのですから、前に述べたようにヨーグルトは老化予防に有 効だと思います。 次に表 9 で述べた運動能力と死亡率に関する結果について、もう一度考えてみましよう。前 にこの表を使用したのは、運動能力を生理的機能の代表とし、その低下がいかに寿命に関連し 究 研ているかという点についてでした。 学しかし、これは逆に見ることもできます。すなわち運動は老化防止の因子であり、正常に動 ける人は運動をよくしているから生存率が高く、運動しない人は死亡率が高いという考え方で す。 191
男女 147 男女 331 男女 144 343 541 156 人の生理的機能の表現ですから、 齢 プ齢集 年 一年京稿 »-a 値が下がるというのは生理的機能の , 東予 グが 減退を意味することになります。この 合こ囲 ′ 1 人 氏高割 意味からいっても、このは老化 コのの座 度の。ハラメーターとしてはますますの ヒ日一 レ ものだと考えてよさそうですね。 前に、老化とはあくまで生理的機能 ロ 日 下男ト の減退であり、年齢や寿命とは直接関 氏侃低をン や ~ 〕蟐ゼ係するものではないと力説しましたが、 総丿わ回 図そのものはこれらの間にはある程 度関係があることを示しています。 活殪よ吮 さらに表 8 には、連動機能を、「正 生たの究 常常しど研 常」、「家の中では普通に歩ける」、「つ 正日下に合 低も総 , やと人りかまり立ち」、「いざる」、「まったく歩 図やと老よ けない」、の五つの段階に分けていま 6()-69 179