構成はユダヤ系の人が多い。したがって前と同じ某月某日マイアミで死亡した人の統計をとる と、ユダヤ系の人が圧倒的に多い。この二つの統計調査をそのままつなぐと、「生まれる時は スペイン系で死ぬ時はユダヤ系」という、とんでもない結果になってしまうのです。 同様な誤りは疫学調査ではいくらでも起こりうることです。例えば、前に例に出したグルジ アの人は長命の人が多い。またグルジアの人はヨーグルトを食べる人が多い。この二つの調査 から「ヨーグルトは老化防止に有効である」という結論を出すという話です。前はグルジアが 決して長寿国でないことから問題を提起しました。しかし仮りに長寿国であったとしても問題 なのは「グルジアで長命の人がみなヨーグルトを食べているのか、短命の人は食べていないの か」です。そのことがわからないで、上のような結論を出すのは誤りであることはすぐおわか 、り一で 1 しよ、つ。 ここで明らかにしておかなければならないのは、疫学調査というものには横断的調査と縦断 究 研的調査があるということなのです。横断的調査は最も普通に行われる調査で、グルジアの平均 学年齢が高いとか、マイアミの出生率はスペイン系の人が高いとかいった調査です。そしてこれ ら二つの横断的調査の間に因果関係を求めると、とんでもない結論が得られる可能性があるこ とは先に指摘した通りです。 175
ンピ、ーターでいうならば、インブットしてある情報量が多いし、またそのデータを処理する ためのソフトも多種類そなえているからということになります。 この老人の経験による智恵と同様、古来からのいい伝えで今日でも非常に役に立つものはた くさんあります。風邪を引いて発熱した時、一番よい療法は「頭寒足熱」、身体を温め、頭を 冷やす。これが一番有効な方法なのです。 老化防止についても、種々のいい仁えがあります。例えばコーカサスのグルジア地方には百 歳以上の老人がたくさんいて、みんな元気だ。彼らはヨーグルトを食べている。だからヨーグ ルトは老化防止に効くに違いないといった類いのものです。 しかし、老化に関するかぎり、この「、 しい伝え」はかなり用心してかかる必要があります。 例えば右に述べたグルジア地方の話です。私が老人研究所にいた頃のことです。グルジア地方 究の老人研究所から代表団が私たちの研究所を訪問したことがありました。その団長ダラキシビ 研リ博士は、田グルジア地方には百十歳以上の老人は一人もいない、 ②九十歳以上の老人につい 学て調査してみたら、その半数は自分の年齢を偽っていた、と言明されたのでした。前にも述べ たように、少なくとも昔は老人は尊敬されたものでした。だから少しでも年齢にサバを読みた 9 がるのは当然かもしれません。ましてグルジア地方に戸籍ができたのは一九一七年のソ連革命
一方縦断的調査というのは次のようなものです。グルジアの人の例をとるなら、その一人一 人についてヨーグルトを食べているか、とか、その他に何を食べ、どんな生活をしているかを 調査し、これを年を追って追跡調査するのです。これら各人についての追跡調査をさらに統計 的に処理してみて、「長命の人は食べ物や生活態度は他の人とまったく変わらないのに、ヨー グルトを多く食べていた点だけが違っていた」ということが明らかになると、そこで初めてョ ーグルトが長寿の妙薬ということになるわけです。例のマイアミの笑い話でも、もしも縦断調 査をしていたら、決してあんな馬鹿な結論は得られないはずです。縦断研究の途中でスペイン 人がユダヤ人にすりかわることは起り得ないことなのですから。 老化のパラメーター さて疫学調査で何を求めるのが重要かというと、「老化防止はどのようにして可能なのか」 ということで、「寿命を伸ばすのはどうすればよいか」ということでないことは、これまでに もたびたび繰り返して述べてきたことです。 ここで問題になるのが老化の度合を測定するための尺度、。ハラメーターです。それも、数千 176
以後のことですから、 いくら詐称してもうそがばれないのです。そうなるとグルジア地方の人 がヨーグルトを食べているから、ヨーグルトは老化防止に役立っという論議が成立しなくなり ます。ただし私は、ヨーグレト・、 ノカ悪いなどというつもりは毛頭ありません。事の比喩に用いた だけのことですから。後で述べますがヨーグルトはたしかに老化防止に効果があると思います。 日本にも奄美大島に百二十歳まで生きて、世界の最長寿者としてギネスブックにも載った方 がおられましたが、その後の詳しい調査で、十五歳年上の兄が死亡した時、兄の戸籍を生まれ たばかりの本人がそのまま受け継いだということが判明し、実際の死亡年齢は百五歳だったと キネスブックからも、いつの間にか消されていました。 これまでは、超高齢者の場合について問題を指摘しましたが、次は平均年齢です。世に多く 「長寿村」というのがありますが、これは単に長寿者がいるからだけではなく、平均年齢も高 くなければなりません。百歳の老人は一人いるが、後は皆六十歳足らずだというのではとても 長寿村とはいえないからです。長寿者がたくさんいるのが長寿村で、その指標の一つは平均年 齢だからです。 やはり老人研究所時代の話です。都の副知事に随伴して八丈島を訪れたことがありました。 そこで聞かされたのは、八丈島の人の平均年齢は非常に高いということでした。一瞬私は、 170