ペースメーカー - みる会図書館


検索対象: 老化とは何か (岩波新書)
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1. 老化とは何か (岩波新書)

んだり注射したりすれば若返る」と考えるかもしれません。 これはしかしとんでもない誤りです。まず第一に、田内教授らの結果は、八カ月間パラビオ ーゼを続けた後の結果であって、体液をちょっと注射しただけですぐ現れるものではないので す。 さらによく考えてみると、交流するものはたしかに体液ですが、その中の因子は、それぞれ の個体でその老化度を支配している器官の指令を運ぶだけのものかもしれないのです。 いきなりの飛躍で申しわけありませんが、いま個体の中に、その老化の度合を決定するもの があると仮定します。これを仮りに老化のペースメーカーと呼ぶことにします。体液中の因子 はペースメーカーの指令をそれぞれの器官に伝えるものに過ぎないと考えられるのです。そう ならパラビオーゼの実験で主役をなしているのはこのペースメーカーなのです。八カ月もの間、 そのペースメーカーの指令の下にさらされれば、若い方の臓器は老化するでしようし、老ラッ 老 ト側の臓器は若いラットのペースメーカーの影響で若返るかもしれません。それには長期間の の 体指令が必要なのです。さもないと効果が表われないのでしよう。 このペースメーカーというのは個体全体の老化度を支配するものです。ですから前章で行っ たように器官ごと、あるいは細胞ごとに老化を考えていたのでは、個体の老化の説明に到達で

2. 老化とは何か (岩波新書)

です。上に述べたように、このような精神的ストレスは、当然リン。ハ球の減少を来しますが、 開放されると若齢のマウスではリン。ハ球の数がある程度回復するのに対し、老齢のマウスては まったく回復できないようになってしまっています。すなわち、老齢化により脳・免疫のスー ーシステムが衰えてきていることが明白であります。それだからこそ、他のあらゆるストレ スからの回復も衰え、身心の機能が低下してゆくということは容易に想像できるでしよう。 この章の始めに浦島太郎のお話をし、老化のペースメーカーを暗示しました。結局、脳神 ーシステムが、高齢化に伴い衰えることこそ、 経・内分泌・免疫というホメオスタシスのスー 。ハーシステムこそ、老化 身心の機能の低下、すなわち老化の原因であり、したがってこのスー のペースメーカーであるとい、つことになります。 ではこのス ーパーシステムがなぜ衰えるのでしようか。それはそれぞれの場所で繰り返して 化説明したように、それを構成する細胞の死が原因であるはずです。そこで、細胞がなぜ高齢化 老特に後生殖期になると死んでゆくのか、その問題を次の章で取り扱うこととしましよう。 体 個

3. 老化とは何か (岩波新書)

次 目 目次 プロローグーーー高齢化社会にむかって : 老化をどう捉えるか 老化は寿命で推しはかれるか 個人の老化は年齢できまるか 老化は細胞のレベルで理解できるか 老化は器官できまるのか Ⅱ個体の老化・ 老化のペースメーカー ホメオスタシス 神経内分泌系 免疫

4. 老化とは何か (岩波新書)

真のペースメーカー 、脳神経・内分泌・免疫系 Ⅲ細胞の死はどうして起こるか 細胞は新陳代謝する 分裂の停止とはどういうことか 細胞はなぜ死ぬのか プログラム死 自然死 細胞の壊死 細胞死と老化 Ⅳアルッハイマー型老人性痴呆 痴呆と脳の老化 脳血管性痴呆 アルッハイマー型老人性痴呆とは 104 129

5. 老化とは何か (岩波新書)

化というものを単に加齢に伴う機能の低下ではなく、後生殖期という条件をさらに加えるとな ると、胸腺だけをベースメーカーとするのはどうも具合が悪いことになります。 真のペースメーカー 、脳神経・内分泌・免疫系 今までに、ホメオスタシスを支配する二つの系、脳神経・内分泌系と、免疫系とについて説 明してきました。ところが実は、これら二つの系は独立なものではなく、相互に連絡をとりな がら、全体としてホメオスタシスの保持に当っていることが、最近次第にわかってきました。 その最も典型的な例として、心理的ストレッサーによる免疫系の変化が挙けられます。 免疫系の活性の測定法として次のようなものがあります。例えばリンバ球に植物凝集素 ( フィトへマグルチニン ) を作用させると、リンパ球は活性化され、分裂するようになります。 これを幼若化とい、 しますが、幼若化能力をどれだけ持つかによって、リンパ球の活性を調べ ることができるのです。 私自身の父母はともに長命でした。しかし母が八十六歳で亡くなりますと、九十歳の父は一一 カ月後に後を追うように亡くなりました。このように老夫婦で一方が死ぬと他方が時ならずし

6. 老化とは何か (岩波新書)

Ⅱ個体の老化 先ほど述べましたように、生体における温度調節の中心は視床下部にあるわけです。年をと るに従って、この温度調節能力が低下しているのですから、視床下部そのものの機能低下が起 っていることが考えられます。 「若さを保つ」という言葉があります。これはややもすれば衰えようとする傾向に打ち勝っ ことであり、上に述べた復元力、すなわちホメオスタシスの保持能力を有するということであ ります。逆にいうならば、ホメオスタシス保持能力の減少こそが老化の原因であると考えるこ とができます。 そうなると、このホメオスタシスを支配している器官 ( 右の場合視床下部がその一つの候補 でしたが ) が老化のペースメーカーでもあると考えてよいのではないでしようか。 神経内分泌系 いままで述べてきたことから、皆様は、後生殖期になると、視床下部の萎縮、ひいてはその 機能の低下が全身的な老化の原因ではなかろうかと考えられたと思います。 ところが実はそう簡単に答は出せないのです。なぜなら、ホメオスタシスというのは実は

7. 老化とは何か (岩波新書)

老化のペースメーカー 。ハラビオーゼの実験は私たちにいろいろなことを暗示してくれます。パラビオーゼで縫合さ で交流しているのは体液だけです。ですから、この体液にその個体の老 れた、老若両ラット間 化度を決める因子が含まれていると想像することもできます。老ラット側にあった因子が若ラ ット側に流れ込みますから、若ラットの老化は促進され、逆に若ラット側から流れ込む因子は 側の老化は抑制され、顔つきまでが両者同じようになる 老化防止として役立つので、老ラット のだと考えるのです。 浦島太郎という男がいて永年龍宮城で時を過ごし、帰って来て玉手箱を開けた途端、白い煙 が出て、若者の太郎はたちまち老人になったという昔話がありました。老ラットの体液に含ま れている因子は、この玉手箱の中にあった煙みたいなものなのでしようか。 一方、若年ラットの体液の成分はなかなか魅力的なものです。これこそ人類が昔から探し求 めてきた、不老長寿の薬のヒントとなると思われるからです。あわて者は、「若い人の血を飲

8. 老化とは何か (岩波新書)

リン。ハ球の生産場所の一つである睥臓に作用して、 aa リンバ球の作用を抑制するのに反し、甲 状腺刺激ホルモンはリンパ球の作用を増強します。一方成長ホルモンの不足は胸腺の萎縮を 引き起すといわれます。 これまではもつばら脳神経・内分泌系が免疫系に影響する話でしたが、この逆のことも知ら れています。免疫のところで、リン。ハ球がリン。ハ球に指令を伝達するのに、インターロイ キンと称される物質を用いることを述べましたが、これらインターロイキンは下垂体部にある 体温の調節中枢 ( 図参照 ) に作用し、体温を上昇させます。細菌の感染などにより体温が上昇 するのは、このように免疫系が働き出した結果生じるインターロイキンによるのだと理解でき ます。 この他インターロイキンは、あるいは睡眠を誘発したり、鎮痛物質を放出させたり、あるい は食欲を失わせたりする作用をもっと報告されています。これらも感染に対するホメオスタシ 老スの一面を示しているものだといえるでしよう。しかしながら脳神経と免疫との深い関わり合 体いについては、最近やっと研究が始まったばかりで、その全貌を知るにはまだほど遠いという のが現状です。 それでも、老化のペースメーカーを考えるとき、神経・内分泌系と免疫とをそれぞれ別々に

9. 老化とは何か (岩波新書)

そこで図を見てみますと、上に胸腺の各年齢における相対的な大きさが書いてあります。 十歳くらい以後は年を追うごとにどんどん小さくなる、すなわち萎縮することかわかります。 リン。ハ球の寿命は短かく、どんどん死んでゆきますが、これを補うため新しく骨髄から供給 され、胸腺で教育をうけるのです。リン。ハ球の教育に重要な役割をしている胸腺がこのよう ンパ球は作られても教育がされすそれに伴って免疫能が低下するのも無 に萎縮するのでは、リ 理ないとい、つことかわかるでしよ、つ。 もう一つこの図では示しませんでしたが、免疫能の低下と裏腹に、自己免疫能が上昇するの です。先ほど説明しました免疫のキーワードである自他の区別を細胞も行うのです。たとえ マクロファージがエピトープを提示していたとしても、これが自分自身の体内にある物質のも 異物のエピトープだけに対して作る。ところが のであれば、これに対する抗体を作らない。 ヒ細胞の機能が衰えるにつれて、誤って自分自身のエピトープに対する抗体を作るようになりま 老す。これを自己抗体と呼びますが、自己抗体は自分自身の組織を攻撃することになり、その結 の 体果、リューマチとか膠原病とかいった、自己免疫疾患が生じることになるのです。 個 このように、免疫というホメオスタシスだけに目を向けると、その加齢による低下は胸腺の 萎縮によるのですから、胸腺こそが老化のペースメーカーだといえると思います。しかし、老

10. 老化とは何か (岩波新書)

ったら、それ以上どのような条件でも分裂できないのですから、死を待つより仕方がないとい う考え方です。そういう目で図川を見てみると、それぞれの器官ごとに、その構成細胞があと どれくらい潜在的分裂能を残しているのかも異なれば、潜在的分裂能を失った後、どのように 死んでゆくのかも異なっており、これが萎縮の速さのちがいとなって現れていると考えられま す。一般的にいえば潜在的分裂能を早期に失った器官ほど死にやすいはすですが、心臓の場合 のように分裂能はとうに失っているのになかなか死なないという場合もあります。この細胞分 裂の停止や、細胞死については後の第Ⅲ章で精しく説明することにします。 器官はこのように加齢とともに萎縮しますが、その萎縮の仕方がこうもバラバラだと器官の 萎縮で個体の老化を説明することは困難です。特に厄介なのは胸腺です。 図川は大体後生殖期に入ってからの各器官の萎縮を示してありますが、胸腺は後生殖期どこ る えろか、生殖期でもどんどん萎縮してゆくのです。生殖期はまだ保障機能充分働いていなけれ うばならない時期です。その最中に、保障機構の中心の一つ、免疫を司る胸腺がどんどん萎縮す ることは、個体の老化は後生殖期で起るという考え方と大きく矛盾してしまいます。 老 一方、各器官はそれ自身のペースで分裂能を使い果し、細胞死が進行しているという考え方 にも問題があるのです。これを示唆するのが図ⅱに示したバラビオシスという研究です。これ