が上から下へと動くという一方的なもので、人手で下の球を上にしないかぎり一兀には戻らない のです。砂が上から下へと移動することでエントロピーは増大しますし、下の球を上に上ける 操作は「反エントロピー」的操作であると一一一一口えます。 ここで砂時計はこのエントロピー増大の現象を「時間」を計るための時計として使用してい るところに重大な意味があります。すなわち砂時計では、より「自然な姿」への移り変わりを 時間として用いているのですから、「時間はエントロピーの増大する方向へと進行する」とい うことになります。過去とはエントロピーの小さい状態であり、未来とはエントロピーのより 大きい状態なのです。 時計には二種類のものがあります。一つはリズム時計と呼んでもよいかもしれません。日時 計などというのはこの典型的な例です。この時計は一日を一一十四時間に割って、現在が何時で あるか、その時刻を示すものです。 一方砂時計はエントロピー時計と呼んでもよいでしようが、これは過去のある時点から何時 間 ( または何分 ) 経過したかを示すものであります。前者がサイクル的なら、後者はべクトル的 べクトル です。そうして大事なのは、「老化」の中の「加齢」とはサイクル的時計ではなく、 的時計で測るものであるということなのです。 106
ンピ、ーターでいうならば、インブットしてある情報量が多いし、またそのデータを処理する ためのソフトも多種類そなえているからということになります。 この老人の経験による智恵と同様、古来からのいい伝えで今日でも非常に役に立つものはた くさんあります。風邪を引いて発熱した時、一番よい療法は「頭寒足熱」、身体を温め、頭を 冷やす。これが一番有効な方法なのです。 老化防止についても、種々のいい仁えがあります。例えばコーカサスのグルジア地方には百 歳以上の老人がたくさんいて、みんな元気だ。彼らはヨーグルトを食べている。だからヨーグ ルトは老化防止に効くに違いないといった類いのものです。 しかし、老化に関するかぎり、この「、 しい伝え」はかなり用心してかかる必要があります。 例えば右に述べたグルジア地方の話です。私が老人研究所にいた頃のことです。グルジア地方 究の老人研究所から代表団が私たちの研究所を訪問したことがありました。その団長ダラキシビ 研リ博士は、田グルジア地方には百十歳以上の老人は一人もいない、 ②九十歳以上の老人につい 学て調査してみたら、その半数は自分の年齢を偽っていた、と言明されたのでした。前にも述べ たように、少なくとも昔は老人は尊敬されたものでした。だから少しでも年齢にサバを読みた 9 がるのは当然かもしれません。ましてグルジア地方に戸籍ができたのは一九一七年のソ連革命
( 1,0()0 対 ) 50 ( 人 ) 。ガ、ン ・虚血性心疾患 x 脳卒中 24 ( ) ~ 269 くのです。先に日本の農村で、農民のコレ の ステロール値が上昇するにつれ、脳卒中患 率者が減少したというのとも、よく合ってい 死 ます。 この図から明らかなよ、つに、コレステロ ールの値は低けれは低いほどよいというの ロ テ 9 ロ では決してないのです。低すぎる人はガン ~ スレ や脳卒中で死亡する確率が高くなり、むし 川レコ 2 コる 清けろ危険因子であるわけです。さまざまなこ とを考え併せると、二百二十から二百五十 c 系 くらいがます最適であることがわかります。 日 イ欧米人の場合、全員の平均値が一一百五十く ワ ハらいですから、これより高く二百八十とか 三百とかいう人には、なんとかして二百五 図係 十まで下けさせようという努力がなされて < 180 189
細菌やウイルスがこれらのバリアーを破って侵人したとき働き出すのが免疫系です。免疫系 はさらに分けて、自然免疫系と、獲得免疫系とになります。自然免疫の主役はマクロファージ とよばれる細胞です。貪食顆粒とも呼ばれ、侵入して来た異物は手当り次第食べて、消化しま すから、細菌など、これで殺します。 しかしこの自然免疫では防ぎ切れなかった菌やウイルスに対抗するのが獲得免疫です。この 役割を担うのはリン。ハ球とよばれる細胞です。リン。ハ球にはリン。ハ球とよばれるものとリ ン。ハ球とよばれるものがあります。 獲得免疫のシステムは非常に複雑であり、簡単に説明するのはちょっと難しいのですが、キ ーワードとして「鍵と鍵穴」と「自他の区別」とを挙けておきます。侵入してきた細菌やウィ ルスは、本来私たちのものでありませんから、異物すなわち他であります。したがって他であ る異物は、私たちの身体の中にはない、はっきりした標識をもっています。この標識のことを エピトープと呼びますが、これが鍵なのです。一方リンパ球やリン。ハ球には実に無数とい ってよいほどの種類があるのですが、その中には、侵入者のエピトープ、すなわち鍵とびった り合う鍵穴をもっタンパク質 ( リセプターといいます ) をもつものがあります。 まず、細菌の侵人の場合から考えてみましよう。先ほど述べたように、侵人した細菌の一部
をす ポ胞 た く さ ん 採 っ でや よ 死胞 使す く 調可 。根 べ死 て み る と 中 こ方 で験 は 不優 型 の も の も い く っ か あす 。死 た の 態不 で す で死 の 不 の細 死 で胞 と ヒ ト の 可 、死 と 融 合 し ま と き た 種 細 胞 ほ と ん , ど の 状 、あ化 た 胞 細 種 が ろ と ま り な に と っ い と 死性雑 が の 、死 可 は で と と て不細 ち わ な た の タ ス ム ン ア リ シ た し ま し を 、実 な つ よ の 次 て つ を 技 の で マ ト と 呼 ん い ま を 培 養 し て る と は ヤ ガ イ モ を 実 は ト マ ト を 結 実 す る も の が で き ま す れ を 融合 88 分裂 種細胞 ( ハイプリッド ) が得られる . れぞれから来た染色体をもった雑 得られる . これが分裂すると , そ ( 組替えを起こしていない ) 細胞が 染色体をそのままの形で保持した 細胞を融合させると , それぞれの 図 21 細胞融合の模式図 . 2 種の
ん出来あがると再生不能になるので、あらかじめかなり余分に作っておくことは考えられます。 しかし神経細胞と一口にいっても、実に多様な機能を果さねばならず、それを別々の細胞が担 っているわけです。ですから機能分化が進むにつれ、あらかじめ用意した予備用の神経細胞は 邪魔になり、これを殺さないと健全な機能分化ができないと考えられるのです。 その証拠に次のような事実があります。例えば連動神経の末端は筋肉細胞にとりついている のですが、一つの筋肉細胞にとりつくことができる神経細胞には限度があり、残りはプログラ ム死をするのです。ところが、人為的に筋肉細胞を大きくしてやります。するとこれにとりつ く運動神経細胞の数も当然多くなりますから、本来プログラム死するはすだった神経細胞がそ れを免れて生き残るのです。 昔 ( 今もそうかもしれませんが ) 大根などを育てるのに、「間引き」というものをやりました。 大根の種子をまくとき、かなり余分にまいておきます。芽が出てしばらくすると、その中で勢 いのよさそうなものを残し、その回りの芽をぬいてしまいます。さもないと勢いのよい芽が健 全に育たないからです。さらに大きくなったところでまた間引くといった具合で、立派な大根 が育つまでには、数多くの回りの大根が間引かれるのです。上に挙けたプログラム死はその意 味では「間引き的プログラム死」と呼んでもよいかもしれません。
これまで私がしてきたことは、老化についての いくつかのトピックスを拾いあけ、それぞれ につき、あるいは私の独断的考え方を、あるいはその研究の現状を述べたものであります。 大きく分ければ三つの面があるかと思います。その一つは老化の生物学的意味、すなわち生 物学的にいえば老化とは何であるかということです。第二は老化の中でも、老人病の一つであ るアルッハイマー型老人性痴呆をとりあけ、これについてかなり精しく説明しました。やさし く説明したつもりではありますが、それでも読者の方にとっては読みづらいものだったかと思 います。しかしこのトピックスはまさに日本を含めての先進国が直面する最重要課題であるだ けに、あえて説明を入れてみたわけです。そして第三番目には本当に信頼できる「老化防止 策」なるものを、東京都老人総合研究所で行った疫学調査を基にして説明しました。 テレビを見ていますと、老化防止に関し、あるいは自然食がよいとか悪いとか、ビタミン ru やがいしとか悪いとか、種々の意見が出され、これではどれを信じたらよいのか迷ってしま うのではないでしようか。そこで、疫学という科学的な立場に立ったとき、何が信頼できるか を説明したわけです。もちろん、こういう科学的なものではない説を信じようが、信じまいか、 それは皆様の御自由です。ただ、少なくとも自然科学を研究してきた私にとっては、科学的根
ですから、脳血管性の痴呆の患者さんでは、左右両半球にともに梗塞のある人が圧倒的に多い わけです。 いすれにせよ、脳血管性痴呆を防ぐには、脳梗塞を作らないように工夫すればよいというこ とになります。食塩のとりすぎは高血圧の原因となり、これが梗塞につながりますから、減塩 するとか、それでも高血圧の人は降圧剤を飲むとかすればよいでしよう。コレステロールが梗 塞と関係するといわれますが、これはむしろ心筋梗塞の方で、脳梗塞には関係しないというの が定説で、人によってはコレステロール値がやや高い方が脳の動脈硬化は防止できるといいま 呆す。いすれにせよ、脳梗塞を防止することで、脳血管性痴呆も防止できます。事実表 5 のよう 性に、昔は日本人は脳血管性痴呆の割合が圧倒的に多いといわれていたのが、血圧のコントロー 老ルが進んできた最近では、逆にアルッハイマー型の割合が増えつつあるともいわれます。 マ イ アルッハイマー型老人性痴呆とは ア アルッハイマーとはドイツの精神医学者の名前です。彼は一九〇七年に、一二一ページの分 Ⅳ 類では初老期の痴呆の方に属する、五十一歳の女性の患者について報告しました。当時若年性 129
も分裂をつづけているものと、肺の細胞のように成長期で増殖を止める器官とがありますが、 そのおのおので細胞の新陳代謝の考え方を異にします。 血球細胞は幹細胞と呼ばれる細胞が分化することによって形成されるのです。幹細胞は第— 章で述べた不死細胞に分類されるもので、いつまでも若々しく分裂能力を保持しつづけている のです。これがいったんリン。ハ球といったものに分化してしまうと、これは可死細胞に変化し てしまいます。可死細胞というのは第—章で出てきた言葉ですが、不死細胞に対して作った言 葉でした。あまりよい言葉ではなく、本来は「死ぬべく連命づけられた細胞」という意味なの ですが、これを短かく表現するよい言葉がないので、不適当と思いつつも可死細胞と呼んでい る こるわけです。可死細胞に分化したリン。ハ球の寿命は免疫のところでも触れたように短かく、や リン。ハ球で補われます。したがってこ しがて死にますが、これはすぐ幹細胞から分化した新しい れは正しく細胞の新陳代謝なのです。リン。ハ球はたしかに古くなると死ぬのですが、この「古 くなる」ということの実体がどうも不明です。ゴムバンドなどは古くなると酸化されて弾力を リンパ球でも何か都合の悪いことが起って死ぬのでしよう。い 胞失い、切れやすくなりますが、 ずれにせよ、細胞死については後でまた考えることにします。 Ⅲ 一方、臓器の細胞のように、ある時期で細胞増殖を止めてしまうような例では、リン。ハ球の
す。成長期で分裂を停止している細胞も、潜在的にはまだ分裂する能力を余しており、この潜 在的分裂能を測定したのが培養液の中での分裂実験だったわけです。 もしも分裂寿命が定まっているとするなら、図 8 からも明らかなように、胎児の肺胞細胞と 成人の肺胞細胞とでは、胎児の方が分裂余命が多いだろうことはすぐ想像できます。余命が多 いということは若いということでこれは話の筋がよく通っています。ところが肺胞の細胞は成 長期の終り頃でその分裂を停止しているはすですから、生殖期にある肺胞と、後生殖期にある 肺胞とでは分裂余命が同じであってよいはずです。 図 7 に示した分裂寿命の実験は別の結論を出していて、後生殖期の肺胞の分裂余命は、生殖 期の肺胞の分裂余命より短かいということなのです。分裂余命が短かいということは年をとっ ているということです。生殖期以後、肺胞の細胞は分裂を経験しないにもかかわらす、漸次分 裂余命が減少し、年をとっていきます。それは分裂能という生理的機能を尺度とした場合、生 殖期から後生殖期へと移る間にこれが低下したことで、これはまさに老化の定義とも合致しま す。 それでは分裂を経験しないのに、加齢によって分裂余命が短かくなるのはなぜでしようか。 少なくとも一一つの考え方があり得ます。一つは原因が細胞核にあり、加齢により細胞核になに