太 いやはやいやはやという感じで私は世の流れを見ている。この頃の流れの目まぐるしく 島 浦急なことといったら、歎く間も怒る間もありやしない。 浦島太郎は竜宮城へ行って帰って来たら、 毎 「もといた家も村もなく 道に行きかう人々は 顔も知らない者ばかり」 という有様になっていた。私は竜宮城なんぞへ行っていない。もう一二十年もひとっ所に じっとしているのに、当今は日々、帰って来た浦島太郎の気分になっている。 思えば十年ばかり前になるだろうか。ファクシミリというものが登場して、編集者から、 「ファックスはありますか」と訊かれるようになったあたりから怪しくなってきた。ファ 毎日が浦島太郎
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毎日が浦島太郎 ちょうりよう 時代はついにそういうものが跳梁する時代になっているのか、と本気で心配した。後で聞 ろ - う。も - っ いたところによると、彼女は老耄のきざしが見えていて、電磁波恐怖症というノイローゼ になっているらしいということだった。 「なーんだ、そういうことだったの ! 」 と笑ったが、笑いながら冷たい風が胸を通って行ったのだった。今はノイローゼですん でいるが、そのうち本当に電磁波なるものから逃げまどうという現実がくるかもしれない。 いや多分くる。 だがこれが文明の進歩というものだ、と若者は涼しい顔でいう。そのうち、こういうこ とがわからないと暮せなくなりますよといわれ、いいんです、その頃はもう私はこの世に いませんから、と答える心はもうャケのヤン。ハチである。
初出一覧老薬はロに苦し 世を憂い怒って楽しむ日本経済新聞一九九八年四月五日 神さんが見てはる日本経済新聞一九九八年四月一二日 カラス天狗のおばあさん日本経済新聞一九九八年四月二六日 おかまいなし文化日本経済新聞一九九八年五月三日 毎日が浦島太郎日本経済新聞一九九八年五月一〇日 今、最も尊敬する人日本経済新聞一九九八年五月一七日 孫とのつき合い方日本経済新聞一九九八年五月二四日 年寄りの心配日本経済新聞一九九八年五月三一日 スイッチ入り日本経済新聞一九九八年四月一九日 救世の士を待つ「褝と念仏」一九九九年夏号 仏教愚感「褝と念仏」一九九九年秋号 我々が「考える葦」でなくなったこと「新潮」一九九八年一月号 可哀そうなおばあさん 我が友情物語「青春と読書」一九九六年八月号 読者と私「青春と読書」一九九四年八月号 無言の友「青春と読書」一九九七年三月号 ノブの幸福「青春と読書」一九九七年一一月号 蚊取線香事件「青春と読書」一九九八年三月号 悧ロなイプ「青春と読書」一九九八年七月号 可哀そうなおばあさん「青春と読書」一九九六年四月号 サッチー中毒「青春と読書」一九九九年九月号 いいたくないがいわねばならぬ「新潮」一九九七年九月号 日々是上機嫌 日本人は幸福か ? 「清流」一九九七年六月号 日本の子供たち「清流」一九九七年七月号 祖父と孫と「清流」一九九七年九月号 健康について「清流」一九九七年一〇月号 老後について「清流」一九九七年一二月号 教育について「清流」一九九八年一月号 死後の世界について「清流」一九九八年二月号 今の世の中について「清流」一九九八年四月号
日々是上機嫌 聞き手・藤木健太郎