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検索対象: 花園への咆哮
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1. 花園への咆哮

きれない。また、株価操作も出来ない。 だから、一流会社の中でも、隠し財産を管理する会社をつくって、他人名義にして自分の会社 の株を持っているケースが多い。 西東貿易の場合は、三東産業がそれ等を管理している。いや、三東産業だけではなく、社長と、 最高幹部だけしか知らない、秘密資産があるかもしれない。 土肥啓太郎は、百万株は西東貿易の名義ではなく、そういう隠し会社の名義にして欲しい、と いっているのだ。 そして大日化学も、隠し会社の名義の分を百万株、譲り渡す、というのであった。 これは当然の条件かもしれない、と当舎は思った。 当舎は社長と話し会い、早急に引取り交渉に入る旨答えて、大日化学を出た。 なんだか呆気ない幕切れであったが、これで、当舎が築川から命じられた仕事は終った。 当舎は成功したのだ。普通なら喜びに胸がはすむ筈なのに、当舎はなにか空しいものを感じた。 それは、土肥啓太郎が余りにも早く、承諾したためかもしれない。全力をこめて、木を切ってい 咆るうちに、木の中に空洞があって、突然大樹が倒れた時の、或る空しさであったかもしれない。 へ だが会社に帰った時、当舎はその空しさの中に、或る理由のない不安が込みあげて来るのを覚 えた。それは不安というよりも疑惑であったかもしれない。 これで総ては終ったのだろうか。 田沢は、築川の秘命を受けて、動き始めたばかりである。別に大日化学の件とは限らないが、

2. 花園への咆哮

108 とこ、ほしこ。 「岡野さん、ところで大日化学の株は、棚上げされていますか」 「大日化学ですか、いや、大日化学の株はない筈です、割合浮動株が少ないですからね、大日 化学さんなら欲しい、といわれる会社さんもあるんですがね、妙なものですね、欲しいといわれ る会社の株はないし、余っている会社の株は、どなたも欲しがらない、やり難いですよ」 「大日化学の株を欲しがっておられるのは、矢張り商社でしよう」 「ええ、良く御存知ですね」 岡野は商売人だけあって、喋りそうで、かんじんなところになると、なかなか口が固かった。 だが当舎が岡野を訪れたのは無駄ではなかった。チェーンの轟が、時々大日化学の株に手を 出していることを聞き出したのであった。勿論轟は、第五証券のような大きな証券会社では余り 売買をしない。 岡野の話では、大日化学の株が下る時は、業績が悪くなることにもよるが、何処からともなく 浮動株が出るのだ、と告げた。ところが一年位の間に、その浮動株が少なくなり、上昇し始める という。大体一二年位の周期で、上ったり、下ったりする、ということであった。 当舎は礼を述べて岡野と別れた。ひょっとすると、轟と土肥啓太郎は組んでいるかもしれなか った。大日化学の持株会社には、轟も関係しているのではないか。 どうもそういう気がする。 当舎が土肥啓太郎に、お互の株を二百万株ほど持ちたい、と切り出したのは、三日後、会った

3. 花園への咆哮

田沢には、なにか自信があるようだった。 ホテルで、当舎は築川と会った。この大事な時に、築川が東京を留守にしていたというのは、 築川に取って、田沢との交渉が如何に重大なものか窺えよう。当舎は、田沢が築川と直接の話し 合いをしたい、といっていると述べた。築川は田沢と会うことを承諾した。 二人は、田沢の自宅に向った。 築川は田沢の顔を見ると、 「田沢さん、あなたが今まで取って来た行動の責任は問わない、それは社長も了承している、 ただしこれからは会社に不利益な言動は止して貰いたい : 高飛車な態度でいった。自分が追いつめられていることを、田沢や当舎に知られたくなかった のだろう。 「しかし、築川さん、私はもう西東貿易の人間じゃない、昨日解任になったことは、あなただ って知っているでしよう」 築川は当舎と田沢を見較べた。 「当然でしよう、会社を裏切ったのだから、しかしね、あなたが、私達についてくれるなら、 西村産業の社長の地位を用意してあります、明日にでも就任していただきます」 西村産業というのは、西東貿易の子会社だったが、資本金七千万円で、従業員も数百人いた。 主に内地での販売を行なっている。

4. 花園への咆哮

194 万近い売り上げのうち六十万から八十万位は、その会社の客達のものである。前からの分を合せ ると、二百万近いものが取れなくなった。 ミコのような小さな店に取って、それは大きな打撃で あった。 その時、ミコに百万円出してくれた客がいた。二度ほどしか浮気したことのない客だった。東 京の一流会社の部長であった。その部長は何時返済してくれても良い、とミコにいった。 「僕は君が好きだが、、ハーのマダムのパトロンになるような性格じゃないし、といって今までの ような関係をずるずる続けて行けば、家庭を壊してしまうかもしれない、なにもいわないで、こ の金は受け取って欲しい」 ミコに金を渡すと、彼はミコの店に来なくなった。ミコはその時、彼を愛していたことに気が ついたのであった。 ミコがそれから一年間、死にもの狂いで働いたのは、彼に金を返すためであ り、もう一度会うためであった。 一年めにミコは百万円つくった。 そして東京に行って彼と会ったのだった。そこまで喋った時、ミコのアパ 「ね、久し振りにお茶でも飲んでゆかない」 とミコが当舎を誘った。 ミコは話の続きをしたいに違いなかった。当舎も今夜は、このまま帰り難い思いであった。ミ コの部屋は、、、、 ーのマダムの部屋としては、立派な方ではない。 ソフアに坐るとミコは、冷蔵庫からお絞りを出したり、ビールを当舎のコップに入れたりした 9 ートについた。

5. 花園への咆哮

あか ーにいることで、なぐさ 激しい社会で生きている男の孤独感が、男女の垢を集めたような、バ められるのだろうか。これは、く / ー・ダートなどでは味わえない安心感であった。 当舎には、若いホステスとどうこうしようという欲望は殆んどない。 当舎がス ーに求めるものは、社会の荒波が入らない清潔な家庭では安息出来ない、なにかであ ミコは女の身でありながら、孤独に耐えて荒波を被って生きている。つまり人間生活の裏 表を知っている。それだからこそ、当舎は安心出来るのだった。当舎が社会の裏切り行為や、人 間の醜さを酔にまぎらわし、慨嘆したとしても、ミコは聴くだけで、総て理解してくれる。当舎 自身の醜さを語ったとしても、だから人間なのよ、と乾杯してくれる。だが当舎の家庭では、そ し ' 刀子 / . し 社会や人間の醜さなど、なに一つ話が出来ない。 「なんだい、話って」 「それがね、大変な人に会ったの、どうしようかしら」 ミコも何時ものミコらしくなく、興奮しているようであった。 咆 の へ当舎とミコは車に乗った。 花 ミコは今夜、五年前の恋人に会ったのだ、といった。ミコは自分のカで店を始めた。だが二年 ほどたった時、大きな未収が出来て、経営が危機にひんしたことがあった。 ミコの店に来ていた 有力な客達が勤める製麻会社が潰れたのであった。株式市場に上場している会社であった。二百

6. 花園への咆哮

です」 「お目出度うございます」 戸村が喉につかえたような声を出した。 うかカ 築川はまだ五十歳になっていない。如何に社長の。信用が厚いか窺われよう。おそらくこれを機 会に大きな人事異動が行なわれるのではないか。 東運商事の幹部クラスの人事権は、西東貿易の首脳部が握っていた。そういう点で、東運商事 は親会社には絶対頭が上らない 自分の知らない間に他の会社に移されていた石室のことを思い出して、当舎は胸の中で苦笑し しよせん た。東連商事の重役だといっても、所詮、石室と余り違わないのではないか。 西東貿易の子会社は十数社ある。明日にでも東連商事から別な会社に移されるかもしれないの である。 ホテルに着くまで、築川も戸村も石のように沈黙していた。いや、戸村は話し掛けようと幾度 も口を動かし掛けたが、築川の横顔が戸村のロを封じたのである。 咆築川は薄眼を開けてまどろんでいるようであった。こういう車の中で眠れる人間を、当舎は羨 へしく思う。 花築川は戸村にも当舎にも、何等の遠慮もないから眠れるのである。車がホテルに着いた時、築 川は思い出したように、折角、夜の席をもうけて貰ったのだから、その席で板倉さん達と会おう、 と告げた。

7. 花園への咆哮

現在石室は遊んでいるという。僅かな貯金も連日の飲み代に飛んでしまって、このままでは、 家を売らなければならない状態であった。四年ほど前に、小さな建売住宅を買っておいたが、そ れだけが財産で、家を売る売らないで、毎夜細君と喧嘩しているらしい 「社会に絶望をするのも無理はないがね、このままじゃ、自分の人生を捨ててしまうことにな るよ、君さえその気なら、勤めロの方は、考えてあげても良いが」 石室は非常に喜び、よろしくお願いします、と帰って行った。当舎には石室の荒れた気持が他 人事には思えないのであった。 その日の帰り当舎は、新大阪自動車を訪れた。有力な外車販売会社で、東運商事が輸入した自 動車も扱っていた。大阪支店長の田所は割合当舎と仲が良い。 外車の販売会社は、頭の良いセールスマンを欲しがっている。 「若いけど良くやる男だ、一度会ってやってくれませんか」 「外国映画の販売をやっていた方なら、充分やれるでしよう」 と田所は石室と会う一」とを了承してくれた。、果して石室が、外車のセールスマンという職業に 納得するかどうかだが、翌日石室が電話を掛けて来たのでそれをいうと、 「厚高登美子にお世辞をいっていたことを思えば、どんなことでも出来ますよ」 「給料の方は、なるべく固定給を多くしてくれ、といっておいたからね「稼ぐセールスマンは 二十万位、稼ぐらしいよ、普通で七、八万というところらしいから、頑張り給え」 と当舎は激励した。人の世話をするのは、矢張り気持の良いことであった。

8. 花園への咆哮

部屋を出て行った。 その派手な服や異国的な容貌に似ず、礼儀正しい女性であった。 脚がすらりとして、スタイルもなかなか良い。轟が新しく見付けた秘書かもしれない、と当舎 は思った。一寸会っただけの女性に、こんな風に気を引かれたのは、当舎としては珍らしいこと であった。 轟は良く秘書を変える。みな手をつけるか、それに失敗して辞めさせるか、どちらかであった。 ーの女性を連れて、深夜まで飲み歩くことも多いからで 秘書以外にも関係する女性が多い。 あった。 二人の姿を見ると、轟は直ぐ席を立った。当舎に手を差し出した。これは轟の愛想の良さだが、 目下の者と会う時は、手など絶対出さない。貿易会社の次長の地位にある当舎を、轟は適当な敬 意と軽蔑の眼で眺めていた。轟に取っては、金のない男は総て、軽蔑にあたいするようであった。 轟と手を握りながら、当舎は不快感を殺した。 昨夜の石室の件があったからかもしれない。 それに轟と余り握手はしたくなかったのは、轟のごっい掌が脂でねっとりしているからだ。 轟は平木には手を差し出さなかった。 「いや、今度のやつは期待してます、なんというても、外国映画は女もんに限りますな、文芸 大作で女もん、これならヒットは間違いありませんわ、会社勤めの、お嬢はん、学生、それ に一寸高級なお人、それから結婚したての奥さん、今度のおたくのやつには、こういう連中をみ

9. 花園への咆哮

当舎に取っては、他人となった会社だが、彼は矢張り西東貿易で二十数年過ごしたのだ。 土肥啓太郎は、自分の会社が西東貿易と外資にねらわれたのは間違いない。それは、来年度に おけるタイヤ会社の設立に絡んでいる、と新聞談で述べていた。 大日化学は百円前後だが、九十円になったり、百十円になったり、かなり動いている。 こういう騒動に巻き込まれなくて良かった、と思った。 当舎は今更のように、 仕事の方も、何んとか軌道に乗り出し、資金不足の苦労はあるが、どうにかやって行けそうで あった。 久美江とは、一週に一度会っている。久美江は相変らず、理恵が大学に入るまで、結婚のこと は、話さない方が良い、という意見であった。 こういう久美江の大きな愛情が、当舎には嬉しくてたまらない。 これも、久美江が前の結婚で傷を受け、そのため、人生に対する理解が深くなったせいであろ う。傷を受けなければ、こういう理解力は、めったに生れるものではない。 そんな或る日、当舎のところに末村がやって来たのだ。顔を見た途端、当舎は不快なものが、 咆胸につかえたような気がした。 へ末村は自分の手で額を叩きながら、急ぎ足で、当舎のところにやって来た。 花「部長はん、いや社長はん、えらいことになりました、築川がわしを告訴する、といいよりま すね」 当舎は末村を擲り飛ばしてやりたい気がした。今頃、何にをいいに来たのか。 から

10. 花園への咆哮

534 しなかったということは、大変なことであった。立派な男だ、といわねばならない。 今の社会に、田沢程度の男でさえも、少なくなっている。当舎は久美江に、自分が会社を辞め たのに、まだ交際する積りがあるか、と尋ねた。久美江は徴笑した。 「もし、私が当舎さんと交際する積りがなかったら、今日、参りません」 「それは、そうですね」 当舎は会社を辞めるに至った経過については、今は話したくない、といった。しかし、この事 件が一段落したら、新しく人生を出直す積りで、事業を始めてみたい、といった。久美江の眼が 光った。 「素敵なことですわ」 と久美江はいったのだ。 久美江と話していると当舎は気持が、落着いて来るのを感じた。長行みずみと会うと、当舎は 何時も緊張し負けてはならない、という気持になる。ところが久美江は、当舎の緊張をいやして くれる柔く静かな雰囲気を持っている。そうかといって、久美江は、決して意志のない女ではな 強い自我を持っている。 二人は喫茶店で、そういう話をしたのだが、久美江は郊外に出てみたい、といった。 今日は、久美江は和服を着ていて、車を連転して来ていなかった。 「何処へ行きましようか ? 」